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第1回サイエンスカフェ「聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト」開催報告

掲載日: 2012年7月25日

聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト

2012年7月4日、サイエンスカフェ第1回「聞いてみよう!放射性物質と農産物のコト」を開催しました。当初の定員を大きく超える 35 名のご応募があり、厳正な抽選を行った上、22 名の方にご参加いただきました。ご関心を持ってくださった皆様、誠にありがとうございました。

当日は、センター長の関崎勉教授のあいさつの後、放射線植物生理学が専門であり、昨年 3 月以降、現場で土壌や農産物の調査をしている田野井慶太朗准教授によるスライドを使ったお話を軸に、細野ひろみ准教授のファシリテーションのもと進行しました。参加者の皆様には、質問や意見をポストイットに記入してもらうほか、随時手を挙げて発言していただきました。

ここでは、当日の様子をご報告しますので、配布資料と併せてご覧ください。
配布資料(PDF)

(左) 会場はフードサイエンス棟のカフェ (右) 関崎先生から始まりのあいさつ

(左) 会場はフードサイエンス棟のカフェ (右) 関崎先生から始まりのあいさつ

放射性物質の基礎について

  • 放射性物質は、地球に元々あるものと、人間が作り出したものの 2 種類があります。
  • 地球に元々ある放射性物質のひとつがカリウム 40 です。カリウムはミネラルの一種で、ほとんどは放射性ではないカリウム 39 やカリウム 41 です。39 や 41 は元素の体重のようなものです。
  • 今回問題になっているのは人間が作り出した放射性物質です。プルトニウム、セシウム 137、セシウム 134 などがあり、これらは原子炉で作られます。
  • 原子炉内で、重さがおよそ 240 のウランやプルトニウムに中性子が衝突すると、核分裂が起こります。その時、重さがおよそ 140 のもの(セシウム 137 やセシウム 134、ヨウ素 131 など)とおよそ 90 のもの(ストロンチウム 89やストロンチウム 90 など)に分かれます。
参加者

140 と 90 を足すと 230 になりますが、ウランやプルトニウムの重さ 240 との差 10 はどこに行くのですか?

田野井

中性子として出ていきます。出て行った中性子はまた他の元素にぶつかり、それが臨界状態と呼ばれる状態です。

参加者

カリウムも放射線を出しますか?

田野井

カリウム 40 もセシウム137 もある一定の確率で崩壊し、その時に放射線が出ます。その壊れる確率は異なり、カリウムは12.5億年で半分になり、セシウム137は30年で半分になります。私が実験で使っている放射性物質には、21 時間や 2 分で半分になるというものもあります。

参加者

セシウム 137 は 30 年で半分になるということは、少しずつなくなっていくということですか?

田野井

そうです。ただ、お湯がだんだん冷めていくようなこととは違います。放射性物質の粒一個一個の壊れ方は 0 か 1 です。粒一個をずっと見ていると、30 年間のうちに崩壊する確率が 1/2 ということです。

(左から) 田野井先生、細野先生

(左から) 田野井先生、細野先生

人体への健康影響について

  • 放射線の人体への影響には、直接作用と間接作用があります。
  • 直接作用は、放射線が遺伝子やたんぱく質に当たってその部分が壊れるというものでイメージしやすいと思います。ですが、放射線が私たちに与える影響は、直接作用よりも間接作用の方が大きいです。
  • 間接作用についてお話する前に活性酸素についてお話する必要があります。人体の中には活性酸素がたくさんあります。健康な体でも活性酸素はありますが、ストレスがあるとより発生します。活性酸素は老化や病気の原因になります。それでも生きていけるのは、私たちの体には、毒のあるものを無毒化する働きがあるからです。しかし、全てを無毒化することはできません。
  • ストレスのほかに放射線によっても活性酸素は作られます。私たちの体は水でできていますが、放射線が水に当たると、水が電離して活性酸素が発生します。
  • 放射線の人体への影響の大きさはシーベルトで表します。
  • もうひとつ、ベクレルという単位もあります。1秒間に 1個の放射性物質が崩壊し、他の物質になるのを 1 ベクレルといいます。100 ベクレルでは、1 秒間に 100 個の放射性物質が崩壊しているということになりますが、1 個崩壊したからといって放射線が 1 本出るとは限りません。10 本以上出る放射性物質もあるし、1 本にも満たない放射性物質もあります。ですから、ベクレルの値だけを比べても健康影響は分かりません。カリウムの 100 ベクレルと、セシウムの 100 ベクレルでは、出てくる放射線の量や強さが異なります。それを人体への影響として把握するときには、シーベルトの単位を使います。
細野

シーベルトにすると、カリウム 40 の 1 シーベルトもセシウム 137 の 1 シーベルトも、同じ影響を人間に及ぼすということですか?

田野井

そうです。

参加者

食べ物は、1kg 当たり何ベクレルとなっていますが、1kg 当たり何シーベルトとしてくれたら、他のものと比較できていいと思います。

田野井

そういうふうに換算する式はあります。ただ、ベクレルの方が測りやすいです。

参加者

半減期が長いものと短いもので健康影響はどのように違うのですか?

田野井

半減期と健康影響は関係がありません。半減期が長い放射性物質と短い放射性物質が同じ数だけあったとしたら、ベクレルの値が異なります(半減期が長いものの方がベクレルは小さい)。健康影響を比較するには、シーベルトに換算する必要があります。

参加者

どうして直接作用より間接作用の影響の方が大きいのですか?

田野井

放射線が飛んでくるとして、DNA に直接当たる確率というのは非常に低いのですね。それに対して、水はそこらじゅうにあるので、水に当たる確率の方が高くなります。そうしたことで間接作用の方が起きやすいと言えます。

参加者

放射性物質の問題は、他の食品をめぐる問題と比べてどのくらい危ないのでしょうか?食品添加物、BSE、カドミウムなど。

田野井

私は食品添加物もBSEもカドミウムもそれほど怖がっていないので難しいところですが‥。放射線だけについていえば、私は、医療で浴びる放射線の値と比較することと、放射線のお医者さんの意見を参考にすることにしています。実はこの間、肋骨を折ったのですけれど、CT スキャンを撮りました。CT 撮るだけで 7 ミリシーベルトくらい浴びます。確かに CT には、骨折が分かるというベネフィットがありますし、被ばくは少なければ少ない方がいいのですが、(一般公衆の)基準値の「年間 1 ミリシーベルト」という数字と比較すると、私は 7年分浴びちゃったなぁとか考えます。あと、我々研究者は年間 50 ミリシーベルト(5 年で 200 ミリシーベルト)までなら浴びながら実験をしても大丈夫でしょう、と言われています。我々は放射線に特に強いというわけではないのですが、研究することで社会に役立つというベネフィットがあるのでそれくらいまでなら被ばくしてもいいですよ、となるわけです。

関崎

ひとつ宣伝ですが、9 月 20 日 21 日で、私たちのセンターと神戸大学のセンターが共催で食品安全に関するフォーラムを開催します。1 日目は感染症、2 日は物理化学汚染ということで放射線や残留農薬などについて専門家に話してもらいます。最後はすべての専門家に檀上に上がってもらって議論をしたいと思います。一般の方向けで無料なので、興味のある方はご参加ください。

質問や意見を書き込んでもらったポストイットを貼り出していきました

質問や意見を書き込んでもらったポストイットを貼り出していきました

農産物の調査について

  • 今回ご紹介するのは、汚染が非常に不均一だということです。
  • 事故後にコムギ畑に行ってコムギを採取し調べました。3 月 20 日時点で発生していたコムギの葉には放射性物質がありましたが、それ以降に発生した葉にはほとんどありませんでした。また、その汚染状況ですが、墨汁をこぼしたように均一なものを想像されるかもしれませんが、実際はぽつぽつと不均一なものでした。畑の土の方もやはりぽつぽつと不均一になっていました。
  • 別な話ですが、ひとつの水田の中でも、場所によって 2-3 倍の差があることも分かりました。事故直後もそうでしたが、その後雨が降ったりして、濃縮される場所があったり希釈される場所があったり非常に不均一な状況になっています。
  • 福島県と連携した調査もしています。行政は全国で 13 万 7 千件くらいの食べ物を計測していますが、こちらでは 2 万件くらい計測しています。実施している彼らも被災者です。家が津波に流された方もいれば避難所にいる方もいます。被災地なのに、これだけ自分のところのものをモニタリングしているというのは、すごい努力だと思います。最初は現場の方は放射性物質について何も知らなかったのに、最近では私より詳しいほどです。現場の方の頑張りというのは表に出てこないですけれど、特に伝えたいことです。
  • 農産物は 3 月当初は 500 ベクレルを超えるものもありましたが、秋くらいになると値はだいぶ低くなっていました。
  • お米は非常に騒がれていますが、実は汚染された割合は極めて少ないです。むしろ果樹や魚、きのこで検出されやすくなっています。そういうものに比べたらお米はかなり安全な方です。ただ、主食なので量を食べるという意味では問題となるかもしれません。
  • こうしたものを食べている場合の人体への影響について、私はお医者さんではないので、6月30日の報道の紹介に留めます。フランスの研究所の協力で中学生の尿を検査したところ、0.41ベクレルから1.3ベクレルのセシウムが検出されたということでした。6 月というのは、汚染された食品が比較的多かった頃です。これがどういう値なのかというと、冷戦の真っただ中の 1964 年の中学生の尿の値よりは小さいけれど、他の年代の時よりは高いという値です。なので、1964 年の頃に中学生だった方の健康影響の出方が今の福島の方に適用できるかもしれません。今後尿の値がどのように変わるか分かりませんが、このような過去の知見と比べてどうだろうと考えるのがいいと思います。
  • 南相馬市のお医者さんに、ホールボディーカウンターという機器で住民の体内の放射性物質を計測したデータを教えてもらいました。ほとんどの方は検出されないのですが、検出される方もいて、1kg体重あたり 5-10 ベクレル検出された方が千人くらいいました。体重 50kg だと 250-500 ベクレルになります。1955 年から 1995 年までの日本人の成年男子のデータによると、先ほどの中学生の尿と同様、1964 年の値が特に大きくて、平均 500 ベクレルを超えるほどでした。その後、核実験が減っていくのに伴って値は下がっていきました。
細野

1964 年の成人男性の平均値と今の南相馬市の住民の値が大体同じくらいということですか?

田野井

そんなに大差はないだろうと思います。1964 年の場合は核実験が終わった後は速やかに低下しており、今後福島の方や私たちの体内がどういった変遷をたどるのかということが重要です。

参加者

裸だった水田に放射性物質がたくさんあったのに、なぜ今お米に検出されていないのですか?

田野井

場合によっては検出されています。1950 年代 1960 年代にたくさん研究がされていて、お米にはほとんど移行しないというデータが出ています。今回の調査で得たデータもほとんど過去のデータの通りでしたが、ごく一部の水田で、土が3,000ベクレルなのにお米が1,000ベクレルなどとても高い値が出ています。これには主要な要因ではなく、何か個別の理由があるはずです。そうした個別の理由を明らかにして、お米全体の安全性を保とうという取り組みをしており、そのために試験作付が必要となっています。

参加者

出てきたデータをもとに出荷制限が行われているのですか?

田野井

出荷制限は行政上のことなので、我々研究機関が出したデータは採用されません。行政で計測したデータをもとに出荷制限が行われています。我々はどちらかというと、なんでそうなったか、という理由の方を解明していきたいと思います。

細野

研究では行政のモニタリングよりすごく低いベクレルまで検出できるように測っていますので、行政では検出できないものでも検出されるということがあります。その場合、混乱を防ぐために、データは、ベクレルやシーベルトの意味と併せて情報発信することが重要ではないかと考えています。

参加者

海のものや海水浴は個人のレベルで気を付けるしかないのでしょうか?

田野井

海は広いので実験としては進みにくいものだと思います。ただ、今回のものと過去の核実験で落ちたものを比較するようなデータは出てきていますので、そういうものを使って今後を予測することが大切だと思います。「危ないのかな?」というイメージをもとにした感情がある一方で、れっきとした数値というものがあります。なので、私はその数値をベースに考えることを心がけています。私も線量の比較的高いところに入っていますが、何時間いたらどのくらい浴びるのかということを考えた上で調査しています。

参加者

汚染された土壌を改善する有効な方法はありますか?

田野井

実はなかなかないのです。ものすごい熱をかけてセシウムを蒸発させてそれを捕集するという方法がありますが、燃料は使うし、土壌の量は多いし、燃やした後の土壌はレンガに使うと言ってもレンガはそんなにいらないし、という話になります。チェルノブイリの時は一切除染はせず、ゾーニングといって、ここは汚染が強いとか弱いとかを区切って、移住させるという対応をやったそうです。福島県のように人口が密集した場所での汚染ケースというのは初めてかもしれません。

細野

これから方法は考えていかなくてはならないということですか。

田野井

除染の研究をしている研究者はいるのでそこに期待したいところではありますが、良い策はなかなか見つかっていません。私は、品種改良や栽培方法など、放射性物質が食品に入らないようにする技術の開発が現実的だと思っています。

参加者

農産物に関して、過去に日本でとられているデータがあるなら参考にしたいと思いました。チェルノブイリだと食べているものも違うし、気候や人種も違うのであまり比較にならないのではと思います。

田野井

チェルノブイリは5月で今回は3月という違いは非常に大きいと思います。5月だと麦はもう実が出ていますが、3 月だとまだです。あと、60 年代の核実験については、あの時は一年中降っていましたが、今回は一時にぱっと出てその後は落ちていないという状況です。そうした違いによっても、作物への吸収のされ方は異なってきます。だから、やはり今回のことは今回のデータで見るのが一番いいと思います。

 

 

 

 

このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。

 

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