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第13回サイエンスカフェ「聞いてみよう!農薬のコト」開催報告

掲載日: 2016年3月2日

話題提供者の浅見さん(左)と関崎センター長(右)

話題提供者の浅見さん(左)と関崎センター長(右)

2015年8月6日、第13回サイエンスカフェ「聞いてみよう!農薬のコト」を開催しました。

関崎勉センター長の挨拶に始まり、農学生命科学研究科の生物制御化学研究室の浅見忠男教授に、なぜ農薬を使うのか、農薬とは何か、農薬の登録や使用方法の管理、さらには農薬に対するリスクの考え方まで、幅広い内容について分かりやすく説明して頂きました。

猛暑日が続いていた真夏の午後、とても暑い中でしたが多くの方にご参加いただき、盛会となりました。ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

○第13回サイエンスカフェ配布資料(pdf)

※以下、記載がない場合の発言は浅見氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

なぜ農薬を使用するのか?

    •  例えば皆さんが病気になるのと同じように、植物も病気になります。人間の場合、病気になったら薬を飲みますが、作物の場合は病気になったら手遅れなので、病気にならないように薬を使います。それが農薬です。
    •  例えばモモの灰星病はカビが原因で起こる病気ですが、カビの胞子が風に乗って周囲のモモに広まりますので、これが一旦発生するとあっという間に広まってしまいます。農家の人にとっては、病気が発生する前に予兆を発見して防御することが重要です。
参加者

一時期マスコミなどで、バナナの表面に防腐的な意味合いでだと思いますが薬品がかかっているとよく言われていましたが、最近は、それが言われなくなりましたよね。それって、種類が変わったのでしょうか?

浅見

種類が変わったと言うよりは、危険でないということが、安全が確保されたということが確認されたということではないでしょうか。

参加者

日本サイドで確認できたということですか?

浅見

そうですね。これからお話もしますが、毒性があるものについてはその濃度が重要です。それが我々の元に届くときに、どれだけ残っているかということをしっかり調べて、我々の生活には影響ないだろうと確認されたのではないでしょうか。

農作物が病害虫の被害にあうのはなぜ?

    • 農耕地では人間が育てたいものを育てています。栄養があるものを、しかも一種類の作物を広い面積で栽培するなど非常に人工的な環境で育てていることが、病気が出やすい一つの理由です。
    • 甘いとか、デンプンをたくさん含んでいるとか、人間に好都合な作物は病害虫にとっても好都合ですから、人が食べる前に、病害虫にだいたい食べられてしまうのです。
    •  栽培植物は自然の植物とは全く違うということです。特に最近の日本の場合では、美味しいもの、たくさん収穫できるものが優先されていて、病気に対して強くしようとか、虫に対して強くしようというようには育てられていません。
関崎

昔、僕らが子供の頃に食べていたあまり美味しくないものの方が病気には強いのですか?

浅見

必ずしもではないのですが、一般的にはそういう傾向はあります。人間にとって苦いものというのは、虫にとっても苦い。多くのアルカロイド類は人間にとって毒性がありますが、昆虫も嫌いなのです。

 農薬を使用しなかったら?

    • 日本のコメについてですが、農薬を使用しない場合では、農薬を使用した場合と比較して収穫量が約3割減ってしまいます。さらに、リンゴの場合では約9割の収穫量減となってしまいます。
    • アメリカでも昔からデータがありまして、モモ灰星病に対してよい殺菌剤がなかった1850年代には75%が病気の被害にあっていました。1920年代になって、イオウで病気が防げるようになると被害が1割強まで減りました。今は合成農薬を合わせて使用することでほとんど被害がなくなっています。
    • アメリカにおいて殺菌剤を使用しない場合の減収率ですが、多くの作物が5割程度の減収率になってしまい、農家はとてもやっていけないような状況になります。
関崎

スイカや桃など甘い作物の方で減収率が高くなる傾向にあるのかと思っていたのですが、落花生も高い減収率(66パーセント減)になるのですね。

浅見

落花生につくカビがあり、このカビが発生すると落花生自体をダメにしてしまうだけではなく、アフラトキシンという史上最大の発がん性物質を生産します。このために見た目は良くても商品にならず、それらも含めての高い減収率かと思います。 アフラトキシンを生産するカビは栽培中に発生するだけではなく、収穫後にも発生する可能性があります。そのため、ポストハーベスト農薬により防ぐなどの対策が行われています。

参加者

いま、ここで言う殺菌剤とは1種類ですか?

浅見

1種類ではありません。作物によって特異的な病気があり、それぞれに対して良い薬があります。人間でも病気によって効く薬が違うように、同じ薬の場合もありますが、それぞれ異なる薬が使われています。

世界三大病害

    • 殺菌剤がなかった頃の事例として、稲のいもち病があげられます。日本でも江戸時代の三大凶作の原因の一つだったと思われます。また、ムギさび病がつくと麦が毒素を作り出してしまいますので、大幅な減収となります。
    • そして、有名なのがジャガイモの疫病です。特にアイルランドは、ジャガイモが栽培できるようになり、人口もどんどん増えました。しかし、ジャガイモ疫病に数年にわたって襲われて、食料としてジャガイモに頼りすぎていたことなど、人間側の事情も重なってしまい、食糧不足に追い込まれ100万人を超える人々が餓死しました。あと、これを契機としてアイルランドからアメリカへ移住した人も多く、急激に人口が減ってしまいました。
参加者

アイルランドの話は、飢饉によって100万人の人が亡くなっていますが、ジャガイモが取れなくなったから餓死したのですか?

浅見

そうですね。ジャガイモが取れなくなったからです。ジャガイモに頼り切った農業になっていたので、それが取れなくなると飢饉になります。しかも、一番収量が高い単一の品種をどんどん使っていたため、一つの病気が蔓延しやすかったのです。ジャガイモは種芋を切って増やしますので、遺伝子的に同じで、病気への抵抗性がみな同じだったのです。

殺虫剤の場合は?

    • アメリカにおいて殺虫剤を使用しない場合の減収率は、リンゴで−93%、ミカンで−77%、モモで−51%となっています。また虫に食べられると、そこから病気になりやすく、虫の種類によってはウィルスを媒介するものもいるため、収穫量が減る原因となります。
    • 江戸時代には稲につく虫を松明の灯で追う「虫追い」が行われていて、今でも埼玉県に行事として残っていますが、害虫の防除としては効果がありません。ヨーロッパでは教皇により害虫への破門宣告をする、ということもありました。
    • 昔から害虫に困っていましたが、対策がなくどうすることもできなかったのです。

除草剤の場合は?

    • 雑草があるのとないのとでは収量が大きく変わります。アメリカでは昔は奴隷が、さらに最近ではメキシコからの不法移民が腰に負担のかかる除草労働を行っていました。短い草刈りカマの利用は腰に負担がかかるので、1974年に使用が禁止されました。そうしたら、手で抜かせるようになりまして。最近、2004年になってやっと手で抜くのも禁止になりました。
    • 有機農業では、除草剤の代わりに農場で人が一日中草を抜くという作業が必要となりますが、アメリカの農家は平均的に100ヘクタールの畑を持っていますので、その面積を家族だけで除草するというのは、実質、不可能といえるかと思います。
    • さらに、「根寄生雑草」という雑草は、現在、世界でもまだ退治できていない雑草です。この雑草に寄生されたニンジンは、栄養をとられ成長することができなくなってしまいます。寄生雑草の種に地面が覆われてしまうので、ニンジン畑はいつも寄生雑草で覆われたような状態で、運良く寄生されなかった、ごく一部のニンジンだけが収穫できる、というような状況になってしまいます。
参加者の皆さんから多くの質問がありました

参加者の皆さんから多くの質問がありました

参加者

日本でもこの寄生雑草はでるんですか?

浅見

日本でも荒川の土手に5~6月頃に行くと、この寄生雑草の仲間をみることができます。アカツメクサなどがよく寄生されています。ただ幸いなことに、日本では作物に食いつくような種類はまだ出ていませんが、要注意雑草です。アメリカにもこの雑草が入ったことがあったのですが、アメリカの農務省が莫大な予算をかけて撲滅しました。一度、広がってしまったら大変なことになるからです。ビルゲイツ財団がアフリカ救済のために掲げている大きな項目として「エイズ、マラリア、寄生雑草」のように寄生雑草もふくまれています。

農薬を使わない農業は可能のなのか?

    • 農薬を使用しなかった場合、小麦を例とすると、北米地域では30%の減収、西ヨーロッパでは虫や病気も出やすいため45%の減収、東アジアでは35%の減収となります。
    • 日本のカロリーベースでの食糧自給率は40%程度で、多くの食物をアメリカやオーストラリアなどから輸入せざるをえません。アメリカなど非常に広い農地で栽培していることを考えると、農薬を使うということもわかるかと思います。
    • 少し違う面でみた農薬の良いところですが、アメリカでの米の生産において、灌漑、機械、肥料にそれぞれ使うエネルギーと比較すると、農薬に使うエネルギーは少ないです。しかし、農薬を使わないと収量が3割減ったりしますので、非常に効率がよいものだという見方もできます。
    • 農薬を使わない農業もできますが、かなり収量は落ちます。今の生活を支える、みんなが健康で平和に暮らす。食が足りなくなると争いが起きたりしますので、みんな食が足りて健康で平和に暮らすということに、農薬が貢献しているかと思います。

農薬の定義

    • 農薬とは「農作物を害する病害虫、雑草などを防除して作物を保護し、あるいは作物の成長を調整して農業の生産性を高めるために使用する薬剤」と定義されます。最近では世界的に「作物保護剤」と言ったりするように、農薬とは作物を保護するものです。
    • 農薬の種類には、先ほどから出ています殺虫剤、殺菌剤、除草剤の他に誘引剤、交信かく乱剤などもあります。オスとメスの出会いをなくせば虫を減らせますので、虫を引き寄せるフェロモンで引きつける、そういった目的のものも入っています。
    • 作物の生長調整の薬剤としては、作物が大きくなったり、根っこが大きくなったりするようにするもの、また稲であれば背が高くなりすぎないようにするものであったり、着果促進剤や種を作らないようにするものなどもあります。
    • テントウムシや寄生バチなど、天敵を利用するものも法律上は農薬となります。
参加者

天敵なども農薬に含まれるというのは、日本だけでの話なのでしょうか?

浅見

いえ、世界的に見てこれらも農薬ということになります。

農薬はどのように作用するのか

    • 虫は分類でいうと動物ですので神経系があります。殺虫剤はこの神経系に作用して機能をかく乱するもの、ミトコンドリアに作用してエネルギー代謝を阻害するもの、昆虫に特有な生理作用に着目して殺虫するものなどがあります。
    • 殺菌剤については、カビなどの病原菌へ直接作用するものとして、菌のエネルギー代謝を阻害するもの、菌に必要な細胞膜を作るための物質ができるのを止めてしまうものなどがあります。あとは病原菌の感染機構を阻害する薬や、作物に抵抗力を付けさせる薬というのもあります。
    • 除草剤は葉緑体にある反応系を標的にするものが多く、相対的に人間に対する安全性が高いです。光合成を阻害する、アミノ酸の生合成を阻害する、細胞分裂を阻害するなど、植物の中で効くものです。

農薬の登録と農薬使用基準

    • 農薬は全て登録が必要です。農薬製造会社は良いものを見つけると、圃場で試験をします。公的な機関にも依頼して評価してもらいます。これに並行して、毒性試験、残留性試験、環境での影響などを調べていきます。
    • 試験の結果をまとめて農林水産省に提出し、試験成績や使用基準がチェックされます。また環境省では環境への影響がチェックされます。さらに食物に使用するものですし、使用する人が毒を浴びてはいけませんので、厚生労働省でもチェックされます。さらに毒性の部分について食品安全委員会でもチェックされます。これらの基準を通して、農薬は登録されます。
    • 市販されている「○○液は効きます」というようなものは、農薬ではないのでこの様なチェックがされておらず、毒性なども調べられていませんので、かえって危ないので気をつけてくださいと言ったりしています。
参加者

登録の有効期限が3年とありますが、3年ごとに最初から全て再評価を行うということですか?

浅見

再評価しますが、全て最初からということではないですね。

関崎

農薬の場合とは少し違うかもしれませんが、動物用医薬品の薬事審議会のほうに関わっております。動物薬では、承認されたものは必ず6年後に再審査されることになっています。審査の段階で安全だと分かっていたものでも、本当にそうか将来のことで分からないこともありますから。また、実際に使ってみて、6年の間に事故などが起こっていないかもメーカーが調べて報告します。例えば、抗菌性物質などであれば耐性菌ができていないかなど、実際に使ってみなければ分かりませんので、必ず調べることになっています。

参加者

一日許容摂取量というのは、世界的に見て日本は何番目くらいに厳しく設定されているのでしょうか?

浅見

何番目と正確には分かりませんが、今は世界的に大きな差はないかと思います。最近は、輸出入の障壁をなくすために世界一律基準にしようという動きもあり、日本も他と遜色ないレベルかと思います。例えば、ポジティブリストに登録されていない農薬の残留基準が0.01ppmとなっていまして、日本もヨーロッパもほぼ同じです。

参加者

農薬は全てポジティブリストに入っていると思っていたのですが、登録されていない農薬も使って良いのですか?

浅見

例えばDDTのように毒性が強いものについては、使用が禁止されています。どの農薬をどの作物に使うか、一つ一つ登録されています。例えば、稲に使っても良いが、野菜に対する使用は登録がされていない、というような農薬があります。この場合、稲では1ppmまでと登録されていても、野菜では0.01ppm以下でなければいけません。ポジティブリストに載っていないものについては、残留基準が非常に厳しくなって、罰則を受ける可能性も高くなります。

    • 公的機関によって登録された農薬は、必ず登録番号と用途、農薬名、有効成分が表示されて売っています。安全性が担保されていますので、使うのであればこれらを使うのがよいかと思います。しかし、必ず使い方は、書いてあるのと同じように使って下さい。
    • 適用作物、使用濃度・量、使用回数などが使用基準として決まっていて、これを間違って使用すると罰則の対象となります。なぜ使用基準を守る必要があるのかというと、これを守って使っていれば、農薬の残留量が基準値以下になるからです。
参加者

農薬というのは、作物の中にまでは入ってこないのでしょうか?

浅見

入ってこないと言うと、嘘になります。例えばお米については、食べる部分であるモミのところまで入ってくるということは、まずありません。果物や葉物については中まで農薬が入ってくるケースがありますが、使用基準を守って使われていれば、出荷されたものから農薬が検出されるというのは非常にまれです。

参加者

農薬を使用しても、時間が経てばほとんど分解されてしまうということなのでしょうか?

浅見

昔、DDTなど分解されにくいものを使っていて、蓄積してしまい、母乳の中からDDTが検出されたということもありました。そのような苦い経験がありますので、今は分解されずに残るようなものは、農薬としては許可されません。

農薬の使用状況の監視や残留農薬の検査

    • 農家において農薬の使用方法が守られているのか、抜き打ちではないのですが、使用状況や残留分析などのチェックがされています。
    • 輸入農作物については、サンプル調査ですが港・空港でチェックされ、また市場に出たところで都道府県によってチェックされています。また、国産品については生協などの消費者団体による自主検査や、生産者団体の自主検査でチェックされています。
    • 違反品は、出荷停止・回収、廃棄・積み戻しとなり、大損害が出ますので、輸入業者や生産者もきちんと基準値以下になるようにしようとしているわけです。
    • 残留農薬検査の結果ですが、農薬が検出されたものは国産品で0.32%でした。農薬が検出されたものでも殆どが残留基準値以下です。残留基準値を超えたものでも、基準値の1.5倍程度です。つまり現在、市場に出ている農作物について残留農薬を心配する必要はないといえます。

残留基準値はどのように決められているのか

農薬の安全性評価の考え方についても説明いただきました

安全性評価の考え方についても説明いただきました

      • 曝露量、いわゆる取り込んだ量が増えるほど危険度は高くなります。動物試験で求められた無毒性量に対して、人間と実験動物の種差、そして個体差を考慮するために、100分の1になるように係数をかけて、一日当たりの許容摂取量(ADI)を決めています。
      • 一日当たりの許容摂取量を元に、私たちの食生活を加味して、作物ごとに許される農薬の残留量が決められます。
      • 決められた農薬残留量を超えないように、農薬の使用時期、使用回数、使用方法が決められ、農家はこれらを守るようにチェックされています。違反があれば罰則があります。例えば、法人であれば1億円以下の罰金となっていて、出荷停止だけでは済みません。
      • 農家における農薬の適正使用状況ですが、不適正使用のあった農家数が調査数に対して0.1%程度ですので、ほとんどの農家は正しく農薬を使用しています。
参加者

動物実験はどういった動物で行われているのですか?

浅見

動物実験としてはマウス、ラット、あとウサギとかサルを使う場合もあります。一番使われているのは、マウスやラットですね。特にサルを使うことについては動物愛護団体からの反対も大きいのですが、どうしても安全性の評価としてやらなければいけない部分です。

参加者

農薬登録の再評価の際にはADIについては再評価されているのでしょうか?

浅見

最初の時にとても厳しくやっていますので、問題がない限りは再評価の時にはやられていないのではないでしょうか。

関崎

実際にはADIを基準に現場で使用する濃度や頻度が決まるわけです。それで使ってみて、予想外のことが起きないかということを再評価しています。だから、ADIの値をもう一度、再評価することにはあまり意味はありません。また、ADIに対して100分の1という安全係数をかけていて、それを使用していて問題がないかということを再評価するわけです。

なぜ農薬に不安を感じるのか?

        • 農薬が毒といわれるようになってしまい、皆さんが危ないと気にするようになった経緯としまして有名なものにDDTという薬があります。
        • DDTはノーベル生理学・医学賞をとった素晴らしい薬で、殺虫力が強く、簡単に製造できます。DDTを使うことによって東南アジアではマラリア発生数が減少し、撲滅期においては年数件の発生にまで減少しました。それまでは、マラリアによって年に何十万人もの人が亡くなるという状況でした。
        • しかし、DDTというのは非常に分解されにくい薬です。自然界で分解されにくく、食物連鎖を通じてどんどん蓄積していってしまうという性質がある薬でした。人間に対する顕著な例として、母乳に溜まっていくというようなこともありました。
        • 環境全体を壊してしまうという危険性が指摘され、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」により取り上げられたことが見直すきっかけになり、このような残留性の高い化学物質の使用が禁止されることになりました。
        • ほかの例として水銀剤があります。水銀剤はいもち病によく効くために日本ではよく使われていたのですが、ご存じのように水銀は体に毒です。環境にも蓄積しますので、使用が禁止されました。
        • あと、よく聞くのが枯れ葉剤製造時におけるダイオキシンの生成です。これは2,4-Dという除草剤を作る際にダイオキシン類ができてしまい、アメリカ軍が枯れ葉剤作戦として使用し、人に異常を起こしたという事例があります。
        • 3つ例をあげましたが、このようなことが非常にセンセーショナルであり、農薬というのは危ないものだという非常に強い印象がついたのだと思います。
        • 農薬には発がん活性があるのではないですかと心配される方がいますが、いまは試験の途中で発がん活性があると、それは農薬として登録が認められません。昔の基準が緩かった頃に登録された農薬についても見直しが進められていますので、現在、通常に使われているものについては発がん活性があるものはありません。
        • 現在、農薬の開発プロセスにおいては、安全性研究と環境への残留性などを調べる分析研究に非常に大きなウェイトが置かれています。現在の農薬研究・開発では、残留性や発がん活性といったことがクリアされないと、農薬としては許可されません。

農薬の毒性とリスクについて

        • 私たちと共通の神経系を持っている虫に殺虫剤は効きますので、やはり農薬は毒で怖いじゃないかと思われるかも知れません。そのときに考えてほしいのがリスクの大きさです。
        • 毒性がどんなに低くても、沢山食べればリスクは大きくなります。その反対に毒性がどんなに高くても、曝露量(摂取量)が少なければリスクは小さくなります。
        • フグが持つテトロドトキシンの毒性は極めて強いです。でも、フグを食べないとなれば、テトロドトキシンの中毒になるリスクはもう無いに等しい。どんなに毒性が強くても、食べなければよい。これは極端な例ですが、これがリスクという考え方です。
        • リスクを知るためには毒性を知らなければなりませんので、農薬の安全を確保するために様々な毒性試験があります。急性毒性、亜急性毒性、慢性毒性についての試験です。繁殖毒性試験、催奇形性試験も行われます。これらの試験について、農業従事者を主眼においた試験と、消費者を主眼に置いて残留農薬についての試験を行います。
        • 毒性のほかに植物体で分解されどのような物質になっているのか、そしてその物質の毒性はどうなっているのかも試験します。あとは環境中での影響として、鳥、ミツバチ、魚などへの影響もみなければいけません。そして残留性です。残留性が高すぎる物質ではなく、分解されるものでなければいけません。
        • 農薬による発がんのリスクはランキングの上位には入りません。発がん要因のワースト10をみていくと、喫煙、肥満、野菜・果物の不足が上位3位にあります。そして飲酒です。
        • 今の法律で守られている限り、消費者として食べる分には安全だろうと言えます。まず、ほとんど体に入ってきませんし、入ってきても蓄積せずに体内で分解され排出されます。また、残留性も植物・環境中で分解されます。
        • 安全性については選択性の違いもあります。例えば販売中止になったパラチオンという薬剤では、急性毒性により与えられた動物のうち半数が死んでしまう量をラットとイエバエで比較すると、ほとんど差がありませんでした。つまり、ほ乳類にとっても危険な薬だということで販売中止になりました。
        • それに対して許可されているフェニトロチオンでは、選択性が70倍近くパラチオンと違い、それだけ安全です。家庭用のスプレーにも入っているペルメトリンはさらに選択性が10倍近く違いますので、かなり安全といえます。

食の安全・安心にとって大事なこと

        • 食べるものが必要量あるということが、一番の食の安全と安心ではないかと思います。
        • あとはリスクです。この世の中には様々な物質がありますが、まずリスクゼロというものは無いと考えて下さい。リスクは大きいか、小さいかで考えるものです。リスクが大きいものについては警戒し、健康被害に注意する、リスクが小さいものについては健康被害がない。
        • アルコールはリスクとしては不確実領域よりはやや健康被害ありの方に近いかと思います。しかし伝統的に飲んでいますので、リスクは大きいけど許されています。
        • 農薬とか医薬とかほかの物質については、健康被害なしの領域でないと許されません。そのような考え方で農薬の登録はされています。
        • そして、確かな情報源から情報を得て下さい。危ないという情報の方が入ってきやすいのですが、確かな情報というのは農水省や厚労省のホームページなどにありますので、そういったものを見た方がよいです。
        • 農薬について心配しないで下さいと言いたいのではなく、皆さんが興味を持って、きちんと見ているぞということが大切だと思います。ただし、必要以上に心配されることはないと、ふつうに食べる分については心配する必要は無いと申し上げたい。
参加者

果糖が多い作物は虫にとっても美味しいものなので、病害虫の被害を受けやすく、農薬を使う必要があるという話がありましたが、今、私たちが食べる野菜などは美味しいということが優先されていて、栄養素の側面があまり重要視されていないことに問題意識を持っています。生産する野菜について、栄養面を重視したものにするという取り組みを行っていけば、例えば農薬の使用量を減らすということは可能なのでしょうか。

浅見

農薬を減らすことは、お金がかからなくなりますので農家にとっても大変良いことです。ビタミンなどを増やすと農薬を使わなくて良くなるかは分かりませんが、健康に良い成分を増やした作物を作って、それを生産から消費者まで、さらには経済面なども含めての研究を行っているところもあります。その中で、栄養バランスをよくした作物が虫にも強いということになったら良いかと思います。しかし現時点では一般的にですが、虫に対して抵抗性が高い作物というのは、アルカロイド生産性が高い作物だったりします。このアルカロイド類が人間にとっても毒であったり、毒性が調べられていなかったりしますので、この辺りもクリアしなければならない問題かと思います。

参加者

農薬を使わず有機栽培で育てられたブドウを使ったワインが造られています。農薬を使わない方が、その土地に存在する酵母や微生物などの性格が反映されやすく、土地ごとの個性や味わいが活きてくるからです。農薬を使った方が、健全なブドウは育つのかとは思いますが、そのあたりどのように思われますか?

多くの方に参加いただきました

多くの方に参加いただきました

浅見

酵母はカビの一種ですので、農薬の残留等があれば影響が出るのではないかと思います。ただ、農薬を使わない場合、どのように病気を防ぐのか、技術の問題になりますね。有機栽培のブドウではボルドー液を使うことができますが、あれは農薬で消石灰と硫酸銅です。ただあれは、伝統的に使っているからよいことになっていますね。一概に、農薬を使った方が良いですよとは言えません。ワインは嗜好品ですのでお金もかけられますから、価値を高めたり、味を高めたりするために、農薬を使わないということはあって良いと思います。何が問題なのかというと、世界の食料を支えるという点において農薬が重要なのです。今のレベルではやはり農薬を使っていかなければならないと思います。農薬は使わない方がよいのですが、農薬を使わずに作物収量を確保する技術は、今はまだできていません。ですから、そこが一番の今後の課題ではないでしょうか。

このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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