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Report of the 20th Science Café: “The 20th Science Café “Let’s ask about the gene-recombined foods at hand!”

掲載日:2017.05.01

話題提供者の佐々義子さん

話題提供者の佐々義子さん

2016年8月26日、第20回サイエンスカフェ「身近な食品だからこそ聞いてみよう!—遺伝子組み換え食品の安全性のコト—」を開催しました。
特定非営利活動法人 くらしとバイオプラザ21の佐々義子先生に、私たちの暮らしに欠かせない味噌、サラダ油さらにはフルーツなど様々な食品に応用され始めている遺伝子組み換え食品の最新技術や安全性をチェックする仕組みなどについてお聞きしました。

遺伝子組み換え食品開発の経緯、技術や範囲の広がり、安全性確保の努力だけでなく、消費者の意識や安心感の醸成に、情報提供やコミュニケーションが大きく関わっていることにも言及していただきました。参加者からも次々と質問や意見、話題提供があり、盛会となりました。



○第20回サイエンスカフェ配付資料(pdf)

※以下、記載がないがない場合の発言は佐々氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

あなたは遺伝子組み換え食品を食べたことがありますか?

      皆さんの中に、遺伝子組み換え食品を確かに食べているという人はいますか?(10名ほどの参加者が手を上げる)どんなものを食べていますか。豆腐。ダイズ製品だからですか。
参加者

表示がないけれど、食べている気がする。

「遺伝子組み換えでない」と書いてあるものがあるが、書いてないものがあるから食べているのではないかと。ダイズやコーンの油にも含まれていそうです。

日本にどのくらい遺伝子組み換え食品が来ているの?

    • 日本で消費しているお米844万トンに対して、トウモロコシ約1,300万トン強、ダイズは約270~280万トン。このうち遺伝子組み換えでないのは少ししかない、ということは、表示はされないものの、この差を見ると、皆さんの「食べているかもしれない」という感覚はいい線を行っていると思います。トウモロコシもダイズも1粒ごとに名前が書けるわけではありません。そこで、日本では、それがどこの国から来ているのか、その国の遺伝子組み換え作物の栽培面積の割合がどのくらいかを基に遺伝子組み換えの量を推定します。
    • 例えばトウモロコシなら約1,300万トン強のうち、1,169万トンがアメリカからで、アメリカでは9割ぐらいは組み換え品種です。トウモロコシはアメリカ、ブラジルからが多く、両国とも遺伝子組み換えを8~9割作っていますから、日本で私たちが飼料や油など何らかの形でトウモロコシに出会ったときには、合計で9割ぐらいが組み換えだろうという考え方で、日常の食生活を支えているトウモロコシやダイズについて推定しているわけです。
    • 飼料で言えば、日本は国産飼料はとても少なく、ほとんど輸入品です。ということは、私たちが口にする酪農製品、例えば牛もこんな割合で遺伝子組み換えの材料を含んだ飼料を食べている。その飼料を食べた鶏や牛を私たちが食べているということになります。

遺伝子組み換え表示の仕組み

    • 先ほど参加者の方が「書いていないけれども食べている気がする」と言われました。なぜ書かれていないか、それは表示の仕組みのせいです。表示には義務表示と任意表示とがあり、「確かに組み換えました」「遺伝子組み換えと非組み換えとをちゃんと分別してはいません」という言い方があります。大きな船で輸入されるときは、ダイズやトウモロコシはばら積みされてくる。非組み換えというときには畑にあるときから「これは非組み換えですよ」、収穫の後も「非組み換えだから、こちらの倉庫にしまおう」と、非組み換えだけを分けてくる。これをIPハンドリング(分別流通管理)といいますが、そのように管理したものでない場合は混ざっている可能性があり、「不分別」と日本では呼んでいます。
    • 笑い話で「無分別(むふんべつ)」と言ったりしていますが、組み換えが入っている可能性があるのは、「不分別(ふぶんべつ)」「組み換え使用」のものです。これら義務表示に対して、任意表示では「確かに私は畑から非組み換え作物を契約して輸入した」という場合は、「組み換えでない」と書いていいというのが日本の表示の仕組です。「確かに組み換えです」というもの以外は、不明瞭な状況になっています。鋭意分けてもばら積みすると混ざってしまうかもしれない割合が5%と想定し、5%が表示をする・しないの基準になっている。皆さんは目でご覧になっていないけれども、多くは入っていそうだ、という予想はとても勘のいいお答えだったと思います。・品目ごとでは、納豆や豆腐は義務表示の対象になっていて、不分別の材料や組み換え原料を使用していなければ、「入っていない」という解釈になる。でも、前述のように懸命に分けても混ざって、5%以下程度入っているかもしれない。東京都では2~3年おきに実際に何品目か買ってきて調べていますが、そのなかで1%程度入っていたものが、20~30品目の中に1、2品目見つかるという状況です。5%以下なので違反にはなりません。
関崎

今の「1%くらい入っていた」というのは、わざと入れているものですか。それとも分からないで入ったものですか。

佐々

不分別のものと混ざったものか、あるいはわからないうちに入ったものと考えられます。基準を5%以下にすると、高いお金を払って認証を得て輸入しているのに、それはちょっと商社に気の毒ですね。種子自身も調べる必要はあるけれど、全部の種子をすりつぶして調べると実がなくなってしまいます。それで、このくらいは混ざっていてもいいということで5%になっています。

参加者

表示対象となっている作物と食品は表にあるもので全部なのですか。

佐々

はい。以前「非遺伝子組み換え明太子」というものが出ました。今、組み換えサケが話題になっていますが、当時、組み換えの明太子などできていないのに「非組み換え」と書くと価値が上がりそうだということで、そんなものが出回ったりしました。お米の組み換え品種も出ていないときに「非組み換え冷凍おにぎり」が出たりもしました。組み換えでつくった品種がないものは出しようがないですね。

参加者

遺伝子組み換えというものと突然変異というものとは違いますよね。

佐々

遺伝子組み換えは、手続きを経て計画を出し、環境影響評価や食品としての評価を経たものしか出回らないようになっています。突然変異で遺伝子が変わるのとは別のお話です。

参加者

放射線照射をしたものは遺伝子組み換えに入れませんね。けれど、どちらも遺伝子は組み換わっていますね。

佐々

放射線照射のものは遺伝子組み換え技術とはいいません。放射線を当てた育種です。表にあるのは組み換え作物・食品として安全性確認されたものだけです。品種改良されたものの遺伝子は組み換わってはいます。

参加者

放射線を使わなくても、かけ合わせだけだって、当然遺伝子は組み換わっているから、それも「遺伝子組み換わっちゃった食品」ですよね。

佐々

野生種から、何年もかけて遺伝子組み換わっちゃった食品、それはとてもいい名前だと思います。

遺伝子組み換え食品の価格について

    • この夏、中華のファミレスなどで注目されたのが、遺伝子組み換えパパイヤ。レインボーという名前で、中華のファミレスや、コーヒー店ではスムージーになって出ています。これは生食できるもので、最新の33番目にリストに入った品目になります。
    • 値段はどうでしょう?7年ほど前にコープでコーンマーガリンの写真を撮ってきました。コープはありのままを表示する方針ですが、表示の仕組みとしては表示の対象外です。油を精製して純粋な油になればなるほど、最終製品では、遺伝子組み換えを見つける目印になるDNAや、たんぱく質などは見つけられなくなるからです。原料のどれくらいが組み換えの原料だったかは、生産者に尋ねて答えを聞くしかない状況です。科学的に言えないことを法律の罰則対象にはできないから外しましょうということで、油は対象外です。ビールも対象外です。
    • マーガリンの値段は、今は容器が300gですが、始め450gと225gというのがありました。値上がりの時にだんだん器が小さくなり、これはその途上で320gになったときの写真です。お店によってキャンペーンなどがあり、一律には言えないですが、ソフトタイプのやわらかい、水分の多いものだと、さらに安く100円近く差がありました。正式な表示として「不分別」と書いてあります。これは義務表示ではないです。
    • コープとしては情報提供といっています。これは「危険」・「安全」ではなく、消費者の選択のための情報提供で、油は表示対象外ですが、お知りになりたければ書きましょう、という態度で書かれています。
    • 少し古いコープのデータでは、2003年と2007年でキャノーラの1,350gの非組み換えと、一番搾りの不分別表示がしてある1,500gを比べると、やはり価格差があります。不分別と、非組み換え原料がありますが、マーガリンと食用油で、不分別のほうがよく売れているし、店頭での値段が違う。つまり、あまり皆さん表示を気にせずに、値段とか正味期限とかいろいろな理由で選んでいらっしゃる。不分別表示食品は十分消費者の生活に浸透しているように、私には見えます。
    • 去年の調査では、「トップバリュー」というイオンのプライベートブランドは、全部の製品で事細かにアレルギーや原産地について書いてあります。例えば不分別のナタネを使ったものは、前はドレッシングくらいでしたが、今はマヨネーズも揚げ油もあります。ダイズは旨味成分、油成分ぐらいだったけれど、今は乳化剤もあります。去年調べて驚いたのは、トウモロコシの水あめとか、異性化糖とか、コーンスターチなど、組み換え原料を使っているものがいろいろ増えています。
    • 調味料136品目を1個1個調べてみると、不分別と表示しているものは、そのうちの56ありました。アイスクリームとかシャーベットでは30品目中20、洋菓子では27品目中14です。それほど製品が作られ続けているのは、それらが売れていて、かなり浸透しているからだろうという印象を受けています。

組み換え食品 日本では作っていないの?

    • 遺伝子組み換え作物はどんな国で作っていると思いますか?
      世界的には、この約20年で世界の遺伝子組み換えの栽培面積は約100倍になりました。世界の農家には非常に受容された技術だと言えます。栽培している国は、多い順にアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、カナダ、インド、中国。そして、ヨーロッパ、アフリカと、かなりの国が作っています。
    • 2011~2012年頃に先進工業国と発展途上国の遺伝子組み換え作物の栽培面積が逆転しています。1国当たりにすればアメリカなどがすごく多いわけですが、全部を足すと今は発展途上国の方が多く作っている状況になっていて、発展途上国の生産者にもかなり受け入れられているように思います。インド、中国は栽培しているのは組み換え綿が多いですね。
澤田

スーパーに行くと、納豆などで「米国」と書いてあるのをよく見かけますが、ほかの途上国の国名が入っているのはそんなに見かけないようです。

佐々先生写真2

消費者目線の質問も気軽に

 

佐々

始めにお話したように主な輸入元はアメリカ、ブラジルだからです。日本の場合、商社の買い付けには量が安定していなければならないので、相手国に農業規模がないと取引しません。何カ所から少量ずつ買い付けるよりは、大口で取引したほうが効率がいいということだと思います。

国内での遺伝子組み換え作物試験栽培状況は?

    • 「国内では作ってないんじゃないの?」というお話ですが、作っていません。作っているのは青いバラだけです。日本では、つくばの農水系の研究所、現在の農研機構ですが、そこが中心になって試験栽培をやってます。また外資のシンジェンタ、日本モンサント、デュポン、バイエルクロップサイエンスなどは、日本で自分の会社の圃場を持っています。また筑波大学がユーカリの試験栽培をしています。これらは野外でやっているものです。ほかに、実験室だけの閉鎖系での試験栽培は、もっとたくさんあります。
    • 圃場試験をするとなると、地元説明会をしたり、地元農家の方が交雑の心配をしなくていい方法を検討したり、市民の理解を得るための手続きも必要です。圃場試験は、今はどこでも円満に行われ、トラブルは起きていません。ある外資は、始めは「何で来たんだ!」と言われたけれど、毎年収穫祭などをして、地元と信頼関係ができ、今では「頑張れよ」と言われるようになったそうです
    • 今日「カイコでコラーゲン」というイベント案内もお持ちしました。カイコで廃棄したクワの枝に小さい幼虫がついていて、外のガと交雑するなどするといけないので飼育試験をして調べています。カイコの試験飼育は閉鎖していないといっても屋根のある施設で行っています。そのほか、サントリーの青いバラは国内ですけど、青いカーネーションは海外で作って日本に運んでいます。
参加者

遺伝子組み換え作物の栽培のグラフ・表で、栽培面積が20年間で約100倍になったとのことですが、生産量も100倍になっているのですか。

佐々

そんなには増えていません。

参加者

これだけ急に増えているということは、人類は否が応でも食べているということでしょうか。その弊害というのは出ていないですか。

佐々

先ほどの例のように油などで食べているということになります。食品の安全性において弊害はないですね。もし本当に弊害が出るとすれば、まず国内外の家畜がやられてしまうでしょう。

参加者

では、なぜ日本で遺伝子組み換え作物の生産をしないのですか。

佐々

それは私も聞いてみたいところです。「やってみたい」という生産者はけっこういて、特に次の世代に継がせるか否かと、組み換え作物栽培を関係づけて検討されている生産者もいます。北海道などで耕地が数百haもあるような生産者は「やってみたいが、消費者が嫌うから……」と言われます。皆さんのように「そんなに悪くないんじゃないの」とおっしゃる方がいて、そうしたコミュニケーションがうまくつながるといいなと思います。

遺伝子組み換え作物の安全性はどうチェックするのか

    • 遺伝子組み換え植物の食品の安全性については、環境としてどうか、そして人間が食べてどうかという2つの視点で調べています。遺伝子組み換え植物の作り方については、いくつか方法があります。
    • 例えば、バラなど木の根っこにできているコブを見たことがあるでしょう。あれは、土壌の中にいる微生物が植物の体の中に入り、自分のエサとなるものを作るように自分の遺伝子を植物の体に送り込むのです。可哀想にこのバラにはコブができて、そのコブが微生物のエサ作り工場にされてしまうのです。バラの病気の1つです。これを微生物による「植物の植民地化」といいます。
    • こういう微生物がいるなら、ここに人間に都合のいい性質を植物に与えるような、タンパク質を作る遺伝子を送り込んだらいいんじゃないのと言って作られたのが、最初にできた遺伝子組み換え技術で、土壌微生物に感染させる「アグロバクテリウム法」です。だけど、この組み換え技術は双子葉には使えるけれども、単子葉には使えなかった。そこで、火薬や電気の力で遺伝子を入れる方法で実用化をどんどん進めてきたわけです。
    • さて、どんなふうに安全性を調べるかというお話です。始めに、環境に悪影響を及ぼさないかを、そして、食品として食べても大丈夫かを調べます。さっきの青いバラは食べませんから、環境の試験だけ可ならそこで商品化となります。食品は、人間が食べたときの安全性、家畜なら飼料としての安全性を調べます。それぞれを担保する法律があります。
    • 複雑なのは、担当省庁が分かれていて、人が食べる時は厚生労働省、家畜が食べる時は農林水産省、環境を調べるのに、大学の中などでやっているときなどは文部科学省とか。「第一種使用」という名称がありますが、外に出すとなると、農林水産省、環境省などに、先生方はいろいろな資料をいっぱい提出しそれぞれの法律に従って審査を受けます。
    • 最初は実験室でやって、それから少しずつ外にならしていくときに、温室が2種類あって、完全に閉鎖されているのと、網戸くらい開いて空気だけ出入りするのとありますが、どちらもまだ閉鎖系なので「第二種使用」といいます。この段階では、まだほかのものと交雑がどうかとか様子が分からないので、柵で囲われているところで行っています。
    • その他に、鳥よけの網を張ることもあります。使った水はどうするか、刈った後の苗はどうするか、そういう処理も全部計画で決められた処理の仕方をする第一種使用という枠組みがあって、各状況下での環境への影響を調べ、書類が提出され、審査されます。

環境影響はどんなポイントを見る?

    • 環境影響は3つの視点から見ています。遺伝子組み換え生物が外へ出たとき、もともと生えていたものを全部追い出してしまわないかが1番目。地元の住人である植物に対して何か毒になるようなものを出したりしないかが2番目。3番目は交雑して、純粋種がなくなるような混ざり方で、元の植物の遺伝子資源が失われていないかです。これら3つの視点で審査がされます。
    • 「日本では今栽培されていません」と言いましたが、農林水産省系の研究所には指針があり、それに従って進めています。自治体ごとにさらに網をかけているところもあります。自治体の条例は、違反すると罰則があります。ガイドライン・指針・方針の場合は、努力目標といったところですが、日本人は真面目なので、指針であろうが法律であろうが、きちんと皆さん守られます。
    • 日本で野外での遺伝子組み換え作物の栽培に対して条例で規制しているのは、北海道と新潟です。神奈川も作っていますが、最初に作ったのが北海道で2006年です。滋賀は2004年に作りましたが指針でしたので、条例で最初なのは北海道です。その後増えて、2011年の神奈川の条例以降は作られていません。千葉は2006年から指針を作るための検討会を立ち上げていますが、2016年から年に1回程度検討会をするという状況で、長期のペンディングになっています。
関崎

指針やガイドラインだと、ある意味守らなくてもいいけど、本当に守っているかどうか、チェックは入っているんですか。

関崎

守っているかどうか、隠れて作っていないかどうかについては、チェックは入っていないと思います。

関崎

ユッケの食中毒で騒ぎになったとき、生肉はこう扱いましょうと、厚生労働省が指針を出しました。そこで一斉に全国調査したら、守っている飲食店は半分ぐらいしかなかった。逆に、半分守っていて、私は「すごいな」と思ったんですけど。今おっしゃった指針・ガイドラインを100%守っているんだろうかと、非常に疑問に思います。

試験栽培について経験を情報提供

試験栽培について経験を情報提供

 

笹川

私は、試験栽培の経験がありますが、農水省の指針の場合は書類の検査の後に、すごく細かくいろいろな必要事項をやったかどうか厳しいチェックがあります。茨城県にはありません。つくば市には検討委員会があり、関係者が見学に来て、現場を確認したりしています。

佐々

それぞれの施設でルールに沿って進めていると思いますが、関崎先生がおっしゃったように、「守らなくてもいい」と考えているような人たちには無防備ということになると思います。

参加者

基本的にやっちゃいけないことがあるんですか。あるいは遺伝子組み換え作物の栽培を推進するために、「あれとこれはやっていいよ」という感じなんですか。

佐々

例として北海道の条例について。「北海道は農業の可能性があるのに、こんな規制があると新しいことに取り組めないじゃないか」という話があったときに、「いや、これを守ればできるんだから、大いにできるんです」と委員会の委員長は言われていました。でも、条例ができてから、北海道で遺伝子組み換え作物の栽培は行われていません。国内の栽培は限られた所のみというのが現状です。

    • 環境省と農林水産省と自然保護団体が「こぼれナタネ」調査をやっています。主に港のそばでナノハナを採ってきて、遺伝子を調査します。先ほどの3つの視点から見て本当に環境を脅かすような状態になっているかどうか。その「意味」で、実際どんな調査をしているかと言えば、「こぼれナタネ」の調査がそれに当たるかもしれないです。
    • もう1つは、研究者が条例や指針の対応で苦労しているのは地元説明会です。研究者は書類をきちんとして実験を計画どおりに進めるのは得意ですが、地元説明会のようなものは難しい。現に地元説明会で紛糾して実験が中止になった例もあります。
参加者

今、使われていない田畑がたくさんありますが、それを有効活用するということに着目して、先生方がうまくコミュニケーションをしていけば、生き残る道はあるかもしれないですよね。

佐々

そうですね。農家の方から、組み換えダイズだと手がかからないので、せめて耕作放棄地に組み換えダイズを蒔いて、「緑肥」というそうですけど、すき込んでしまって土の栄養にしたい、雑草が生えると、雑草の種で畑が死んでしまうから、せめて緑肥用のダイズを植えたいというお話がありました。ただ、作ろうとすると、地元説明会や他の農家の方との人間関係などいろいろあって、ご苦労されているのを感じました。

参加者

遺伝子組み換えしたダイズなどを食べたときに、その組み換わった遺伝子は我々の体内に残りますか。それとも排泄されてしまうんですか。害はないですか。

佐々

排泄されます。ではそのあたりについて次に話します。

遺伝子組み換え作物は体内ではどうなるの?

    • 日本では環境影響調査が終わったものについて、第一種使用で承認されたもののリストを発表しています。これは2~3カ月おきに更新されていて、2015年よりは20種類くらい増えています。厳しい審査を受けて、実験室、温室で試験を経たので、外で作ってもいいですよというところまで来ています。
    • 例えば今審査で通っているものとして、除草剤グリホサート誘発性雄性不稔とか、チョウ目、コウチュウ目抵抗性、グリホシネート、グリホサート耐性等、複数種類の除草剤耐性など、たくさんの性質を付与された作物ができています。グリホシネートとグリホサートは除草剤ですが、各社の除草剤に対応できるように、企業も互いの特許を利用しあうようになってきています。今までは1つの性質を加えるだけだったのが、今はいろいろな種類の性質を持った組み換え作物が出きています
    • そして、食べ物としてはどうなのか。実際は食品衛生法の中の品質基準にたくさん評価項目が書いてあります。それらを大雑把に書き分けてみました。大きく分けて3つの視点から食品としての安全性評価があると思っています。例えばトマトなら、組み換える前の元のトマトがどんなだったかが1つ。どんな遺伝子をどのように入れたのかが2つ目。最後は全体としてどうなのかという観点です。
    • まず元の品種について、すでに長く食べられてきて安全に利用してきた歴史があります。調理法など、ジャガイモだったら芽をとるとか、安全に食べる知恵をずっと守ってきているわけです。そういうあらゆる事柄をまず整理します。
    • 遺伝子組み換えは、遺伝子の断片を入れることで何らかの新しいタンパク質を作らせたり、利かなくしたりします。どんな遺伝子につなぎ、どんなふうに入れるのか。微生物に運ばせて入れるのか、また入ったかどうかをどうやって見つけるのか。目印をつけるのか。例えば除草剤耐性なら、除草剤で枯れないものは組み換わったとわかるけれども、実が成らない性質のようにわかりにくいときは、一緒に目印になるようなもの、例えば抗生物質への耐性を持たせた遺伝子を入れるなど、何らかの遺伝子の関連する部分を入れます。
    • さらに、できたもの全体として、新しく入れたDNAは食品の中でどんなふるまいをするか、それにより作られたタンパク質はどうなっているか。その他の栄養成分は変わっていないのか。ジャガイモのソラニンのようなあまりよろしくないものも、元と変わらずに残っているかとか。消化される様子はどうか。アレルゲンとよばれる、アレルギーの原因物質は、消化されにくい。難分解性です。消化液でも、熱を加えても変化しないという性質がないかなどの、消化の様子。今まで毒素の成分として登録されているものと、分子レベルで比べて似ていないかなど、食品としての安全面を調べます。
澤田

ベクターというのは何ですか。

佐々

ベクターは運び屋さんです。例えば、アグロバクテリウムには輪の形をしたプラスミドというDNAがあって、それに自分に都合のいい遺伝子を入れて植物に送りつけるらしいんです。どんな運び屋さんを使うかをチェックするのです。

澤田

では、この段階でプラスするものが人体や動物に害があるということではなくて、足し合わせた結果、元々の植物なり食べ物が、何らかの防衛として毒素を出すようになったりすることを調べたりするんですか。

佐々

観点がはっきりわかるように3つの部分に整理して、1つ1つの安全性について調べます。いきなり最後の部分だけ調べるのではなく、作る前、作る途中のところと、分けて調べていく。日本はその項目がとても多くて大変厳しいんだそうです。

    • 例えば家でお腹をこわした人がいると、お母さんが、「何か変なもの食べたんじゃない?」とよく言いますよね。みんなは何でもない。朝と夜はみんなと同じものを食べているから、1人だけ昼に違うものを食べて、そこに原因があると考えるわけです。遺伝子組み換え作物について調べるときの考え方もそれと似ています。何か変化が起こったら、その変化の部分を調べる。ある場合は、宿主を調べ、または組み込むところを調べ、あるいは最後の部分を見ます。
    • 「お腹の中に溜まっちゃうの?」というお話について、害虫抵抗性を例にお話しします。害虫を殺すタンパク質としてBTタンパク質というものがありますが、これは微生物が作るタンパク質で古くから伝統的な農業では使われてきたものです。今は有機農業の人たちも使っている、害虫にとっては毒になるタンパク質です。害虫抵抗性では、このBTタンパク質を植物体の中で作らせます。例えばBTタンパク質を作るトウモロコシにガが飛んできて卵を産みつけ、その卵からイモムシが孵ると、エサになるトウモロコシをかじります。イモムシの消化管にはBTタンパク質に対する受容体という鍵穴のようなものがあり、そこにBTタンパク質がはまると害虫は死んでしまいます。
    • 害虫の消化液はアルカリ性です。人間は胃が酸性なので、BTタンパク質は分解されたり弱められたりします。腸には行きますが、人間にはBTタンパク質の受容体という鍵穴はないので、単なるタンパク質としてアミノ酸に分解されたり、排泄されたりして、人間には毒にならない。そういうことがわかっていたので、これまでも農薬として使われてきたのです。それを植物体の中で作らせようとしたのが害虫抵抗性の遺伝子組み換えなんです。
澤田

家庭で野菜を食べるとき、イモムシがついてると、「あ、イモムシも食べてるからこれは安全な野菜なんだよ」と子どもに食べさせたりするんですけど、この理屈で行くと、イモムシには害がないけれど、人間には害があるような農薬もあるんですか。

佐々

農薬は農薬で、人の口に入るものは何日前までしか散布してはいけませんよという決まりがあって、それが守られています。残留農薬についての話ですが、問題ないと思います。ただ、植物もかじられたらかじられっぱなしではなくて、イモムシに一矢報いようと思うわけです。それで、天然農薬という言い方をしますが、かじられた植物が虫の毒になるようなものを出します。植物は傷害を与えられるとそのストレスでタンパクを出します。植物の持つ天然農薬もなかなかなものだという研究もされています。農学、植物学の先生たちは「虫がいっぱいついているのは勘弁してよ」と言います。それは単に虫が嫌なんじゃなくて、それだけ障害を与えられたら、植物はすごいストレスタンパクを出しているはずだから、あまりいただきたくないということだそうです。

国の担当省庁や関連法律については?

    • 食品の場合は、厚生労働省の担当です。例えば東京大学が何かすごい遺伝子組み換え作物をつくって、食品として出すとします。厚生労働省に「こういうものを作りました。安全審査の資料をもってきました、よろしく」と提出します。すると厚生労働省が内閣府の食品安全委員会にこれを送ります。食品安全委員会の親委員会の下に専門調査会があり、遺伝子組み換え食品等の専門調査会にこれがかけられます。審査をされる先生によると、ダンベル運動に使えるくらい重い書類がいっぱい送られてくるとのことでした。たくさんの書類の審査が行われて、資料の補足や差し戻しがあったりします。例えばパパイヤの場合10年くらいかかりました。
    • 審査が終わると、親委員会から厚生労働省に書類が戻り、厚生労働省の手続を経て官報に載り、食品安全委員会からも、国民に対して新しい遺伝子組み換え作物の情報が提供されます。
    • 今は、食品安全委員会がこうした形で遺伝子組み換え食品の安全性の審査をしていて、厚生労働省のホームページを見ると品目がどんどん更新されています。組み換えた酵素も同じように審査されています。何種類もの性質を持つものや、様々な虫や除草剤への耐性を持たせたものについては、さらにそれらを普通の交雑でかけあわせることで両方の性質を持った遺伝子組み換え作物が作られています。

消費者の意識は?

    • 食品安全委員会が毎年、応募制の食品安全モニター400~500に調査しています。これに応募するような人は意識が高い人だから、遺伝子組み換え技術に賛成だろうと思われると思いますが、現実は、食品安全委員会が走り始めた頃は8割ぐらいの人たちが不安だと言っていました。それが減ってきて、平成22年ぐらいから5割を割って今日に至っています。
    • 事業者がきちんと法令遵守をしてないんじゃないか、という不安を持っているというのは、組み換えの場合はほとんどないんです。ところが農薬や食品添加物のほうはある。事業者に対してどうも信用できないというところが不安の理由になっている。国が信用できないというのは割となくて、事業者に不安を感じるということが割と多い。
    • ではなぜ納得したのか。安全性の科学的根拠を聴いて納得した、というのは組み換え食品にも残留農薬にも食品添加物にもあります。食品添加物は苦戦と先ほど言いましたが、科学的根拠の説明に納得したという人は食品添加物がむしろ多いんです。多いのは、「行政が規制をしっかりしてくれているから」というもの。安全情報は行政からなのではないでしょうか。このときに事業者がしっかり守ってくれている、だから十分だという答えはすごく少なくて、行政がいいからというのが多い。
    • 日本の人は「国は信用できない」などと報道ではよく言っていますが、やっぱり安全性のお墨付きとかは、国がきちんと言ってほしいと思っている人が多いのではないかと思いました。
参加者

安心というのは消費者個人が判断することだと思うんです。安全性を行政で担保してほしいというのはわかるんですけど。サイエンスカフェみたいなもので正しい科学知識を得て、最終的に安心するのは消費者個人でないといけないんじゃないかと思うんですよ。

f食品の安全と安心を決めるのは?】

    • 新しい技術が誕生したとき、その技術を使っていいかについて、科学者と社会の話し合いがあったほうがいいですよね。遺伝子組み換え技術の場合は、アシロマ会議というところで話し合い、科学者自らが規制をかけながら慎重に研究が進められてきました。これは今までの科学の歴史の中では初めての進め方だろうと思います。毒ガスや原子爆弾を作ってしまった科学者たちが非常な悲しみや痛みを抱えてパグウォッシュ会議をしている。それでバイオの研究者たちはアシロマ会議を開催したと私は思っています。
    • さて、食品には基本的に致死量はない、だから化学物質である農薬や薬でやってきたようなやり方が使えない。困った。それでファミリアリティという、長く付き合ってきた私たちの歴史を重んじるという考え方をとり入れました。例えばお米の品種改良をしても、モモタロウとかササニシキ、コシヒカリとかが出てきたときに、それらを100年も食べてはいないけれども、これは今まで食べてきたお米をかけ合わせたりしているからいいはずと思って食べてきたと思います。
    • 今度は、組み換え食品ができて「食品の安全性はそもそもどう考えるの?」となった。その意味で遺伝子組み換え食品というのは食品の安全性を初めて考えるきっかけになった。それはこれまでやってきた化学物質とは違う。お塩のようなものなら食べ過ぎると毒だとわかりますけど、おいしいお米だと、食べ過ぎて太っちゃうとか、お腹をこわすとかはあっても、それが毒になるという意識はない。
    • 「安心は行政から」という部分は、次回からは「安全のお知らせは行政から」に直したいと思います。(注:参加者からのご発言と佐々先生からの詳細なコメントのもと、当初スライドにあった「安全は行政から」という表現は「安全のお知らせは行政から」が妥当ということで意見が一致しました。

アンケート調査にみえる消費者意識の変化

    • 最後はおまけです。2015年2~3月に行われ、2016年度の調査として発表されている「食品のリスクについて」というアンケート。これは食品安全員会のモニターさんに「食品の安全性に関する意識と情報源について」聞くもので、「あなたが安全性について気にならなくなったものは何ですか、上位5つを選んでください」という形式でした。
    • すると、1番がBSE、次は食品添加物、残留放射性物質、遺伝子組み換え食品、残留農薬。これらを「もう心配しなくていい」と思うようになった一方、ウイルスなどの有害微生物、いわゆる健康食品、家畜の抗生物質。アクリルアミドなどはまだ気にしないといけないと思っている人がいるようです。
    • なぜ気にならなくなったか。上位の理由は「リスク評価の考え方を知ったから」、「行政のリスク管理がちゃんとできているから」、「食品安全委員会が存在するから」。食品安全委員会というものがあるからいいんです、と言う人もいます。それから「検査結果の公表」もあります。それぞれの項目に基数割合をかけると、400人のうち90人くらいが「リスク評価の考え方を理解することによって、私はハザードを心配するのをやめました」と言っています。
    • 人類が生まれてきて、飢餓が続いていたのが、今のように安全なものが食べられて、日本はこれだけ長寿で、乳幼児の死亡率も世界一低い、食と衛生の完備した本当にありがたい環境になっていると思います。それを支えているものとして見ると、遺伝子組み換えとか、農薬とか、放射線照射、肥料、品種改良等々の技術の進歩はいい食べ物をたくさん作ることだと言えます。そして食品をよりよく保存できるために食品添加物、食品放射線照射があります。それらが食料がたっぷりあること、いつでもあること、どこでもあることにつながっている。私たちの人類の歴史でいちばんありがたいことは安定供給で、それを支える技術の1つとして、今日は遺伝子組み換えのお話をしました。
関崎

水を差すようですが、今日は安全性はちゃんと調べていると伺ったのですが、やっぱり、食べ物だから何か気持ち悪いなと思う人はいっぱいいると思います。表示を見て嫌なら、その人は食べなくてもいいということでしょうか?

佐々

そうです。

参加者

組み換え表示をすると、消費者が買わなくなってしまい、生産性向上したい企業は表示をしたくないと聞きました。

佐々

アメリカでは、安全性も調べたんだからと、当時メーカーは「Soy bean is soy bean.」と言ったんです。調べると確かに遺伝子やタンパク質は変わっている。しかし、ちゃんと調べたら、前のトマトと同程度に安全だという言い方をするんです。前のトマトと、組み換わったトマトと実質的には同じだとして、Substantial Equivalence、SEだと言ったわけです。

      • 日本も表示はしないつもりだったんですけど、大反対があって表示することになりました。ところが、実際は科学的に最終製品で調べられない油などもあるので、調べられるものに限って表示をすることになったというのが経緯です。
      • アメリカの規程はともかく、日本の表示に関しては、消費者の皆さんと相談して実現してきたものです。トウモロコシも、以前はなかった遺伝子組み換えの爆裂種ができたので、これも表示の対象にするなど、日本のほうがずっと消費者の意見を聞きながら表示をして、選んでいただける環境作りをしてきていると思います。
佐々先生写真1

参加者からは活発な質問・意見が

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