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Report of the 4th Science Café “Let’s reduce radiocesium! Why potassium works?”

掲載日:2013.08.21

放射性セシウムを減らす!なぜカリウムで?

ご参加いただいた皆様、ありがとうございます!

7月27日、第4回サイエンスカフェ「聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト~放射性セシウムを減らす!なぜカリウムで?~」を開催しました。
暑い夏の日にも関わらず、会社員や主婦、学生など、色々な方にご参加いただきました。
当日はセンター長の関崎勉教授のあいさつの後、細野ひろみ准教授のファシリテーションのもと、放射性同位元素施設の小林奈通子特任助教による話題提供が行われました。参加者の皆様からは様々なご質問やご意見をいただき、盛会となりました。

【配布資料(PDF)】

※配布資料P.1修正点:「全袋検査」→「全戸検査」

はじめに

関崎

話題提供をする小林さんは農産物に含まれる放射性物質を計測されていて、今日は、どうしたら農産物中の放射性セシウムを減らせるかというお話をしていただきます。ファシリテーターの細野さんは農業経済がご専門で、放射性物質汚染についての消費者意識を追跡調査されています。

細野

このサイエンスカフェはこれまで何回か実施していますが、今回は初めての土曜日の開催とあってか、初参加の方も多く、いつもより男性が多いようです。サイエンスカフェでは皆さんとの距離を近くして率直な意見をお聞きしたいと思っています。

(※以下、記載がない場合の発言は小林氏)

どうして植物の研究をするのか

  • 私は普段の業務では、農学部の先生たちが被災地から持ってくる様々なサンプル(農地の土、川の水、樹木、モモ、イネ、昆虫など)の中の放射性物質を測定しています。今日は、研究者が何をどのように考えて研究しているのか、思考回路の部分をご紹介したいと思います。
  • 食べ物の多くは植物に由来しています。お肉も植物を食べて育った家畜からできているので植物由来であると言えます。従って、私たちが取り込む放射性セシウムを減らすためには、まずは植物の中の放射性セシウムを減らすことが非常に有効です。

植物にはこんな特徴がある

  • 植物はほかの生物を食べないので、独立栄養生物と呼ばれます。私たちのように植物や肉などを食べる生物は従属栄養生物と呼ばれます。私たちにビタミンB1が足りないと脚気という病気が起こりますが、植物はビタミンB1を自分で作り出すことができるので、外から与えなくても大丈夫です。人間は玄米などの食べ物から摂ります。植物の成長に必要なのは、水、光、空気、適温、必須元素です。
  • 植物は体を作り続けます。一つの体の中に、古く枯れていく組織と新しくできて成長していく組織が同居しています。新しい組織は自分で地面から栄養を取ることができないので、古い組織から栄養をもらいます。これを専門的な用語で転流と言います。

(左から)細野さん、小林さん

まずはコメの全戸検査のデータで現状を把握

  • 汚染問題に取り組むためにはまず現状を把握することが必要です。参考にしたのは福島県が実施したコメの全戸検査の結果です。福島県のある自治体の、事故同年の秋のデータでは、「検出せず」(ND)が最も多く、次に100ベクレル以下でした。300ベクレル以上400ベクレル未満で数が激減し、それ以降はバラバラでした。
参加者

事故前のデータはないのですか?

小林

事故前は、放射性セシウムの観点からは、福島県の農産物は研究者の研究対象にはなっていませんでした。ただ、測定していたとしてもNDばかりだったと思います。というのも、今回の事故で放出された放射性セシウムはセシウム134とセシウム137の割合が1:1で、コメで計測されたセシウムも1:1でした。半減期は、セシウム134は二年でセシウム137は三十年です。もし、過去のチェルノブイリ事故などの影響があったとしたら、セシウム134の割合が圧倒的に少なくなるだろうと考えられます。

参加者

天然のカリウムなども放射線を出していますが、そうしたものの影響は除外できますか?

小林

私たちが使っている機器(ゲルマニウム半導体検出器)はエネルギーを分けて計測できるので、核種別に値が分かります。全戸検査が全てその機器で行われたかは分かりませんが、少し精度が劣るNaIシンチレーション検出器でも分けて計測できます。

細野

事故後にガイガーカウンターがレンタルされたりしましたが、それとは違って、核種別に計測できるのですね。

参加者

原発から遠い地域で計測されたデータはないのですか?

小林

そうした地域では全戸検査はされていないので単純に比較することはできませんが、計測した限りでは、コメからは検出されませんでした。

参加者

1,000ベクレルを超えるようなコメは触っても大丈夫なのですか?

小林

土壌に比べると圧倒的に低い濃度です。人体影響という意味ではかなり低いレベルであり、1,000ベクレルのコメを食べ続けた人と100ベクレルのコメを食べ続けた人の健康の間に有意差は出ないと思います。

細野

チェルノブイリ事故後にヨーロッパで定められた食品の基準値は1,000ベクレルくらいで、時間が経過して基準値は低くなっていきました。

参加者

全戸検査のデータの「検出せず」は何ベクレルくらいなのですか?

小林

全戸検査は自分たちで行ったものではありません。測定器によっても異なりますが、検出限界は概ね20~30Bq/kgだったと思います。

どのような場所で放射性セシウム濃度の高いコメが生産されるのか

  • 放射性セシウム濃度の高いコメが生産される水田は、スポット的に出現することが分かりました。土壌、治水、栽培など、それぞれの研究者によって、そうした水田の特徴が調べられました。
  • まず、山間部の場合が多いという特徴がありました。山の落ち葉には放射性物質がたくさん入っているのですが、そこに雨が降り、落ち葉から流れ出た放射性セシウムが水田に入ってきたのではないかという仮説があり、継続的に調査が行われています。
  • そして、土壌中のカリウム濃度が低いと玄米中の放射性セシウム濃度が高くなる傾向があることが分かりました。乾燥土壌100g当たりのカリウムが5mg以下だと、玄米中の放射性セシウム濃度は高くなりました。
細野

通常の農業では、土壌中のカリウム濃度はどのくらいですか?

小林

農業においてどのくらいのカリウム濃度が良いのかというのは難しいところですが、乾燥土壌100g当たり5mg以下の濃度では、収量や品質に違いは出ませんでした。

参加者

この地域の土壌線量や空間線量はどのくらいでしたか?

小林

同じ水田の中でも結構ばらつきが大きく、一概には言えませんが、土壌は数千から数万ベクレルくらいでした。

参加者

放射性セシウム濃度が高くなるのはカリウム濃度が低いことだけが原因ではなく、ほかの元素との複合的な作用があるということはないのですか?

小林

チェルノブイリ事故以降にヨーロッパで多く行われてきた調査の結果や、植物自身が持つ輸送体(詳しくは後述)の特徴から、元々カリウムは大きな影響を持つことが分かっていました。ある元素が多すぎたり、少なすぎたりすると、植物の状態が変わることがあり、元素そのものの直接的な影響を知ることが難しいのですが、そうした背景を差し引いても、カリウムの影響は以前から知られていたことであり、今回の調査結果を見ても「やはりそのようなことがあるな」と確認できました。

調査結果などを紹介する小林さん

放射性セシウムとカリウムの関係を知るために行った実験

  • カリウムと放射性セシウムの関係を実験的に確かめました。葉が五枚くらい出ているイネを栄養とセシウムが入った溶液に入れて育てました。溶液のカリウム濃度を変え、それぞれの場合でセシウムの吸収量を調べました。溶液のカリウム濃度が高くなるにつれ植物のカリウム吸収量も上がっていきましたが、徐々に吸収量は頭打ちになりました。カリウム吸収量が上がるとセシウム吸収量はがくんと下がりました。カリウムがたくさんあるとセシウムが吸収されにくくなることがこの実験で再現されました。
  • カリウムとセシウムはどちらも元素表で1族に属していて、化学的な性質が似ています。
  • 先ほどの実験のイネよりもさらに成長したイネにおいての、カリウムとセシウムの関係性も調べました。種まき後三週間、通常のカリウム濃度でイネを育てました(先述の実験で使ったイネのサイズはこの位)。その後、カリウム濃度を二種類に変えました。一つは充分な濃度のカリウムを加え、もう一つは入れませんでした。また、いずれもセシウムを加えました。二ヶ月近く育てた後収穫すると、カリウム欠乏の方は一個体当たり大体15,000ベクレルで、カリウム充分の方は大体5,000ベクレルでした。
参加者

一個体当たりというのはコメだけではなくて葉なども含んでいるのですか?

小林

根以外の地上部全てです。

参加者

カリウム充分というのは、過剰という意味かそれとも適量という意味ですか?

小林

植物が成長する上では高めの濃度です。

  • こうした効果を、水田でも実験を行い確認しました。一つの水田を区画分けし、カリウムを与えるエリアと与えないエリアを作り、それぞれで収穫された玄米の放射性セシウム濃度を計測しました。やはり、土壌の放射性セシウム濃度が高いほど、玄米中のセシウム濃度も高い傾向がありました。ただし、カリウムを与えたエリアでは、玄米中のセシウム濃度の上がり方は緩く、土壌中のセシウム濃度が1kg当たり6,000ベクレルでも玄米中の濃度は1kg当たり20ベクレルを下回りました。一方でカリウムを与えなかったエリアの玄米では、1kg当たり40ベクレルくらいにまでなりました。カリウムの施肥が大きな効果をもたらしていることが確認できました。

植物が持つカリウムの通り道をセシウムも通ろうとする

  • 土壌中のマグネシウムやカリウム、カルシウムなどの必須元素は、植物の根にある専用の通り道(輸送体)を通って吸収されます。カリウムにはカリウム専用の輸送体がありますが、カリウムが輸送体を通ろうとすると、セシウムも競合して通ろうとします。
  • 輸送体の実態は細胞膜に存在するタンパク質で、物質は輸送体を通って細胞の外から中に入ります。通す物質ごとに輸送体の穴の形が異なります。
  • カリウムの輸送体は20種類以上あるとされていますが、中には、セシウムも通すと考えられているものもあります。輸送体は根だけではなく植物の中にもあり、葉へ送るための輸送体や古い葉から新しい葉に送るための輸送体などがあります。それぞれの輸送体がそれぞれの役割で、カリウムを吸収し、体内で移動させます。
  • 根の輸送体から吸収される段階で、カリウムとセシウムは競合が起こるので、土壌中にカリウムがたくさんあるとセシウムの吸収は妨げられます。
参加者

輸送体を通る物質は穴のサイズが合えば通れるのですか、それとも形で決まるのですか?

小林

輸送のメカニズムは輸送体ごとに異なるので、サイズが合えば通れるものもありますが、それだけでは通れないものもあります。例えば、カリウムの輸送体には、セシウムが通り抜けようとするときに穴をふさぐタイプもあります。

参加者

葉にカリウムを撒いたらセシウムの吸収が減るということはありますか?

小林

カリウムは三大必須要素と言われるくらいで、元々植物の葉の中にたくさん入っています。そこにカリウムを追加して効果を見るのは難しいと思います。ただし、葉にカリウムが充分あることを根に伝えるシグナル伝達の機能があるかどうかはまだ分かっていません。リンはその機能があることが最新の知見で分かっています。

参加者

放射性セシウムが含まれている土壌にカリウムを撒くと効果があるのですか?

小林

その効果がどのような場合に出るのかを調べるのが研究者の一つの使命になっています。セシウムが多く、かつ、カリウムが少ない土壌であれば、カリウム施肥にはかなり効果があると考えられますが、充分にカリウムがある土壌にさらに施肥することの効果は低いと思います。

細野

根から吸収する際にカリウムとセシウムの競合が起こるということは、土壌中の相対的な濃度が重要だということですか?

小林

絶対的な濃度も重要です。通常の農業の施肥濃度だと相対的な濃度が重要ですが、濃度が低い場合は活躍する輸送体の種類も変わり、カリウムの選択性が劣ったものが活躍するようになってしまいます。従って、まずはカリウムの絶対的な濃度を確保することが大切で、次に相対的な濃度も大切ということになります。

参加者

根から入った栄養は、細胞から細胞をつたって移動するのですか?

小林

根から上の方に移動する際には、死んだ細胞からできている導管というトンネルのような部分を通ります。植物の生理学的な観点からすると、導管の中というのは、植物の体の外に当たります。根から入った栄養は一旦根の細胞の中に入りますが、その後、導管に入ります。導管を通って上がり葉に入った栄養は、葉の細胞の中に取り込まれます。

細野さんが参加者との会話を繋ぎます

カリウム施肥の効果は放射性セシウムの吸収を抑えるだけではない

  • 2011年に福島県で収穫したイネの放射性セシウムの濃度を調べたところ、玄米は当時の基準値ぎりぎりである500ベクレルでした。古い葉よりも新しい葉の方が放射性セシウムの濃度が高い傾向がありました。これは、それまでの知見とは逆の現象であり、注目しました。
  • カリウムは転流しやすい元素です。カリウムが充分ある場合は根から入ったカリウムは植物の様々な組織に分布されますが、欠乏している場合は、一度葉に分布されていても転流して再度穂に分布されます。先ほどのイネの場合は、カリウム欠乏の状態で、新しい葉にカリウムを集めようとするのと同時にセシウムも集めてしまったのだと考えました。
  • このことを実験的に確認しました。カリウムを充分に与えて育てた場合、放射性セシウムの穂への分布は数%で、ほとんどはワラに分布しました。カリウムを充分に与えなかった場合、穂への分布は増えました。このことによって、福島県で収穫されたイネで放射性セシウム濃度が新しい組織の方で高かったのは、カリウム欠乏していたためだと実証されました。
  • 以上のことから、カリウム施肥は、セシウムの吸収量を減らし、吸収してしまったセシウムについては玄米への蓄積割合を減らすという二つの側面から効果があると言えます。実験室レベルでは、カリウムを施肥することでセシウム吸収量は1/3くらい、玄米への蓄積割合は1/2.5くらい、全体で1/8くらいに減ることになります。

おまけの話

  • 過剰なカリウム施肥は植物の成長に悪い影響を及ぼすこともあります。カリウムやマグネシウム、カルシウムなどは陽イオンで、マイナスに帯電している細胞膜に吸い寄せられます。このときカリウムがあまりにも多いと、マグネシウムやカルシウムなどが細胞膜に近づきにくくなってしまい、これらの元素の欠乏症が引き起こされ、成長が悪くなってしまうと予想されます。
  • カリウムとセシウムは似ているけれど、やはり「似て非なるもの」です。もしも常にカリウムとセシウムが同じように動いていたら、植物の組織におけるそれらの割合は一定になるはずですが、実際にはバラバラです。根からの吸収の際にはカリウムとセシウムは競合しますが、そこから先の動きは違う部分もあることが示唆されます。この違いを利用して、カリウムはよく吸うけれどセシウムはあまり吸わない植物を栽培し、福島県の農業に役立てようという取り組みもなされています。
参加者

セシウムを吸わせて土壌を除染するための植物はないのですか?

小林

現在はないと思いますが、そういうものを目指した研究は行われています。

参加者

植物より土壌に圧倒的にセシウム濃度が高いのは粘土質の土壌だからだとすると、その代わりに別の資材を使うという手はありませんか?

小林

確かに農業は粘土質の土壌で行われていて、表面から数cmのところに多くの放射性セシウムが存在します。その部分をはぎ取るということは行われていますが、そこに代替で何かを入れるということはあまり行われていません。

参加者

植物は、先に一定量カリウムを取れば、その後はもう要らないということにはならないのですか?

小林

半年といったスパンで見た場合、植物がカリウムを吸収しやすい時期は限定されています。その時期にカリウムをたくさん吸収しておけば、その後土壌中のセシウム濃度が高くなってもトータルとして吸収を抑えることができるというのは農業上可能です。ただし、そうしたことを行うためには、その植物のカリウムを吸収しやすい時期や、吸収後の転流の仕組みを把握しておくことが大切です。

参加者

今日の話はイネ以外の植物にも当てはまるのですか?

小林

イネのようなモデル植物で見つかった仕組みは、他の植物にも当てはめられることが多いです。ホウレンソウなどの葉物野菜は全てを食べるので、イネのように食べる部分のセシウム濃度がどれだけ減少するかを言うことは難しいのですが・・。

細野

イネは種をまいてから収穫するまで期間がありますが、葉物野菜はもう少し短期間なので、種をまく時から土壌をコントロールしてセシウムの吸収を抑えるということが可能になりますね。

参加者

小林さんの研究の行き着く先は、セシウムを吸収しにくいようにデザインされた植物を作ることですか?

小林

私は、謎をひとつひとつ理解していって、農業に役立つ知見を出すということが大きなモチベーションになっています。それぞれの栄養素が持つ役割は分かっていない部分が多いのです。足りないと欠乏症になり、多すぎると他の元素の欠乏症が出るということは以前から知られていますが、どうしてそうなるのかという原理は案外分かっていません。農業技術を発展させるには口コミでは不十分で、裏付けを積み上げていく必要があり、そのためにこうした研究をしています。

参加者

イネが乾燥した後、穂から実の方に元素の移動はありますか?

小林

セシウムは分からないですが、カリウムについては玄米に移動するのは初期だと言われています。成熟した後のカリウムの移動は、もししたとしてもごくわずかだと思います。

参加者

乾燥した後も移動するかもしれないというと、植物の生命の定義が難しいですね。

小林

確かに植物の生死の定義は難しいと思います。今でこそiPS細胞がよく聞かれますが、植物では昔からそのようなことが行われています。細胞をとってきて、そこからまた新しい植物を作ることが原理的に可能なのです。植物は刈り取っても、花瓶にさしたらまた根が生えてきたりします。刈り取っても細胞の代謝が起きている以上、その細胞は生きているということになります。植物個体として見ても、刈り取られた後も体内での元素の移動は可能ですので、生死の定義は難しいですね。

細野

植物は一つの個体内でも様々なステージの組織が同居していて、収穫して脱落していく部分もあればまだ生きている部分もあるということですね。

参加者

実験的に高濃度のセシウムにさらされた植物で異常が出たということはありましたか?

小林

実験用に販売されている核種は高濃度なので、使う時には薄めて使います。高濃度の核種は液自体が非常に酸性に傾いているので、放射線の影響だけを見るのは難しいところがあります。私が行った実験のような濃度では異常は出ませんでした。

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