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Report of the 32th Science Café “Agricultural products from Fukushima;Current Status and issues”

掲載日:2018.04.05

話題提供者の二瓶さん

話題提供者の二瓶さん

2018年1月16日(火)食の安全研究センター第32回サイエンスカフェ「聞いてみよう!福島県産農産物のいま〜現状と課題〜」が開催されました。東京大学大学院農学生命科学研究科附属アイソトープ農学教育研究施設 准教授 二瓶直登さんより、東日本大震災から7年を経ようとする福島県の農業や農林水産物の現状と今後の課題について、研究での成果も交えて話題提供し、私たちが忘れてはいけない生産者や帰還者の方たちの視点、消費者の立場からの考え方等について、活発な質疑応答と有意義な意見交換が進められました。



○第32回サイエンスカフェ配布資料(pdf)
(クリックすると開きます)
※以下、記載がない場合の発言は二瓶氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

震災後、そして今

    福島県いわき出身の私は県職員として15年務め、その間に社会人ドクターとして本学で有機農業の有益性等についての研究に携わり、その中で栄養分が植物にどう入っていくかをアイソトープを使ってトレースする実験等を行い、その研究で学位を取得しました。震災のあった2011年6月から県庁に異動し、福島県として県産農産物の安全性を確認するモニタリング検査の取りまとめやコメの全量全袋検査システムの立ち上げに携わってきました。

    • 今日のテーマでは、どうしても放射能についての単位が関わってきますので、始めにおさらいします。ベクレル(Bq)は物理量です。重さのkgと同様に、10kgのものはどこにあっても同じ10kgの量があるわけです。1秒間にその放射性物質が壊れて放射線が出る数です。その量が多ければ濃度が高い。シーベルト(Sv)は、例えば先ほどの10kgのものがあって、それを僕が持つのと小さな子どもが持つのでは重さの感じ方が違います。また光で言えば例えば同じ1本の懐中電灯があって、その光を遠くで見るのと近くで見るのでは、まぶしいと感じる度合いが違う。近いほうが当然まぶしいと感じますね。シーベルトは、光、放射線を出すものから僕が感じる、受ける被ばく量です。ある放射性物質が近くにあれば、受け取る放射線の量が多くなりますのでシーベルトが高くなります。同じベクレルの物質でも遠くにあれば被ばくする量が少なくなりますのでシーベルトは低くなります。
渡辺

グレイ(Gy)という単位を聞いたことがありますが。

二瓶

本来はグレイが正しいのですが、そこに今は空間線量を加味してシーベルトのほうを使っています。同じようなものと考えてください。

    • 7年前に東日本大震災があり、津波が原子力発電所に押し寄せました。本来は燃料を冷やし続けるための水を回す電力が必要なのですが、津波で電源が回らなくなり原発が爆発して放射性物質が拡散しました。原発から、何もなければ放射性物質は同心円状に広がっていくのですが、たまたま爆発のあった2011年3月15日、16日の風が北西方向だったため、北西方向に放射性物質が広がって、放射性物質による汚染がひどくなってしまったんです。(スライド2)
    • 当時はそんなことがわからず、例えば飯館村は原発から離れているということで、双葉町や大熊町から避難してくる人たちを避難先として受け入れていたんです。そして炊き出しなどをしているときに雪が降っていたという記憶がありますが、実はその雪が放射性物質を高い濃度で含んだ雪だった、それで被ばくしたという話もあります。それだけに情報というものはとても大切で、今後もSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の有効活用が必要だと思っています。これも事故後時間が経ってからわかったから言えるのですが、当時はそんな分布などもわからず、私自身も無我夢中で県で仕事をしていました。
渡辺

基本的なことですが、そもそも放射線が出た理由は原発の建物が壊れたからですか。

二瓶

壊さないために、予備的に逃がしたんです。原子炉を包んでいるものがあって、温度が上がって水蒸気がたまりそのままにしていると施設を囲っているものが爆発してしまう。そうすると、それこそ大変なことになるので、水蒸気を窓のようなところからベントというのですが、外に逃がして圧を下げた。それが主な原因と言われています。福島第一原子力発電所は1〜4号機まであって、2号機から一番出ていると言われていますが、その原因はベントということです。1,3号機の爆発もありますが、一番大きいのは2号機のベントで、それによっていまの状況があるということです。

    • 風向きが違って、仮に東京のほうに流れていたら一斉避難ということになったかというのは、人の移動の数が格段に多いので何とも言えませんが。福島も県庁を移動するかという検討もしたらしいのですが、50km圏まで避難を出すと16万人という規模の人の移動になるので出さなかったという話も、真偽は定かではないですがあるぐらいです。東京へ直接来ていたらどこまで出すかは難しい話だと思います。

放出された放射性核種

    原発から出た放射性物質はいろいろあります。ここには放射線を出すものを書いています(スライド3)。キセノン、ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プロトニウム。その中で、放出量と半減期から見て、今福島県で問題となっているのはセシウムだと考えていいかと思います。事故当初はヨウ素もありましたが、半減期が8日と短く、1か月もするとかなり少なくなるので、これからのことを考えるとやはりセシウムが中心になると思います。
渡辺

セシウムというのは、どれでも絶対に放射線を出すわけではないんですか。

二瓶

安定のセシウムもあります。それこそ土にでもどこにでもありまして、土壌の中にも量ればセシウム133というのがあります。133という数字は原子量なんですが、133という安定したセシウムがあって、130とか137というのが放射性のものです。セシウムという元素は一緒なんですけれども、プラスの重さがちょっと違うんですね。重いのは不安定なので、こういうのは分解して放射線を出して安定になろうとします。

参加者

それは自然界に自然に存在しているんですか。そういう不安定なものが。

二瓶

あります。後ほど出てきますが、今、この場でも計算によるとわれわれは大体1秒間に40回ぐらい自分の体を放射線が通っています。そういう自然の放射線があります。このコーヒーも放射線出しています。人も出しています。もともとあるんですが、量が問題で、原発のほうで今問題にしているセシウム、これは人工のものです。

参加者

セシウムだけですか。ストロンチウムとかプルトニウムは全然関係ないんですか。

二瓶

全然関係なくはないんですけども、まずは量の問題ですね。セシウムがめちゃめちゃ量が多いということと、もう1つはぶっちゃけて言うと、測定の仕方がすごく簡単なんです。ストロンチウムはすごく面倒くさくて、1カ月ぐらいかけて測らないといけない。セシウムは、機械に入れておけば30分ぐらいで測れちゃうものなんで、これを見ておけばほかのものもカバーするでしょう。セシウムが多いところはストロンチウムなども多いから、セシウムの多い少ないで確認できるでしょうというのが今のところの判断ということです。

参加者

セシウムが一番体に悪いとか、そういうことじゃないんですか。

二瓶

そんなことはなくて、同じ量あればストロンチウムのほうが実は体にたまります。骨にたまっちゃうんですね。同じ量があれば、ですが。でも、その量が相当少ないので、いいでしょうと。それよりもセシウムが量があるから、これを確認しましょうという感じです。

福島各地の空間線量

    福島の故郷のことを話しておきます。これは、当時の空間線量です(スライド4)。上段が事故当時の空間線量。1時間当たりのマイクロシーベルト(μSv)、被ばく量。1時間当たりどれぐらい被ばくするかの量ですね。下段が2017年9月段階の同じ地域の空間線量です。

    • これだけ下がったということを言いたいんですが。一番高かった飯館村というところは26.7μSv。シーベルトの前にマイクロが付くんで、10のマイナス6乗なんですが、それを1時間当たり被ばくする感じでした。それが今、除染と6年という時間の経過で0.28まで減りましたということです。
    • 東京は事故当時は0.15まで上がりましたが、現在は0.04。カッコの中の0.03というのは事故前の東京の平均値で、今はこのぐらいまで減っています。飯館も減りましたが、他のところも大体減ってきているというところです。
参加者

これは3月の何日ですか。3月末ですか。

二瓶

末ですね。場所によって測った日が違いますが、3月中に順次測ったものです。飯館も、これは役場のデータなんですけど、長泥という今でも帰れないところは1桁高い。200いくつという数字です。この数字は役場があるところで出しています。

    • 避難者数は、福島県からの避難指示は最大で16万人に出ました(スライド5)。7年たった現在でも5万3,000人がまだ避難指示で帰れないという状況が続いています。東京にいると、福島の話題はなかなか出ないと思いますが、現実として空間線量が高いから帰っちゃ駄目という避難指示が続いていて、帰れない人がこれだけいることを認識してほしくて、話題にしました。

表土剥ぎ、反転耕、カリウム施肥…

    福島県は農業県なので農作物を作っていかなければなりません。ただ、土壌が汚染されているのでさまざまな対策が取られています。3つご紹介します。最初の2つは物理的な低減対策、手法です。

    • 1つは反転耕というものです(スライド6)。これは、土壌の表層にセシウムがあって下のほうがきれいなので、きれいなのを上に持ってきて、上の土は下に混ぜちゃおうという方法です。プラウ耕という大きな機械で、30cmぐらい上と下をひっくり返します。反転耕、もしくは天地耕、天地返しといった言葉でいいますが、表層を下にすき込んで下のきれいなのを上に持ち込んで、その上で農作物を作れば汚染しないでしょうというやり方です。これが福島県の圃場では最もよく行われていて、面積の割合としては一番とられている手法になっています。ただ、放射性物質を根本的に取り除いていはないので、ちょっと気持ち悪いとは思うんですが。
    • さらに直接的に取り除く表土剥ぎ取りという方法もあります(スライド7、8)。表層約5センチを本当に剥ぎ取って、フレコンバッグに詰めて圃場から取り除くんです。ただ、袋に入れたものが、計算すると東京ドーム1杯分ぐらい積みあがるほど土のゴミが出て、この処理が大問題になっています。それで福島県全域ではできていないんです。一応制限がかかっていて、土壌に5,000ベクレル以上ある圃場はこれをやりましょう。5,000ベクレル以下であれば、先ほどの天地返しで、それでセシウムは吸わないから大丈夫でしょうということで、土壌のセシウムの濃度で物理的な対策は分けられています。
参加者

5センチ剥がしたとして、その下の土は農業に適しているんですか。

二瓶

すごくいい質問だと思います。基本的には適していないです。圃場の表面15cmを作土層といいますが、そこは農家がたい肥を入れて、いろいろ作るんです。その3分の1を取っちゃうので生産性は落ちると考えられています。ただ、化学肥料をちゃんとやれば補えるというデータも出ていますし、時間をかけてたい肥やソルガム、トウモロコシみたいなのものを作って、すき込んで、新たに土を作っていくことが、これから農業復興の1つの課題になると思いますね。

参加者

剥ぎ取った土の部分は黒ボク土というのでしたか、火山灰が土になって粘土状になっているものがセシウムをつかまえているというふうに聞いているんですが。

二瓶

雲母の話ですね。粘土やいろんな種類、タイプの土壌があって、その中の1つの雲母というのがあるとセシウムをすごく吸着してくれるんですね。なので、それがある地域は土壌の割にはそこで作った作物はあまりセシウムは吸わないし、逆にそういう土、粘土がない痩せた土地、山土のようなところだと土壌の割には作物に上がっちゃうと言われています。

    • 例えば飯館村は、その雲母が比較的あるところなので、汚染の濃度は高いんですけれども、そこで作ったものは案外100を超える高いものは出てこないということもあります。逆のところもたしかにあって、それがひとつ問題なんですよね。ホットスポットじゃないですけれども、気を許して作ってたら、あららということがたまにあって、調べたら土壌の性質とかがあるようです。それらも私の研究の1つにはなってきていて、どういうところが高いか、低いかというのは明らかにしていきたいところです。
参加者

福島と言えば、モモなど果樹も多いと思うんですけど、果樹の場合、一度全部木を抜いてこういう作業をやらないと出荷できないとか、そういうこともあるんですか。

二瓶

果樹は事故後、2011年に行われてきたのは木を洗うことです。水で洗い流しました。木に付いているのを洗い流したり、木の皮を剥いたりしました。皮を剥いて、セシウムが入らないように除染をしました。

    • よほど高いところは、おっしゃったように果樹を切って植え替えるんですが、それはすごく時間がかかるし、もともと果樹農家は木の植え替えというのを計画的にやっているらしいんですね。だから、僕が見た限り、あまり濃度が高くないところは積極的に改植はしていないと思います。それよりも、皮をはいだり、水で洗ったり、この後に出てくるカリウム施肥をして科学的に抑えたりする対策を取っています。
    • 反転耕と表土剥ぎは物理的で、こういう表層5cmでいいのかと心配になると思うんですが、実は大体大丈夫だというのがこの写真です。これは、2016年の飯館の山の中のキノコを土も含めて採ってきて、きれいに包丁で切って断面を出しました。キノコの切れた半分と、土の切れた半分です。(スライド8)
    • そこに、イメージングプレートといって、放射性物質がどこにあるかわかるというシートを当てます。エックス線のフィルムみたいなものです。赤く光ったところが放射線があるところを示しています。すると、事故後5年の2016年のデータで、スケールバーがないですが、表層の2〜3cmにとどまっているんですね。これがセシウムの1つの大きな特徴で、先ほどの雲母もそうですが、セシウムは土壌の中ですごく移動しにくい、固定しやすいとわれわれは表現するんですが、固定しやすい元素なんです。
    • 例えば先ほどのストロンチウムとか、カルシウムであったらば、雨とともに流れて、それこそ地下水汚染の心配をしないといけないんですが、セシウムはすごく土に吸着しやすい特徴があるので、5cm取っておけば80%以上は取れるという計算になっています。今、福島県では表層5cmが1つの基準になって進められています
参加者

5cm基準は世界に通用する考え方ですか。

二瓶

多分これをやったのは日本が世界で初めてです。除染というのは、チェルノブイリの時もやってないんです。ですが、普通に考えれば5cmと考えていいかと思います。世界でも、今後はこういうことが基準になっていくかと思います。

    • 低減対策のもう1つは化学的な手法です。カリウム施肥ということが行われています(スライド9)。データは横軸が土壌中のカリウム濃度です。土壌中にどれぐらいカリウムがあるかを示し、縦軸がそこで作った玄米のセシウム濃度。作った作物のセシウムがどのぐらいになっているかです。
    • 横軸が多くなるほどセシウムが減っているのが分かりますよね。実は土壌のセシウムはばらばらですが、傾向として、土壌にあるセシウムよりも土壌にあるカリウム濃度のほうが効いていて、カリウムが多ければセシウムが減る。カリウムが少なければセシウムをよく吸う。
    • それで、福島県ではカリウムを与えてくださいと、特に水田に対してはちゃんと撒くように徹底されていて、そのための補助金が出ています。この25という数字があるんですが、土壌100g当たり25mg以上になるようにちゃんと撒いてくださいということで、大体20億円ぐらいかけて補助を出しています。それは全部東京電力に請求して、東京電力から払ってもらっているというのが現状です。だから、カリウム施肥をやってくださいと。
参加者

100g当たり何mgですか。

二瓶

:100gあたり25mgですね。これは土壌にある総量ではなくて、植物が吸える量を25mgということです。化学的には酢酸アンモニウムとして抽出するんですが、土壌を入れて、酢酸アンモニウムを入れて抽出して、そこに出てくる分が植物が吸える量とされているので、それが25mgになるというのが基本です。

質問しやすい雰囲気で対話がはずみます

質問しやすい雰囲気で対話がはずみます

参加者

植物の種類によってはいっぱい入れなきゃいけないもの、少なくてはいけないものというのもあるということですよね。

二瓶

あります。高いところでダイズは50です。基本は20。ダイズも基本25でいいんですけど、比較的高く出ちゃうんで、50まではやりましょうと言っています。ソバも25で確か切っていたと思います。作物によって必要なカリウムの量は違うので、本当は個別にやるはずですが、あまり細かくはやっていなくて、ダイズとコメとソバくらいが今は決まっているところです。

    • もともと野菜はすごく肥料をやるんですよね。普通水田を作るのには10a当たり10kgというの
      がカリウムの基本なんですが、野菜はもともと30kg、40kgやるのでもう多分飽和していますので、あまり気にしなくていいと思うんです。
参加者

植物はセシウムを体に取り込むんですか。

二瓶

取り込みます。なんで取り込むかも、後で説明させてもらいます。

作物が実ったその後に 検査体制について

    天地返しとか、表土剥ぎとか、カリウム施肥をして、万全の対策を取って農作物を作りました。では、本当に大丈夫かというと、不安なので、できたものが安全かどうかを測りましょう、というのが、これから検査の話になります。(スライド10)

    • 福島県では、1回だけじゃなくいろいろなところでチェックをしています。一番メインなのはプロである農家が作ったものを出荷する前に、作った農家がこれを出荷していいかどうかをチェックするのがモニタリング検査です。私が県でやっていたのは、一番基本になるこの試験です。これをパスしてようやくちゃんとスーパーとかで売られますが、その売られているものを覆面というか、検査と言わないで、知らん顔して買ってきて、それを研究室に持って帰って、本当にそれが基準値を超えてないかを調べる流通食品の検査もあります。
    • ほかに、数として、家庭菜園で自分の庭とかベランダで作ったものが安全かどうかも不安だし、県庁にいるとそういう問い合わせもあります。ただ、そこまで県が体制として安全性を確認することはできないので、自分でそれを測ってくださいということで、各公民館に放射性物質を測れる機械が置いてあります。約500台置いてあって、そこへ持っていけば、自分が作ったものが安全かどうか確認できるというような検査もされています。
    • コメの検査とコメ以外の検査で分けて話します。トマトとか野菜とか、果物とか、畜産物、水産物も入りますが、これは抽出検査をしています(スライド12)。全てのものを測るのではなく、例えば区分けは市町村ごとでして、市町村ごとに、モモならモモを、全てではなく、サンプル抽出します。基本的には1市町村1品目3点を抽出してきて、それを測ります。基準値の100Bqというものがありますが、1kg当たり100Bq入っているかどうかを検査して、入っていなければ市町村全体のモモが出荷していいですよというのがモニタリングです。
    • 抽出した検査の中で1つでも100を超えるものがあったら、この3つが出荷できないんじゃなくて、この村のモモ全体が出荷ができなくなるという体制が取られています。これが実際の検査方法です。抽出してきたものを細かく刻んで溶液に入れて、ゲルマニウム半導体検出器という装置で測ります。装置ではこの上にものを置きます。(スライド13)
    • ゲルマニウム半導体検出器での検査はすごくシビアにやっていまして、私がいた職場の福島県の農業試験場でやっているんですが、1つ1つ全部が使い捨てです。洗いません。包丁も容器もプレートも洗わないで使い捨てです。というのは、万が一前のものが原因で汚染していて、洗った後のものに放射性物質が出てしまったら、それが出荷停止になってしまう。国が出荷停止しなさい、ものを出すなということなので、賠償になるんですね。先ほどの例で言えばその市町村のモモが全部出せないので、その市町村は国に賠償が請求できるんです。お金の話になってくるので、ものすごくシビアです。それで、用具は全部使い捨てです。ナイフも包丁ではなくて、普通のカッターの刃だけを、刃を持って切っています。
    • 私も手伝いに行きました。普段料理なんか全くしないので、手を傷をつけ、絆創膏を巻いていた時もありました。測定には20〜30分かかるので1個に大体60分ぐらいかけてやっています。
参加者

それはセシウムの検査なんですか。

二瓶

セシウムです。

コメの全量全袋検査とは

    コメはモモや野菜などと違い、全部を検査します(スライド14)。福島県のコメは1年間に約36万t生産します。事故前で全国第4位、事故後は第7位になっていますが、メインの作物です。おコメの検査は、玄米を流通する時に30kg袋に入れますが、それが年間約1,200万袋できます。これを全て検査しているのがコメの特徴です。野菜などは抽出したものを測るだけでしたが、コメは全て測るというのが野菜などとの大きな違いです。全量全袋検査といっています。(スライド15)

    • 問題は、先ほどの切って、入れて、測ってでは60分かかるということ。1,200万袋やると計算で5年もかかってしまって全然お話にならない。福島県では新しい検査機器を作ってもらっていました。ベルトコンベア式の機械にものを乗せて、そこを20〜30秒ものが流れる間に機器で測って、出荷していいかどうか、〇か×かが出て出荷されるというものです。(スライド16)
    • 私が県庁にいる時に、この20〜30秒で測れる機械の製作を提案しました。いくつかの会社にお願いしたところ、日本の会社4社、アメリカの会社1社ができますよということで作ってくれて、福島県では約200台この検査機器が動いています。(動画で機器の動きを紹介)空気で袋を運ぶこういう機械はもともとありましたね。袋をこれで運んで機器に乗せて、流れている間に測っています。検出器がありますので、20秒間測った時に合格ならば、「検査しました」というシールが貼られて出荷されます。
    • 機器で計測するときは、まずバーコードでこのコメの情報を読み込みます。誰々さんの何番目のコメというのがこれで分かります。そういう個別シールが事前に貼られています。機器で測って、これで出荷できますとなったら、検査しましたというシールがまた貼られます。なので、福島県の玄米は2 枚のシールが貼られています
    • この検査機の本体だけの価格が2,000万、この両腕のコンベアの機械が400万、2,400万の機械が200台入っています。立ち上げの時はいろいろ苦労がありました。例えば、くず米ってご存じですかね。全部検査するので、コメの場合1.8 〜 1.9の網でふるってその上のを売るんですけど、網から落ちたのも当然ある。自家用になるんですけど、検査するには袋に入れて30kgにする指定なので、30kgにします。するとかさが上がり、機械に通らなくて、これ以上の高さのものは通すなというような目印ができたりしました。
    • ある時は、県庁にこのシールが破れるという文句が来ました。理由を調べると作業員の汗で、かがんだ時に汗がシールに付いてそれが原因で破れたというんです。その次の年、2013年からは耐水性のシールになっています。そんな細々した問題が5社のそれぞれ次々にあったんですが、今はもう解決されて動いているというところです。
参加者

その測定場所のバックグラウンド、空間線量は幾つぐらいになってるんですか。

二瓶

場所によって違います。会津は0.1を切るぐらい低いですし、飯館村でやっている時にはやはり0.2とか0.3はあります。もっと細かく言うと、飯館村に入ってる時には、きちっと扉が閉められます。なるべく外からの空間線量が入らないようにその時だけ個室になります。会津とかのは、普通に流れるようなもので、それぞれに工夫はされています。最低25Bq以上は確認できるようにというのは導入時の基準なので、守られるようになっていると思います。

参加者

20〜30秒は私の感覚ではちょっと短いので、検出限界値幾らになってるのかなと。

二瓶

検出限界は25Bqというのが基準です。なぜ20〜30秒でできるのか。コメ30kgという量と均一だということがポイントです。放射線を測る時、少ないものは量を増やすか時間をかけるかですが、時間をかけられないので量を増やしたのが1 つのポイント。30kg あるので細かいのも測れるし、コメだから均一なので、位置を決めやすくより正確に測れるということです。なので、本当は魚とかに応用できればいいんですが、形も違うし、難しいみたいですね。

食品の基準値100Bqって?

    出荷していいかどうかの話で、100Bq以上のものは出荷しちゃ駄目というのが日本の決まりなんですが。この100Bqがどう決められているかというのを少しだけ説明します(スライド17)。食品の放射性物質、食品から受ける被ばく量を計算する時には、この100Bq、食べる物の食品の放射性物質の量にそれをどのぐらい取ったかという摂取量を掛けると食べた物の総ベクレルになりますね。そして被ばくに換算するにはベクレルをシーベルトに変えないといけないので、モデルを使って決まった係数があるので、係数を掛けてシーベルトにします。実効線量係数は決まっているもので、食べる量と、1年でどのぐらい被ばくしていい線量かというのを基に決められているんです。

    • どのぐらい被ばくしていい量かというのは、このグラフが基になります(スライド18)。横軸が被ばくした線量です。生涯で被爆する線量。100、200、300です。縦軸ががんで死んじゃう確率です。ゼロで放射線を浴びなくても人の30%はがんで死んじゃうというのが、このゼロのところの意味です。それに加えて生涯で放射線をあとどのぐらい浴びたら、放射線が原因でがんで死ぬかというのは、今のところ0〜100はよく分からない。影響はあるかもしれないけど、よく分からないなというのが定説です。
    • 100を浴びると、全く浴びないよりは0.5%ぐらい上がるんじゃないかというのが、統計的に言われていて、この100が今の基準になっています。これは広島、長崎の人を追跡調査して得られたデータとされています。今、基準とされているのは生涯で100ミリシーベルト(mSv)を追加で浴びると、がんになる確率が上がると言われているので、100を浴びないようにと言われています。
    • 100でがんになる確率が0.5%上がるというのは、普通の何も浴びない人よりも、累積で100ミリシーベルトを余計に浴びると0.5%上がるということですが、それは野菜不足の人と同じぐらいのリスクです。さらに言えば、運動不足の人は200〜500mSv浴びたのと一緒、たばこをいっぱい吸う人は1,000mSv とか2,000mSv 浴びたのと同じだということです。(スライド19)
    • 放射線は当然危険で、浴びないほうがいいんですけども、放射線だけが危ないわけではなく、こういうものと比較するとどのぐらいのリスクかが分かると思って、紹介しました。食品の基準はこの一番厳しい100mSvを取らないように計算し、100Bqになっています。
参加者

:100Bq/kg(ベクレル・パーキログラム)とスライドにありました。この100と100mSvというのは、ほぼ同じものとして考えるんですか。

二瓶

違います。もっとかみ砕くと生涯浴びていいのが100mSvなので、人生100年と考えると1年間1mSv になります。それを計算式に入れて考えるわけです。

    • 摂取量は当然年代ごとによって違います。一番多く食べるのは13〜18歳の男の子で年に750kgの食べ物を食べます。750kgのうち大体半分は輸入のものと考えられるので、国産は半分と考えて0.5を掛けて350kgくらいになります。ここに実効線量系数を掛けると、100になるはずなんですね。ですから、この100Bqと先ほどの100mSvは単位も意味も違うんですけども、この100mSvを基に、この100Bq が決められているということです。
参加者

この値のものなら、生涯食べ続けても大丈夫というようなことですか。

二瓶

がんになる確率は、先ほどの図で言えばこの分かんないよという辺りに相当するからということです。

参加者

がんの相対リスクの放射線量の値が広島、長崎の時の追跡データだとおっしゃいました。食品から受ける放射線の影響と、原発の被害のデータで比較するというのは、その受ける影響は随分違うんだろうなと僕は思うんですけど、同じように考えるということですか。

二瓶

内部被ばく、外部被ばくの話になると思うんですが。外部被ばくでも、内部被ばくでも、それが原因でがんになる確率は一応同じと考えられています。食べ物でどのぐらいがんになったというのは前例がないので、そういうのを参考にするしかないというのもあると思います。一応同じという前提でやられていると思います。たしかにこれは気になりますよね。

    • 日本の食品の基準は、この一番厳しめのところを基準にして100Bqと決められていますが、実は世界と比較すると、アメリカとかヨーロッパは1,200とか1,250までのものが流通してるんですよね。前提が違うので比較するのは難しいところもあるんですが、一応アメリカのものは1,200まで出荷していいんですけども、そのくらい日本は厳しく100と決められているというとこです。(スライド20)

クイズです

    例えばセシウムを前提として、100じゃなくて1万Bq/kgの牛乳があったとします。それを400g飲みました。その時受ける被ばく量はどのぐらいだと思いますか。比較として健康診断の時に受ける胸部レントゲン検査の何回分に相当すると思いますか、という計算です。1万Bq/kgの牛乳をコップ2杯分ぐらい飲むのと胸部レントゲン、あれもエックス線で被ばくするんですが、何回分に相当するでしょう。1 回だと思う方。10回。100回。実は、1回分なんです。

    • 先ほどのこの濃度と摂取量と実効線量系数から計算すると、1万Bq/kgで400g、単位がグラムなので0.4kgになりますが、実効線量係数が0.013μSv/Bqで計算すると52μSv被ばくします。胸部エックス線は1回50μSvと言われていますから、大体1回分という計算になります。この1万というと数字が大きいから怖い感じがするんですが、計算するとこのくらいなんですね。
    • 明るいカフェで和やかなやり取りが進みます

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参加者

実際飲んでも大丈夫なんですか。100に比べると100倍大きいわけじゃないですか。

二瓶

よく質問を受けるんですが、僕は飲んで大丈夫とは言えませんが、一応100の基準はあってそこは安全と思ってもらっていいかと。100は食べていいかどうかの基準ではなく、出荷していいかどうかの基準なんです。100のものを食べてもすぐさまがんにはならないとは思いますが、じゃあ1万は大丈夫かというと、それは今度リスクの問題になると思います。一応、胸部エックス線1回受けたのとがんになる確率が一緒と考えられるので、そう考えて納得してもらえば飲んでもいいし、やっぱり怖いなって思えば飲まないほうがいいと、僕は思います。

参加者

1万より10万、100万ともっと大きくなると、やっぱり危険になるんですか。

二瓶

そうです。確率としては上がりますね。

参加者

1回に取る量が多いのも危ないし、少なくても継続的に取るのも危ないですか。

二瓶

少なく継続したほうがリスクは減ると言われています。1回に10万Bq/kgを1kg食べるのと、1,000Bqを10 回に分けて食べるのは、10回に分けたほうがリスクは減るとされています。

いま福島の農作物は

    先ほどのモニタリング検査ですが、現在はコメを除いて12万点ぐらいやってます(スライド21)。生産量によって夏場が多くなって冬場が少なくなるというのを表しています。この一覧が全てなんですが、横軸が時間軸です。2011年から2017年まで。縦軸が1、2、3ではなくて、単位が書いてないですけれど、10Bq/kg、100Bq/kg、1,000Bq/kg、1万Bq/kg、10万Bq/kgです。

    • 最初の約3カ月は、作物の汚染は直接汚染といって、直接作物に降り積もったものです。これが最初の3カ月、その後はずっと土壌を通して、根っこを通して作物が吸収する、間接汚染と言われているものになります。最初と後段では、そこが変わります。(スライド22)
参加者

その3カ月はどういうふうに決めてるんですか。

二瓶

大体冬作物が6月ぐらいに収穫するので、例えばコムギとかですね。ホウレンソウとかダイコンは冬を越して夏前に収穫します。3カ月というのには根拠はありません。6月以降になると種をまいて、次の新しいものが出てくるのでそこで区切りました。

    • 最初の3カ月、一番汚染がひどかったところの内訳を見ると(スライド23)、検出限界以下、検出がされなかったのが半分くらいで、今の基準でいう出荷していい100以下が20%、大体これで75%、4分の3は福島県の農産物は事故直後でも出荷していいものでした。ただ、逆に言えば4分の1は汚染がひどかったということですね。特にこの500Bq/kgというのは10 %以上もあったので、尋常じゃない状況だということです。
参加者

最高値って、何か覚えてますか。最高だった食品とか。

二瓶

最大値8万4,000Bq/kg というのが出ました。

事故直後の検査結果 品目による違い

    ここで質問タイムです。8万4,000、これは野菜なんですが、この最大値を示した野菜は何だったでしょうか。事故直後の3カ月内で一番高かったもの。ホウレンソウみたいな葉菜類だったと思うか、キュウリみたいな果菜類だったと思うか、大根みたいな根菜類だったと思うか。答えは、葉菜類ですね。

    • クキタチナというホウレンソウみたいな葉菜類です。これには理由がちゃんとあります。ホウレンソウもキュウリも、事故の時、圃場にあったんですが、キュウリは葉っぱがあって、その下に果実、食べる部分がありますよね。われわれが測ってるモニタリング検査というのは食べる部分を測るんですね。キュウリの植物全体を測るんじゃなくて。ホウレンソウも同じで、この葉っぱを測るので、同じく被ばくは多分してるんですが、モニタリングで出てるのはホウレンソウのほうが高くなるということです。(スライド24)
    • 大根とかジャガイモの根菜類は土の中にあって、すごく心配したんですがほとんど出てきませんでした。理由は、先ほど言った土壌に吸着しやすいという性質を考えればよく分かるんですが、当時は根も土にあるからジャガイモとか大根が一番危ないなと思ったんですが、ほとんど検出されなかったという結果になっています。
    • もう1つ質問です。直接じゃなくて根っこなりを通した間接汚染の場合に、穀類、ムギ、ダイズのような穀類と、先ほど出てきたような野菜と、山菜、キノコなどの林産物、大きく分類してこれら3つを高い順に並べると、どの順番になると思いますか。
    • 答えは林産物です。林産物が圧倒的に高い。この順番が大体平均です。これを分類ごとに分けてみると図のようになります(スライド25)。穀類が赤、野菜が紫です。畜産物、肉とか牛乳も入ってます。あと、林産物緑、水産物です。赤は100Bq/kg、出荷基準の100にしました。そうすると、2013 年以降を見ていただくと、林産物が高いというのが分かると思います。
    • なぜ林産物だけ高いのかという話なんですけど、それはちゃんと理由があって、除染してないからです。山は除染してないんです(スライド26)。福島県の面積の7割は山なんですけども、除染すると先ほどのゴミであったり、出てきたものをどうするかという問題もあって山は除染しないからです。ただし、山の除染を全くしないかというとそんなことはなくて、人が住んでいるところから約20mのところまでは除染してくれます。表土を、落ち葉とかをかいて剥いでくれますが、その先は除染をしないんです。実際の写真(スライド27)でも分かるように、このように除染をしてくれます。理由のもう1つは、林産物は自然発生だから抑制対策も取りにくいですね。カリウム施肥をすれば多分効くんでしょうけども、それもできないので、山菜とかキノコは比較的出てしまっているということです。

山菜とあんぽ柿

参加者

除染していない山から採ってきた山菜を動物が食べたら、動物に出たりしないですか。

二瓶

出ます。飯館村だと3万Bq/kgのイノシシなどが出ます。同じ1頭のイノシシでも筋肉が高くて、血液は低いといったように部位によって違いますが、一番高い筋肉を測ると万という値が出たりします。今話したような山菜やキノコなど除染していない山のものを食べているからですね。また、土の中のミミズを掘るために土を食べてしまうことも関係しています。

    • 山菜も一概に全部同じように高いのではなく、差があります(スライド28)。コシアブラという山菜を知っていますか。タラノメが山菜の王様で、コシアブラが女王様だそうですが、実はちょっと高くなっています。ウドとかフキとかはそんなに高くないというように差があります。
    • 穀類と野菜を比較すると、穀類のほうがなんとなく高い傾向があります(スライド29)。これも理由がありまして、単位重量当たりで測るからです。水分含量は野菜と穀類では違っていて、穀類はだいたい10%です。コメとかダイズ、麦とかの水分は10%、野菜は90%が水なんです。水は汚染されてないので、同じ1kgのものを持ってくると、穀類では900gセシウムが入る場所があって、野菜では100gしかないので、相対的に穀類のほうが高くなると言われています。
    • それがさらに明確に出ているのがあんぽ柿です(スライド30)。干し柿なのですが、原料となる柿は全然問題ないのですが、干し柿にすると濃度が高くなって、実は今すごく問題になっています。100を超えてしまうと出荷ができないからです。福島ではあんぽ柿は30億円規模の産業で、これを守るために、さっきのコメの検査機を改良して、あんぽ柿に関しては1個1個検査をしています。こういう検査機器ができて、高い、低いを分かるようにして1個1個測って基準値を超えてないものを出荷するということをしています。
参加者

皮とかヘタに多いから、そこを取ればいいといƒうことでしょうか。

二瓶

皮に多いと思います。柿は実の周囲の部分に多いので、表面を取り除けば当然下がります。

セシウムは植物になぜ入るのか カリウム施肥の役割

    野菜や穀類は本当にセシウムを吸うのでしょうか。そして、なぜ吸うのでしょう。

    • 植物が育つのに必要な養分が植物の根っこを通って入るには、この土壌と細胞の中で大きな隔たりがあるんです。間に膜があってその膜を通って中に入ってこなくてはなりません。その膜を通ってセシウムが入っちゃうんですね。入った後に葉や花などどこに振り分けられるかは、それぞれの植物の中でのたんぱく質の働きによります。それによって必要なところへ動いていきます。養分が土から根に吸収された後の体内での挙動については、マグネシウムはこう、カルシウムはこうと元素ごとに決まっています(スライド31)。
    • セシウムを植物に吸わせた場合を図で見てみると、こんな動きをします(スライド32)。根っこからセシウムを吸わせました。試験でわざと吸わせてみると、吸わせた植物の体の中に開きます。その動きを他の元素と比較して見ると、これはセシウムですけれども、カルシウム、マグネシウム、カリウムの3つで比較すると、比較的最初に全体に広がる性質はカリウムと似ています。セシウムの動きはカリウムとすごく似ているんですね。カルシウムとかマグネシウムはすごく動きにくい元素なんですけれども、セシウムはそれらと明らかに違って、カリウムと似ているということです。カリウムは必須元素で、植物にとっては必要なので、このカリウムの動きと併せてセシウムが一緒に動いているんだろうということが分かります。
    • では、なぜカリウムとセシウムは似ているのでしょう。元素周期表で見ると(スライド33)、カリウムとセシウムは左端の1族の列にいるんですね。周期表のこの縦のラインは似た元素が並んでいるとされています。カリウムとセシウムは1価の陽イオンになります。それで、セシウムもカリウムに似た動きで入っていきます。カリウムにも植物に入る時には輸送体、トランスポーターというものがありますが、同様に輸送体を通してセシウムが入っていってしまう。体の中を動く時にもカリウムの窓口、輸送体を通ってセシウムが運ばれているんだろうということです。

ダイズの子実とコメを比較すると

    さて、放射線量を穀類の中で比較すると、コメとダイズではどちらが高いか、分かりますか。さっき答えを言ってしまいましたが、ダイズなんですね。コメはずっと全袋検査を続けていますが、全袋測っても2015年以降100Bq/kgを超えるものは出ていません(スライド34)。ただ、ダイズは他の穀類に比べて高い傾向がみられます。

    • ダイズの場合は子実全体にセシウムが入るんですね。イネは、周りの殻と胚の部分にしかたまりません。胚乳と呼ばれるたんぱく質とかでんぷんが入っているところにはセシウムはたまりません。先ほどの野菜と穀類の比較でもお話ししましたが、同じ1㎏を持ってきた時にたまる部分が多いダイズのほうが濃度が高いということが今、考えていることです。植物学上では、ダイズは無胚乳種子といって、胚乳を持たない種子なんですね。無胚乳種子はほかにクリもありますが、その意味でクリもセシウムは高くなるということです。
    • 逆にコメの場合、コメは胚乳があってその周りにしかセシウムがないので(スライド36)、玄米を100とすると、精米にして測るとだいたい半分ぐらいに下がるし、さらにそれを水で洗うと、セシウムが抜けるので、25にまで下がります。それをご飯として炊けば、今度は水が入ってきて水分が上がるので10まで下がる。だから玄米を100とした時には、玄米の10分の1くらいが白米に入っていると、一般的には言われています。

淡水魚はなぜセシウムを蓄積しやすいか

    水産物を見てみましょう。水産物の中でも海水魚と淡水魚、特徴があります。どっちが高いと思いますか。どちらかがセシウムをためやすいんですけど、分かりますか。海水魚でしょうか。淡水魚でしょうか。正解は淡水魚です。

    • 魚類の環境適応を研究されている東大の金子先生がおっしゃっていたことなんですが、海水魚は周りが海水ですよね。海水は塩分濃度が高くて、そのままだとそれを体内に取り込んでしまいます。もし体内に塩分をためてしまうと血圧が上がってしまうので、海水魚は自らの命を守るためにそれを排除しよう、排除しようという働きを基本にしています。(スライド37)/li>
    • 一方、淡水魚は周りが水です。同時に、生きるためには体の中に塩は一定の濃度必要なので、淡水魚は少しの塩も取り込んでためよう、ためようという働きをしています。その働きのため一緒に入ってきたセシウムも体の中でためよう、ためようとしてしまうので、基本的には淡水魚のほうがためやすくて下がりにくいと言われています。
    • 他の水産物では、低いのは大洋を広範囲に泳ぎ回っている回遊魚のほか、もともと低い傾向だったカニ、エビなどです(スライド38)。逆に高い傾向にあるのは、前述の淡水魚や海底にいるヒラメとかカレイです。それらの水産物で、計測して比較的高いものがありましたが、現在は100を超えているものほとんどはありません。

現在そして今後の課題

    大きな課題の一つは山です。先ほどの説明にもありましたが、70%は除染していないので、福島の山にはセシウムが残っています。それがこういう川とかを通して出てくるんじゃないかということを心配されるので、その辺もわれわれは調査しています。

    • 森の中に降る雨の量、森の木を伝う水、落ち葉などを採ってどのぐらいあるか等々、いろいろな部分を調査しました。そのだいたいの流れを描いてみると、山の中にある森から1年で小川に出てくるのは、だいたい0.1%です。(スライド39)
    • これについてはが、いろんな機関が測っていますが(スライド40、41)、山にある総量から1年間に出てくるのが0.1%という数字も各データでだいたい合っています。0.1%というのが多いか少ないかはまた難しいんですけれども。全く出てこないことはないんですけども、出てくるにしても0.1%しかないというのが、今分かってきているところです。
    • 最初に言った表土剥ぎの問題ですね。このフレコンバッグの山をどうするかというのが今、一つの問題になっています(スライド42)。先ほど、作土層のところでも話し合いましたが、重機が入るので耕地の排水性がすごく悪くなって、農作物を作る前に水がたまって何もできないという問題も現状あります。(スライド43)
    • 飯館でダイズの畑をやらせてもらっているんですが、サルにやられてしまったり、イノシシが農地を走り回ったりしています。また、耕作地が遊休農地化して雑草が生えたりしていて、特に避難指示が解除された地域では、今後農業をやっていく上ではこうした状況との戦いもあるかなというふうに思っています。(スライド44)

風評被害いまも さらなる情報発信を

    そして風評被害です。横軸に2013年、事故後からの年度です。赤い線は事故前の生産量を表わしています。色分けはコメとか、トマトとか作物別の収穫量です。特にこの柿は事故後から4割から5割くらいまで減少しています(スライド45)。コメはだいたい8割です。事故前と比べて8割くらいの生産量です。(スライド46)

    • 福島のモモというのは時期とか品種とかで、その地域でしか取れない時期と品種がありまして、モモはけっこう風評被害を受けていないんですね。欲しいものがあればみんな買うということになっています。しかし、一旦他の産地のものに取って代わられてしまっているものは、なかなかそこからまた戻って福島産にというふうにはなりにくいのかなっということを感じさせるグラフでもあります。(スライド45)
    • 価格が大幅に下落しているということもあるので、風評被害対策も必要ですね。ここまでご説明してきたような様々な対策をしてきているのですが、なかなか皆さんにお伝えすることが難しい面もあります。先ほどのモニタリング検査の結果など、これだけやっていますよということを、ホームページを作って、全ての結果を載せています。品目とか地図から選べますので、皆さんもときどき見ていただければと思います。(スライド46、47)

私たちの身の回りにある放射線

    私たち身の回りに放射線があるという話を最初に少ししました。コーヒーにもあるし、地面からのものも含めて、私たちは原発前から放射線を浴びていて、原発の事故によって初めて放射線と出会ったのではなくて、もともと知らず知らずに浴びています。(スライド48、49)

    • そうした自然の被ばくよりも医療被ばくのほうが大きくて、特に日本人は他の3倍から5倍医療被ばくを受けています。だからといって医療被ばくが怖いということではなく、それはリスクの問題です。一時期そうした統計を見て、医療被ばくが多いからというので胸部エックス線検査が忌避された時期があったそうです。そうすると結核が増えて、それで死亡率が高まってしまったということがありました。医療の検査でも被ばくはするんですけども、やはりそれで分かる病気というのもあるというところを理解することが必要です。ここでは医療被ばくというものもあるということを示したいと思いお話ししました。
    • 食べ物にも放射性物質は自然にあります。昆布とかは2,000Bq/kg持っています。これはセシウムではありません。昆布の中に含まれているカリウムのうち一部、0.002%が放射性物質です(スライド50、51)。これは地球ができた時にできた放射性物質で、半減期が14億年と長いものなので今でも残っています。それを取り込むため、カリウムが多い作物はベクレルが多いですけど、これに関する規制値は全くありません。セシウムは100なんですが、昆布が2,000であっても、それは普通に売られています。
    • 事故後に行われた検査で、先ほども出ていた1食分の食べ物の中でどのぐらい放射性物質があるかを、厚生労働省が各地について測っています(スライド52)。そのデータによると、セシウムの量は福島の中でもどの場所かによってほんのわずかに差があるものの、ほとんどがカリウムの差です。地域的に北のほうが少しカリウムが多いのは、おそらく普段から味付けが濃いからなのかなと思わせる資料になっています。

セシウムを吸わないイネ さらなる挑戦

    次のうち本当にあるもの、最近本当に開発されたものはどれでしょう。まず、「セシウムを分解してくれる藻」、「セシウムを吸わないイネ」、「セシウムを作る菌」。藻か、イネか、菌か。正解はイネです。

    • 「吸収」する藻はあると思うんですけど、「分解」まではしてくれません。分解というのはもう錬金術の領域ですから、できてはいません。セシウムを「作る」というのもそうです。実際には、セシウムを吸わないイネというのが、去年報告されました。秋田県立大学の頼(らい)さんのデータですが、突然変異で3系統の品種が極端にセシウムを吸わない個体があることを発見したというものです。普通の品種が吸う量に対して、90%くらい吸わないというイネができたということです。フランスでも同様の吸わないイネというのができました。
    • お話ししたように、セシウムはカリウムと同じような挙動をします。そこでカリウムを通す窓を壊したんですね。セシウムとカリウムが同じところを通るので、カリウムを通す窓を壊したイネができたんです。カリウムは作物にとって大事なものですが、カリウムが通らなくても大丈夫なのかと心配になりますよね。
    • 実はカリウムの輸送体(トランスポーターともいう)は種類が60ぐらいあるそうです。その全部がセシウムを吸うんじゃなくて、その中の幾つかがセシウムを通すことが分かってきたので、そのセシウムを通す輸送体だけを壊して通らせなくしたんです。壊されていない輸送体はカリウムを通すので、ちゃんとカリウムも入って、収量もしっかりと穫れているんです。収量は穫れて、セシウムは吸わないというイネができてきたので、今後はそうしたコメが増えていくでしょう。僕はダイズが専門なので、ダイズでもこうしたことがしたいと考えて取り組んでいるところです。

聞いてみたいこと

参加者

福島原発の事故以来、元素周期表というものを真剣に見始めました。理解するまで非常に時間かかりました。今、例えば日本の小学校ではこの周期表というものには触れないですよね。ですから、話題にしている同位体というのを理解をするのも、なかなか抵抗があると思うんです。私の場合は特に文化系だったから、分かるまで数年かかりました。ただ、陽子と中性子がベースということも分かったし、中性子が時によっては陽子に変わることも分かってきました。例えば、広島、長崎の原爆のことも、ここが分かんないと理解が難しいですよね。日本人全体として、周期表を真剣に教えたほうがいいんじゃないかなと私は思っています。例えば、植物、動物、それからバクテリアなどなどに、元素が何種類入ってるかというのも、実際われわれ知らずにいましたよね。

二瓶

植物は17です。必須元素17種類があれば植物は生きていけます。ほかの生物はもっと多くなります。元素とか、特に放射線教育というのでしょうか。それは福島でも少しずつ始まってはいるようですけれど、これからもっと大事になっていくし、われわれもやっていかなきゃいけないなと感じております。

参加者

今日のお話は科学的な知見といいますか、知識の話だと思うんですね。それを前提にして政治経済的に、何が問題で、何が問題ではないのか、問題があるとすればどうすれば解決できるのか、福島の農産物についての現状の問題について、何かお考えがあれば伺いたいのですが。

二瓶

僕個人の意見として聞いていただければと思いますが、本日お話ししたように対策も取っているし、検査して100が安全とすれば、ほとんど100以下だし、売られているものは特に100以下のものしか売られていないので大丈夫なんです。ただ、最後のほうで言ったように、その安全なはずのものが、売られていなかったり価格が落ちたりしているということ、農家にとってはやっぱりそこが問題だと思うんですね。作ったものが売れないと作らないし、作れなくなってしまいます。

    • ご説明したような検査方法などを知ってもらって、買ってもらうような努力をもっとすべきなんだろうと、僕は思います。その際に、なぜ、どうして安全なのか、という部分は僕らが科学的なデータでフォローするところだと。例えば、なぜ出るかとか、これはなぜ安全なのかというのは科学的なところはわれわれがフォローすることになると思います。政治的なことというと難しいと思いますが、農家の立場に立って、福島の農業を復興するんだ、これからもやっていこうと考えると、やはり作ったものが売れないとやらない、やれないと思うんです。売れる努力を周りがしなきゃいけないのかなと僕は思います。答えになっているでしょうか。
参加者

周りというのは行政とか、政治とかでしょうか。

二瓶

そうですね。やはり行政にとってもそこはひとつ仕事だと思います。僕も県庁にいたから、そういう仕事があることもわかります。現状でもやっていると思いますが、もっとやらないといけない。

    • 全袋検査をしていることも、僕が講義で学生に話しても、3分の2の人は知らないです。話すと、「じゃあ大丈夫か」となるんですけど。福島県の人はみんな知っているんですが、その点は東京でさえも知らない人が多いので、関西に行ったらもっと知らないんだと思います。ただ知らないということで、福島だから危ないって思われるのはもったいないと僕は思います。
参加者

2011年の時は県庁でお仕事をなさっていて、今は東大でお仕事をされて、いろいろお考えがあって研究に取り組んでいらっしゃると思うんですが、震災や原発事故を受けてどのようにお考えになって今の研究というお立場になられたのか、そうしたお考えの推移について教えていただきたいのですが。

二瓶

初めのほうでお話ししましたが、僕は社会人から入ってドクターを取らせてもらった時に、ラジオアイソトープを使って植物に入っていく過程、アミノ酸の入っていく過程の研究などに取り組んでいました。その時にベクレルとかシーベルトの勉強をしていたんですね。その後、県職員として働いていたら地震が起きて、周りがみんなベクレルとかシーベルトとかについてわたわたと慌ただしく心配しながら話題にしていて、しかもみんな「危ないよ」、「怖い」という話をしていました。その間、僕は「このくらいなら大丈夫じゃないかな」とか思っていたりしていましたが、その時は県庁にいてデスクワークしかできなかったんですね。それがすごく歯がゆくて。

    • やっぱり自分でやって調べたい、特に放射線の問題について、何か初期値というものがあって、今後どのぐらい下がっていくかというような経緯を自分で調べないといけない、なるべく早く研究したいと思った時に東大の枠があったという経緯です。地元福島で公務員になるという人は安定志向で、僕もそうだったんです。でも、まさか地震が起きるとは思わなかったし、今しかできないと思って、大学に移らせてもらいました。個人的な意見です。
参加者

2点お聞きしたいのですが、1点目は、コメとコメ以外で行っている検査も方法が破壊検査と非破壊検査で違うのかなと思ったんですけど、それで出てくる結果にどれぐらいの差分があるかということ。2点目は、モニタリング検査をした後に出荷されたJAなど出荷業者の各産地での検査があると思うんですが、どんな検査がされているのか、幾つか事例を教えていただけたらと思います。

二瓶

全量検査と普通のゲルマニウム半導体検出器による破壊検査のことだと思うんですが、僕が知っている限りでは、数字のデータは僕は今思い出せないし、知りません。多分やっているとは思います。ある程度ちゃんとした相関はあると思います。ただ、当然全量のほうがばらつきが大きくて粗いですし、ゲルマのほうはより正確に測っているのは確かです。ただ、ちゃんとこうした直線が引けるというデータは僕はちょっと知らないので分りませんが、検査自体は多分やっていると思います。

    • 農協などでの検査については、それはたくさんやっています。福島では、それは自主検査という位置付けになります。ですからJA単位とか、販売店、個々のお米屋さんだとか、福島はヨークベニマルというスーパーがあるんですが、そこが独自で、自分が売っているところに関しては自分のところでも自主検査して「安全ですよ」と言って売っているところもあって、そのことをウリにしているところもあります。
参加者

私自身は浪江町から避難しているところです。賠償の問題に関わりますと、「安全です、安全です」と言ってしまうと、まだ廃炉作業が続いている中で賠償が打ち切られてしまうんですね。それだけでなく、さらに検査費用についても、良心にのっとってダブルチェックをしたい農家さんもいますし、公の機関と市民のグループなどもいて、大学の先生とも一緒に進めたいという方ももちろんいらっしゃるのですが、検査費用が出なくなっていくのは先生たちにとっても本当は良くないんではないかなと。

まだまだ追跡はしなくちゃいけないし、廃炉作業が無事に終わるまで、震災ゴミの焼却も中間貯蔵でこれからも燃やすということを考えると、大気汚染の問題や、汚染水の放出問題も出ている中で、検査・研究体制も「買って応援」と結び付いていく中で細くなっていってしまいかねないという実態も、研究者の先生方にも踏まえていただきたいと思います。私たちは福島を応援したいんだけども、それをし過ぎちゃうことの弊害も、ちゃんと分かっているんですけど、なかなかそこまで言える農家さんもいないので、そういうところも伝わってほしいと思い発言しました。

二瓶

分かりました。そうですね、難しいですよね。僕はデータを基に現状こうですと話すんですが、だからといってそれで終わりにするつもりはないですし、今後引き続きやっていかなくてはと、当然思っています。ありがとうございます。研究としても、なかなかやりにくくなっているのは事実で、もう日本全体として「アンダーコントロールに入っているから安全だ」とされて、実際に研究費とかも付きにくくなってるんですが、だからこそ今やろうよという思いもあります。廃炉の問題、中間貯蔵の問題、まだまだ問題はあると思うので、僕はずっと付き合ってくつもりでいます。

(完)

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