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Report of the 3rd Science Café “Let’s ask about radioactive substances and farm products – the 2nd session”

掲載日:2013.02.04

続・聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト

寒い中お越しいただき、ありがとうございました。

寒い中お越しいただき、ありがとうございました。

2013年1月18日、第三回サイエンスカフェ「続・聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト」を開催しました。定員があふれるほどのお申し込みがあり、20名の方にご参加いただきました。ご関心を持ってくださった皆様、誠にありがとうございました。

当日は、センター長の関崎勉教授のあいさつの後、放射線植物生理学が専門であり、事故後は被災地で土壌や農産物の調査をしている田野井慶太朗准教授によるスライドを使ったお話を軸に、細野ひろみ准教授のファシリテーションのもと進行しました。

参加者の皆様からは様々なご質問やご意見をいただき、大変盛況となりました。
配布資料(PDF)

今回のサイエンスカフェについて

関崎

私どもは昨年より、被災地の復興を願って様々な活動をしてまいりました。このサイエンスカフェもそのひとつです。サイエンスカフェは講演会ではありませんので、飲み物を飲みながら肩の力を抜いてざっくばらんにお話していただきたいと思います。話題提供をしてくださるのは准教授の田野井先生ですが、今日は「先生」ではなく「田野井さん」と呼んでいきたいと思います。田野井さんは被災地に行き、どのような場所に放射性物質がたまっているか、作物に入らないようにするにはどうしたら良いのかを研究されています。また、今日のお話を円滑に進めるために、進行役を准教授の細野さんにお願いしました。細野さんは農業経済学がご専門で、消費者意識の調査をずっと続けています。

細野

このサイエンスカフェは今回が3回目で、お顔を拝見していると何度かいらっしゃっている方もいて大変うれしく思います。今日は1回目にも話題提供をしていただいた田野井さんに、より新しい成果についてお話していただきます。私も放射線の専門家ではないので分からない時には質問しますが、皆さんも分からない時にはどんどん手を挙げてください。手を挙げにくい時は、机の上にある付箋に書いて、机の隅に貼っていただけたら回収しますので、私の方から田野井さんに聞きたいと思います。

(※以下、記載がない場合の発言は田野井氏)

過去の知見から果物は大丈夫そうだったが・・

  • 土壌中の放射性物質の量と、作物中の放射性物質の量を割り算したものを移行係数と言います。例えば、土には100ベクレルで果物にも100ベクレルの放射性物質がある場合の移行係数は1となります。
  • 過去の研究から、果物―放射性セシウムの移行係数は0.001といった非常に低い値です。これは、土の放射性物質放射性セシウムが果物に移行しにくいことを表しています。例えば、土が5,000ベクレルの木に成っている果物は5ベクレルということになります。5,000ベクレルを超えるような土は滅多にないので、果物は大丈夫だろうと思っていました。しかし、100ベクレルを超えるモモが福島で採れ、関係者を驚かせました。
  • 放射性物質が空から降ってきた3月は、福島ではモモの花は咲いていないし、葉も出ていませんでした。汚染されたのは土の表面と木の枝だということになります。放射性セシウムは土の深い部分には入っていかないことが分かっていたので、根からの吸収は考えにくく、これまで枝から吸収されるということはあまり考えたことがありませんでしたが、状況証拠から、「もう枝しかないな」となりました。

モモの意外な汚染経路とは?

  • 事故の3か月後頃に福島県に行き、福島県農業総合センターの果樹研究所(以下、果樹研)の方と研究を行いました。剥いだモモの樹皮を調べたところ、樹皮にあるぼこぼことした皮目(ひもく)という部分に放射性物質放射性セシウムが集まっていることが確認されました。
  • 次に、皮目に集まっている放射性セシウムがどのように木の中に入っていくのかを調べました。木は外側から外樹皮、内樹皮、形成層、辺材、心材(中心)と分けられます。私たちの血管に当たるような篩管と導管はそれぞれ形成層と辺材のところにあります。果樹の研究者である高田大輔先生はこれらを詳細に分けました。そして、私たちがそれぞれに含まれる放射性物質の量を測定しました。
  • すると、やはり外樹皮に最も多くの放射性物質が検出されました。注目したのは、外樹皮のすぐ内側の内樹皮よりも、さらに内側の篩管や導管の方に放射性物質が多かったということです。このことは、外樹皮から篩管や導管にダイレクトに通じる道筋のようなものがある可能性を示しています。そして、私たちは、皮目がその道筋となっているのではないかと推測しました。
(左から) 細野さん、田野井さん

(左から) 細野さん、田野井さん

二つの実験によって、汚染経路を検証

  • メープルシロップのように、樹皮の内側から物質が外に出てくることはよくありますが、樹皮の外側から内に入っていくという現象はあまり見たことがなかったので、本当にそういうことがあるのだろうかと思いました。
  • 果樹研の佐藤守さんが行った実験ですが、植木鉢に植わったモモの木(まだ葉は出ていない)に、ユズ葉洗浄液である放射性セシウムをスプレーで噴霧しました。これは、3月中旬に雨が降り放射性物質のフォールアウトがあったという状況を再現したことになります。その後、木から出てきた葉やモモを計測したところ、放射性セシウムが検出され、実際に枝が汚染経路になることが確認されました。
  • 先ほどもお話した高田大輔先生は、事故以前から、モモの植木鉢の土の表面に覆いをかけて、それによってモモの木の生育にどのような影響が出るかという実験をやっていました。この実験をやっていたことによって、土の汚染がある植木鉢と汚染がない植木鉢を(土の汚染の有無以外の条件は同じ)、手にしていたのです。その後、それぞれの木から採れたモモを調べましたが、放射性セシウムの濃度は土の汚染の有無に関わらずほぼ同じでした。
  • これらのことから、今回のモモの放射性セシウム汚染は、土からではなく樹皮の皮目から移行したものではないかと推測されます。
参加者

ユズ葉洗浄液を使ったのはなぜですか?

田野井

この実験の前に、ユズの葉に付着した放射性物質は、水で洗うとどのくらい落ちるかという実験をしていたので、その時に出た洗浄液を使いました。

参加者

モモの木に噴霧した放射性セシウムの濃度はどのくらいですか?

田野井

(後日、果樹研の佐藤さんに確認していただいたところ)1リットル当たり160ベクレルです。

汚染された木はこれからどうなるの?

  • 2012年の冬に福島県から汚染されたモモの木を持ってきて、新しい土に植えかえました。木は汚染されていて土は汚染されていないという状態です。そして、枝に付着した放射性セシウムが、木全体のどこに移動しているのかを調べました。
  • その結果、放射性セシウムの多くは枝にありました。果実や葉など、新しくできた組織にはあまり移動していないことが分かりました(果実へは全体の0.6%、葉へは0.8%が移動)。また、地下部の方へもあまり移動していませんでした。根に付着した土に0.9%があったのは、モモの体内を移動した放射性セシウムが根から外に出たことを表しています。
  • モモの放射性セシウム濃度は事故後1年で大幅に減少しましたが、まだ20ベクレルのものが少し出ています。モモは贈答品としてよく使われます。私に送っていただければ食べますが、少しでも検出されたものは人に贈りにくいということはあると思います。そういう意味で果樹農家はまだまだ厳しい状況が続いています。
参加者

樹皮に付いた放射性セシウムは取れないのですか?

田野井

2年間経ちましたが、まだ多くの放射性セシウムがついています。

参加者

樹皮を剥いだり、高圧洗浄をしたりしていますが、あまり意味がないのですか?

田野井

私たちはその検証をしていないので分かりませんが、放射性セシウムは樹皮にあるので、それを剥げばぐっと濃度は下がると思います。ただ、事故から2年間も経っていて、皮目から内側に入る道筋があると考えると、少なからず内側に入っていると思います。事故直後すぐに剥げば別ですが、今から急いで剥いでもその効果は小さいのではないかと個人的には思います。
10ベクレルや20ベクレルを大丈夫と思うか思わないかによって、福島のモモをどう思うかは違うと思います。ただ、「このモモは流通してはいけませんよ」という基準は100ベクレルなので、それは十分に下回っています。同じ農家の木から採れるものであれば、モモの放射性セシウム濃度は年を経るごとに大体1/3ずつ低くなっていくと思われます。

参加者

そもそも樹皮は剥いでも大丈夫なものなのですか?

田野井

樹皮に害虫が付くことがあるので、樹皮を剥いだら元気になる木もあります。樹皮を剥いだら死んでしまう木もあるので、種類によって使い分ける必要があります。

参加者

樹皮から果実の方に移動するのであれば、樹皮に砂糖や塩を塗ると甘い果実やしょっぱい果実ができるということもありますか?

田野井

吸収しやすさで言えば、樹皮よりも葉の方が吸収しやすいので、樹皮から吸収させるのは効率が悪いと思います。もっとも、味に変化が出るほどの量を外から添加するのは難しいでしょう。

参加者

2年枝や3年枝ではなく4年枝に多くの放射性セシウムが集まっているのは、4年枝が大きいからですか?

田野井

大きいということのほかに、表面に皮目がありゴツゴツとしていてくっつきやすいということがあります。

参加者

モモの木は何年くらいもつのですか?

田野井

商業上は大体20年くらいと言われています。福島県の場合はおいしいモモを採るために、品種改良してどんどん入れ替えています。5年後に入れ替えるようなものがあれば今すぐ入れ替えた方が良いのではないかと思っています。一方でカキの木は100年経ってもおいしい果実が採れるので、木の更新が難しいということがあります。木ごとに対策を変えてやっていく必要があります。

様々なご質問やご意見が出てきました。視点が多様です!

様々なご質問やご意見が出てきました。視点が多様です!

モモ以外の果物は?

  • 学習院大学と東北大学、福島県は、事故のあった2011年に採れた果物(ウメ、オウトウ、モモ、カキ、リンゴ、ナシ、ブドウ)とその翌年2012年に採れたものを計測し、その差を調べました。その結果によると、2012年の果物で放射性セシウムの濃度は大きく減少していました。ウメは、事故当時に既に葉が出ていたので、2011年産が高濃度になってしまいました。ブドウとナシは(2011年産と2012年産で)あまり濃度の差がありませんでした。これらの果物は栽培する時に棚を作り、網がかかっています。放射性物質はこの網に付着し、樹木に付着する量が少なかったのではないか、と思われます。
参加者

ユズやベリーの汚染が高いと聞きましたがなぜですか?

田野井

ユズは常緑樹で冬も葉を落とさないため、放射性物質をまともに受けてしまったということはあります。
ブルーベリーはヨーロッパで研究がよくされています。家庭菜園で栽培されたことのある方は分かると思いますが、ブルーベリーは、植物から作ったピートモスというものをたくさん土に入れて育てます。放射性セシウムは土には強く結合しますが、ピートモスのような有機物には緩くしか結合しません。従って、ブルーベリーの根は吸収しやすい状況にあります。さらに、ブルーベリーは根を浅く張るので、表層の放射性セシウムを吸収しやすい状況にもあります。

アンケート用紙から

突然変異の報告はありますか?

田野井

今回の事故の放射線影響での突然変異の報告はまだないと思います。

アンケート用紙から

植物には放射性物質の固定能力がありそうですが、除染に利用できないのでしょうか?

田野井

除染に植物を使うことは、植物が環境修復をする「ファイトレメディエーション」と呼ばれる技術ですが、土壌の方がセシウム吸着力は強いので、植物を利用して除染するのは難しいと思います。

カフェには焼き菓子もあります。

カフェには焼き菓子もあります。

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