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Report of the 6th Science Café “Discover microscopic world of vegetation through radioactive rays – technology to visualize something invisible, Part II”

掲載日:2014.02.13

放射線で分かる植物のミクロの世界

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左から、細野さん、廣瀬さん、関崎さん。

12月21日、第6回サイエンスカフェ「放射線で分かる植物のミクロの世界~見えないを『見える』にする技術②~」を開催しました。
当日は、センター長の関崎勉教授のあいさつの後、細野ひろみ准教授のファシリテーションのもと、アイソトープを利用した植物生理の研究をしている廣瀬農特任助教による話題提供が行われました。
参加者の皆様からは様々なご質問やご意見をいただき、大変盛況となりました。

(※以下、記載がない場合の発言は廣瀬氏)

目に見えないものを見えるようにするための一つの方法

  • 私は、植物の中での元素の流れをトレーサー法によって見ています。コーヒーをスプーンでかき混ぜると、「回っている」というのは分かりますが、一秒間に何回回っているのかまでは分かりません。それを知るための一つの方法として、目印を付けるということがあります。例えば、コーヒーにクリームを入れると、クリームが目印になります。こうしたことをトレーサー法と言います。
  • 植物の中での元素の流れを見るための目印として、私たちは放射性物質を使っています。

コメの中のカドミウムの分布を見るためにどうするか?

  • 私がこの数年研究しているのはイネの中でのカドミウムの動きです。カドミウムという有害な金属を含む水田で育ったイネを長年食べ続けると、四大公害病の一つであるイタイイタイ病を発症します。カドミウムがイネにどのように吸われ、どのように移動するのかを目に見えるようにするという研究をしてきました。
  • 穂が出ているイネに、放射線を出すカドミウムを根から吸わせます。そのイネを押し花のようにして紙に貼り付け、イメージングプレートの上に載せます。そして上から蓋をして、数日間から一週間ほど暗い場所に置いておきます。すると、イネの中の放射性カドミウムから出された放射線がイメージングプレートの上に像を作るので、イネのどこにカドミウムがあるのかが目で見えるようになります。その結果、穂が出ている状態のイネにカドミウムを吸わせると、残念ながら、カドミウムの多くが葉ではなくコメに移動することが分かりました。
  • しかし、この方法では、カドミウムがコメの表面にあるのか、それとも中にあるのかまでは分かりません。そこで私が行っているのが、コメを薄くスライスにし、そのスライスしたもの一枚一枚について先ほどの方法を行い、最終的には立体として目に見えるようにするという方法です。この方法を用いた結果、カドミウムはコメの表面だけでなく真ん中にも入ってしまうことが分かりました。
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持参したサンプルを見せる廣瀬さん

関崎

コメをスライスするというのは大変な作業ですか?

廣瀬

はい、とても面倒な作業です。コメのスライスを皆さんにもお見せしたいのですが、実験で使っているものは人工的に放射性物質を吸わせているので、法律上、実験室から持ち出すことができません。代わりに放射性セシウムにごく少し汚染されている樹皮を持ってきました。ゼリーのようなもので覆って凍らせ、一緒にスライスすることで、5ミクロン(1000分の5ミリ)ほどの薄さにすることができます。

細野

スライスするのには機械を使うのですか?

廣瀬

そうです。イメージとしては鰹節削り器に近いものです。鰹節削り器と違うのは、直接手で動かすのではなく、機械にセットしてハンドルを回すことで削れるところです。

参加者

人体に使うCTスキャンとの違いは何ですか?

廣瀬

X線CTは、体の外から放射線を当て、その影を見て、体内に元からある物質の分布を分析します。イメージとしては影絵のようなものです。それに対して、私が使っているオートラジオグラフィという方法は、物質自体から情報を得ています。この方法だと、新しく入ってきたものが短期間でどこに移動したかが分かるようになります。

細野

一時点の情報を得るのには外から放射線を当てればよいけれど、どういうふうに移動していくのかを知るためには新しく放射性物質を入れる必要があるということですね。

参加者

自然界では、植物は自分に必要なものだけを吸うのに、なぜイネはカドミウムを吸ってしまうのですか?

廣瀬

それについては色々な人が研究しています。カドミウムは必須元素である亜鉛と同族元素となっていて、似た性質を持っています。そのため、亜鉛と間違ってカドミウムを吸ってしまうのではないかというのが有力な説です。しかし、植物中でのカドミウムと亜鉛の分布は全く同じというわけではないので、何か違いがあるのだろうとは思いますが、まだよく分かっていません。

さらに詳しい分布を見るために使う方法がある

  • さらに詳しく分布を見るために、ミクロオートラジオグラフィという方法を使っています。実はこの方法は非常に古くからあります。1870年代に、写真の方法として、ガラス板の上に写真乳剤を塗り、それを感光体にして見るというやり方が開発されました。同じように、写真乳剤を塗ったスライドガラスの上にスライスしたサンプルを置いて現像すると、ガラスに像が見えるようになります。イメージングプレートですと、カドミウムは導管と師管から成る維管束に分布していることまでは分かりますが、導管と師管のどちらに分布しているかは分かりません。これに対してミクロオートラジオグラフィを使うと、導管と師管のどちらかに偏って分布している場合、それを識別できるのです。
  • 実験的に放射性セシウムを与えたイネについて同様に調べると、セシウムのほとんどがコメの表面に分布していることが分かります。精米をすれば濃度はがくっと落ちるということは数十年前から知られていましたが、画像データを用いると、誰にでも直感的に理解できるというメリットがあります。
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    会場のカフェではドーナッツも販売されていました。

歴代ノーベル賞の中に繋がる放射性物質関連の研究の進歩

  • 植物が光合成により二酸化炭素から栄養分である糖を作る仕組みは、カルヴィンさんが放射性のトレーサーを使うことで明らかにしました。この成果でカルヴィンさんは1961年にノーベル賞を受賞しました。
  • この仕組みは、植物に放射性の二酸化炭素を吸わせて、植物の成分を色々な方法で分離して、どこに放射性の炭素が入ったかというのを見ることで明らかにしました。まず60秒間、放射性の二酸化炭素を吸わせて分析をしたら、既に色々な物質ができてしまった後でした。そこで次に7秒間吸わせたのですが、まだ少し長かったようです。2秒間吸わせたら、あるひとつの成分だけが強く出てきました。それが最初の光合成産物であるホスホグリセリン酸です。こうしたことを繰り返し行い、複雑な光合成反応経路を明らかにしました。
  • そもそも放射性物質をトレーサーとして使うことを思いついたのはド・ヘヴェシさんで、その成果で1943年にノーベル賞を受賞しています。
  • さらに、ド・ヘヴェシさんが実験でたくさん放射性物質を使うことができたのは、ローレンスさんのお陰です。ローレンスさんはサイクロトロンという装置を開発し、放射性物質を多量に作り出すことができるようにし、その成果で1939年にノーベル賞を受賞しています。
  • そしてさらに、放射性物質を人工的に作り出すことを発見したのはキュリー夫人の娘であるイレーヌさんとその夫です。彼らはその成果で1935年にノーベル賞を受賞しています。放射性物質が何であるかを明らかにしたのが、その親であるキュリー夫妻、そしてベクレルさんで、それぞれ1903年にノーベル賞を受賞しています。
  • もとはといえば、レントゲンさんが放射線というものがこの世に存在していることを明らかにしたことが発端でした。1901年にノーベル賞を受賞しています。
  • このように、研究には、前の人が明らかにしたことを使って新たなことを明らかにするという流れのようなものがあります。
参加者

亜鉛とカドミウムとの同族に水銀がありますが、水銀について知っていることがあれば教えてください。

廣瀬

水銀は今のところ、陸上においては植物に吸われて人体に影響が出るようなことはないので、あまり研究は進んでいません。亜鉛は必須元素なので足りなくなると大変なことになりますし、カドミウムは実際に重大な被害が出ているので研究が進んでいます。社会的意義の高いものから研究が進んでいきます。

参加者

廣瀬さんの研究は人工光合成に貢献するものですか?

廣瀬

私の研究自体は今のところ人工光合成に貢献する可能性はありませんが、放射性トレーサーを使う手法は「人工光合成が実際に行われているのか」をチェックするのに使われているのではないかと思います。

参加者

放射性物質を与えることで植物が痛みを感じることはありますか?

廣瀬

動物の分野ではよく調べられています。昔は、動物は痛みを感じないと思われていたので結構残酷な試験も行われていたのですが、最近は実験で殺さなければならない場合も、極力苦痛を与えない方法で、というふうになってきました。植物についてはよく分かっていないので、残酷といえば残酷かもしれませんが、高濃度の放射性物質を与え、植物体内の分布を見るということを行っています。

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参加者の皆さんから様々な質問が投げかけられました。

参加者

放射性物質の検査を行うことで、市場に出回っている間に鮮度が落ちていくことはありませんか?

廣瀬

コメに関しては、福島県では全袋検査しているので、確かに若干出荷が遅れるということはあるかもしれません。ただ、それ以外の作物については、同時期に収穫された作物の中からいくつか選んで検査するというサンプリング検査を行っているので、そうしたことはありません。

細野

コメについては私たちが食べるそのものが全て検査されていて、それ以外の作物についてはサンプルとして検査されたものは市場に出回らないということですね。

廣瀬

例えばリンゴを検査する場合は、リンゴ丸ごとそのままで検査するのではなく、刻んで検査します。従って、検査に使ったものは食べられません。

参加者

作物一つ一つが基準値以下でも、食べるもの全て合わせると結果として多量の放射性物質になるということはないのですか?

廣瀬

現在、低濃度の放射性物質の健康影響ははっきりしていないので、「この値以上は危険で、この値以下は危険」という明確な線引きができていません。そういう場合は、「できる限り低くしましょう」となります。基準値を低くしすぎたらそもそも産業自体が成り立たなくなってしまうので、できる範囲で低くすることを目指し、目標の値が定められています。今は、その目標が、食品中の原発事故由来の放射性物質による被ばくが年間1ミリシーベルトを超えないように、となっていて、この値をもとに食品の基準値が決まっています。個々の食品で基準値を下回っていれば、何を食べても年間1ミリシーベルトを超えないようになっています。

中西

廣瀬さんと一緒に研究をしている中西です。私が今まで聞いて一番納得した放射線の健康影響についての説明は、IAEAの先生のものです。私たちがもしがんになったとしても、その原因が運動不足なのか野菜不足なのか喫煙なのか放射能なのか、分かりません。結局は、何10万人といる原爆被害者の疫学調査のデータに頼るほかありません。原爆の時にどれ位の放射線を浴びた人が何人居て、何人亡くなったのかというデータが全て揃っているそうです。聞きかじりの話ですが、100ミリシーベルト浴びた人ががんになる確率は0.5%高く、100ミリシーベルト以上の被ばくでは被ばく量が高くなると直線的にがんになる人が増えるそうです。しかし、100ミリシーベルト以下ではよく分かっていないそうです。だから、基準値については、各国で「考え方を決める」ということになっています。

参加者

廣瀬さんの下の名前の読み方は何ですか?

廣瀬

あつしと読みます。父親がまず開拓するというイメージで農という文字を使いたかったそうです。「みのり」とも読めますが、人命辞典でマイナーな読み方を探して、あつし、という名にしたとのことです。

参加者

研究の最終目的は何ですか?

廣瀬

カドミウムは水があったらイネの中に入っていかないので、カドミウム汚染がひどい地域では水田に水を張る期間を長くしています。しかし、稲刈りをする前には水を抜いて地面を乾かす必要があります。そうすると、どのタイミングまで水を引っ張って、どのタイミングで水を抜くのかということが大切になります。そのタイミングを調べるために研究をしています。研究の結果、コメに何割かデンプンができはじめた後に水を抜いても、カドミウムはコメに多くは入らず、入ったとしても精米でとれる部分だけだろうということが分かってきています。

参加者

玄米で食べることは考えていないのですか?

廣瀬

カドミウムの危険性が気にならないものについては玄米のままで食べてもらえばいいですし、カドミウムが入っていると思われるものをより安全に食べるためには精米した方がいいということになります。ちなみに、カドミウムには放射性セシウムと同じように基準値があり、それを超えるものは流通できないようになっています。

参加者

政策を決める時に、学者はどのように接点を持っているのですか?

細野

そういう話については、コメではなくて食肉ですが、関崎さんが一番近いかと思います。

関崎

科学者は科学的なデータだけをきっちりと集めて、あとは政府の方で方針を決めてもらう、というようにやるのが良いと今は思っています。政府がレバ刺しを禁止した時に私が提言したことは、闇のレバ刺しが出回る可能性、牛のレバーを禁止したら牛以外のレバーなら大丈夫だと誤解される可能性があり、かえって危険ではないか、ということです。そういうものを食べてはいけないと教える必要がありますが、政府はホームページに情報を掲載するだけで、中々情報が伝わっていきません。そのために、私たちはこうしてサイエンスカフェなどを開催して、少しでも情報が広まるようにしています。

参加者

放射線の種類によって、人体への健康影響は違うのですか?

廣瀬

放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線があります。健康影響についてはアルファ線が突出して大きく、ベータ線とガンマ線は同じ量であれば影響は同程度です。アルファ線は狭い範囲で大きな影響を及ぼし、DNAの二重鎖をまとめて切ってしまう反応を起こしやすいです。ただしアルファ線を出す物質は限られており、放射性セシウムはアルファ線を出しません。

参加者

イネのカドミウム吸収にはどのようなメカニズムがあるのですか?

廣瀬

根に存在する、マンガンを吸うためのたんぱく質が非常に重要だと考えられています。イネに放射線のビームを当てて、それからできたコメを育て、その中でカドミウムを吸っていない個体を選び出して調べる研究によって、どの部分が壊れるとカドミウムを吸収しなくなるのかが明らかにされています。こうした研究によって、マンガンを吸うためのたんぱく質を壊すとカドミウムも吸わなくなることが分かりました。放射線ビームによってこのたんぱく質が壊れたイネの掛け合わせによって、カドミウムを吸わないコシヒカリが作られています。

参加者

植物はマンガンと間違えてカドミウムを吸収してしまうということですか?

廣瀬

マンガンもカドミウムも二価の金属イオンとして水の中に溶けます。マンガンを吸うためのたんぱく質はカドミウムも少し通してしまうということで、植物がマンガンとカドミウムを全く区別できないかというとそれは分からないのですが、少なくとも完全には区別できないようです。

参加者

イタイイタイ病が問題になったのはかなり前ですが、未だにカドミウムを吸わせないような技術を開発することが必要なのですか?

廣瀬

日本の土地には、諸外国に比べると元々カドミウムが多く入っています。そのため、カドミウムの出荷制限の基準値が、世界の基準値と比べるとやや高い値となっています。ここ10年の間に、国際規格の変更によって、これまで日本では問題なく出荷できていたものが輸出できなくなるという問題が出てきました。そうしたことで、農水省や文科省から研究のお金が出るようになり、ここ数年で研究者が取り組むようになったという経緯があります。

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ありがとうございました!

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