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シンポジウム「放射性物質汚染と食の安全の今は?-被災地の早期復興を願って-」開催報告

掲載日: 2014年5月20日

「放射性物質汚染と食の安全の今は?-被災地の早期復興を願って-」

2月16日、シンポジウム「放射性物質汚染と食の安全の今は?-被災地の早期復興を願って-」を開催しました。

本シンポジウムは、JRA畜産振興事業の助成金を受けて実施された「平成25年度畜産物の安全に関するリスクコミュニケーション事業」の一部として開催したもので、同事業で実施した消費者意識調査の報告の他、東京大学農学部で行われている放射性物質汚染に関する各調査研究の報告等が行われました。
開催2日前の記録的大雪の影響が残る中、一般消費者や地方自治体関係者、学生等、多くの方々にご参加いただき、総合討論では積極的な質疑応答が行われました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。

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本事業の概要について

関崎勉、東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター教授・センター長

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    • この事業は、消費者に正確な情報を伝えることが一番重要だとの視点から平成23年に立ち上げ、以下の活動を進めてきました。

(1)有識者検討会:放射線の専門家やリスクコミュニケーションの専門家等から成る有識者検討会を設置し、事業を進める上での助言を集めました。
(2)科学文献調査:事業はまず、今どのような情報があるのか、基礎となるデータを整理するところから始めました。畜産物への放射性物質の安全に関する科学文献を調べてまとめました。大部分はチェルノブイリ原発に関する文献でした。
(3)消費者行動調査・消費者理解度調査: 年齢層ごとに少人数のグループを作り、グループインタビューを行いました。畜産物中の放射性物質についてどう思っているのかを聞くとともに、こちらで作成した情報提供資料について意見をもらいました。また、グループインタビューで集めた情報を盛り込み、全国の消費者を対象としたインターネット調査を行いました。
(4)被災地の実態調査:茨城県と福島県の畜産農家や農協、県庁等に出向き、事故後の状況について話を聞きました。その結果、今回の事故の影響が大きかったのはもちろん、口蹄疫やステーキチェーン店での集団食中毒等、様々なことが積み重なって農家を苦しめているということが分かりました。
(5)リスクコミュニケーションツールの作成:科学文献調査や被災地の実態調査で集めた情報を基に情報提供用の動画を作成し、ホームページで公開しました。また、パンフレットを作成し、食肉販売店や食肉関係事業者のイベント会場などで配布してもらいました。
(6)イベント開催:今回のようなシンポジウムやサイエンスカフェを開催しました。サイエンスカフェは、当センターがある建物に設置されているカフェを貸し切って少人数で行っています。参加者と1対1の双方向のコミュニケーションができ、非常に良い場になっているのではないかと思います。また、今年度はサイエンスバスツアーを開催しました。一般から募集した30名ほどの参加者と福島県に移動し、農家や検査施設等の見学をしました。移動中のバスでは田野井先生からの講義があり、アカデミックなバスツアーとなりました。こうしたイベントの開催報告は全てホームページに掲載しています。

消費者調査の報告

細野ひろみ、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
※現在、準備中です。
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放射性物質汚染地域の屋内で飼育された豚と放射性物質に関する調査研究

李俊佑、東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場助教

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背景

  • 福島第一原発20キロ圏内の警戒区域で約3か月間飼育された原種豚を、東京大学の附属牧場に移送して調査研究しました。豚の居た区域の土壌中放射性セシウム濃度は1kg当たり2万から5万ベクレルで、空間線量は一時間当たり1マイクロから2マイクロシーベルトであったと推測されています。
  • 東大附属牧場は福島第一原発から西南約130キロのところにあり、移送時の空間線量は一時間当たり0.1マイクロから0.2マイクロシーベルトでした。
  • 豚は屋内で飼育しており、餌は牧草ではなく、トウモロコシやダイズ、ミネラル等を混合した濃厚飼料を使います。しかも、飲水は地下水なので、豚は飼料と飲水による放射性物質と接する機会はあまりない環境で育てられたことになります。

東大附属牧場に移送した豚にはどのくらいの放射性セシウムが含まれていたか

  • 移送した豚は五種類で、デュロック種(雄3頭雌8頭)、大ヨークシャー種(雄4頭雌2頭)、中ヨークシャー種(雄2頭雌4頭)、ランドレース種(雄1頭雌1頭)、バークシャー種(雌1頭)、合計26頭です。
  • 豚は爪が弱いという特徴があります。移送して73日目の9/9に、割れた爪から菌が入り病気になってしまった豚を解剖し、臓器中の放射性セシウム濃度を調べました。すると、生殖器から約160ベクレル/kgの放射性セシウムが検出されました。個体は異なりますが、その後に調べた豚の生殖器中の放射性セシウム濃度は、時間が経つほど低くなっていきました。同様に、脾臓や肝臓、腎臓、筋肉、尿、血液中の濃度も低くなっていました(脾臓と肝臓では9/9より9/30の計測で高濃度だったが個体差と思われる)。
  • 部位ごとでは、最も高濃度が検出されたのは筋肉で、低いのは尿と血液でした。
  • 屋内で飼育され、濃厚飼料を与えていたのになぜこのように汚染されていたのかというと、豚舎に設置されている換気扇を通して空気中の放射性セシウムが豚舎内に入ったからではないかと考えています。

警戒区域内で殺処分された豚ではどうだったか

  • 警戒区域内で殺処分された家畜の中に含まれる放射性物質について調べました。
  • 南相馬市で調べた豚では、各部位から1kg当たり千単位の濃度の放射性セシウムが検出されました。附属牧場に救済した豚では百単位の濃度だったので、その10~20倍の濃度ということです。

移送した豚の繁殖能力・子孫への影響等について

  • 附属牧場に移送した豚を使って、繁殖性を含む健康状態等の調査研究を行いました。ひとつ注意してもらいたいのは、この研究は周到に準備して行ったものではないということです。比較できる対象動物が居ない中で調べたので、この研究から得たデータから「放射線の影響だからこういうことになった」とは必ずしも言えないということになります。事故後の水不足や餌不足の影響、長い距離を移動したというストレスもあるかと思います。従って、このデータは参考として提供したいと思います。
  • 移送して3か月後には、体重は元通りになり、最も重いもので270kgになりました。
  • 発情した豚については種付けし子供を産んでもらいました。16頭のうち7頭が合計13回分娩しました。中には2回、3回、4回分娩した豚もいました。生まれた子供は雄が72頭、雌が73頭でした。奇形は4頭でした。平均でどのくらいの頻度で奇形が出るのかデータがなかったので比較はできませんが、今第2世代についても調べ始めています。
  • 第2世代は今のところ2頭が分娩し、雄が13頭で雌が10頭生まれました。奇形は出ていません。
  • 移送してきた雌16頭のうち9頭がなぜ分娩しなかったのかについて調べました。そうした豚の卵巣機能を調べたところ、排卵をしていない、繁殖周期が正常ではない、黄体ホルモンが正常に出ていない等の原因があることが明らかになりました。
  • 血液検査については、近隣の農家で育てられていた豚のデータと当牧場で生まれ育てられた第2世代のデータと比較したところ、赤血球等で有意な差がありました。赤血球は救済された豚の方で少ない傾向がありました。

結果のまとめ

  • 警戒区域内から東大附属牧場に救済してきた豚26頭のうち11頭が病死しました。救済された豚は南相馬市での累積外部被ばくは2.2ミリシーベルトであると推測されました。東京とニューヨークの往復フライトは約0.2ミリシーベルトで、自然放射線量の世界平均が2.4ミリシーベルトということを考え合わせると、この放射線量の値は安全域であると言えます。ただし、救済された豚が事故後にどの程度の放射性ヨウ素の被曝を受けたかは分かりません。
  • 豚は人間への臓器の異種移植の研究が盛んに行われていたことからも分かるように、人間のモデル動物としても幅広く活躍しています。今回は極めて不幸な事態から生じた調査用豚であるが放射線の人間への影響を知るに当たって極めて貴重なデータを与えてくれるのではないかと思い、引き続き研究を続けていきます。

果樹におけるセシウム汚染の経路

高田大輔、東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構助教

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背景

  • 福島県は果物の生産が盛んで、モモは全国2位、カキは4位、リンゴは6位の生産量です。
  • 果樹のような永年性植物は、単年性植物とは異なり、事故後一年だけでなくその翌年も、古い組織に蓄積した放射性物質が新しい組織に移行する、土壌から新しく入ってくることを考えなければなりません。
  • 果樹内での放射性セシウムの動きについては何も分かっていないという状況でした。

放射性セシウムはモモの樹のどこに移行しているか

  • 福島県内と西東京市の農場にあるモモの樹について、モモを収穫した後に、葉、枝、幹、根を部位ごとに採取し、放射性セシウム濃度を測定しました。
  • 各部位での放射性セシウムの相対的な濃度は、福島県と西東京市でほぼ同じでした。事故当時には出ていなかった組織(果実、葉、新梢)でも放射性セシウムは検出されました。最も多く検出されたのは古い枝(旧枝)です。根からはほとんど検出されませんでした。
  • 本試験のモモの樹の重量比は、果実:葉:枝・幹:根で1:1:4:4になっています。濃度に重量を掛けると、各部位の放射性セシウムの含量を求めることができます。すると、枝と幹で含量がとても多いことが分かりました。
  • さらに、枝のどの部分に放射性セシウム濃度が高いのかを層ごとに調べたところ、内側の材よりも樹皮で濃度が高く、圧倒的に最も外側の表皮で高いことが分かりました。この調査は事故後の8月に行ったものですが、最近の調査では材からも検出されるようになっています。
  • 材の放射性セシウム濃度は高くありませんが、重量は大きいので、含量としては辺材で最も大きくなりました。

モモの樹の中に残った放射性セシウムはどのように再分配されるか

  • 2012年1月に福島県内の果樹園で栽培されていたモモの樹を掘り起こし、土と細根を取り除き洗浄し、汚染されていない土に植え替えました。そうして栽培した後、先ほどと同じように部位ごとに採取し、各部位に含まれる放射性セシウム濃度を計測しました。汚染されていない土で育てたので、各部位に含まれる放射性セシウムは元々樹の中に含まれていたものと考えることができます。
  • 結果としては、濃度は葉と新根で多くなりました。含量は果実と葉で多くなりました。
  • 樹全体に5000の放射性セシウムが含まれているとすると、新生器官(果実、葉、新梢)にはその約2%である106が、旧器官には4849が、土壌には45が再分配されました。

土壌からの移行はどの程度あるか

  • フォールアウトを受けていない非汚染の樹(モモ、ブドウ)を福島県に持っていき、汚染された土壌で栽培しました。その結果、モモの移行係数は3.6~5.4×10^-4で、ブドウは2.0×10^-3でした。これらの値は野菜やイネと比べると低いですが、事故以降も土壌から放射性物質が移行しているので決して無視はできないということになります。
  • 事故時に土壌を被覆して栽培していたモモの樹と被覆せず栽培していたモモの樹を比べました。被覆をすることで土壌中の濃度は1/7~1/6まで抑えられましたが、果実の濃度はほぼ同じでした。従って、土壌にフォールアウトしたものからの移行は、直接樹にフォールアウトしたものと比べて、ごくわずかであると考えられます。
  • 植物の根の深さによる傾向を考えました。根の浅いイチジクは根の上の方から根が出やすく、根が浅くない(モモと同じくらいの)ブドウは全面から根が出ます。イチジクとブドウについて、二種類の土壌の汚染状況を作り、栽培しました。一つは表層が汚染されていて、下層は汚染されていない状況。もう一つは、表層は汚染されていなく、下層が汚染されている状況です。ブドウについては、下層が汚染されている方が果実中の放射性セシウム濃度は高くなりました。移行係数は表層汚染では0.00168で、下層汚染では0.00397で、下層汚染で約2倍となりました。イチジクについては、表層が汚染されている方が果実中の濃度は高くなりました。移行係数は表層汚染では0.0266、下層汚染では0.0071でした。ブドウとイチジクで全く逆の結果になりましたが、それは根の存在する位置が違うためであると考えられます。
  • 結果として、根の浅くない樹種では土壌表層の放射性セシウムを吸収しにくく、根の浅い樹種では土壌表層の放射性セシウムを吸収しやすい傾向がありました。モモは根が表層から10~20cmのところに多く発生しますので、土壌からの移行はそこまで多くないと考えられます。

モモ果実中の放射性セシウム濃度は予測できるか

  • 果樹内での放射性セシウムの動きはこの3年間の研究で大分明らかになった部分もありますが、放射性セシウムの動きを一つ一つ明らかにし、濃度予測をするまでの道のりはまだ遠いと言えます。
  • しかし、大切なのは、濃度予測ではなく、国が決めた基準値等の濃度を確実に下回るか判別することです。そのためには、果実の発育期間中の放射性セシウム濃度の変化を把握し、こうした変化が毎年同じかどうかを明らかにすることが必要です。残念ながらチェルノブイリ事故時には初年度のデータが不足しており、二年目以降のデータと比較することが不可能です。
  • 一緒に研究をしている福島県果樹研究所の2011年のデータによると、満開後30日からモモ果実中濃度を調べたところ、満開後30日が最も高濃度で、50日で激減し、その後は緩やかに低くなっていきました。2012年と2013年のデータも同様の傾向を示し、満開後50~60日で大体濃度は下がりきっていました。
  • この時期は、果実発育第二期に当たり、果実の肥大が一旦止まる時期でもあります。果実肥大は年ごとの様々な条件に左右されやすいので、この時期に濃度を計測することで、肥大の年次間差の影響を避けやすくなります。また、果実を選別する摘果作業を行う時期でもあるので、濃度を測定するための果実を採取することの影響が少なくなります。そこで、果実発育第二期に採取した果実を使って、成熟果の濃度を予測できるか確かめました。

満開後60日の果実を使って、成熟果の濃度は予測できるか

  • JA伊達みらい管内をはじめとした26の果樹園で、あかつきというモモの品種を3樹ずつ選び、満開後60日の果実と、成熟果の濃度を測りました。
  • その結果、満開後60日の果実と成熟果の濃度の相関係数はこの分野としては非常に高く0.9近くとなりました。
  • これほど高い相関係数であっても、外れ値は存在します。そこで、満開後60日の果実と成熟果の濃度のグラフに1:1の線を引いて考えることにしました。この線は、満開後60日の果実が30ベクレルであれば成熟果は30ベクレルであることを示します。グラフ上でこの線よりデータが下にあれば、成熟果の濃度は満開後60日の果実の濃度より低いことになります。
  • 1:1の線より上にも(成熟果の濃度が満開後60日の果実の濃度より高い)ぽつぽつとデータがありました。そこで、仮に規制値の10%である10ベクレルを安全側にとり、Y=X+10という線を引くと、全てのデータが線の下に収まりました。
  • 安全係数をいくつにするのかという問題はありますが、こうした手法を使えば、放射性物質濃度の高い樹体をピックアップし、そうした樹体の満開後60日果実の濃度を計測することで、成熟果濃度の予測が可能になり、労力の分散に繋がります。

東京大学大学院農学生命科学研究科における放射線教育について

田野井慶太朗、東京大学大学院農学生命科学研究科附属放射性同位元素施設准教授

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原発事故後、農学生命科学研究科はどのような研究をしてきたか

  • 原発事故後、大学本部に設置された救援・復興支援室に、農学生命科学研究科の研究プロジェクトが登録されました。本研究科には多くの附属施設がありまして、それぞれがこのプロジェクトで活躍しています。私が所属している附属施設である放射性同位元素施設は、サンプルの放射性物質の測定を担当してきました。さらに、福島県農業総合センターや地方自治体との強い協力体制、結びつきのもと進めました。
  • 本日は畜産物と果樹についての話題提供がありました。その他にも、第五福竜丸の事故の時にマグロの調査をした研究室は、今回、水産物の研究をしています。また、福島県小国地区で山林やイネの研究をしている研究室もあります。農学部は食品について研究をするところですが、食品には自然環境の全てが関わってくるので、非常に多岐に渡る専門家が連携を取り合っています。
  • こうした研究の成果は農学部の報告会で情報提供されています。農学部のホームページでは、これまでに開催した8回全ての報告会の動画やスライドが観られますので、是非ご参照ください。

放射線教育はなぜ重要なのか

  • 放射線教育の重要性を私なりに考えてみました。一つ目は、誤解からくる風評被害を防ぐということです。例えば、汚染水が漏れたという発表があって、確かにそのことは由々しき自体ではありますが、少しでも知識があれば、それがそのまま農作物に影響を及ぼすことにはならないと分かります。しかし、全くの知識がない場合、汚染水のニュースを基に福島県産農産物を避ける自体が起り得ます。二つ目は、問題対応の最適化がしやすくなるということです。徹底的にモニタリングをすることは良いことですが、一方で多大なコストがかかります。どの時期にどの程度のモニタリングをすべきかを判断するためには、放射性物質がどのように農作物に入っていくのか把握することが必要です。三つ目は、半減期30年のセシウム137との長い付き合いがあるからです。将来を担う学生には、基本的なデータを知ってから卒業してもらいたいと思っています。彼らが社会の中軸を担う世代になっても放射能汚染に関する諸問題は存在するでしょう。
  • 放射線教育をするに当たって重要なのは、環境中の放射性物質がどのように農作物に入り得るのか、実際のデータに基づいて、どのように学生や一般の方に実感してもらうかだと思います。そのために、農学部の取り組みで得た知見をいち早く、講義や実習といった教育プログラムに盛り込むようにしています。実習については、自分で草を刈り取って、自分で土を採取して、自分でフンを取って・・というように、自分で行うということに非常に意味があると考えています。すなわち、単に座って講義を聴くだけでは教育効果は限定的です。

どのような放射線教育を行っているか

    • 平成24年度からアグリコクーンに「農における放射線影響フォーラムグループ」を立ち上げ、教育プログラムを実施することになりました。アグリコクーンは元々本研究科にあった教育プログラムで、専攻の枠を超えた大学院教育が行われており、さらに大学院生だけでなく学部生への教育を提供する場にもなっています。
    • このフォーラムグループに参加している教員は現在23名です。
    • 講義は月曜日の6限に「農業環境における放射線影響ゼミナール」を実施しています。6限は20:10までの時間枠で、農学部以外の学部からも学生が参加できるようになっています。本日発表した細野先生や高田先生も講義をしていて、先生たちが行っている研究について紹介し、あわよくば次の実習に来なよと言えるような距離感になっています。
    • 講義の資料と学生のショートレポートは、ホームページに全て掲載されています。ショートレポートは匿名ですが、これを公開することで、他の学生が何を考えているか、自分の考えと何が一緒で何が違うのかを知るきっかけになると思います。
    • 実習の事例をご紹介します。飯館村に、学生10名と教員5名で行きました。到着してまずは溝口先生によるオリエンテーションがありました。次にモニタリング装置がどのように稼働しているかを見学しました。そして、山や農地の汚染実態を自分で測定することで体験しました。さらに、水田でのイネの試験栽培の様子を見て、収穫の手伝いもしました。
    • 平成25年度からは牧場実習のカリキュラムに放射線教育を組み込みました。座学はクイズ形式で進めました。その後に、実地でサンプリングや計測をしました。

<クイズの例>
●ホウレンソウには放射性カリウムが含まれているが、どのくらい含まれているか?
(1)2ベクレル/kg (2)20ベクレル/kg (3)200ベクレル/kg
正解:(3)
放射性セシウムの基準値は100ベクレル/kgですが、放射性カリウムは200ベクレル/kgも含まれています。
●放射性カリウムはいつからあるか?
(1)宇宙ができた時から (2)地球ができた時から (3)常に大気中で作られている
正解:(2)
地球が形成される過程でたまたまカリウム40が近くにあったのです。(3)も実は正解で、自然界でもある確率で少し作られています。ただし、元々地球上にある量に比べたらごくわずかです。
●自然にある放射性カリウムと人間が作った放射性セシウムは、同じ1シーベルトの場合、どちらが危険か?
(1)放射性カリウム (2)放射性セシウム (3)同じ
正解:(3)
同じ1シーベルトであれば、リスクは同じです。綿1kgと鉄1kgで重さは同じ、というのと一緒です。
●事故直後に高い濃度の放射性物質が検出した野菜はどれか?
(1)ホウレンソウ (2)キュウリ (3)ジャガイモ
正解:(1)
ホウレンソウは食べる部分である葉に大気中の放射性物質が直接付着しました。キュウリはビニールハウスで栽培することが多く、棚を作って栽培するので、直接付着しにくくなっています。ジャガイモについては、放射性物質は土の表層に溜まり中まで入りこまず、また、事故のあった3月の時点ではまだ作付けをしていなかったため、あまり検出されませんでした。

  • 森林でも実習を行いました。森林でモニタリングを行い、一つの流水域から民家の方へどれだけ放射性物質が流れていってしまうのかの算定等を行いました。また、ネズミや鳥、樹冠流について放射性物質の測定を行いました。
  • 大学では高校生を対象にしたキャンパスツアーを開催していて、その一つとして研究室見学を行っています。放射性同位元素施設では、植物内の元素がどのように動くのかを放射性物質を使って見てもらった他、原発事故に関する調査のお話もしました。参加した高校生の感想文には、「福島県が受けた被害は物質的なことだけではなさそうです」「イメージが打撃になっているのではないでしょうか」等の記述があり、高校生なりに深く考えてもらえたようです。
  • 学生が主役のシンポジウム「原発事故と学生」を開催しました。いつもは教員が発表をしますが、これは学生がプログラムを作り、司会や発表も学生が行いました。私の役目は最初に放射性物質を測定する施設を案内することでした。
  • 五月祭ではアグリコクーンの企画で、飯館村出身の二人の学生を迎えて東大の学生二人と共同でシンポジウムを開催しました。飯館村出身の学生の他、農業をされている方からお話を聞きました。
  • 関崎先生から紹介がありましたが、サイエンスカフェが複数回開催され、一般の方と触れ合う機会となりました。
  • このように、「調査研究」から「放射線教育」へ、できるだけ現地の様子を実感してもらえるような教育を展開してきました。
  • 中高生から一般の方まで、初歩的なことから専門的な研究の内容まで、様々な層の人に合わせ、体験を取り入れた教育を提供していきたいと思っています。これだけ教育を展開できるのは、本研究科での研究が充実しているからです。研究と教育を二つの歯車にして共に回していくことが重要ではないかと思います。

総合討論(一部抜粋)

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質問用紙

モモの樹中の放射性セシウムをより早く少なくするにはどうしたら良いですか?

高田

現在継続中の試験ですが、フォールアウトを受けたモモの樹において、新しい枝から出たモモと古い枝から出たモモで、放射性セシウムの濃度を比べています。古い枝に含まれる放射性セシウムの方が圧倒的に多いので、枝を更新することで早く放射性セシウム濃度を低下させられるかどうかを検討しています。ただ、3年ほど経てば基準値よりも濃度は十分に下がるということであれば、こうした処理をすることはただの減収になりかねません。モモの経済寿命は長くても20年ほどなので、そろそろ更新するだろうというタイミングの樹があれば時期を早めて更新するのも一つの手だと思います。

質問用紙

研究対象として、チェルノブイリ事故後今でも問題になることのあるブルーベリーではなくイチジクを選んだのはなぜですか?

高田

農場にイチジクの樹がたくさんあったからというのが本音ではありますが、根の浅い樹種の代表としてイチジクを選びました。福島県でもブルーベリーやキウイで放射性セシウムが検出されていますが、それらは根が比較的浅い樹種ですので、土壌中の放射性セシウムの影響を強く受けると考えられます。現在、チェルノブイリで生のブルーベリーが問題になっているとは聞いていませんが、ジャムではそういう話を聞きます。ジャムに加工すると水分が飛んで濃縮されるので濃度が高くなります。生の段階では規制値以下でも、ジャムとして輸入する段階で規制値に引っかかってしまうと考えられます。

関崎

100ミリシーベルト以下で健康影響はない、というのはよく出てくる話ですが、そのことについて改めて教えてください。

田野井

100ミリシーベルトの被ばくでわずかにがんによる死亡率の上昇が認められる、という疫学調査がありますが、それ以下では健康影響は確認されていないということです。

関崎

疫学調査で確認されていないというのは、健康に影響を及ぼすものは放射線以外にも色々あって、放射線の影響がどうか分からないから「確認されていない」ということですか。

田野井

はい。ちなみに、シーベルトというのはきつい言い方をすると放射線を浴びて死んでしまう確率なので、単に発がんのリスクを表しているわけではありません。発がんして治ることもありますから。生活習慣病等のリスクもある中で、100ミリシーベルトという値は、ぎりぎり放射線の影響で亡くなることが確認されている量であると認識しています。

質問用紙

生まれてきた豚の奇形とは、どういうものですか?

雄と雌の性器を持って生まれてきたものが1頭、脚が曲がって生まれてきたものが3頭です。2頭は同じ母豚から生まれ(16頭中)、他の2頭は別々の母豚(各10数頭中)から生まれました。

関崎

そのくらいの頻度で奇形が生まれるというのはよくあることですか?

奇形はたまに生まれますが、このくらいの確率で、というのは論文にはなっていません。

質問用紙

調査に使われた豚は安楽死処分するのですか、それとも食用にされるのですか?

食用にはしないと法律で決まっています。また、病気になった時に安楽死処分することはありますが、調査をするために安楽死処分することはありません。

質問用紙

放射線教育を教育テレビ等で行うことはできませんか?情報が少なすぎると感じます。

田野井

そうした要請があれば当研究科の教授陣が素晴らしい授業を展開するのではないかと思っています。報告会等の動画は東大TVというサイトで流れています。ただ、情報が少なすぎるかどうかで言えば実態は逆で、現在は情報過多で、本当に必要な情報が見えにくくなっているのが実際の状況なのではないかと思います。やはり、我々教員が外に出て行って、こうした場等で情報発信することが大事だと思います。

会場

放射性物質の基準値の設定には、科学的根拠の他に法律的根拠というものがあると思います。農薬の基準値も同様だと思います。そうしたことの教育はどのようにされていますか?

田野井

他のリスクに関する基準値の決まり方について私はこれまで講義をしたことはありません。他のリスクとの比較については、細野先生の授業等で紹介があります。

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