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第35回サイエンスカフェ「聞いてみよう!ポストハーベストってなあに?—収穫からお口に入るまで」開催報告

掲載日: 2019年5月30日

話題提供者の安永円理子さんの写真

話題提供者の安永円理子さん

2018年7月30日(月)食の安全研究センター第35回サイエンスカフェ「聞いてみよう!ポストハーベストってなあに?——収穫からお口に入るまで」が開催されました。東京大学大学院農学生命科学研究科 附属生態調和農学機構の安永円理子さんより、野菜や果物を中心に、収穫された作物が検査、選別、流通を経て食事として私たちの口に入るまで、収穫時の鮮度を保持し、本来の栄養成分を損なうことなく、よりおいしく届けるために行われている技術や工夫について紹介し、参加者のいろいろな角度からの質問に答える形で、ポストハーベストの技術や現状について理解を深めました。


○第35回サイエンスカフェ配布資料(pdf) (クリックすると開きます)
※以下、記載がない場合の発言は安永氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

収穫後も野菜は生きている

    日本では、「ポストハーベスト」というと、「ポストハーベスト農薬」のことというイメージが浸透してしまっていますが、実際は、収穫から消費者の手に渡るまでのそれぞれの段階に関わるいろいろな生産技術のことをいいます。具体的には収穫、予冷、乾燥、貯蔵、冷蔵、冷凍、輸送といったことのすべてがポストハーベストに関することになります。

    • 収穫後の野菜の生理特性は、鮮度を保持する上でいちばん理解しなければいけないことです。ふつう販売されている野菜などは、すでに収穫されているから、野菜はすでに死んでいると思われている方が多いと思いますが、実はそうではありません。
    • 成育中の農産物は、葉っぱがついていて、葉っぱで光合成をして栄養が作られ、それが栄養分として果実の中に蓄えられたりしています。同時に、根から水が吸い上げられて、栄養分や水分がどんどん果実に供給される状態です。ところが、いったん収穫されてしまうと、水分や栄養分を供給してくれる根や葉はなくなって、果実だけになります。しかし、こういう状態でも生命活動を行っているのです。
    • 呼吸と呼ばれるものがその生命活動に当たり、呼吸によって体内にある栄養素を呼吸の材料にして生命活動を維持するためのエネルギーを得ています。収穫後の農産物は自身の中にある栄養素を使っていくことで生命活動が維持されます。そのため、収穫後時間とともに青果物からは栄養分と水分とが失われていきますし、それが品質低下ということになります。

収穫後の品質低下の三代要因

    品質低下は、大きく分けて呼吸作用と蒸散作用、そして微生物作用の3つが要因となって起こります。

    • 呼吸では、呼吸の原料となる糖や有機酸などの栄養がどんどん減っていきます。そのため収穫後の青果物は栄養価も減少してしまいます。また、呼吸することにより呼吸熱が発生します。呼吸熱が出ることにより、この呼吸作用はさらに活性化され増大します。
    • さらに、そのことにより蒸散作用も著しく大きくなります。蒸散では青果物のガクや表面の気孔部分から水分が失われていくことにより、果実の重さが減っていきます。また、果肉の軟化や萎凋も起こります。一般的にお店で売られているものの中で重さが生体重の5%以上減ってしまうと、その野菜は商品価値がないといわれていて、スーパーなどでは「見切り品」などとして、別の棚に移動されて販売されたりします。
    • 呼吸や蒸散が進むと、果実の中の水分が低下し、表皮の組織が軟弱化してしまいます。そこに微生物が付着しても、正常な細胞であればすぐに腐ったりはしないのですが、表皮の組織が弱っていて傷が付いていると菌が中に入ることができるので、それが一気に腐敗に繋がってしまいます。このように、呼吸作用、蒸散作用、微生物作用と一連の流れとして繋がっているので、収穫後の鮮度保持を考えるうえで、その第1の要因である呼吸を抑えることが非常に重要になります。
澤田

呼吸というと、人間であれば酸素を吸って二酸化炭素を出しますが、青果物はどうなんですか。

安永

一緒です。酸素を吸って二酸化炭素を出します。その呼吸の材料に糖や有機酸を使います。人間もグルコース(ブドウ糖)などを使って呼吸をしていますが、農産物も同じです。

澤田

蒸散では、ガクからどんどん水分が失われるということですね。野菜などを店頭で販売するときはガクを取っておいたほうが、品質の低下が抑えられるということでしょうか。

安永

はい。でも、見た目がすごく悪くなってしまいますよね。日本の場合、トマトやイチゴなどはガクの色などを見て新鮮かどうか判断しますよね。ガクの色が褐変(かっぺん)してしまうと、「ああ、この果実は古いのかな」などと本能的に思ってしまいます。海外のものはガクを取って販売されているものもありますが、日本で売られているものの場合は、ガクの有無やそのガクの善し悪しも商品価値の一部として取り扱われていると思います。

青果物の呼吸量と温度の関係

    収穫後の青果物にとって呼吸がどれほど重要かということはお分かりいただけたかと思います。では、ここで野菜の種類別に呼吸量がどのくらい違うかを表にしたものをご覧ください(スライド5)。数字ばかりの表になりますが、呼吸は酵素反応ですので、温度の影響を非常に受けます。0℃、4.5℃、21℃といった温度でのそれぞれの呼吸量を比べると、温度が高くなるほど呼吸がすごく大きくなっていくことがこの表には示されています。

    • また品目ごとにも呼吸量は様々に異なっています。例えば、アスパラガスは若い芽の部分、ブロッコリはつぼみの部分を食べます。このように成育の初期のステージで収穫され、それを食べるものというのは、呼吸量が非常に大きく、すぐに品質が悪くなってしまうという特徴があります。
    • 成熟して収穫する果菜類、例えばトマトなどはそれほど呼吸量は大きくなく、中間的な呼吸量と言われています。貯蔵器官である根菜類などでは呼吸量は小さいと言われています。ジャガイモ、タマネギなどがそれに当たります。
    • 表(スライド5)から見てもわかるように呼吸量の小さいものほど貯蔵性が高いのです。タマネギやカボチャは買ってきてそのまま置いておいてもけっこう長い間傷まないですよね。それは、呼吸量の大小も関係しているのです。
参加者

野菜の呼吸量のお話がありましたが、果物はどうでしょう。

安永

果物も、成熟して収穫するトマトなどの果菜類に近いです。トマトは未熟な状態では呼吸量が小さいのですが、成熟していって、追熟といいますが、どんどん甘くなっていく過程の前にエチレンという老化や追熟を促進するホルモンを出していきます。すると呼吸量が徐々に増大し、その後老化することによって呼吸量が小さくなっていきますが、同じタイプの果物もあります。

  • では、呼吸量をどうすれば小さく維持できるのかを考えます。それには呼吸作用は触媒反応なので、まず温度が非常に重要です。温度を低くすればするほど呼吸量は抑えられます。湿度は、低いほうが呼吸量は抑えられます。しかし、湿度を低くすると呼吸は抑えられても蒸散が活発になってしまって、「しおれ」という状態が起こってしまうので、貯蔵する場合の湿度は高く保つほうがいいと言われています。そのため、最近開発されている冷蔵庫は高湿度を保てるようになっています。
  • 環境ガスというのは、酸素濃度を低めて、二酸化炭素濃度を高める操作をする。すなわち、野菜を、熊の冬眠のように眠らせる、休眠させるというようなイメージです。そのような状態を作り出して、野菜類の呼吸を抑える貯蔵法もあります。また、老化を促すエチレンをいかに除去してあげるかも重要になってきます。
  • 機械的損傷は、収穫、販売の過程で切断されたり、転がされて打撲傷がついたりすることも呼吸を増大させることになるので、そうした機械的に生じる傷をできるだけ減らすことも重要です。収穫された青果物は船や飛行機、トラックなどの交通手段を使って輸送され消費者に届けられますが、その時に生じる振動も呼吸を増やしてしまう要因になります。以上のような環境要因を制御していか制御するかが鮮度保持に繋がります。

コールドチェーン勧告とその現状

    1965(昭和40)年に、当時の科学技術庁資源調査会から「食生活の体系的改善に資する食糧流通体系の近代化に関する勧告」、いわゆる「コールドチェーン勧告」というものが出されました(スライド7)。

    • 低温が大事というのは当時から強く言われていることですが、低温で収穫地から消費地まで運ぶシステムというものが全くできていなかったことから、そうしたシステムを整えましょうということがこの勧告では述べられています。今はあるのが当然ですが、等級や規格、検査制度も当時はありませんでした。そうした仕組みや制度を整えて安定供給に繋げようということです。
    • 流通に関する情報体系も整備し、生産地から大都会などに運ぶときには中継地も必要ですから、それらの整備、確立をし、食糧流通やポストハーベストに関する研究をもっと行いましょうというのが、この当時言われたことですが、今現在も完全には達成できていないという状況になっています。
関崎

このお話は食品の品質とか流通のことなので、今なら農林水産省とか経済産業省、当時なら通産省が言い出しそうなことなのに、何で科学技術庁なんですか。

安永

「何でか」はわからないのですが、この勧告は、国民の健康水準を向上させるためには、食生活の改善が必要であるという調査を基に行われたものとなります。ここが日本の食文化が今のように高度化したことのターニングポイントになっているんです。科学技術庁とは日本の国民生活を豊かにするための科学技術政策立案を行うところなので、その部分で食生活を豊かにして、日本国民全体を豊かにするために、今なら内閣府のようなところかと思いますが、いろいろな所管省庁とも連携を取って進めるということで、科学技術庁だったんではないかと思います。

澤田

時代としては、戦後からだんだん日本が発展していく時期で、所得倍増計画だとか,海外とも交流し、国連にも復帰して伸びていくという時期でしたね。

安永

それまでは戦後で、食べられればいいという時代だったところから、食文化を育むという時代へ変わっていく中で、コールドチェーンの考え方は、ただ食べるというところから「おいしいものを食べる」へとワンステップ前進していくことに貢献しているものと、理解しています。

澤田

コールドチェーンがいいよと、海外からの勧告などもあったんでしょうか。日本のほうが遅れている状況だったということで。

安永

海外の動向は常に見ていると思います。コールドチェーン勧告は、欧米諸国と日本の平均寿命であったり病気であったりの健康水準や食料消費パターンを比較して、常温では流通することが難しい、腐敗しやすい生鮮野菜や肉・牛乳などの摂取が日本では不足しているということに言及しています。また、アメリカのコールドチェーンの発展過程についても紹介されています。

参加者

1965年、昭和40年は大阪万博(昭和45年)の開催が決まった年ということなのですが、東京オリンピックが開催された直後でもあって、5年後にはまた外国から大勢の人が来るからということも関係しているんでしょうか。

澤田

2020年にも東京オリンピックが来るので、わが家の近所でも道路整備で古い建物の解体などが行われています。オリンピックは物事が大きく動く1つのポイントだったかもしれないですね。

予冷の重要性 低温障害に注意

    コールドチェーンで、収穫した野菜について最初にやらなければならないことは「予冷」です。収穫した野菜の温度を下げることで、呼吸のような生理活性を一気に抑えようということです。予冷後に一時的な貯留や、貯蔵、輸送、販売を行うことによって、そのあとの農産物の鮮度の保ちが全然違います。予冷をいかに早くやるかが、非常に重要です。

    • 予冷をすることで呼吸が抑制され、追熟といった野菜の老化を抑えることもでき、水分の損失も防げます。また、微生物の繁殖を抑え、発芽の阻止などにも繋がるといわれています。
    • 冷やすといっても、全部が全部冷やしてよいというわけではありません。低温障害が出てしまう、低温で保存するのに不向きな青果物もあります。それは熱帯や亜熱帯が原産の果物や作物です。低温障害では、表面が茶色に変色する褐変が起こったり、ピッティングといって表面にくぼんだ斑点ができたり、通常より水っぽくなったり、軟らかくなりすぎるなどの追熟不良やビタミンCの損失などが起こります。
    • 低温に対する感受性が高い野菜は、キュウリ、ナス、コショウ、サツマイモ、カボチャです。バナナなどは、冷蔵庫に入れたらダメというのはよく耳にされると思います。レモン、パイナップル、マンゴー、アボカドなども低温に対する耐性があまりないので、冷蔵庫に入れるよりは常温で保管していたほうがよいものに入ります。低温感受性が小さいものは0℃付近で保存しても大丈夫ですので、どんどん冷やして新鮮さを保つよう扱われます(スライド9)。
参加者

バナナなどは、冷蔵庫の野菜室に入れておくとけっこう保ったりするのですが、そのことと低温障害というのはどういう関係があるのでしょうか。

安永

低温障害というのは、細胞膜の変性なんですね。表面の細胞膜が変わってしまって、そこからイオンなどが出てくることによって生じる症状になります。例えば、ナスの皮の表面にくぼみができたり、バナナの皮の色が変わったりします。低温障害が発生する温度は10〜13℃となっているものが多いのですが、野菜室がこのような温度帯以上の温度に設定されている場合は、低温障害が発生することなく保存できる可能性があります(スライド10)。

参加者

エチレンを除いてやればもっと長く保つんでしょうか。

安永

低温障害とエチレンの関係はそこまで明確ではないかもしれませんね。低温障害を防ぐように開発されている冷蔵庫は、冷気が直接当たらないように開発されているということを読んだので、そっちのほうが関係しているかもしれません。

参加者

バナナは遠方から輸入で運ばれてくると思いますが、その時の状況はどうなんでしょうか。

安永

運ぶときは、真緑の未熟な状態です。本当に食べられるのかなというくらいの未熟な状態で、船舶輸送で長期間をかけて持ってきます。そして、実際に売るときに船の中でエチレンガスを風船に入れて飛ばします。そうしたら、エチレンの作用でバナナが追熟していって、黄色くなっていきます。その間バナナは追熟に適した温度環境で管理されています。

ガス環境の制御とは?

    ガス環境を制御することも重要です。スライド11の写真は、庫内の環境を低温、高湿度、低酸素濃度、高二酸化炭素濃度という条件にすることで、保管庫の中に入れられている野菜の呼吸量が非常に抑えられて、鮮度が保たれるCA(Controlled Atmosphere)貯蔵庫というものです。

    • この貯蔵庫はリンゴでよく使われていて、通常のリンゴの貯蔵条件は温度が0℃で、湿度が90%が良いと言われています。リンゴは9月〜11月に収穫されて、保管庫に保管されますが、その時期から2月までに販売されているものは通常の冷蔵で温度と湿度だけを管理しているものです。
    • それ以降に販売されているものは、冷蔵にさらにガス環境を、酸素濃度約2%、二酸化炭素濃度約2%のCA条件に保つことによって、鮮度が保持されるため、私たちは収穫時期以外でも年中おいしい国産リンゴを食べることができます。
    • それならば、全部の青果物をCA貯蔵庫で保管すればいいじゃないかと思うかもしれませんが、大がかりで貯蔵環境を制御するための機械がいっぱいついていますし、密閉されていないとこのガス環境というものは保たれません。規模の大きさも必要で、ガスも使うということですから、建設費用も運用コストも非常に高くなります。そのため、現状では、このようなCA貯蔵庫は青森のリンゴとニンニクだけに使われています。

ざまざまな機能を持つ包装

    包装も重要なポストハーベストの技術の1つです(スライド12)。その役割は、外界と遮断することによって食品品質を保持することです。微生物や害虫が入ってくるのを避け、水分や香り成分が飛散するのを防ぎ、水分や香気を保つことができます。ビタミンCの分解や、変色を防止することもできると言われています。

    • 輸送時に機械的損傷もあるとお話しましたが、包装、例えばフルーツキャップというものをご存知だと思いますが、桃はメッシュ状の高圧ポリエチレン製のクッション性の高いネットがかけられていますね。傷が付きやすいものにはこのようなネットをかけることで、輸送時に傷が付くのを防ぐことができます。包装されることで、1個1個を個別にではなく2〜3個まとめて運ぶことができ、取扱いが簡単になります。また包装容器の表面に文言や絵や写真などを加えることでイメージアップにつなげることもできます。
    • ガス環境を整えるということで、先ほどCA貯蔵庫のお話をしました。写真(スライド13)は包装されたシュンギクの例です。シュンギクも呼吸によって酸素を吸って二酸化炭素を出します。普通の環境では二酸化炭素濃度は0.05%くらいのところ、包装されたシュンギクが呼吸することによって、包装内のガス環境は簡易的に高二酸化炭素濃度、低酸素濃度のCA環境となり、呼吸を抑制することができるという状況を作っています。このような貯蔵方法をMA包装といいます。最近はこのように包装されて売られていることが多いと思います。
    • 包装の資材をいろいろ変えて、エチレンを吸着したり、水滴が溜まることを防いだりするフィルムなどの開発が行われています。そうしたものを機能性フィルムと呼んでいます。
    • 追熟抑制フィルムというのは、先ほど出てきた老化に繋がるエチレンというガスを吸着したり、除去したりできるものです。過マンガン酸カリウムを練り込んだものがエチレンの除去効果が高いということで、これはキウイフルーツの貯蔵に使われたりしています。
    • ガス制御フィルムは、先ほどの低酸素、高二酸化炭素の貯蔵条件を作り出すことを助けるフィルムです。あまりにも低酸素、高二酸化炭素になると、厄介なことに別な障害が起こってしまいます。そこでちょうどいいガス環境条件を保つ必要があります。そのために、とても小さい数ミクロンの穴を開けて、極端な低酸素条件にならないようにしているフィルムが作られています。「p−プラス」というものが大きなシェアを占めていまして、博多万能ねぎ、カット野菜、もやし等の包装に使用されています。
    • 結露を防止するフィルムとして防曇フィルムというものがあります。フィルムの内側に非イオン系の界面活性剤を処理し、表面を親水化することにより水滴を水膜に変え、曇りを防止することができるものです。水分抑制フィルムは、過湿障害を抑制するフィルムで、紙おむつで使用されているような高分子吸水ポリマー樹脂をフィルムにラミネートすることによって、袋内の水分を吸着します。これは柑橘類の長期貯蔵に用いられています。
    • 抗菌性のフィルムというものもあります。これには銀ゼオライト、ヒバ類から採れるヒノキチオール、ワサビの辛み成分から採れるアリルイソチオシアネートなどの抗菌性物質を練り込むことで、農産物の腐敗を防ぐことに役立つフィルムです。
澤田

ワサビの辛み成分が腐敗を防ぐということは、練りわさびのチューブから器に出しておいて、そこに野菜を入れれば多少は保つんですか。

安永

でも、練りわさびから出る揮発性成分にアリルイソチシアネードが含まれているとは思いますが、野菜室全体に拡散させるためには相当量必要だと思われますし、高湿度環境では練りわさびの水分が溜まって腐敗しそうな気がします。やったことはないですけれども……。

澤田

ヒバの香成分やワサビの成分に効果があるということを見つけるということがすごいですね。

参加者

機能性フィルムは、鮮度保持になり、食品ロスを抑えられて良いと思いますが、この5種類の中で、効果が最も高いと思われるのはどれでしょうか。

安永

用途や利用する方の目的によってもだいぶ異なると思いますが、この中で一番浸透しているものはガス制御フィルムではないかと思います。

参加者

私はお弁当に抗菌性フィルムを使っていて、市販でワサビや銀などのフィルムがありますが、それ以外に一般で買えるものがあるでしょうか。

SC35会場の様子の写真3

身近な野菜の包装技術に高い関心が寄せられました

安永

一般で買えるところにはあまり出ていないかもしれないですね。JAさんなどで、資材として扱っているところで取り寄せたりしてはくれるかもしれませんが、それもそのJAが実際に当該の資材を使っているかどうかにもよると思います。貯蔵段階でそうした資材を使う作業はJA、卸、仲卸、大手スーパーなどで行いますから、一般にはどうでしょう。食品に関する展示会などでは、メーカーさんが、新商品のサンプルなどを配布していることがあって、試してみることができることもあります。

フィルム以外の機能性包装容器

    フィルムだけではなく、機能性を持った段ボールや容器の開発もされています。レンゴーさんという段ボールの大手メーカーが開発したのはイチゴ用の容器です(スライド15)。イチゴは腐りやすいというイメージがありますね。買った時からパックの下から覗いたらもうダメになっていてガッカリされることも多いと思います。イチゴがパックの底面に当たって、移動時の振動や摩擦で表皮が傷んで悪くなっていくんですね。写真の段ボールのトレイは、イチゴのパックが宙づりにされることによって底面が振動の影響を直接受けないように開発されたものです。

    • 普通段ボールは大きなホチキス針のようなもので止めてあることが多いですが、環境に配慮してすぐに処分できるように、テープも何も要らないようなノンステープル段ボールというものも開発されています。
    • 日本トーカンパッケージさんでは、段ボールの内側に先ほどお話ししたCA条件の環境を作り出すことができるようなフィルムをラミネートすることによって、段ボールの箱の中でCA条件を作り出すことができる鮮度保持段ボールを作っています。
    • フルテクターというパッケージは、合成樹脂製の容器の内側に伸縮性フィルムを接着し、伸縮性フィルムにより果実とホールトレーを挟み込むように固定し、果実の動きを抑制することで、輸送中の果実の傷みを軽減します。これは、海外のお客様が日本に来てイチゴを持って帰りたいという方も多いのですが、そういう場合にも有効なようにと開発されたものです。

ポストハーベスト技術を競う冷蔵庫の新機能

    日常の食生活に身近な例として、大手メーカーさんの家庭用冷蔵庫の特徴を調べてみました。

    • 三菱電機は「朝どれ野菜室」という名称で、赤、緑、青、3色のLEDを照射して冷蔵庫に入れている間でも野菜に光合成をさせることで、ビタミンCや糖の含量を増やすことができるという機能をつけています。パナソニックは「Wシャキシャキ野菜室」という名前で、野菜室が2段になっていて、冷気は送り込まないけれども、潤いを閉じ込めることができるといった野菜室を開発しているそうです。さらに「ナノイー」という、同社の加湿器など他の製品でも使っている機能の効果でポリフェノールやビタミンA等の栄養素が冷蔵中に増大するとメーカーでは広告しています。
    • 東芝は「5つ星VEGETA」といううたい文句で、水分たっぷりの潤いのある冷気が、ミストチャージユニットというものを通過することによって、普通は風を送ったら野菜の中の水分も抜けていってしまいますが、そうではなくて、潤いだけを野菜室に閉じ込めるというもので、先ほどのパナソニックとほとんど同じですね。日立さんは、「新鮮スリープ野菜室」というもので、野菜を眠らせるように保存して栄養素を守り、水分を閉じ込めて乾燥を抑えるという仕組みを開発しているそうです。
    • 冷蔵庫の例を見ても、水分や見た目をいかに保持し、どのようにして栄養素を減らさないようにするかを考えて開発しているということがわかると思います。
参加者

そうは言っても、野菜は呼吸していて、時間とともに栄養素は減るのではないかと思うんですけれども。

安永

例えばLED照射をする冷蔵庫は、光を当てることによって光合成をしているのと同じことになり、自分で栄養素をつくることができるということです。栄養成分がそれによって増えていくことになります。

    • ポリフェノールは栄養分と言ってはいますけれども、ストレスが起こるとそれに対応して発生するものです。ストレス反応で生じるので、収穫後であってもストレスがかかることによって減らなかったり、増えたりします。
    • これらの冷蔵庫の機能の情報については、私が測ったわけではなく、各メーカーさんがこのようなうたい文句で説明しているというご紹介です。
    • 葉っぱがなければ光合成できませんので、例えば光を当てる冷蔵庫の機能は葉物にしか効果がないと書かれています。
澤田

呼吸ということでは、日立さんの「新鮮スリープ野菜室」は呼吸を抑制して、酸素を少なめに抑えているという感じでしょうか。

安永

そうですね。また、プラチナ触媒というものがありますが、触媒効果でエチレンを吸着したり分解したりしているのではないかと、そこまでの説明はありませんでしたが、そうした機能も使われているのではないかと考えています。

澤田

メーカーさんの広告では一番のウリを書いていて、実際には他にもテクノロジーがいろいろと隠れているということですね。

安永

冷蔵庫内での野菜の収納の仕方ですが、野菜は生育時の状態で保存するのが一番良いんです。

    • 例えば葉菜類を寝かせて冷蔵庫に入れようとすると、立ち上がろうとするんですね。自分が生きていたときの姿勢と同じようにしようとして、立ち上がろうとするので、それにエネルギーをどんどん使ってしまいます。そのためその葉菜の品質がどんどん悪化してしまいます。
    • アスパラガスは生育初期のステージの部分を食しますが、呼吸も激しくどんどん栄養価が低下するので、それを防ぐために、最近の冷蔵庫では最初からアスパラガス専用の容器が備わっているものもあるようです。このように生育時の姿勢で冷蔵庫に入れることも鮮度保持のためには重要なことです。
澤田

アスパラガス、冷蔵庫で横にして入れていたらしなびていたことがありました。立てたほうがいいんですね。

洗浄・殺菌もポストハーベスト技術

    今までお話しした技術以外でも、洗浄や殺菌といったこともポストハーベスト技術の一種になります(スライド17)。洗浄は土壌や農薬や微生物を洗って落とすということです。これは単に水に漬けること、水をぐるぐるかき回したり、回転するドラムに農産物を入れ、散水しながら洗浄したり、回転ブラシによって回転させながら洗浄する方法があります。このような方法がありますが、これらを併用して洗浄します。

    • 加熱殺菌は、食品を加熱して混入している微生物を殺す方法です。これは熱してしまうので生鮮野菜に使うのには困難な方法と言われています。一部、マンゴーは温湯処理として、収穫後にお湯で一度洗って蒸気を20分くらい当てるんですけれども、そういったものに対しては追熟を抑える効果もあるといわれています。
    • 薬剤殺菌としては、食品に使用できる薬剤とその用途の使用基準というものがありますので、それを守りながら使われています。殺菌料としては、サラシ粉、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウムなどがあります。漂白剤や発色剤としては、過酸化水素や亜硝酸ナトリウムなどがあります。これらには殺菌効果もありますが、殺菌剤としての使用は認められていません。
    • 紫外線を照射することによって殺菌もできます。紫外線の中で260〜280nm(ナノメートル)の波長が強い殺菌力を持つといわれています。この波長を青果物の表面に照射することによって、DNAに損傷を与え細胞分裂を阻害して微生物を殺すことができるということです。
参加者

イチゴなどについて、残留農薬という言葉を聞いたことがありますが。そうしたことは、殺菌や洗浄においては気にされていないのでしょうか。

安永

基本的に流通の際にイチゴは殺菌していないと思います。収穫されたものはそのまま農家さんでパック詰めされて、それが流通しているという現状です。

    • 生産者からJAに持ってくる際に抜き取り検査をして、残留農薬が基準を超えていないかチェックされ、クリアしたものだけが流通されているというのが現実になります。その生産者からJAに持ってくる際に抜き取り検査をして、残留農薬が基準を超えていないかのチェックがされて、クリアしたものだけが流通しているということです。
    • 全品検査ではありません。もし基準を超えたものが見つかったら、その農家さんがその日に収穫したものは全部流通しないようになっていて、そうすることで安全性を担保していると考えていいと思います。
    • また、イチゴは洗浄してしまうと、傷みが早くなってしまうので、気になる方は食べる直前に洗うほうが良いです。

フードチェーンの現状

    品質検査の話が少し出ましたが、実際に収穫したものが私たち消費者のところに届くまでどういうルートを辿ってきているか、その一連の流れをフードチェーンといいます。

    • スライド18は、ある農家さんのハウスでシュンギクが栽培されている様子です。農家さんはこのようにハウス内に座って収穫しながら袋詰めします。秤で重さ何グラムと計って、傷が付いている葉を取り除くトリミング作業を行いながら、きれいなものだけを袋詰めします。
    • コールドチェーン勧告を守って、農家さんからJAに行く間も冷蔵機能がついたトラックなどで持って行く、あるいは収穫されたものがすぐに、農家さんが持っている予冷庫に置かれ、夕方にそこからまとめてJAへ運ばれていくというルートが好ましいのですが、現状は写真のような状態になっています。
    • JAに到着後も特に低温管理がされている場所ではなく、写真のように常温管理の場所で、農家さんから運ばれてきたものを一様に並べて、この中から抜き取りで常温のまま品質検査を行っています。ここで問題がないことが確認された農産物については、JAから卸売市場へ冷蔵機能のあるトラックで運ばれていきます。
    • ここではシュンギクを例にしましたが、いろいろな野菜が各JAから卸売市場へ持って行かれます。卸売市場には低温貯蔵庫があり、そこで低温貯蔵することができます。ですが、貯蔵庫にはいろいろな産地から様々な品目が次々届くため、入口の扉が開きっぱなしだったりするので、基本的な温度管理はしているものの、その設定温度には達していないというような現状があります。
    • 農産物が搬入された翌日に、競りが行われた後に、小売店に持って行かれます。小売店では、それまで封をされていなかったものが封をされたり、持ってくるまでの間にしなびたものがあればそれを取り除いたりなどの調整作業の後に、小売店の店頭に出ることになります。

流通温度下での野菜の栄養価を「見える化」

    このようなフードチェーンの温度環境を追跡してみると(スライド19)、実際に農場からマーケットへ行くまで、低温での温度管理はされていなくて、グラフを見てわかるように、約24℃くらいから下がっては行くけれども、市場などで一旦温度が上がったりしています。小売店に到着すると3日くらいバックヤードで保管されていたり、ショーケースに出てきたりしますが、ここまでくると一定温度で管理されるという状況になっています。

    • スライド19のグラフの青線は温度環境です。この環境を実験室内で再現し、その時の呼吸速度を実測したものが赤線になります。温度に付随して呼吸速度も大きく変化していることがわかります。
    • 呼吸速度だけではなく、野菜の中の成分がどのように変化したかを測っているのがスライド20の図です。果糖、ブドウ糖、ショ糖を合わせて全糖といいます。ショ糖は私たちが普段食べている砂糖の原料と同じものです。グラフでは、その全糖が収穫したての時点ではたくさんあったのに、消費者の手元に届く頃には半分くらいにまで減ってしまうということがわかります。
    • このグラフのデータは6月、7月、8月の3カ月に同じ農家さんで栽培されたシュンギクで取ったものですが、暑くなる時期にはこのように栄養成分がどんどん減っています。さらに流通期間中にも減ってしまっています。
    • スライド20の右のグラフは同じシュンギクのビタミンCの量ですが、6月、7月、12月のデータです。シュンギクの旬は冬です。旬の時期はビタミンCの量も多いのがグラフからもわかります。旬のものを旬に食べるということは栄養を摂取する上で重要ですし、しかも旬の時期はその野菜の値段も下がりますから、これはとても理にかなっていることを理解いただけると思います。
    • スライド21は、流通環境において、野菜の呼吸量と内容成分含量の減少のデータから、それをモデリングすることによって数式化することができますよという、私の研究の紹介です。数式化により、流通中の温度がわかると呼吸量を予測できること、流通温度を把握することによって、実際に収穫してからどのくらい成分が減っていますよということを数値化でき、品質を「見える化」することができると考えています。

「植物検疫証明書」と「衛生証明書」 おいしい果実が日本に届くまで

    果実を日本に輸入する際には、関税が決められていたり、植物検疫法、食品衛生法などの様々な規制があります(スライド22)。植物検疫法では、例えば私たちが海外旅行に行ったきにおいしいと思った果物を勝手に持って帰ることはできませんよね。でも、それが日本で売られていたりするのはなぜかというと、この法律により条件付きで日本に持って入ることが認められているからなんです。

    • 例えば、タイ産のマンゴーは日本に持ち込んでよい品種が決まっています。その品種の果実にミバエ類が付着していないかどうかを確認するための検査が必要になります。ミバエ類を取り除くために、表面をお湯で洗って、中心部分の温度が47℃以上となるように飽和蒸気を使用して20分間消毒処理をされたものは輸入できるという条件があります。そのように条件付きで認められる場合もあるので、私たちは海外のものを国内で買って食べることができているのです。
    • 食品衛生法では、残留農薬が基準値を超えていないということを確認されて初めて日本に持ってくることができます。さらに輸入したものを販売するにあたっては、「農産物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」や食品表示法という法律も守らなければなりません。
第37回サイエンスカフェ会場の写真

輸入時の検疫について次々と質問が出ます

    • 植物検疫証明書(スライド23写真左)と衛生証明書(同右)の例ですが、左の写真右下に日本人の名前のサインがあります。これはタイのマンゴーを日本に持ってくる際に日本の検疫官がタイの蒸熱処理施設に出向き、先ほどお話しした条件というのを実際に満たしているかを検査、確認し、OKの場合にサインしています。そのため、このように日本人の検疫官の名前が書いてあるというわけです。右は衛生証明書ですが、いくつかの残留農薬について基準値が決められているものがありますが、それが「Not Detected」(検出されていない)という検査結果が証明されています。
    • 植物検疫証明書と衛生証明書、この2点が荷物の中に一緒に入っていないと日本に持ってくることはできません。このような規制によって私たちの食の安全が保たれているということです。

タイからマンゴー果実を輸入してみました

    日本に持ってくる時には、箱にも条件があります。「TREATED」というシールが貼ってありますが、これはきちんと条件付きで認められている処理を行っていますよという意味のシールです(スライド24写真左)。箱に「FOR JAPAN」とあるのは、日本用に処理されていますという表示です。

    • 写真は、タイにあるパッキングハウス(蒸熱処理施設のことを現地でpacking houseと呼びます)の様子で、「FOR KOREA」、「FOR AUSTRALIA」等々、輸出先の各国用の箱が準備されています(スライド24)。
    • 右の写真は成田空港での検疫の様子です。箱のサイドに穴があって、そこにはネットが張られています。タイからの作物に付いていてほしくないミバエ類というハエがもし付いていて、さらにこの箱の中で繁殖しては困るので、まずこのネットが破れたりしていたら、それだけでももう検疫をパスすることはできません。
    • さらに、到着した空港の検疫では運ばれてきたものの3分の1ほどをランダムに検疫官が選択し、検疫所まで持って行き、各箱を開封し、箱内の半分を1個1個検疫官がチェックします。このようにして、外国から到着したものが腐敗したり、有害な動植物が付いていたりしないかを確認しています。
    • 余談ですが、実験のために、タイでマンゴーを350個買いました(スライド24写真右)。その代金は2万5,000円、これを運ぶための輸送費がマンゴー代より高い3万円。日本とタイの間の関税の法律があって、消費税分しか税金がかかりませんから、税金は3,400円。それで成田空港に到着したら、検疫を受けるために空港の倉庫に一旦保管をしてもらわなくてはなりません。検疫にパスできなかった場合、そこから日本に入れられません。その倉庫に蔵置してもらうためのお金が5,460円となって、実際の果物の値段よりも輸送、税金、保管などそれ以外の費用がかなりかかるという例です。
参加者

向こうで証明書を発行してもらい、日本でもチェックして、二重チェックするということは、ダメなものは入らないから量は減るのですか。

安永

向こうから送ったもの自体はタイでの検疫をクリアしているものですから、届いたものの量自体は送ったものと同じです。日本での検疫に合格できない場合、駄目な果実を取り除くということではなく、すべて廃棄になります。

参加者

国内で検査するのは抜き取りですね。

安永

そうです。国内でのチェックは成分などを検査するわけではなく、腐敗がないか、病気がないか、ハエが付いていないかなど、目で見てのチェックです。

澤田

輸送中にカビが発生したとか、入り込んでいた虫が出てきたなどがなければ、タイの植物検疫証明書と衛生証明書を取った時点できれいな状態という扱いになるんですね。

安永

そうなるはずで、そのための出荷前の条件があるわけです。

参加者

個人で旅先で買って食べかけていた果物などを飛行機で持ってきてしまった場合でも、空港で検疫カウンターに行かなくてはなりませんか。

安永

そうです。その場合は検査をするのではなく、証明書も何もないので日本に持ち込むことが認められていません。没収になります。もし個人の荷物などに無断で入れて持って帰った場合は、違法行為ということになります。

ネガティブリスト制度からポジティブリスト制度へ

    日本の農薬については、現在はポジティブリスト制度(スライド25)になっています。元々はネガティブリストでした。それは、原則規制がない状態で、規制するものだけがリスト化されていました。そのため以前は、残留基準が設定されていない農薬などが食品から検出されても、その食品の販売を禁止することができませんでした。例えば、日本では使用されておらずリスト化されていない中国の農薬については、規制することができませんでした。

    • その中でいろいろな食品事故が起こってしまいましたので、平成18年から法改正されて、基本的に農薬は全部適用してはいけないけれども、リストに載っているものについては使用してもいいですよという規制に変わったんです。基準がないものは一律0.01ppmという基準をつくっているので、いろんなすべての農薬について規制ができるようになったということになります。(スライド25)
    • 安全確保のための基準値設定はどのように行われているのでしょうか(スライド26)。健康に対する影響が摂取量に対してどのくらいあるのかを、まずは動物で調べます。動物で全く悪影響が出ませんでしたという値が出たとして、人間と動物では影響が違い、人と人の個人差も考えて、安全係数をかけて基準値を決めています。それをADIといいますが、これは一生涯毎日食べ続けても健康に悪影響が出ない量ということになっています。
    • それぞれの農薬、食品添加物などについて、先ほどの無毒性試験で出た値に対して安全係数をかけて、基準値を決めます。そして、それぞれの作物に対して、人がどのくらい摂取するのか、どのくらい残留農薬が出るのかという実態調査を行って、残留農薬の基準値を厚生労働省が決めます。実際決められた基準値について、それを守れるようにするには、農薬をどのくらい使用してよいかを農林水産省が決めています。

防カビ剤とエチレン作用阻害剤

    一般的に「ポストハーベスト農薬」と呼ばれたていたり、認識されたりしている防カビ剤についてお話しします(スライド27)。防カビ剤は、日本では農薬ではなく、食品添加物の1つです。

    • イマザリルはよく耳にするかもしれませんが、柑橘系やバナナにスプレーしたり、漬けたりすることによってカビを防いだりします。ほかにもいくつか示していますが、これらは全部防カビ剤になります。
    • 農薬として、収穫後の農産物に撒いてもいいことになっているのはスライド28の「1-MCP」(エチレン作用阻害剤)というものです。これは今日の前半のお話に出てきたエチレンという追熟を促進する植物ホルモンと構造がよく似ています。しかし、これを使うことによって果実の成熟を抑制したり、カット野菜の傷みを抑制することもできます。切り花の鮮度保持にも使われたりしています。商品名は、スライドに示しているとおりですが、日本ではリンゴとニホンナシとセイヨウナシ、カキなどに農薬登録が認められていて、収穫後に使用することができます。
明るい午後の光が届くカフェを会場に対話がはずみます

明るい午後の光が届くカフェを会場に対話がはずみます

    • 1-MCPの作用機構です(スライド29)。普通であればエチレンとエチレン受容体がくっつくことにより、受容体が成熟・老化の抑制作用を失うことで成熟が促進されてしまいます。しかし、1-MCPはエチレンよりも先に受容体にくっつきます。すると受容体は成熟・老化の抑制機能をそのまま持続し、成熟・老化が抑制されるのです。
    • ブロッコリーは呼吸が激しく、緑の蕾のクロロフィルが消失し黄色になるなどの外観的な鮮度低下も激しい作物です。そのブロッコリーに1−MCPで処理を施した例がこちらです(スライド30)。左上の写真は処理前のブロッコリ、右下の写真の左の2つは1-MCP処理を施して10℃、20℃で、右は1−MCP処理を施していないものを20℃でそれぞれ7日間保存したものです。これらを比べると、処理していないものは色も黄色くなって花が咲いていますが、処理したものは同じ20℃でも黄色の拡がりは抑えられていますし、10℃で保存したものは初めの状態が維持されているということがわかります。1−MCPはポストハーベスト技術の1つとして、開発はアメリカですけれども、世界的に使われているものになっています。
参加者

ブロッコリーには通常この処理がされているのでしょうか。

安永

されていません。先に紹介したように、日本で収穫後農薬として使用が認められているのは、リンゴ、ニホンナシ、セイヨウナシ、カキだけなんです。スライド30の例は、私が研究として使っているだけで、市販されている一般のブロッコリーには使われていません。

ポストハーベストと食品ロスを考える

参加者

今日は「ポストハーベスト農薬」のお話かと思って参加しました。防カビ剤についても、日本ではポストハーベスト農薬は基本的に禁止ですが、正しい理解かどうかわかりませんが、バナナをかなり未熟な状態で収穫して、船の中で薬剤のプールに漬けて運ばれるというようなことを聞いたのですが、今日のお話では最後にエチレンをかけるということでしたので、プールに浸かっているというのとは全く違うイメージでした。そこは実際はどうなんですか。

安永

プールに浸かるというよりは、実際は出荷前に表面の付着物を除去するために一旦洗浄する場合にそういうところを通っているというのはあるかもしれません。いずれにしても、日本に到着して検査をするときにはすでに食品添加物の濃度としては残っていない状態になっていて、それを私たちが食べるということです。

参加者

アジアでもヨーロッパでもアメリカでも海外ではマーケットに普通に新鮮な野菜が並んでいて、それを個人がどんどん選んで取って買っていきます。下のほうにあるのはどうなるのかなと素朴に思って見ています。日本のお店ではものすごく個包装をされていて極めて不自然に感じています。ポストハーベスト処理を何もしない場合と、今日ご説明のあったような包装、温度管理、ガスの調整などポストハーベスト処理を施すのと、どっちが自然で、おいしいのか、どっちが食品ロスがないのか考えさせられます。私自身は野菜などについては手が加えられるのが嫌なのですが、ポストハーベストの処理には開発技術が必要で、容器や輸送にもコストがかかるうえ、本来なら傷んで捨ててしまうところを新鮮なように見せかけて食べさせられているような気がしてしまいます。

安永

青果物の廃棄率については、途上国では5割強になってしまっています。日本では3割程度です。今日お話ししたような鮮度保持技術を使うことによって、収穫したあとの廃棄率を減らすことについては非常に貢献していると言えます。ダメになった野菜ということですが、ダメになることを抑えているので、実際にはダメになってはいないんですね。海外みたいに量り売りで売ればよいとのではというお話かと思いますが、日本は海外とは国民性がだいぶ違っていて、安全についてもきれいさについてもすごく神経質です。それは国が豊かなおかげだと思いますが、今から海外の状況のようにやってみてと言われても、だれももう受容できないくらい、コールドチェーン勧告が目指してきたものが浸透してきている中で、かなり時代に逆行してしまうのではないかなというのはあります。

参加者

消費者が求めたのか、流通側がそういうふうに仕向けたのかはわからないと思いますが。

安永

鮮度がとても高いものを求めるというのであれば、「地産地消」と呼ばれるものや、産直などでも購入できますから、消費者それぞれのニーズに合わせた買い方もできるように、選択肢としてはいろいろあるわけです。

参加者

通常の売り方のほうが多くて、安いですよね。地産地消とか取り寄せるものというのはむしろ高くて、早くしないとしなびてしまうし、さっさと消費しなければいけないというのはありますけれども。ただ、ますますラッピングがされて、かつては簡単にくるりと包む程度だったレタスが今は頑丈にラッピングされて、あっというまにしなびていたものが、今はいつまでも生き生きしていて、「何か使っているから、よく洗わないとだめだから」と話したりしています。

安永

新鮮さや見た目の保持の状態は、予冷処理がうまくいっているものとそうでないものとでは、その後の品質が全然違うことになったりするので、一概には言えないですが、農薬がかかっているとかではないと思います。

参加者

「貯蔵」の前に「貯留」という言葉を聞いたことがあるのですが。

安永

「貯留」というのは、売る前に一時的に置いておいたりすることをいいます。例えば、卸売市場で競りにかけられる前に貯蔵庫に一時的に置くといったイメージです。

参加者

農薬で鮮度をキープできるものなんてあるんですか。

安永

最後にご紹介した1−MCPはその1つとして使われているものになりますが、それは日本では前出の4種の果実にのみ農薬として認められています。ほかにはありません。

参加者

なぜこの1−MCPが1つだけ農薬として認められているのでしょうか。

安永

無毒性を証明するのに調査をしなければならないんですね。何度も繰り返し調査をしていくのですが、それも効きやすいものから調査をするので、今はリンゴ、ニホンナシ、セイヨウナシ、カキで効きやすいことが証明されて、許可が出ているということです。今後、研究成果によっては適用できる青果物が増えていくかもしれません。
(完)

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