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Report of the 22nd Science Café “Let’s discuss pigs exposed to radiation and their health”

掲載日:2017.05.09

情報提供者の李俊佑さん

情報提供者の李俊佑さん

2016年11月8日に第22回サイエンスカフェ「附属牧場の先生に聞いてみよう!—被ばく豚の救出とその健康状態のコト—」を開催いたしました。東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場助教の李俊佑先生に、原子力発電所警戒区域である20キロ圏内の屋内豚舎で約100日間飼育された原原種豚を救済し、放射性物質の影響やその後の成長と健康状態を見守りながら、実証的な健康評価、生殖機能評価、被ばく量モニタリング等を実施してこられた状況をお話いただきました。
普段私たちが接することの少ない豚舎での飼育状況や健康状態に、参加者の関心は高く、質問もいろいろな角度から寄せられ、和やかなディスカッションとなりました。



○第22回サイエンスカフェ配付資料(pdf)
※以下、記載がない場合の発言は李氏のもの。
※質疑応答は一部抜粋。

震災と原子力発電所の事故と附属牧場

    • 約6年前に東北地方、太平洋沖に大きな地震がありました。その津波の高さが40メートル。イメージがしづらいですが、大きな船でも陸上に軽く運んでしまうぐらいの大きさだでした。そんな想定外の津波で東京電力第一原子力発電所事故が起きたのです。その時の水蒸気爆発で、いろんな放射性物質が放出されました。
    • 我々の付属牧場は地図ではこの位置です。福島の東京電力の原子力発電所から、文科省が発表したデータでは、放射線は風に乗って西南部側に流れてきたということですが、牧場のほうは多少濃度が高くなっております。東大牧場の濃度は大体0.1から0.2マイクロシーベルトですが、東京都とほとんど変わらないです。東大には柏キャンパスという所もあって、そこのほうがもうちょっとレベルが高かったというデータもあります。
    • 当時発表されたデータでは、東大牧場はヨウ素が5.13マイクロシーベルトだった一方、柏のほうは17.24で、3倍以上のフォールアウトがあったかと思います。東京の場合は7.75ですので、ほぼ東大牧場と変わらないです。セシウム濃度は東大牧場と、東大のメインキャンパスでほとんど変わってないくらい。柏のほうは14ですので、大体4倍近く高くなっているというデータがあります。これは事故のあった年の4月18日頃。測ってみようと思いついて測ったデータなので、普段との比較はできませんが、場所と場所の間で比べてみました。
    • 附属牧場の敷地は36ヘクタールあり、主に家畜は4種類飼育しております。乳牛とヤギと馬、そしてこの震災当時豚は飼育してなかったんですが、後に福島から豚を救済することになって、豚がこっちに入ってきたわけです。牧草地と放牧地があり、普段は放牧地に家畜を入れて自由に食べさせて自由に運動させるようになっています。
    • 牧草地が別にあって、こちらは家畜を入れずに、牧草を春と夏にいっぱい作っておいて、それを冬と早春に備えて刈り取っておきます。この草の生産をするのに、秋に来年のために耕して、種をまきます。冬を越して、次の年の春はその種が先に芽生えてきます。5月以降に刈り取ります。青草だったらだいたい1日乾燥させて水分を5割ぐらいまで下げます。そして、これをロールにしてラッピングします。これは大体2年間もちます。
    • 原子力発電所の事故は3月12日でしたね。われわれが牧草を刈り取ったのもこの時期(5月)です。申し上げたいのは、この牧草は汚染されてしまったということです。ですから、収穫してロールしたものも汚染されているということになるかと思います。牧場を調べてみると、これは2011年の4月8日ですが、大体地表1センチの所で濃度がかなり高くなっていて、ヨウ素、セシウム134、セシウム137ですね。でも、さらに2センチ、5センチと取ると、かなり濃度が低くなります。また、このデータは6月3日です。ヨウ素は半減期が8日ということで、既に検出できなくなっていました。しかし、他のものは濃度が低いですが残っています。
渡辺

1つ手前の写真の汚染牧草は、次回に餌で使うことが決まっていたのですか。

はい。でも、結果を申し上げますと、この牧草は使えなくなってしまったんですね。普段通り収穫はしましたけれども、汚染されたことがわかって、これは廃棄することになってしまいました。当時はミルクも多少汚染されたりしたので、それも1年間ずっと廃棄したんです。

    • 今度は、牧草を調べました。これは先ほどの発表通りで、土壌から1センチ上だったら結構な濃度になりました。一番刈りと言っていますが、ようやくその頃から研究を再開し始めました。それまでは職場も落ち着いていなかったのです。
    • 4月8日、事故から1カ月ぐらいたっています。生草からやはりヨウ素はわずかながらも検出されました。セシウム134と137もです。次にヘイレージですけれども、これは同日に取った草です。ヘイレージっていうのは先ほど言ったように半分乾燥させるのですね。青草だけだったら水ばっかりなので、牛たちは食べてしまった、栄養がないのでこまります。水分を落として乾燥させて作ったのがヘイレージです。4月8日に取った分の生草を取って乾燥させたら濃度が高くなるのは、当たり前ですね。水分が減ってしまったので濃度が高くなっているんですけれども、ヨウ素は半減期は短いほうだったので、このときは検出できなくなっていました。
渡辺

土とか牧草に放射性物質が検出されたということですが、もし被ばくしていなければ全く検出されないのですか、ここに出ている物質が。

そうです。これは原発から出ているものです。普段は検知不能、検出限界以下になります。

参加者

例えば水洗いとかしたら落ちて減るとか、そういうことはなかったのですか。

実際やったことはないのですけれど、あり得ると思います。吸収したというより葉っぱのほうに落ちたというのが大きかったと思うんですね。馬も放牧していますが、馬の濃度が高くなかったということがあって、たぶん草には葉っぱには落ちるけれど吸収するのは少ないんじゃないかというイメージはあります。

牛乳中の放射性物質はどこから?

    • まず牛ではミルクを調べました。与えた水は地下水で、このときには検出できないレベルになりました。でも、ミルクからはわずかながら検出されました。20Bq/kgとか、40Bq/kgありました。牛を飼育する場所は、屋根のある場所で、下はコンクリートです。牧草地の牧草は食べられないので、牛の餌はその前の年に取った餌でした。つまり汚染されていない餌と水を与えたにもかかわらず、ミルクからわずかながら出てしまったということです。そこで汚染された牧草を与えたらどのぐらい上がるのか、どのぐらい移行するのか、研究を始めました。
    • 古いデータですが、厚生労働省が発表した、日本での母乳で育児する割合です。1カ月齢までは大体45%ですね。そこから3カ月齢までで3分の1ぐらいまで下がる。3カ月齢まで母乳を与えて、それから離乳をされるっていうことになるかと思います。その離乳後の代用品は何だろうと考えると、牛のミルクか粉ミルクが多いかと思います。牛のミルクは、タンパク質、炭水化物、脂質もいっぱいで、カルシウム、ビタミンA、ビタミンBも十分入っています。ですから代用乳として十分の栄養価値を備えております。
    • このミルクについて、生乳を日本国内では年間400万トン使っていますが、生乳ですので海外から輸入するわけにはいかないですね。この400万トンは日本国内で生産しています。そのミルクの生産量、北海道が1位です。しかし北海道の生乳を東京、関東まで運ぶのはコストが高くかかってしまうんので普通はしない。北海道のミルクは生乳として販売されるのは半分以下で、他はほとんどチーズかバターを生産しています。2位は栃木県、3位は千葉県、4位は群馬県、牧場のある茨城は8位で、主に東京方面向けに販売されているかと思います。
    • 福島の東京電力の第一原子力発電所からは風の流れで南西のほうにいっぱい放射性物質が放出されたんですが、その上でミルクがどのぐらい汚染されているかという研究については、大学の牧場が引き受けました。セシウムを取り込んでしまったら排出してゼロになるまで、どのぐらい時間かかるのかについても考慮に入れ、研究を計画しました。
    • 研究の方法は、乳牛のホルスタインを使います。乳牛とはミルクを主に生産する牛です。黒毛和牛って大体年間600kgのミルクを出しますが、乳牛は年間、普通8,000kg出すんですね。食べるのも半端じゃないし、ミルクの量も半端じゃない。8,000kgでもびっくりするんですけど、2万5,000kg出す牛もいますよ。つまり1日80kg出している牛もいるわけです。
    • この乳牛について対照群として1頭を、普通は1頭では対照群とは言えないと思いますけれども、でも作りましょうと。一方で4頭にこの汚染された餌を与えて、どのぐらいの量がミルクに移るのかについて研究を進めました。
渡辺

この牛は東大の付属牧場でもともと飼っていた牛ですか。

東京大学は、農学部に獣医学専攻がありまして、将来の獣医さんを育てています。卒業するまでに大体4回ぐらい牧場に来てもらって、練習や実習をします。それで常時、牛を飼育していて、その牛を実習などに使っているわけです。

参加者

その牛は、実験をする前にもう被ばくしていた、それともしてない牛ですか。

牧場で屋根の下で飼育されていますので被ばくは全くないです。ですが、被ばくしていないのに、ミルクから検出がありましたね。水も餌も汚染されてないのに、ミルクには多少出る。たぶん人も同じで、空気中にも飛んでいるから、空気を吸って汚染されるのは、どうしても避けられないんですね。それで、汚染された牛ではないんですけども出てしまう。

渡辺

それは、ほこりみたいな感じで吸っちゃってるっていうことになりますか。

そうです。フォールアウトされたのが飛んできますので。4頭の牛は牧場で収穫した草、汚染された草を与えて、どれ位ミルクに移るだろう、ミルクからなくすのはどの位時間がかかるんだろうって調べるために計画しました。

渡辺

すると対照群というのは、被ばくした牧草を食べさせないということですか。ただし、空気中でもう吸っているから少しはミルクで検出されると。だけど、それと比べて被ばくした牧草を食べさせるとどれだけ増えるかっていうことですよね。

そのとおりです。ですので、この対照群の1頭だけは、全期間、事故の前年に収穫した草の飼料を与えました。さらに、ミルクを出すために栄養が必要なので、濃厚飼料としてトウモロコシは10kg以上あげています。

    • 草と濃厚飼料、合計で35kg。濃厚飼料はほとんどは輸入品です。ですから、こちらは汚染されてない。処置群には、始め2週間はこのきれいな餌をあげます。これは馴致するためです。実験するとき、この餌に慣れてもらわなきゃ困りますので。次の2週間は汚染飼料を2日10kgあげます。でも、汚染飼料だけだったら、草だけになってしまい栄養が足りないので、さらに25kgは栄養分が入っている餌が必要だということです。35kg全部を汚染飼料で与えるわけにはいかない。汚染飼料は10kgしかあげなかったということです。さらに2週間経つと、汚染されてない餌を1日35kgあげます。
    • 結果ですけれども、汚染飼料を与えるとミルクの中のセシウムが著しく上昇しました。でも、汚染飼料を止めて、非汚染飼料だけをあげると、すぐ下がってしまうんですね。
    • ここで気を付けていただきたいのは、開始時は、対照群のほうが少しだけ値が高いという現象が起きていたことです。開始時にはこれ以上は下がらなかったのです。多分これは、先ほど渡辺さんがおっしゃったように、普通も下がらないということでしょう。他は、食べたものはミルクで出すだけじゃなくて、他の臓器とか筋肉にも入ってしまうので。それは出すのに時間がもっと時間かかるという理由だと思います。
渡辺

これはミルクで測ったものですか。

そうですね、ミルク中の濃度です。処置群は非汚染飼料を食べたら下がるのですが、対照群は、当初よりもっと下がってしまったのです。一つ考えられるのは空気中のセシウム濃度が下がったのではないかということ。当初は空気中のものは多少残っていた、そこからどんどん測れなくなってしまったので、このぐらい落ち着いているんだろうと、今は、そういう結論になっています。

参加者

移行率、体外排泄というところについて、今まであまりデータがなかったところを今回新しく出ましたという解釈でよろしいでしょうか。

チェルノブイリのはあったんですよ。彼らの実験はこういうきれいなデータじゃなくて、我々のようにきれいに計画したデータがなく、汚染飼料の汚染濃度が全然違います。濃度が高いから移行係数が高いのではと思いましたが、この結果を踏まえて計算してみたら、移行率はそれほど変わらないという結論でした。10数%まで上がったというのが計算で出ています。

    • チェルノブイリの実験と比較しながら、実際。当時はこういうことの比較対象はそれしかありませんでしたので。これはミルク中のセシウム濃度ですけども、縦軸が1kg当たりのベクレル数で、40Bq/kgまでメモリがあります。処置群ではその40Bq/kg近くまで上がってしまった。ですけれども、当時の国の暫定規制値というのがありまして、牛乳、乳製品は200Bq/kgまではOKでした。
    • しばらくして基準は50Bq/kgまで下がり、厳しくなりました。しかし、わざわざ汚染飼料を与えても、40Bq/kgまでしか上がらなかったということで、さらに止めてしまったら全部排出されたわけです。先ほど申し上げたとおり空気中のものは避けられないのですけれども、飼料と水だけコントロールすれば、実際ミルクはすごくコントロールしやすいものではないかと思います。国の基準は50Bq/kg。これは世界でもまれな基準です。世界的には大体500Bq/kgですけれども。ですから、ミルク飲んでいただくのにはそれほど心配は要らないということもわれわれは考えているわけです。
参加者

今出てきたミルクの中のセシウム量は、日本全体がそうであると考えられるのですか。

それについては調べていません。濃厚飼料と粗飼料は日本はほとんど今輸入しています。実は東大牧場が特殊で、敷地がいっぱいあるので、牧草を自分たちで作って与えていました。その意味では、我々は一番良くない状況でやってたかなと、思っています。

参加者

移行率が10数%ですが、では汚染されている牧草の汚染度が事前に分かっていれば、ある程度生産時にコントロールができるんじゃないかということになりますよね。

できます。

    • ここで豚の生産の説明をしますね。養豚場に入るのは1つの国に行くよりもっと難しいんです。なぜなら、豚は1部屋で大体何千とか何万頭飼育していて、1頭が風邪ひいてしまったら全部風邪ひいてしまったりするので、誰でも入ってほしくないわけですね。それでなかなか豚舎に入れないのです。
    • 東大牧場は10数年前から最近まで豚の生産をやめていた時期がありました。豚って生産が大変なんですよ。これは分娩舎です。産後、お母さんが横になった時子供が圧死することがよくあるので、そうならない工夫をしています。このように、壁の両側から逃げられるようになっています。赤ちゃんの豚って温度調節能力がすごく低いんです。32度以下だったら育てられないとか、そういうことがありまして、必ず温かいマットとランプをつけています。さらに離乳してからも部屋の中にいます。部屋から出しません。この写真はアメリカの有名な豚肉生産会社の養豚場ですが、ここも養豚場、分娩舎、赤ちゃん育児舎、これは肥育豚舎があって、庭は使ってない。豚は思ったより部屋の中で生まれて、ずっと部屋の中で過ごせるんですね。
    • 餌も屋内で生産されています。汽車で運んでトウモロコシ(アメリカの例)とかこういうタンクに積み込んでいますね。豚は生まれてから成長して出荷されるまで、その都度餌の配合内容を変えますが、そのミックスも屋内の機械でされます。大学の飼料を生産する会社、施設では大体コンピューターで調整して、組み合わせしたりするので、外と結び付くことがないです。で、できた餌もコンテナの中に入れて運ぶんですね。10kgか20㎏の袋に入れてもらったりして。養豚場の中でも、飼料タンクに入れてもらった後はパイプラインを通して餌は移動する。豚はずっと部屋の中で生まれて育ちますし、餌もこうやって中で作っています。

救出から研究へ

      • 2011年6月ある日の深夜、牧場長から電話があり、10数年使っていない、豚を飼育する設備を調べてくれないか言うのです。当時の民主党の城島先生と、元牧場長、農学部の林先生から連絡があり、汚染されたこの地域の家畜のと殺が始まって、とても見ていられない、何とかしてあげたいということで、豚を救済して飼育できるところがあればという話になって、電話がかかってきたそうです。豚舎は多少傷んでいるものの、翌日現場の技術職員に聞いたら、お金さえあれば給水器もすぐ直せるようでした。
      • ですから、当時は研究するということより、とにかく命を救出しましょうという目的だったんですね。でも、肝心なのは飼育する人で、もともと豚を担当していた方たちは既にリタイアされてしまって誰もいません。幸いに僕は大学と修士の卒論は豚でした。また、中国で養豚学を教えていました。それで何とか力を貸してくれるように他のスタッフも説得して受け入れることになり、福島から豚26頭を救済する運びになりました。
牧草の説明をする李さん

積み上げられた牧草について説明する李さん

    • 豚たちのいたところは福島第一原子力発電所から約17キロ離れたところです。そこに養豚農家があって、そこから救済しました。当時現場の線量は1.9〜3.8mSvでした。餌代とかをどうするんだということになり、中央競馬会に研究補助金の申請をしました。それから研究へ踏み切ることになったんですね。
    • 研究の目的として、引き続き畜産利用をしていくためということを挙げました。ある程度の距離を置いた地域で、適正に保管された飼料で、屋内で飼育されていること等を確認されている家畜についてはその食肉が食品衛生法の算定基準値——当時は500Bq/kgだったんですが——、これを超過しない、許可されうる畜産物としての利用についてです。
    • 研究内容については当時は全く手探りでした。豚の研究の主体となる生化学検査のための血液を採って健康状態など調べ、繁殖学、そして動物行動学から調べることになりました。健康状態に異常がないという前提で、それを確認するためでしたから、こちらに来て普通に育てて正常に動いて、それでいいだろうという予想でした。
    • 実際、この豚たちは、低いレベルで被ばくしているというのが前提だったんですね。低線量被ばくとは、線量が年間100〜200mSvの場合についてを指します。現地でサーベイメーターを用いて測ると、豚舎辺りは1,000cpmでした。事故から107日間そこにいた値に換算すると、被ばく量は21mSvになります。つまり想定レベルより、はるかに低線量だったということです。
    • 後から気付いたんですけども、豚を救済して研究したのは日本が初めてだったんです。世界中になかったんです。ですから、すごく不幸な状況でこういう運びになってしまったのですが、大事な研究材料をいただいたと思います。
    • 2011年6月28日に救出した26頭、オスは10頭、平均年齢3.7歳で、メスは16頭、平均年齢4.8歳でした。どうしてこの26頭になったのか、直接この養豚会社の社長に聞いたことがありました。豚は小屋にずっと住んでいるため、出たがらなくてなかなか出すのに難儀したそうです。そこで、入り口から近いほう、出てきたブタから出していくしかなかった、品種とか年齢とか性別は全く計画していなく、ランダムだったのだそうです。
    • さて、救出後その年の9月26〜27日、順調に育って体重も大体回復したことを確認しました。次は、繁殖して子どもを育てるのが普通だろうということで、繁殖を始めました。ありがたいことは、今もその当時の豚が生きているんですが、この豚が最初に交配して、初めて子どもを産んだんです。これが分娩後の写真、1月19日です。当時は分娩舎がないから空けてもらったヤギ舎で分娩しました。さらに、急きょ現場の人にお願いして、赤ちゃんのための温度を保てるような箱を作ってもらいました。
    • 分娩室には保温室がなく環境温度が低くて、体温が下がるという心配はありましたが、体重測定などこまめに面倒を見て、正常に育っているか観察していきました。実際、このうちの4頭がまだ生きてるんです。子どもたちのことについて調べるなど、いろいろ後手になりはしましたが、やるべきことがあって、ここから4頭残して今飼育しています。また、後日元オーナーの社長のご厚意により、2頭目からのお産はちゃんときれいな分娩舎を与えることができ、そこで分娩させることができました。
    • 繁殖の時期から話は戻りますが、8月30日と9月22日、実はこの時期から元気な豚以外に、後ろの脚が立てない豚が続々と出てきました。我々は驚きました。そこでよそから豚専門の獣医さんを呼びましたが、彼らも打つ手がないということだったので、そのまま飼育せざるを得ませんでした。その中で、若い1歳ちょっとの立派な豚がいました。それで急きょ、地面のある小屋に変えて、カラス除けの網も設置するなど飼育環境を整えました。餌や水の与え方も工夫していました。ですが、この豚は、次の年のお正月に亡くなってしまいました。
    • 初めこの研究は観察研究という位置付けでした。観察とはつまりコントロールしたり、対照群というものがありません。必ずしも今回の結果は放射線の被ばくと結び付けるのは難しいということです。ただし、否定はできないところもあります。ミルクの実験と違って、当初は低レベル被ばくが前提だったので豚については最初目的がありませんでした。調子の悪い豚が出てから、これを調べることになりました。ただ、実際当時は慌ててやってしまったので、計画ができるまでちょっと不十分なところがありました。ミルクの実験自体も、肉も臓器も調べておけばよかったなと後から後悔したところがあります。でも、後からわかることも多くて、当時はそういうことしかできなかったのが事実でした。
    • また、低線量被ばくの前提だったのにばたばた死んでしまった、でも因果関係もわからない、獣医さんを呼んでも治せない。さっきのミルクの中では大体2週間たてばセシウム濃度も下がってきたんですけれども、こういう経緯があったので、当初の計画にはありませんでしたが筋肉とか臓器中でどのぐらい移行するのか調べてみようとなりました。
    • まずはよくいわれる放射線の影響として、精巣か卵巣を、また、おおよその大きな臓器を採って、筋肉は大腰筋、つまりヒレを採取しました。大腰筋はお腹の中にあるので、たどり着くとすれば最後になる筋肉だと思います。可能であれば尿も採りました。
    • すると、案外体内に残ってたんです。2011年9月9日と29日に2頭連続で死んだ豚です。東大牧場に運んできたのが6月28日だったので3カ月後のことです。事故からはちょうど半年以上たっていました。事故から6月に移動させるまでに食べた餌は輸入餌だったとおっしゃっているので、多分汚染されてない餌だろうと推測されていました。こちらに来てからは、汚染されていない餌に間違いないです。それを3カ月以上食べて、水もクリーンな状態でした。
    • 先ほどのミルクの結果のように、空気中の放射性物質についてはもうこの時期だったらほとんど飛ばなくなってしまったので、それも考えられない、でも肉からは1kg当たり400ベクレルの濃度で検出されたというのが事実でした。ですから。当初は普通の飼育や繁殖で終わると思ったことが、まだやることがあるとわかりまして、色々と研究アイディアを出そうということになりました。

土との接し方の違いが影響?

      ところで、この後、繁殖も行ったので赤ちゃんが生まれましたね。ただし、赤ちゃんは育てても、豚肉として出荷してはいけないという契約でした。観察後淘汰するのも我々の役目でしたので、今度はと殺後にこの赤ちゃんの臓器なども調べることにしました。我々のイメージでは、赤ちゃんは東京大学の牧場に来て生まれたので、体内には残っていないと考えていましたが、実際は違っていました。それは何でだろうというのが、牧場の土が原因じゃないかということです。豚たちが掘って遊んでいた時にミミズや芝などと一緒に食べたかもしれない東大牧場の土は、汚染されていたと分かっています。それで赤ちゃん豚の体内に放射性物質が残ってしまって、きれいな餌を食べたにもかかわらずある程度濃度があったということが分かってきました。
参加者

赤ちゃん豚は牧場の土を食べて内部汚染されて死んだっていうことですよね。

赤ちゃん豚については、観察実験が終わって、また契約上食料にもできないのでと殺したということです。

参加者

先ほどの大きな豚がなぜ死んだかは内部汚染でしょうか。確定できないのですか。

コントロールがありませんので、内部汚染かどうかはわかりません。分かったのは、内部にはまだ残っていたということだけなんです。今もまだ残っている豚も結構いるということです。ただ、影響がないと言い切れないところが苦しいですけども。

    • これは解剖した豚の、体内濃度の時系列変化にです。2011年9月、そして翌年の1月、8月に我々は臓器などを採取し、線量濃度を測りましたが、時間がたつにつれてどんどん低くなっていったのがわかりますね。多少の個体差は見られますが、このように1年たてば体内に残っていたものもきれいに排出されると、我々の研究からわかりました。
参加者

それから、牛や豚の臓器別のセシウムの強さについて、筋肉が若干他と比べて高いような傾向があるかなと思ったんですけど、セシウムって何か別のものの代わりにたまるとか、そういうようなことがあるんですか。

セシウムが実際どの化合物と結合するか、何かセシウム自体が影響があるかは調べていませんので分かりません。普通は濃度差で血液の中に入って排出されるんじゃないかと思うんですね。とにかく体内に入ったら、排出までに1年かかると今回の研究からわかりましたので、それは自信を持って言えます。

      • ところで、別件で当時、南相馬市の家畜保健所から連絡があってわれわれの救済した農家からもうちょっと南のほうで牛と豚から採材したいんですけど、東大牧場いかがですかっていうオファーがありました。ここは救済した養豚農家よりは汚染度が高い地域でした。そこで、牛の胎児から豚にいたるまでサンプルを採りました。ただしこの家畜たちは、例えば牛は放牧状態だったか、それとも屋内、フェンスの中で飼育したか、全くデータがありません。妊娠している牛もいまして、これについては胎盤と羊水が他の臓器よりすごく高くなっていることがわかりました。
      • 豚もどういった飼育環境から連れてきたか不明でした。そのサンプルは、2011年9月当時のものですが3頭、体内に4,500Bq/kgあります。同様に9月に2頭、東大で測定したサンプルは1kg当たり400Bq/kgでした。それより10倍ぐらい高く体に残っていることが分かりました。一番高いところは筋肉、ヒレでした。
いろいろな質問が次々と

いろいろな質問が次々と

    • そこで、東大牧場の土壌や牧草の濃度も調べました。また、それを相馬市の牧草地と比べますと東大の20倍以上ぐらい高くなったということがこれで分かりました。特に森の中はとんでもない濃度になってるんですね。牧草地はそれと比べると低いです。
    • 相馬市の牛と豚でも比較しました。大腰筋など、豚のほうがはるかに牛より高い濃度です。豚はよく土を掘って食べたりするので、それの影響ではないかと思われます。また、牛の汚染濃度がかなり低かったんです。1,000Bq/kg以下ということは、汚染された草をそれほど食べていないということだと思われます。放牧地自体が汚染されている一方で、牛はそれほど汚染されてないことっていうのが分かりましたので、放牧はされていなかったと思われます。
    • 馬も放牧しています。でも、牧草地が汚染されているにもかかわらず牛より馬のほうが低かったのです。牛と馬だと、見る光景が違うと思います。馬はいつも餌を食べているんです。牛は食べているときもあれば、休むときや反芻するときもあります。おおよそ8時間食べて8時間寝たり、8時間は反芻しています。
    • 一方馬はずっと食べますが、長い草は食べずに芽生えたばかり小さい草を食べています。馬は上下歯があって歯でちぎって食べるので、細かい草しか食べないんですね。つまり彼らが新しい草を常に食べているので汚染濃度が牛やヤギに比べて低くなってるんですね。草には多分セシウムが入ってこないんだろうという大きな根拠はもう1つあるんですね。牛はベロで巻き上げて食べますのである程度高さが必要で小さい草は食べられないんです。要は新しく伸びた草ワオ食べたか、それとも原発事故当時に伸びていた草を食べたかの違いではないかと思います。草の成長には、セシウムがそれほど吸収しないことが最近の研究でわかっています。
参加者

李さんは、中国の方ですが、中国は原爆も原発もあるから、放射能は出ますよね。

そうなんですよね。われわれの豚救出当初の気持ちと全く同じで、向こうは全く知識と、万が一の原発事故から守るという意識を持っていないんです。全く知らないし、知ろうともしない。でも、講義には学生がいっぱい来て、質問は鋭いですよ。

参加者

セシウムで測定しているそうですが、他の核種も同様な動きと考えていいでしょうか。

実際一番スポットすべきはヨウ素じゃないかと思うんですね。ヨウ素はβ線を出しているんですけども、半減期が短く、飛んでしまうというのがあります。実際なぜ救出した豚たちは汚染されたのか。牧場に来る前も地下水と汚染されてない餌を食べてるわけですよ。でも彼らの体に残っているというのはなぜか。移送してから半年も体に残っていたということは、すでに申し上げたように、これは空気しか考えられないですよね。

      • セシウム137、これは高崎で観測されたものですね。これは国の機関で、世界中の汚染濃度を、事故がなくても、24時間体制で測定している機関から発表されたデータです。当時は福島から高崎まで飛んでくるのに時間が多少かかったと思うんですけど、セシウム濃度はこれなのに、ヨウ素はここ。ヨウ素は半減期短いからこのぐらいの能力、エネルギーを一度に出してしまうんですね。何ミリという単位ですが組織の中に入ってしまったらこっちのほうが怖いので。ヨウ素のほうもわれわれは引き続きやらせていただいています。
このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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