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お知らせ

第28回サイエンスカフェ「食物アレルギーを知ろう!——適切な情報を適切な人へ——」開催報告

掲載日: 2017年11月14日

足立はるよ先生写真

話題提供者の足立さん

2017年9月7日第28回のサイエンスカフェ「聞いてみよう!食物アレルギーのこと——適切な情報を適切な人へ」を開催しました。

この日のテーマは食物アレルギー。話題提供者は東京大学大学院農学生命科学研究科 食の安全研究センター 特任助教の足立はるよさんです。体をつくり健康を守るための食べ物、その食べ物によって起こる食物アレルギー、食べるだけでなく肌に触れることによっても起こる食物アレルギーの仕組み、そして少しずつ食べることによって症状を改善していく現在の食物アレルギー治療など、大きく転回している食物アレルギーの最新の状況について、臨床からの視点も交えながらお話しいただきました。

参加者からは様々な角度の質問が出て、食物アレルギーへの関心の高さと、関連情報へのニーズの多様さが見られました。正しい理解を深め、より多くの方にその理解が広がればと、熱心な対話が続きました。



○第28回サイエンスカフェ配布資料(pdf)(クリックすると開きます)
※以下、記載がない場合の発言は足立氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

食物アレルギーをめぐる“コペルニクス的転回”

    食物アレルギーの研究を始めたきっかけは、自分がお母さんになって、もし自分の子どもが食物アレルギーだったとき、どういう食事を与えていくのかと疑問を持ったことでした。そこで、食物アレルギーの発症機構の研究に取り組むことにしました。
    本日は、その食物アレルギーの話題の中でも、特にアレルゲンの基本的理解についてお話ししたいと思います。資料の表紙の絵にあるこの人は誰でしょう。コペルニクスですね。彼はどういうことを言った人でしょうか。
参加者

地球が動いている。太陽の周りを回っている。

足立

そうですね。それまで、太陽が地球の周りを回っているという通説になっていた中で、彼は天体観測など科学的な解析をして、地球が太陽の周りを回っていると言いました。この命題については、それ以前にガリレオが、地球が回ってると言い張ったために宗教裁判にかけられたりもしています。それぐらい通説をひっくり返す大変なことを言った人だったんですね。実は、食物アレルギーの治療も、コペルニクス的転回の状態にあります。180度ものの見方が変わってきている、その要点についてこれから2つお話しいたします。

    • 1つ目は、食物アレルギーの始まりについて。専門的な言葉では「感作」といいますが、食物アレルギーがどうやって始まるかということです。これまで、食物アレルギーは食品を食べることによって始まると考えられていました。それが、食べる、経口で食べ物や薬が口の中に入る以外に、皮膚に触れる、経皮感作、小麦粉などを気管から吸い込む、経気道感作、そして食品以外の動植物と触れ合うことで、食物アレルギーが引き起こされる、これは交差反応といいますが、これらをきっかけとして、食物アレルギーは発症すると考えられるようになってきています。

アレルギーとは何か?キーワードは「抗原特異的」、「免疫の機序」

    食物アレルギーについては、日本小児アレルギー学会などが、ガイドラインを発表しています。こうしたガイドラインに基づいて治療などが行われます。

    • 2005年の食物アレルギーの定義は「原因となる食物を摂取することにより免疫学的機序を介して生体にとり不利益な症状が惹起される現象」として定義されています。ところがその後、ある石けんを用いて顔を洗い続けていた方々が、ある日パンやうどんを食べてアナフィラキシーになってしまうという事故が多発したんです。その原因を突き詰めていくと、その石けんの成分に、肌をすべすべさせるような機能を持つ成分として小麦粉の分解物が含まれていました。その成分で感作が生じて、ある日、小麦粉製品を食べるとアナフィラキシーが起こるようになってしまったということがわかったんです。
    • このことが契機となり、皮膚からの経皮感作によっても食物アレルギーが起こるということで、2016年のガイドラインでは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫機序を介して生体にとって不利益な症状が誘起される現象」と定義され、2005年のガイドラインにあった「摂取」という言葉は除かれた形となりました。
黒木

免疫と聞くと、何か病原体が入ってきたときにやっつけてくれる、私たちにとってすごいいいことをしてくれるように感じるんですけれども、アレルギーを考えると、実は免疫が悪いほうに働いてしまうことがあるということでしょうか。

足立

そうですね。基本的に免疫系の働きは、例えば私たちの中に、今お子さんたちにはやっている手足口病のウイルスのような病原体が入ってきたときに、それによって私たちの生命が維持できなくなるのを防ぐために、それを攻撃して追い出すという仕事を、免疫系のさまざまな細胞がしてくれているというものです。病原体やがんなど私たちの命を脅かすような異物、私たちと相容れないものが入ってきたときに、その異物から私たちの身を守るという働きをしてくれています。

    • 食物はどうなのか。基本的に私たちにとって食物は栄養素です。栄養素として私たちは食物を摂取し、健康を維持しています。しかし、考えてみると、例えば私たちは牛乳を飲みますが、牛乳は牛のもので、牛は人間ではありません。そのため、牛乳は異物ですが、私たちの体はその異物を健康を維持してくれるような形に変えているんです。その「変える」1つの仕組みが消化です。消化によって分解して体の中に取り入れていく。ただ、分解しきれないで取り込んでしまうこともあったりします。つまり基本的には、食物でも、取り入れた段階では異物として認識して追い出そうとします。
    • ただし、食品は病原体の場合とはちょっと違って、食物たちは危険なシグナルを出さないんですね。病原体は、デインジャーシグナルといって、「危険だよ、私たち、違うんだよ」とシグナルを出していますが、食物はそのシグナルを出さないので、危険じゃないというふうに免疫系が認識します。それで攻撃じゃなくて仲良くしようという反応が強まり、追い出されないで共存しているという形になります。それがうまくいっていないというのがアレルギーになります。似たような疾患として、自己免疫疾患という、自分の体の成分を攻撃してしまうという病気もあって、その攻撃の対象が食物になったというのが食物アレルギーということになります。ここまでが転回の1、食物アレルギーの始まりの話でした。

治療での“コペルニクス的転回”

    2は、治療の話になります。現在進められている食物アレルギーの治療は、「少しでも食べよう」という形に変わってきています。私の子どもは、小さいときに卵アレルギーが少しありました。そのため、卵は食べないでおきましょうという期間があったんですが、保育園に行ったとき間違って卵が出たことがありました。そのころは治療として全く食べてはいけないということになっていたんです。しかし、今は少しでも食べたほうがいいんだよと、大きく変わってきています。先ほど、入って来たものと仲良くしようという応答があるという話をしましたが、その応答を、「食べる」ことにより少しずつ育てたほうがいいということに変わってきている、と理解していただければいいかと思います。

    • この少しずつ食べようというのは危険も伴うんですね。食べるとアナフィラキシーになって、呼吸困難になって、本当に最悪の場合は亡くなってしまうところまで至りますので、食べるということについて、学会としてはすごく制限を加えていました。ところが2017年6月16日、鶏卵アレルギーの発症予防に関する提言が学会から発表されました。ここでは、卵を扱っている専門新聞のネット版をお示しして、その提言をご紹介します。食物アレルギーに特になりやすいとされるアトピー性皮膚炎を持った乳児については、離乳食が始まる生後半年ぐらいから少しずつ食べさせましょう、ということで、食べさせる量が書かれています。普通の卵の1,000分の1ぐらいを食べさせていくと、最終的に1歳を迎えた頃にどのぐらいのお子さんが卵を食べられるようになるかの試験を、みんなでやりましょうということになったんです。
    • 基となる研究は、『ランセット』という臨床の雑誌に報告されています。ちょっとリスクの高いお子さんをピックアップして、卵を少しずつ食べさせるお子さんと、食べさせないお子さんで、半年後の卵アレルギーの発症率を比較したというデータになっています。すると、食べさせているお子さんに関して有意に発症率が下がり、倫理的に問題だということで臨床検査をストップするほど差が出たんです。バックグラウンドを経まして、学会としても、卵アレルギーをまず予防しようということになったわけです。なぜかというと卵アレルギーのお子さんが非常に多いからなんです。それを抑えるために、積極的に食べることを学会としても勧めるようになったことが、この提言の重要なところです。今まで食べてはいけないと言われていたのが、少しずつ食べましょうと、大転換したことを如実に表している提言ということになります。
    • 医療としてはよりよい治療を皆さまに提供していくわけですが、その変化がこれだけ大きいと、やはり一体何が正しいのかなという不安を患者さんに与えることにもなってしまうんですね。今まで食べちゃいけないって言っていたじゃないかと。食べて起こるんじゃなかったのか。皮膚で触れてもいけないのか。 このように、患者さんの不安を大きくしてしまいます。その中で、治療を受ける側として、どうすればいいのか。やはり、それは治療の科学的バックグラウンドを少しでも理解し、知識を得ることによって不安を軽くすること、自らが積極的によりよい生活ができるようにしていくことではないでしょうか。それが今日のサイエンスカフェの1つの目的でもあります。
参加者

鶏卵アレルギーを例に挙げておられましたが、他のアレルギーに関しても、少しずつ摂取しようという方針は変わらないということですか。

足立

変わらないです。今、科学的、臨床的な報告として、世界的にコンセンサス(意見の一致)を得ているアレルゲンとしては卵とピーナツについての報告があります。卵に関しては日本が非常にいい報告を出しているということです。

アレルゲンを知ろう

    今日はアレルゲンについての基本的理解として次の4点についてお話しします。
    ・アレルゲンを知ろう。
    ・なぜアレルギーが起こるか、メカニズムを少し知ろう。
    ・低アレルゲン化食品の開発原理を知ろう
    ・そして4番、交差反応性について知ろう。
    その1、主なアレルゲンの主体となる成分は何か。実はタンパク質です。実は糖質も少しアレルゲンとして注目されていますが、圧倒的な多数がタンパク質なので、今日はタンパク質について説明いたします。

    • タンパク質は私たちが食べると、消化されます。タンパク質をこれ以上分解できないところまで分解してできてくる分子はアミノ酸になります。化学式は資料のとおりです。水に溶かすとアミノ酸は、プラスとかマイナスに、電荷します。そういう性質があるんですね。
    • 資料の図ではアミノ酸を模式化して説明しています。アミノ酸が数個つながったものをペプチドといいます。それがさらにつながったものをタンパク質といいます。一次構造と書いてありますが、基本的には数珠つなぎになっています。先ほどお話しした電荷したアミノ酸どうしがお互いが引き合って、ジグザグな構造をとったりします。さらに、二次構造となり、さらに複雑な構造をもたものが三次構造。この複雑なのがさらに組み合わさって、高次構造という形になります。例えば、私たちの消化に働く酵素はタンパク質でできていて、こういった複雑な構造をとっています。
    • さて、次の食品の中で、アレルゲンを含まない食品はどれでしょう。鶏卵、牛乳、バナナ、マカデミアナッツ、いくら、うどん、えび。実は、どの食品もアレルゲンとなるタンパク質を含みます。では、どの食品が一番多くタンパク質を含むでしょうか。
参加者

鶏卵、バナナ…。(何人かから異なる回答が出る。)

足立

バナナではないです。どれでしょう。答えは「いくら」です。大体30%ぐらいです。100gのいくらで30g。でも、100gいくらを食べるのは大変なことなので、実際の摂取量としてのタンパク量は少ないと思います。バナナとマカデミアナッツに関しては1%ぐらい。牛乳は3%、鶏卵は12%ぐらい。うどんは10%、えびが20%ぐらい。タンパク質を含まない食品っていうのはほとんどないんですね。どの食品もアレルゲンとなるタンパク質を含みます。

    • アレルゲンとなるタンパク質をいろんな食品が含んでいて、私たちがその食品を摂取する結果、アレルギーになります。お子さまから成人の方までいろんな方が食物アレルギーを持っておられますが、発症時の年齢によって食物アレルギーの主な原因食品は異なります。
    • 資料の図では、横軸が年齢。縦軸は上からアレルギーになりやすい順番です。新規発症原因食物、新しく初めて食べてアレルギーを発症したものが何か。食べ物を1,706名の方を対象に調査した結果です。0歳、1歳では鶏卵、牛乳、小麦、魚卵といったものが上位に来ています。大きくなると、だんだんそれらの順位が下がって、牛乳はもう2~3歳では上位には入ってこない。ところが年齢が上がるにつれて、果物、甲殻類、それから小麦といった植物性食品のような、ちょっと違う種類のものがアレルゲンとして上位を占めるようになってきます。乳児期は鶏卵・牛乳・魚卵。幼児期は鶏卵・ピーナツ・果物。小学生以上になると、甲殻類。えび・かに、そして、さらに果物、小麦と、年齢によってアレルゲンが変わってくることが分かっています。

なぜアレルギーは起こるのか。メカニズムを知ろう

    先ほどの質問で免疫とのについての質問が出ていました。基本的に、本来外敵ではない食物アレルゲンに向けて免疫系が攻撃してしまう反応が、食物アレルギーのメカニズムです。ここからの説明には、免疫系の細胞がいくつか出てきます。

    • 例えば、牛乳を飲んだすると、その中に3%ぐらい入っているタンパク質を摂取しようとする。私たちの体はそれを消化して、ペプチドの状態、もしくはアミノ酸のレベルで取り入れていきます。それらをいったい誰が食べるのか。私たちの消化管の粘膜上には、それを食べてくれる細胞がいます。樹状細胞といいます。樹状細胞がモグモグ食べることを、貪食といいます。触手を伸ばして捕まえて食べるというふうに言われています。
    • その中で、分解する場合もあるし、分解されない場合もあるんですが、細胞の中に取り込んで、「牛乳っていうやつが入ってきたんだよ」と、抗原提示をします。すると「牛乳っていうやつが入ってきたんだ」と分かる細胞がいます。これにはB細胞とT細胞、2種類いますが、まず認識するのはT細胞です。このT細胞は、提示されたものを、自分の持っているT細胞レセプターという分子を発現して、「牛乳だよ」ということを見分けることができます。見分けた結果、こんなやつが入ってきた、「そうかい、そうかい」といって、初めのほうでお話ししたように、こいつは「仲良くしてもいいやつ」だと認識して、仲良くしようという応答を始めます。これが普通の応答です。
    • ところが、それがうまくいかなくて、「そうかい、そうかい」と言ったものの、いろいろな加減から認識した結果、Th2タイプの応答という、アレルギーにしやすいような応答が強くなってしまうことがあります。この応答になった場合、アレルギーとして攻撃しようというシグナルがB細胞に渡されます。B細胞自体も実はこの牛乳を見分けることができるんですが、そのお互いの相互作用の中で、牛乳っていうタンパク質は私たちにとって危険なものだから攻撃してやろうと決める。その結果、B細胞は一生懸命抗体を作るようになります。
    • アレルギーの人は、このTh2タイプの応答によって、B細胞が、アレルギー患者さんでなければ普通は作らないIgE抗体というのを作るようになってしまいます。そこがアレルギーの方の特殊性ということになります。その後、粘膜にいるマスト細胞という細胞に、このIgE抗体がくっつきます。そして、抗体をつけたマスト細胞が消化管の粘膜に配備され、次のアレルゲンの侵入に備える。次の敵が来たらすぐやっつけてやろうよというふうに備えている、その状態が出来上がることを「感作」といいます。
    • 実はこの感作までは、私たちは体の中で何が起こっているかを知りません。それで、次にもう1回牛乳を飲んでしまう。牛乳をもう1回飲んで、タンパク質を入れて、消化する。ところが、今度はその消化管にマスト細胞がIgE抗体をくっつけて待っています。すると、入ってきたペプチドとIgE抗体がお互いにくっつく。そして、これは攻撃するということだよと、指令が入る。
    • この結合は、「これは攻撃していいやつだよ」という指令を入れることになります。その結果、ヒスタミンなどの化学物質を放出し、感作のあともう1回牛乳を飲んだ人は呼吸ができなくなったり、血管が収縮・拡張し過ぎたり、下痢やじんましん、アナフィラキシーというような疾患を発症していくことになります。感作と発症、2段階あるわけです。1回目に飲む時の感作は、私たちが全然意識してない、それでもう1回飲んでしまう。飲んでしまった結果、発症する。こうした症状は、死にも至ることもあるアナフィラキシーショックというものも引き起こしますので、非常に重要です。それで、ここをメインに食物アレルギーの治療というのは行われています。
    • では、症状がずっと続いて慢性化してくるというようなときは、どうなのでしょう。先ほどの説明で、樹状細胞がモグモグ食べてました。そして、T細胞に指令を出すと言いました。このとき、好酸球という別の種類の細胞にも指令を送っている場合があります。そうすると、腸管の上皮細胞とかを直接攻撃して組織の変形をもたらしてしまい、普通の消化ができなくなって、消化吸収機能を損なうという障害を起こしてしまう。この症状は特に新生児の患者さんで数も多くなり、起こってくる病態が非常に重篤ということで、今これについての治療が進められているところです。
参加者

先ほど、抑制のところでT細胞と書いてありましたが何のTなんでしょうか。

足立

これは初めて牛乳に出会ったT細胞です。ナイーブといいます。出会ったばかりなので、自分がこれからどういう方向に攻撃を進めるかは決めてないんですね。

参加者

分化してない。リンパ節に行って初めてTh2になるんですか。ナイーブから分化すると何にもなれますけど。

足立

はい。ナイーブからTh2にも、仲良くしようという働きをするT細胞にも分化します。実はアレルギーの患者さんでは、両方同時進行しています。仲良くしようとするT細胞と、攻撃しようとするT細胞の力関係で、Th2が非常に強くなる。それが疾患ということなんですけれども。

参加者

それは量的な割合と考えてよろしいですか。

足立

そうですね。そのバランスを調節して仲良くするほうを育てようとするのが、先ほど言いましたように、ちょっとずつ食べるという治療の流れになります。食べてはいけないということから、食べるということに変換しようといった研究の流れは、食べさせて、どっちに分化させるか、という段階で、少しずつ食べているほうが仲良くしようというほうの応答を強めることが分かってきたので、むしろ食べたほうがいいんじゃないかと、認識が変わってきたということです。

樹状細胞やマスト細胞はどこにあるのか

    そもそもその樹状細胞はどこにあるのでしょう。私は食物アレルギーのモデルマウスを研究しています。これは小腸の図です。この細長い1本1本が腸管にある絨毛で、図の上が消化物が通るほうですね。下が血液で、私たちの体の中に行くほうです。樹状細胞は粘膜固有層というところにいます。また、腸管の中に、リンパ節様の構造を持っているパイエル板というものがありますが、そこにもたくさんいます。こうした粘膜のところに配備しています。

    • 一方マスト細胞はどうかといいますと、食物アレルギーのモデルマウスで、マスト細胞が紫色に染まるという試薬を使って比較してみると、普通のマウスの場合にはマスト細胞は点々と散在しているようなんですが、炎症がひどい状況になってくると粘膜下層にも、絨毛といわれる消化に直接働くほうにも、どんどん出ているような状況で配備されるということになります。(スライド19)
    • スライド20では、IgE抗体が茶色に染められています。例えば左側の写真の細胞では、周囲がIgE抗体で染まっていて、中が顆粒の紫で染まっています。組織にこういう紫の顆粒が出ていたりするんです。このような状況で消化管に配備されているわけです。そこに、自分が攻撃していいという対象が入ってくると、この場でアレルギー応答が始まることになります。右側はマスト細胞の図で、樹状細胞は染めていないんですが、樹状細胞も同様の状況と考えてください。このように、IgE抗体は患者さんの血液にあってアレルギーを起こすもととなります。これは、健常な人にはありません。

食物アレルギーのメカニズム、もう一歩深く

    アレルギーは、免疫系の攻撃対象となったアレルゲンに対するIgE抗体が患者さんの中にできて症状が現れます。「抗原特異性」といいますが、IgE抗体には抗原特異性があり、だからこそ患者さんのアレルゲンを特定できるということになります。食べてすぐ吐いたり、じんましんがバーッと出てくる、そういった即時型のアレルギーでは、IgE抗体が重要な働きをしています。
関崎

病原体を攻撃するときは、同じ抗体でもIgGですね。何でアレルギーの人はIgE抗体なんですか。

足立

それは、Th2に行くとアレルギー応答になると決めています。病原体に対してはTh1という種類の応答になります。

関崎

ならばTh2はないほうがいいんじゃないかと思いますけど、まずいんですか。

足立

それはまずいんです。寄生虫の感染症のときは、実はIgE抗体が大事な働きをしてくれています。そのためTh2の応答も非常に重要なんですが、それが食物に対して向けられたというのが食物アレルギーです。今、それがなぜ食物に向けられるようになってきてしまったかというと、私が子どもの頃は小学校とかでギョウ虫検査がありましたが、今はないですよね。それぐらい世の中が衛生的になってきたために、免疫系のTh2の応答がギョウ虫に向かわないで、食物とか花粉とかに向いてしまったっていうのが、アレルギーの患者さんがこれだけ増えているという背景になります。

参加者

衛生仮説は、今のように、少しずつ食べさせようという指針が出た段階においても否定されてないということですか。

足立

そうです。複雑なところですが。例えば、最近、牛小屋で生活をしている人のほうがアレルギーになりにくいという報告が出ています。それは、牛などにいる細菌にくっついている糖質のタイプが程よく抑制の免疫応答を強めるという仮説で、最近結構報告が出てきています。私は、病院とか治療の現場にも出ていて、お母さん方の中には「お部屋に馬ふんを吊り下げておいたほうがいいんですか」と質問される方もいます。ただ、馬ふんと一緒に生活というのはとても考えられないですよね。もしそうしようとすると、どのくらい菌量が必要かというと、牛数頭と一緒に生活するイメージなんです。しかしながら、この仮説は結構強く言われています。ただ、私たちが都心のマンションで実際に牛と生活するのは難しいので、タブレットにして、そうした糖質を取り入れるというようなことも考えられ始めているという話も出てきています。メカニズムはまだ分かってないので、これから研究されていくと思います。LPSという名前で出てきたりしますので、注目していくとよいかと思います。

黒木

私も細菌学の研究室にいますが、牛じゃなくても、そこら辺に細菌なんていっぱいいるんじゃないかと思っちゃうんですけど、やはり牛小屋とかのほうが過密にいるんでしょうか。

足立

犬では意味がないと、私は聞いたんですけど、どうでしょう。また、牧草関係がいいとも聞きます。「ペットを飼ったほうがいいですか」とも聞かれますが、ペットを飼って、今度は犬のフケとかによるアレルギーというのを生じてしまうということもあります。牛と住んでいれば牛のアレルギーにならないのかっていうと、それもどうかなとも思うので、まだその辺は研究段階と思っていただければいいかと思います。

    • 先ほどの衛生仮説というのは、ギョウ虫を飼ってるほうがアレルギーにならないんじゃないかというお話なんです。ただ、ギョウ虫を体内に飼うと、体が不調になりますよね。それで、ギョウ虫は排除していく方向で私たちは進んできたわけです。その結果、ギョウ虫の排除に向かった免疫反応がアレルギ−に向いてアレルギーが増えたと言われますが、それではというので、ギョウ虫と一緒の生活ではなく、代わりに今は牛との生活というようなことが言われているという感じですかね。ですから、衛生仮説が完全に否定されているということではありません。
    • 食物アレルギーのメカニズムとIgE抗体とアレルゲンの関係をを整理しましょう。牛乳を飲むと、牛乳のタンパク質が出てきて、その一部のペプチドがIgE抗体に結合して反応を誘起します。ただ、注意すべきなのは、アレルゲンは、アレルゲン化するとIgE抗体に結合するとなりますが、IgE抗体の側からすると、アレルゲンを見分けている、認識しているということです。牛乳が入ってきたので結合しよう、卵が入ってきたので結合しようというふうに、卵なり、牛乳なりによって、それぞれ違うIgE抗体ができていて、見分けている、認識するということです。
    • 先ほどの2016年のガイドラインでは、「食物アレルギーは抗原特異的な免疫機序によって起こる」と定義されていますが、その「抗原特異性」というのが、今言った、見分けている、識別しているということです。認識しているという言葉に代表されていますように、IgE抗体と結合するペプチドとの関係は、基本的には牛乳用に作られるものは牛乳用、卵用に作られるものは卵用というふうに1対1の関係にあります。たくさんあるアミノ酸のつながりの中で、あるペプチドと結合するIgE抗体は1の種類。それを抗原特異性といいます。あるIgE抗体が結合、認識するアレルゲンは、基本的には厳密に決まっています。私の血液の中にあるIgE抗体は何のアレルゲンに結合するかを調べる。これが、アレルギーの検査です。この検査が患者さんのアレルゲンの特定につながっています。
    • IgE抗体が結合するものは、卵用、牛乳用と決まっている。体の中にIgE抗体がたくさんありそうだと分かったら、血液検査に出して、どのアレルゲンに結合するかを調べます。すると、患者さんにとってよくないアレルゲンとなるものを特定するということにつながっていきます。

アレルゲンコンポーネントについて

    アレルゲンってどういうものか、イメージがつきにくいですね。ここではアレルゲンをどうやってアレルゲンを見ることができるのか、お話しします。

    • 例として、ここでナッツを取り上げます。ナッツをグチュグチュ水といろんな液と一緒につぶし、ミキサーにかけます。ミキサーで高速回転をすると、沈殿を終えて上清というのを得ることができます。先ほど電荷というお話をしましたが、ここには水に溶けるタンパク質がたくさん含まれています。それをいろいろな装置で流していって、タンパク質の大きさごとにふるい分けて見ることができるような膜に写します。(スライド25)。
      マーカーといわれる基準があって、タンパク質分子の大きさを見る基準になります。数が大きいほうが分子、タンパク質の数珠つなぎがより長いというふうに考えてください。小さいと、アミノ酸のつなぎが小さいということです。遠心した先ほどの上澄み部分をここに一緒に流す。それで、その電荷の性質とか、分子の大きさとか、そうした性質を利用してタンパク質を分類していきます。
    • この膜によって分類した結果を画面に示します。1つ1つのバンド1本ずつが1つのタンパク質に相当します。ナッツの中には1つのタンパク質が含まれているのではなくて、いくつものタンパク質が含まれていることがわかります。それらを分子量、数珠つなぎの長さによって分類したものになります。そこに、患者さんなり普通の人の血液を振りかけます。すると、1本1本タンパク質がみえますが、患者さんの体の中には、それのどれかと結合するIgE抗体ができています。そこでIgE抗体を見えるようにする試薬がありますが、それをこの上にさらに振りかけると、患者さんの持っているIgE抗体が結合するタンパク質を目に見えるようにすることができます。健常な方の血液の場合はこれは見えないんですね。今お見せしている患者さんの検査結果について一見して何がわかりますか。
参加者

人によって反応するところが違う。

足立

そう、人によって違う。同じところもあります。これらを見ることで患者さんごとのIgE抗体が結合するタンパク質が何かを判断できます。ただ、患者さんによっては他の患者さんと違うところにIgE抗体が結合している場合もあります。また一部のタンパク質は全員のIgE抗体に共通して結合していることも分かります。この違いは患者さんのもつ症状によることもわかっています。つまり患者さんの持っている症状により患者さんのIgE抗体の種類が違うことが分かるんですね。

    • 例えば、ナッツの中にはいろいろなタンパク質があるんだけれども、患者さんの血液をとってこの共通部分のタンパク質と結合するIgEがあるかを調べると、その患者さんがナッツアレルギーかどうか判断することができるわけです。一方、他の患者さんと異なるタンパク質に結合できるIgE抗体があるかを調べて、同じようにあれば、この人はもしかしたらナッツを食べると他の患者とは異なる重篤な反応を起こすようになるかもしれないということが分かるわけですね。

マスト細胞はどこにいるかを実際の顕微鏡写真で紹介

  • IgE抗体が結合するバンドを取り出して、そのアミノ酸の数珠つなぎの並び方がどういう種類のアミノ酸でてきているかを調べると、アレルゲンを特定することができます。一般にアレルゲンというと、IgE抗体が結合するナッツのタンパク質全体を指すように言われるのですが、厳密にはIgE抗体と結合する1つ1つのタンパク質のことをいい、専門的な言い方をするとその1つ1つをアレルゲンコンポーネントといいます。これはアレルギー分野で最近出てきている言い方で、アレルギーの方は、コンポーネントを調べるとこうだったんだよと結果を診療で説明されるようになっています。
      • アレルゲンを決めて、コンポーネントがわかると何がいいのでしょう。例えば、診断と治療において、血液検査をして先ほどの他の方とは異なる反応を示す患者さんのタンパク質に結合するIgE抗体を持っていることが分かれば、その方は、ナッツをたくさん食べたら重篤な反応を起こす可能性が高いということが予測できるんですね。
      • 現在保険で診療が受けられるコンポーネントとして主に使われているものは3つあります。例えば、小麦から取り出したアレルゲンコンポーネントのひとつω-5グリアジンに結合するIgE抗体を持っている方は、小麦を食べて運動をするとアナフィラキシーになる可能性が高いということが予測できます。小麦を食べてそうした症状を誘起される方は、このコンポーネントに結合するIgE抗体が多いと言われています。
    参加者

    それは、運動しないとならないんですか。

    足立

    そうです。パンを食べただけではなりませんが、その後に部活など激しいことをするとなる。ちょっと歩くくらいなら平気ですが、かなり体に負荷がかかれば、腸管の透過性とか運動性の亢進、交感神経のバランスの不調などが、誘発されると言われています。大豆の中のコンポーネントもあります。これに対するIgE抗体を持つ人は、大豆製品の中でも豆乳はちょっと危ないかなということが分かっています。後で交差抗原反応のお話でも説明しますが、普通のお豆腐とか納豆は食べられますが、ちょっと豆乳危ないかもということが分かるので豆乳は飲まない方が良いと言える訳です。また、ピーナツの方、ピーナツは他のナッツ同様いろんなたくさんのアレルゲンを含んでいますので、ピーナツ全体でIgE抗体を調べると、アレルギーかどうかの診断は非常に不正確なんですね。Ara h2に結合するIgE抗体を持っているかどうかを調べると、この人はピーナツを食べると危ないということを確定する確率が非常に上がると言われています。

    参加者

    それは一気にできるわけですか。市販で、診断キットとかでできるのですか。

    足立

    これは、保険が効く診療になっています。いろいろなコンポーネントがたくさん調べられていますが、保険の対象になっているものは、まだまだ足りないというか、この3つぐらいなんですね。他にその特異性を利用した免疫、アレルゲン自体を少しずつ食べさせていくという治療も考えられています。

      • 例えば身近なタンパク質ですと卵白がありますね。卵ですと、オボムコイドとかオボアルブミンとか、いろいろなタンパク質が含まれていますが、その中でもアレルゲン性の高いもの、低いものとあって、またアレルゲンとしての学名のつけ方は学名と種名をとって通し番号をつける(スライド27)ようになっています。
      • 牛乳中にもたくさんのアレルゲンがあります。特に牛乳タンパクは、酸で固まるカゼインと、その上澄みの乳清、製品名を出して恐縮ですが、乳清を使った製品はヤクルトですね。カゼインを使った製品はチーズですが、それぞれ非常にたくさんのアレルゲンとなるタンパク質、アレルゲンコンポーネントを含んでいます。特にカゼインは診断特異性が高いというふうに言われています。T細胞が関わるアレルギーのお話をしましたが、初めてミルクを飲んだ生後数日という新生児から1年ぐらいまでの間に起こる消化管のアレルギーがあるんです。その原因はκ-カゼインという種類ではないかとも言われています。

    アレルゲンとIgE抗体の架橋

      IgE抗体とアレルゲンが結合したらアレルギーになるのかなと思われがちですが、単純に結合するだけではアレルギーにはなりません。メカニズムのご説明でお話しましたように、マスト細胞に、IgE抗体が2本立っていて、そこをペプチドが橋渡ししていた図(スライド17〜18)を思い出してください。発症するためにはIgE抗体のアレルゲンによる橋渡し(架橋)が必要になります。橋渡しされると攻撃しよう、しなさいという指令が、このマスト細胞に入り、先ほど紫に染まっていた顆粒の図がありましたが、その顆粒を分泌し、外に出すんですね。そして、それを出すことによって体を困らせるということになります。

      • 橋渡しされないとどうなるでしょう。タンパク質が切れたりですね、構造がほどけたりして、この橋渡し架橋がうまくいかないと、攻撃の指令がマスト細胞に入らないので、アレルギーにならないということになります。ただ結合しただけで架橋できなければアレルギーにはならないんですね。
      • アレルギーとか花粉症とかの検査をされたことはありますか? 検査に出すと、検査結果っていうのをお医者さんから渡されて、あなたのIgEの値はこのくらいですよ、クラスはいくつです等というお話があります。それは結合したものについてなので、架橋できていないものも含んでいるんです。検査では、架橋していることを調べているんじゃなくて、結合しているものを調べているんですね。なので、あの値を丸ごとうのみにして、私はすごい高いから牛乳飲んじゃいけないんだわ、と考えるのは早計で、安易に信じてはいけないんですね。症状とリンクしているか等々細かく問診されると思うんですが、結合しただけではアレルギーにはなりません。それはいいことなんですよね。アレルゲンになるタンパク質を壊すと架橋できず、指令が入らずヒスタミンが出ないからですね。

    低アレルゲン化食品の開発原理

      低アレルゲン化食品の話に行くために、もう1段階話を深めます。架橋をさせないためには、要するに数珠つなぎを壊せばいい、というイメージです。IgE抗体の種類の中には、そういう数珠つなぎを認識しているものもあれば、三次構造という複雑な、毛糸玉みたいなものもあるという話をしましたが、IgE抗体が複雑な構造のタンパク質の離れたところを認識するものもあります。(スライド32)この離れたところのIgE抗体が、複雑な構造のタンパク質にくっつかないようにするにはどうしたらいいか。この複雑な構造を壊してやればいいんですね。その壊すことを、「タンパク質を変性させる」といいます。切断することも変性のうちの1つですが、それも含めてこういった複雑な構造を壊すことを変性といいます。複雑な構造に結合するIgE抗体も、そうやって変性させると結合できなくります。

      • 「タンパク質を変性させる」、これがアレルギー患者さん用の低アレルゲン化食品開発のための基本的な原理になります。つまり、この複雑な絡まったタンパク質を壊してやる。タンパク質を構成するアミノ酸のつながりを切ってやる、そうして、例えば牛乳中のタンパク質を壊して、IgE抗体が結合できないようにする、IgE抗体が架橋できないようにすると、同じ牛乳中のタンパク質が入っていても牛乳は飲めるということになります。模式的に言うと、架橋できればヒスタミンが遊離されてアレルギー反応を起こしますが、タンパク質のつながりが分裂して壊されて、IgE抗体がくっつかないと、アレルギー反応が起こらなくて、同じ牛乳でも飲めて元気なまま、ということなんです。
    黒木

    くっつくタンパク質の構造が短いのと複雑なのとで、これは同じ種類のIgE抗体なんですか。

    足立

    これは違う種類ですね。認識している部位が違うので。ですが、牛乳中のタンパク質を認識するという意味では一緒です。

    黒木

    これが、1個しかないと、次のヒスタミンの放出にはつながらないということ?

    足立

    そうです。例えばある子どもが牛乳に対するIgE抗体を持っています。牛乳タンパクはたくさんのアミノ酸が並んでいて、その中でIgE抗体に結合するアミノ酸の数は8個くらいなんです。その8個に、それぞれ牛乳のアミノ酸に対する違う種類のIgE抗体くっつくと思っていただけるといいかと思います。牛乳中のタンパク質に結合するIgE抗体なんだけれども、長い数珠つなぎのどこに結合するのか、端っこか真ん中か等によってIgE抗体の種類は違うということになります。

      • 抗原特異性ということなんですが、牛乳を飲んでそこからタンパク質を取り込むと、牛乳タンパクが入ってきて、それに対してIgE抗体が作られる。しかし牛乳タンパク質を認識できるIgE抗体の種類はいくつかあるんですね。それぞれ違う種類のIgE抗体なんだけれども、牛乳を認識するという意味では一緒です。それで違う種類のIgE抗体をくっつけたマスト細胞は、牛乳タンパク質により架橋されて、アレルギー反応を起こすシグナルが入って、症状が引き起こされるんです。けれどもその牛乳のタンパク質が壊されていると、IgE抗体が2個、3個結合してもシグナルを入れることができなくなるので、アレルギー反応を抑えることができるということなんです。
    参加者

    シグナルを送るというのは、1個だけでなく、2か所で結合して架橋できると、結合間距離が縮まって強烈にシグナルが行っているというイメージでよろしいですか。

    足立

    そういうことです。タンパク質は基本的にはアミノ酸が数珠で並んでいる。その数珠の中で、大体IgE抗体が結合できるのが8個くらいのペプチドなんだけれども、タンパク質は長いんですね。百何個とかがつながったのが1つのタンパク質なので、その百何個のアミノ酸の列の中で、例えば20〜30番目に結合するものと、100〜110番目に結合するものは違うんですね。ただ、牛乳タンパクを飲んだときにその2つのバンドがつながっていれば、マスト細胞のIgE抗体同士をつなぐことができる、というイメージです。実際は消化されているので、もうちょっと小さい範囲で起こるんですけど。

    参加者

    IgEとアレルゲンは1対1って言ったけど、そうではないんですね。

    足立

    ペプチドに対しては1対1です。

    参加者

    アレルゲンはこんなにあって、異なるいくつかの場所にくっつくのと、それぞれが1対1なんですね。

    足立

    そうです。それぞれが1対1です。牛乳に対して1対1じゃなくて、牛乳のタンパクの、しかもその中の一部分ですね。タンパク質は大体アミノ酸100個とか、もっとあるときもあります。それの一部分に結合するっていうイメージです。それで結合する相手のアミノ酸によってIgEとしては種類が違う。だけど牛乳タンパクに結合するIgEということでは一致しているということになります。そのため、このタンパク質のつながりを切ってしまえば、こことここにつながるものは全然別個の働きをするっていうことになるんですね。一緒に共同してマスト細胞に攻撃のシグナル入れるっていうことはできなくなるということになってます。

    参加者

    するとここのバンドの1本のところが1種類のアレルゲンだけど、そこにはそのアレルゲンの中のいろんなところにくっつくIgEがみんなそこにいるわけですね。

    足立

    そういうことになります。今、牛乳アレルギ−の方はなぜ牛乳にだけそういう応答が起こって、卵には起こらないのかといったこと、1つ1つを解明していこうとしていますが、それこそ未だ人知を超えた世界というか、タンパク質が入ってくるとその中のたくさんの種類のペプチドやアミノ酸に対してすごいたくさんのIgEが作られるというのは、すごく不思議ですよね。牛乳1つとってもそれだけの種類ができる。とても不思議ですけれども、そういうことになっているんですね。
    ですから、原因となるタンパク質をめちゃめちゃに切ってあげたり、複雑な構造をとってるものを構造をほどいてあげたりすると、一緒につながってマスト細胞にシグナルを入れる仲間だったIgEが別個の働きをするようになってしまうので、攻撃のシグナルを入れられなくなるということになります。

    参加者

    タンパク質を変性させる、ぶった切るとは、具体的にどうするんですか。

    タンパク質を変性させるには

      その例を2つ出します。1個目は、卵です。食品のどういった加工方法でIgE抗体はタンパク質に結合しなくなるのかということなんですね。発酵卵ってご存じですか。酢卵、ピータン、ゆで卵、ねるねるねるねと例が並んでいますが、発酵卵はどんなイメージですかね。これは、ぬか床に卵を漬けるらしいんですね。するとぬか床にいる乳酸菌の働きで発酵卵になる。

      • 乳酸菌というと、思い浮かべるのはヨーグルト。ヨーグルトは乳酸発酵ですが、乳酸菌の働きでタンパク質の構造が分解されるということになります。酢卵は、お酢に卵を漬けて、うずらの卵とかを漬ける。ピータンは、アルカリ性土壌にアヒルの卵を漬けるんですね。ゆで卵ってどういうことか分かりますかね。加工法としては、ゆでるので加熱になりますね。
      • 発酵、酢、ピータン、ゆでるは、それぞれ酵素での分解、酸のpHで電荷をいじっていくということになりますので、酸とかアルカリは、それによってタンパク質の構造を変性させていくということになり、ゆでるは加熱で、加熱自体によって結合自体の性質を変える。これらは全てタンパク質の構造を変える調理法なり加工方法ということになります。
      • 「ねるねるねるね」は何でしょう。 身近にお子さんがいらっしゃる方などご存じかもしれませんが、卵白の粉が入っていて、水を入れて練ると楽しくいろいろな形を作れて、それを食べるという子ども用のお菓子です。製造方法はどうなっているかというと、資料のスプレードライ法の説明の中に液体と書いてありますが、卵液を非常に細かくしてノズルから霧状に噴き出すんですね。これは私も実際に見ました。摂氏100度くらいになっている大きな空間に噴霧させ、卵液に瞬間的に熱をかけて、乾燥させます。瞬間的に噴霧、乾燥させて固めるので粉になって下に落ちる。それを集めて卵白粉として売っている、そういうものなんですね。瞬間的な、1秒の加熱なので、5分とか10分とかゆでるといったことに比べると全くほとんど加熱変性を起こしてない。このスプレードライ法という方法で作られた、この卵製品はタンパク質の変性を経ていませんので、非常にアレルギーを起こしやすいといえます。
    参加者

    そうすると結合というのは水素結合みたいなものなんですか。

    足立

    共有、SS結合、イオン同士の結合ですね。それを加熱などによって切っていくことになります。このお菓子については、その結合を切ることは全くされていないのですが、加工食品は食べていいですよ、とお医者さんが話したというので、加工食品であるこのお菓子を食べて、アナフィラキシーが起こりましたというようなことが結構あるんです。とても危険なので、加工食品もその製法から見ていかなきゃいけない。また、逆に言えばいろいろな加工方法によって変性させると、食べられる食品が増えてくることにもなります。

      • 例えば大豆。大豆そのものは食べられなくても、納豆だと食べられるという方がいらっしゃいます。一方で、きな粉は焙煎した大豆でつくる場合と、焙煎せずに粉砕する場合があります。焙煎という加熱を経ていないものは結構危険で、それは生の大豆から作っているからですね。
      • 卵白のタンパク質で、オボアルブミンというのは加熱変性をすごく受けやすいんです。なぜこの話をするかというと、乳児期、赤ちゃんのうちは、このオボアルブミンに対する特異的IgEが高いんです。そのため、加熱卵なら少しずつを食べさせていくということが乳児期に可能になるんですね。オボアルブミンに特異的なIgEだけが高いときは加熱卵が食べられる可能性が高い。だけど年齢が高くなると、今度は別のアレルゲン、オボムコイドに対するIgE抗体が高くなるので、もっと複雑なことになってきます。ですから、乳児期の早いうちにちょっとずつ食べさせていくことが、最初に説明しましたような予防につながるんじゃないかというのはそのためです。

    アレルギーの人向け粉ミルク

      スライド38にはアレルギー患者さん用のミルクを載せています。各社いろいろ販売していますが、ここでご説明したかったのは使っているタンパク質がいろいろだということ、そして分子量の小ささです。普通、牛乳のタンパク質だと分子量2万ぐらいなんですが、アレルギー患者さん用のミルクは分子量が小さくなっています。分子量を小さくしているということは、タンパク質を小さく切っているということです。牛乳を原料として、赤ちゃんのアレルギー患者さん用の調製粉乳も作られていますが、その分子量をアミノ酸数で表したものが図の赤い文字になります。大体IgE抗体につくのは6~10個のアミノ酸なので、この中で、一番安全に飲めるかなというのは分子量で見ると、ニュー-MA-1ということになります。森永の宣伝で言わけではないですが。

      • 1個のアミノ酸の分子量が120だから分子量1000というと、アミノ酸8個分ということになるので、まあ大体1個結合する部分くらいなので、これは飲めるということになります。また、一番下の、明治のエレメンタルフォーミュラは、アミノ酸だけから作ってるので、これは安全なんですが、そうすると今度は、いい免疫というか、仲良くしようという免疫も育てることができなくなってしまうので、ある程度の長さを維持するということが重要です。
      • 牛乳アレルギーのお子さん用の調整粉乳は乳タンパク質を原料として分解されている。変性によって構造を変えられ、結合できなくなる抗体は、おもに高次構造を認識するIgE抗体です。ですが、こちらは主に牛乳タンパク質の性質上一次構造を人為的に切断して細かく切って飲めるようにした。だけど分解し過ぎると、独特の風味や、よりよい免疫も誘導できなくなるので、細かくなりすぎないように分解レベルを調整しているわけです。

    交差反応について知ろう

      クイズです。おたふく風邪にかかったら水疱瘡にかからないんでしょうか。答えは、おたふく風邪にかかったことがあっても、水疱瘡にはかかるんですね。この例は抗原特異性の復習になるんですが、ウイルスの種類がおたふくと水疱瘡で異なるので、体は別の種類の抗体を作って反応をします。ですから、おたふくにかかったことがあっても水疱瘡にもかかるんです。それが抗原特異性の話でした。

      • 卵アレルギーになったら牛乳アレルギーにもなるんでしょうか。答えは、卵アレルギーになったからといって、牛乳アレルギーになるとは限りません。抗原特異性があるからです。しかし、同時になることもあります。同時になる方っていうのはどういう方かっていうと、残念ながらその方は卵に対しても牛乳に対しても危険シグナルを発して攻撃しようという指令が出て、別々にIgE抗体を作るからということになります。別々の2つのものに対して反応してしまう患者さんということになりますね。
      • では、もう1つ。花粉症になったら、果物アレルギーになるのか。答えは、花粉症になったからといって、果物アレルギーになるとは限りません。ただし、同時になることがあります。最初のほうで、年齢が上がるとともにだんだん果物に反応する人が増えてきますよっていう話をしましたが、これはその話と非常に関係しています。
      • アレルゲンと結合するIgE抗体は厳密に決まってますよと話しました。例えば、ハンノキの花粉に反応するIgE抗体を持ってる花粉症の患者さんがいます。そのペプチドを認識するIgE抗体を持っています。ところが、ハンノキの花粉のタンパク質と同じようなアミノ酸配列を持ったタンパク質をリンゴも持っているんですね。種類はバラ科で似た系統の植物で、持っているペプチドのアミノ酸配列も似ている。植物の分類でナス科、バラ科など、何々科というのがありますが、その科が同じだと、似たようなアミノ酸配列を持ってるタンパク質を持っていますので、花粉に反応しているはずのIgE抗体がリンゴにも反応してしまう。それで、口腔、口の周りに限局したアレルギー症候群を起こすことがあります。これはすごい違和感で、ほんとに食べにくい。本当にひどい方はアナフィラキシーになることもあるようですが、基本的に、こういったタンパク質は消化されやすく加熱変性を受けやすいという性質があるので、口に限局した反応が起こると言われています。
      • 原理としては、花粉症のある人が花粉がある中で遊んでいると、ヒスタミンが分離されて花粉症になります。大変だ、と言ってお家に帰って、お母さんがきれいに洗ってくれた。そして、おやつにリンゴが出た、すると、似たようなアレルゲンを持っているので、花粉を認識するはずのIgEがくっついたマスト細胞にりんごのタンパク質が結合し、架橋されることによってヒスタミンが分離されて口腔アレルギー症候群になる、そんなイメージです。
      • 同様のことが、ゴム手袋でもあります。ラテックスのゴム手袋は医療関係やお掃除とかで使われますね。ラテックスのタンパク質という抗原に対してヒスタミンが分離されて、ラテックスアレルギーになることがあります。これも、アナフィラキシーを起こします。ラテックスアレルギーのある方が、キウイやバナナが入ったフルーツパフェを食べました。そうすると、ラテックスとキウイ、バナナが同じ仲間なので、同じようなアレルゲンが入っていて、ラテックスを認識するIgE抗体がくっついているマスト細胞に結合し、シグナルが入ってしまう。その結果ヒスタミンが出る。ラテックスアレルギ−のはずなのにキウイを食べたらラテックス・フルーツ症候群という非常にアナフィラキシーを起こしやすいアレルギーになってしまうといったことがあります。

    情報を選択する力を身につけよう

      「アルプスの少女」のハイジは牛乳アレルギーでしょうか。これは、牛乳アレルギーではない可能性が極めて高いです。スライド53に交差抗原性の図があります。左の列の食品などに対して、右の列の食品がどの程度似ているかというのを表しているのが右の円グラフになります。ハイジの場合、ハイジはユキちゃんというヤギと仲良しでヤギ乳をいっぱい飲んでいて問題ありませんでした。牛乳は牛ですけど牛乳とヤギ乳の相同性は92%です。ヤギ乳が飲めるということは92%の確率で牛乳は飲めるということになるので、牛乳アレルギーではない可能性が極めて高いというのが答えになります。資料の表では、どのアレルゲンが、交差反応についてどれくらいの危険率があるかというのが円グラフで示されています。ゴム手袋や花粉もこの表の中にあります。例えば、リンゴと花粉だと55%ぐらいと考えることができます。

      • 「コペルニクス的転回の中で適切な情報を選択する力を身に付けましょう」という視点で、今日は食品の何のタンパク質がアレルゲンか、IgE抗体、抗原特異性、アレルゲンコンポーネント、橋渡し、アレルゲンの特性などをお話ししました。これらの理解があると、自分が反応するアレルゲンと、それにともなって行われる診断や治療への理解が深まり、また原因となるアレルゲンを含む食品も調理・加工の工夫で食べられるものを増やすことができる。また、交差反応性を予測して発症を防ぐこともできます。つまり適切な情報を身につけ、選択し、QOLを維持した安全な生活を過ごしていくということにつながることになるのです。

    もっともっと聞いてみよう

    参加者

    今日は食物アレルギーの話でしたが、アレルギーというのは例えばウルシなんかに触ると赤くなったりする、それも同じメカニズムなんですか。

    足立

    基本的には同じです。ウルシといえば、たしかウルシ科のナッツがあるんですね。ウルシでかぶれる人は、ウルシ科のものを食べるというのは注意したほうがいいかもしれない。

    参加者

    今日の「少しずつ食べる」という考えからすると、ウルシにかぶれた人は、ウルシに触らないようにするんじゃなくて、例えば少しずつ接触してれば先ほどの方策のように慣れてくると考えられるんですか。

    足立

    基本原理はそうです。ただ、だいぶ昔によく上司がこの説明をするときに話していたことですが、ウルシ職人はウルシを食べるというんですね。食べることによって、ウルシと仲良くしようという反応を強めているのだと。食べるという行為により腸管を経由した成立する免疫応答は、仲良くする応答を強めやすいと言われていまして、ウルシ職人の方はかぶれないようにするために食べると聞いています。

    参加者

    先生はIgAも研究されていますね。IgA抗体のほうも、乳幼児の離乳食のタイミングが最初は、半年後と早めで出ていて、まだIgA抗体のところは不十分ではないのかなと、昔の知識では思うんですが。半年と言い切っているのは相当なバックデータがあってのことだと思うので、それについて解説していただけませんでしょうか。

    足立

    今のご質問は先ほどの鶏鳴新聞の資料(スライド6)の話題になります。生後半年からちょっとずつ食べさせたほうがいいのではということですが、どうですか、離乳食。

    黒木

    そうですね。私の娘も5か月、6か月ぐらいで始めました。

    足立

    それぐらいの時期で、一応は離乳食開始の時期にはなっています。今、IgA抗体という言葉が出ましたが、これは腸管に分泌されている抗体なんですね。なぜIgA抗体が分泌されるか。これは、例えばいろんな病原菌とかが来たときに、IgA抗体でその病原菌を取り囲んで体の中に入らないようにして排泄してしまうというような役割を果たしています。食品も同じで、IgA抗体がくっついて排泄してしまうというような役割をして、要するに体を守るために働いてくれている抗体なんですが、今のご質問は、このようなバリア機能が未熟な段階で、こうしたものを食べさせていいのかってということですね。

      • 昔は確かにIgA抗体が十分機能しない早すぎる時期に離乳食を始めるのはやめようという話がありました。しかし、ご説明しましたように、基本的にはむしろちょっと体に入ってほしいんですね。私がこれを言い切ってしまうのは難しいのですが、ちょっとずつ食べさせるっていうことの意味は、IgA抗体があってもなくても、体の中に入ってくれてT細胞をうまく刺激してほしいという意図と考えてほしいんです。
      • ちょっと入ることによって、うまくバリア機能も育てていこうという概念なので、IgA抗体がその時点で産生されているかどうかにはすごい重きを置いてはないと思います。むしろ入ってくれて、モグモグしてくれて、卵を認識するT細胞をうまく調整して仲良くしようっていうほうに向けたいという理解です。
    参加者

    半年というのは、移行抗体が消える時期ですよね。

    足立

    それもあるかもしれないですね。赤ちゃんはお母さんから、胎内にいるときに胎盤を通じて抗体をもらっています。それによって体の生体防御系を生後半年の間は維持しています。そして生後半年になるころに、赤ちゃんは急に突発性の熱とかを出したりします。それは、もうほんとに明確に見えることですが、お母さんからの免疫がなくなって、自立していく時期、赤ちゃんが自分の免疫を育てていく時期ということでもあるわけです。(完)

      全体の様子の写真

      熱心な質疑が時間いっぱいまで続きました

    このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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