お知らせ
第11回サイエンスカフェ「聞いてみよう!食とアレルギーのコト」開催報告
掲載日: 2015年2月26日
1月9日(月)、第11回サイエンスカフェ「聞いてみよう!食とアレルギーのコト」を開催しました。
関崎センター長の挨拶と細野准教授のファシリテーションのもと、副センター長の八村敏志准教授から、食物アレルギーが発症するメカニズムや最新の研究について話題提供しました。
冬の空気の冷たい日でしたが、多くの方にご参加戴き盛会となりました。ご参加下さった皆様、ありがとうございました。
第11回サイエンスカフェ配布資料
※表記のない箇所の発言は全て八村教授によるもの。
※質疑応答は一部抜粋。
アレルギーについて
- 厚生労働省の定義によると、食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」を言うとなっています。
- アレルギーとは免疫の病気です。
免疫とアレルギー
- 免疫というのは、我々にとって異物を認識して、それを排除して私たちの体を守ることです。しかし、この免疫系が働いてしまって、逆に私たちの体を傷つけてしまうのが、不利益であり、アレルギーです。
- 免疫を担当する細胞は沢山あります。それらが働いて体を守っています。その細胞について、これからご説明します。
免疫細胞の種類と役割
- 白血球には次のようなものがあります。
- リンパ球・・・免疫のなかでは最も重要な細胞といわれています。それは、異物に結合できるからです。鍵と鍵穴のようなものをもっていて、異物を認識できるということです。見た目は、まんまるく、核(細胞の中に遺伝情報が含まれるもの)の割合が非常に多いのが特徴です。リンパ球の中にはT細胞とB細胞というのがあります。
- マクロファージ・・・今日はあまり出てきませんが、貪食で、バイ菌を食べます。
- 樹状細胞・・・手を伸ばしているような細胞です。2011年のノーベル賞で樹状細胞の発見者が受賞されたので、最近話題になりました。
- 好塩基球やマスト細胞・・・細胞の中に顆粒(外来異物を攻撃する物質)を持っていて、それを放出するので、アレルギーに関係しています。
Tリンパ球(T細胞)について
- T細胞はいくつかの種類があります。Th1とかTh2とかです。
- 今回出てくるのはCD4 T細胞というT細胞です。
- リンパ球の中で、T細胞とB細胞は、ミクロレベルで調べないと見分けはつきません。
- 何種類かあるT細胞は、どんな細胞に働きかけるかが違います。
- Th1とかのhは「ヘルパー:助ける」ですけれども、色んな細胞を助けて免疫細胞を助けるのがヘルパーT細胞です。
- T細胞は、細胞と細胞の間の情報を伝達する物質(たんぱく質)を作ります。そして、作り出す物質(信号)が異なるので、働きかける細胞が違います。
細野
キラーT細胞というのも聞いたことがあるのですがヘルパーT細胞とどうちがうのですか?
八村
キラーT細胞というのは細胞を殺す役割がある。例えばウイルスに感染した細胞を殺します。キラーT細胞は爆弾的な物質を相手に投げて殺すのに対し、ヘルパーT細胞は、相手に何かをしてもらおうと味方にボールを投げるようなものです。
参加者
爆弾やボールを投げるエネルギーはどうやって作られるのですか?
八村
ミトコンドリアとかを使ってエネルギーを生み出しています。投げると言うよりも、非常に微量な10億分の1グラムもないくらいのものを垂れ流していると言った方が適切かも知れません。
- さて、スライドにインターロイキンという言葉が出ていますので、インターロイキンについてご説明します。インターロイキンは、頭文字をとってILと表されます。インターロイキンの「インターは間」「ロイキンは白血球」という意味で、白血球の間に動くシグナルのことです。
- また、似たような言葉で、インターフェロンという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、インターフェロンは、インターフェロンという名前を先に付けてしまったので、インターロイキンという名前が付かなくなってしまいました。
- インターロイキンもインターフェロンも同じ様なもので、インターフェロンγ(ガンマ)はマクロファージを活性化するので非常に重要です。
- 同じようなたんぱく質なのに、ウイルスに対して防御することからインターフェロンという名前が付いています。
アレルギーでは何が起こっているのか
- 免疫というのはそもそも、異物、病原体、病原菌に対して体を守ることです。
- アレルギーというのは、無害で攻撃する必要のない異物に対して、免疫系が反応し過ぎてしまって、自分の体も傷つけてしまうことです。
- アトピー性皮膚炎も皮膚症状で、アレルギーの皮膚症状は結構あります。じんましんもアレルギーの症状の1つです。
- それ以外でも、何らかの不利益、呼吸器の症状やお腹の症状を引き起こす場合もあります。
- アレルゲンという言葉を見たら、リンパ球によって認識されて、アレルギーの原因となるものと認識して下さい。
- Th2細胞が過剰に活性化し過ぎてしまうと、インターロイキン4 (IL-4) を作ります。
- IL-4を作りすぎてしまうと、B細胞がIgE抗体を作ります。マスト細胞は、IgE抗体の受容体を持っていて、IgEと結合します。結合すると刺激されます。刺激されると、細胞内に含まれる顆粒を放出してしまいます。それが、アレルギーを引き起こします。
- 抗体というのはY字型のうちの手の部分、ここで異物と結合します。これにも種類があります。そして、種類はIgの右側についているアルファベットで表しています。
- 免疫グロブリンの英語がIgですが、添え字みたいにしてGとかMとかをつけています。免疫グロブリンIgも種類があることを知って戴きたいと思います。
- 通常、血液などによく含まれているのがIgGで、それぞれ、場所とかが違ってくるのですが、アレルギーで悪さをするのがIgEです。
- 生まれて初めての時には、アレルゲンに対するTh2細胞はできません。何回か食べているうちに抗体とTh2細胞ができます。Th2細胞ができて抗体ができていても、それ以上食べていなければ何も起きません。
- ところが、抗体ができた状態が出来上がっていて、そこでアレルギー物質を摂取すると、あっという間に反応が出てしまうのです。
- 一方、抗体ができるまではゆっくりなんです。
- 突然花粉症になるのは、だんだん抗体ができてきて、抗体ができているところに、花粉が飛んでくるので症状が出ます。抗体を持っていても、花粉が飛散しない季節は、何の症状も表れません。
細野
IgEは私たちにとって不要なものなのですか?
八村
もしかして、不衛生な場所に行くと必要かもしれません。ですが、私たちが住んでいる現代の日本では要らないかもしれませんね。
T細胞のバランスとアレルギー
- (前に述べた)いくつかの種類のT細胞のバランスがとっても大事です。Th2細胞が極端に増えたり、反応が強くなるとアレルギー発症の要因となります。
- 昔から知られるのが、Th1とTh2ですが、最近では、CD4 T細胞は少なくとも4種類あることがわかってきました。Th1、Th2に加えて、制御性T細胞、Th17です。
アレルギー症状
- 一番多いのは実は、アトピー性皮膚炎などの皮膚症状です。
- 問題なのがショック症状、アナフィラキシーショックです。以前、こんな事例もありました。給食で、アレルギーと分かっていたので、その食べ物を抜いたメニューの献立を用意してもらい、それを食べました。ところが、その後の給食のお代りで、通常の給食を食べてアナフィラキシーショックになってしまったのです。
- なぜ、食べ物によるアレルギーで、皮膚に炎症が出るかについては、腸のほうから皮膚の方へ細胞が移動しているのではないかと考えられています。皮膚と腸が繋がっていると考えて研究しているところです。
アレルギーになる物質と発症ケース
- さまざまな食品でアレルギーになる可能性があります。
- 卵、牛乳、小麦が特になりやすいと言われています。そして、それらは乳幼児期に治っていくケースが多いようです。原因としては、腸の未発達が考えられます。腸の発達に伴って、アレルギー物質を分解して、吸収しにくくなるようです。
- 一方、大人になってから別のアレルギー(例えば喘息)になる場合があります。元からあったアレルギーが治っても、Th1とTh2のバランスが崩れた状態がそのまま残ってしまっているのではないかと考えています。
- 食品アレルギーは、今のところ、根本的に直すことができません。除去食、「食べないでください。」というのに勝るものがないのが現状です。
異物としての認識
- 免疫が寛容になる。異物だけれどもそれに対して寛容ということです。
- 長い進化の中で、食べ物に対しては、攻撃してはいけないということになったのだと思うのですけれども、異物なのだけど寛容になっていますよ、ということです。
日ごろの研究
- 私医者ではないので、ハツカネズミを使って実験しています。カゼインという物質があります。牛乳に含まれるチーズを作るたんぱく質です。食べさせることも注射をすることもできます。
- 注射すると抗体ができて異物として認識されます。
- しかし、予め沢山食べさせて注射をします。すると本来起こるはずの免疫反応が抑えられます。
- 一般的にネズミは1日3グラム食べます。そのうち、2週間で10ミリグラムになるようにアレルゲンを与えれば結構アレルギーの発症が抑えられます。
- 免疫系は、自己と非自己を判断することが知られていました。最近の研究では、危険とそうでないものも判断しているのではないかということです。腸から入ってきているものに対して、免疫はマイナスに働きます。
関崎
先に注射してから食べさせたらどうなりますか?
八村
ある程度抑えます。
参加者
子供が卵アレルギーで、少しずつ食べさせたら治りますか?
八村
まだ、研究段階で、小児科の先生方がこの仕組みで研究している段階です。危険と隣り合わせなので、沢山食べたら発症してしまいますから、必ず専門医の下で行ってください。
アレルゲンとなるたんぱく質
- アレルゲンとなるのは結局、たんぱく質です。牛乳や卵など様々なたんぱく質があり、それらが原因となります。しかし、なりやすいたんぱく質とそうでないたんぱく質があります。
- まず、食べないとアレルギーにならないということがあります。オボアルブミン、オボムコイドは卵に多く、カゼインは牛乳に多いたんぱく質です。このように、食品中にも多いたんぱく質と少ないたんぱく質があります。
- アレルゲンが異物としてどのように認識されるとアレルギーになりやすいのかは、分かっていません。ただ言えることは、分子量、分子の大きさです。アミノ酸になってしまったら認識しないと言いましたが、大きい方が認識されやすいです。
- 分子量が10,000、アミノ酸が100個ぐらいつながっていると、アレルギーになりやすい。
- 消化されやすいものは、バラバラになりやすい。バラバラになったものは、アレルギーになりにくいものが多いのですね。
それでもアレルギーになる!
- アレルギーのなりやすさに影響する一つ目は、加熱です。加熱しても、ミクロで言うとたんぱく質の構造が壊れやすいものはアレルギーになりにくいものです。壊れると消化されやすくなります。消化酵素が切断しやすくなります。
- 卵の卵白の中にオボムコイドというたんぱく質が含まれていて、加熱によって構造がこわれにくいたんぱく質の代表の1つです。
- 二つ目は、交差反応性
- IgE抗体が花粉のたんぱく質にできているのですが、果物を食べた時に間違って(花粉だと思って)結合することがあります。
- 例えば、花粉のIgEは体内の至る所でできてしまっていて、消化が関係無くなってしまいます。そのため、この現象が口の中で起こることが多いのです。また、消化されやすい食品でも、口の中に抗体ができてしまっているため、消化が関係なくなってしまいます。
- 三つ目は、異種性です。
- 動物は、人間が持っているたんぱく質と似たたんぱく質を持っている場合が多く、このようなたんぱく質には反応しにくい一方で、人間に近いものがないたんぱく質に反応します。
- 例えば、牛乳中のβ-ラクトグロブリンはこのケースと考えられています。
酵素活性とアレルギー
- さまざまな働きをするために、たんぱく質があります。
- 消化酵素は消化するためにあります。牛乳の中にあるたんぱく質にも意味があります。ピーナッツに入っているたんぱく質は、消化酵素を阻害する働きをします。もともとそういう働きをする。私たちの消化が抑えられてしまい、耐性ができてしまう。
アレルギーと腸内環境
- 消化管の中の、特に大腸には、色んな種類の100兆個ともいわれる菌がいます。
- でも、元々、お母さんのお腹の中の赤ちゃんには菌がいませんでした。ところが、生後、色々な菌が増えてきて、それを安定させるのがビフィズス菌で、赤ちゃんの腸の中に急に増えてきます。
- アレルギーの患者さんとそうでない方では、腸内細菌(共生菌)の構成が違います。人種、食べ物、遺伝的な背景などが違っているので、一概には言えませんが、統計的に意味のある差があるとされています。
- アレルギーと共生菌は関係ありそうだということが分かってきたわけです。
- 食べると体に良い細菌にプロバイオティクスという名前が付けられました。もともとの意味は、生きた菌を食べることによってより健康になるという意味でした。
- 最近の研究では、死んだ菌でも、全てではないが、一定の効果は期待されると言われています。プロバイオティクスでも食べたあとに死ぬかもしれないですしね。
- ヨーロッパの有名な研究では、妊娠されているお母さん方に協力してもらい、ある種の乳酸菌を食べてもらいました。生まれた後、お子さんにもしばらく食べてもらいました。その後、2才の健診時にアトピー性皮膚炎になっていないかを調べたところ、統計的に有意な差があるほど予防できました。
- 但し、全て効いているわけではありません。菌の種類とか与え方、受け手の側によっても、個人差があります。
- その後、乳酸菌の投与でアレルギーの抑制を試みる研究が多く行われていますが、成功例も報告されましたし、あんまり効かなかったという例も報告されました。しかし、腸内細菌のバランスを戻し、免疫を調節する菌は確実に存在すると思います。