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第16回サイエンスカフェ「一緒に考えよう!食品照射のよいところ、不安なところ」開催報告

掲載日: 2016年2月29日

話題提供者の田野井さん

話題提供者の田野井さん

 2016年1月7日、第16回サイエンスカフェ「一緒に考えよう!食品照射のよいところ、不安なところ」を開催しました。
 農学生命科学研究科附属放射性同位元素施設の田野井慶太朗准教授から、食品の殺菌処理や殺虫処理のために放射線を用いる食品照射について、その原理や考え方、国内外における活用状況などについて話題提供がありました。参加者の皆さんに食品照射についての疑問をポストイットに書き出していただき、その疑問に答えながら話を進めました。意見や質問の多かった、照射食品の安全性や検査の在り方については、参加者の皆さんと考えました。
 身近な食品への放射線の利用がテーマということもあり、多くの方にご参加いただき盛会となりました。

○第16回サイエンスカフェ配付資料(PDF)
 
 ※以下、記載がない場合の発言者は田野井氏。
 ※質疑応答は一部抜粋。
 

食品照射とは

    • 食品照射とは、放射線を食品にあてることです。放射線を当てることで食品が長持ちするように殺菌したり、虫がついていたら虫を殺したり、毒素を作らせないようにしたり、何かしらの生命活性を止めるために行われます。
佐藤

「殺菌処理に放射線ではなく紫外線を利用しているところをみたことがある」というご意見を参加者の方からいただきましたが、紫外線と放射線の違いとはなんでしょうか。

田野井

紫外線というのは、もう少しで放射線です。たとえば、蛍光灯が出す光のエネルギーは低いので、まだまだ放射線になれないのですが、紫外線のエネルギーはもう少し高いので、肌がこんがり焼けるわけですね。光のエネルギーをさらに高くしていくと、あるときに電離という作用を持ちます。つまり紫外線との違いは、放射線は電離という作用を持つことです。

    • 放射線とは、「電離放射線」が正式名称です。もともと電気がないところに何かがやってきてものとぶつかったときに、それがマイナスとプラスに分かれることを電離といいます。
    • 放射線には直接作用と間接作用があり、直接作用はDNAを切ったりタンパク質を壊したりするなど、直接攻撃することです。一方間接作用は、基本的には水に放射線が当たって、水がプラスとマイナスに電離して活性酸素になり、これが生体物質を傷つけることを言います。食品照射では、放射線の間接作用を利用することが多いです。
    • 食品照射で使われている放射線は2種類あり、1つはガンマ線及びエックス線です。紫外線などの光のエネルギーをどんどん高くしていくと、エックス線やガンマ線になります。光の波長が短いとエネルギーは高くなり、波長が長いと低くなります。エックス線やガンマ線は、この波長が短くエネルギーが高いのです。
    • 食品照射に用いられるもう1つの放射線は電子線です。電子線は、放射線といっても粒です。電子をすごい勢いで飛ばすことで、電離作用をおこします。

食品照射の方法

    • 食品照射では、放射線を発生させる装置か、放射線を発生させる物質のどちらかを使って、食品に放射線を当てています。
    • 1つは電子線照射という装置です。電子の粒を上から下に飛ばし、そこを食品の入った段ボール箱がベルトコンベアにのって流れていきます。放射線は、ものを突き抜ける能力がありますので、段ボール箱を突き抜けて中にある食品に当たるようになっています。この場合は電源操作を行うので、スイッチをオンにすると放射線が出て、照射が終わればスイッチをオフにします。
    • 一方、コバルト60という放射性物質や、福島原発で有名になったセシウム137といった放射性物質から出てくるガンマ線でも、食品照射ができます。放射性物質が入ったものを並べて、シャッターを開閉することで食品に照射します。この場合は電子線照射とは異なり放射線が出続けるので、作業員の方が被ばくする事故がないように、気をつけなければなりません。
    • 放射線を吸収する量の単位として、グレイ(Gy)があります。水1リットルに10,000グレイを与えると、水の温度が2.4度ほど上昇します。CT検査での放射線量は約0.008グレイで、人間が死んでしまう放射線量が4~10グレイくらいですので、10,000グレイというのはものすごい量です。
    • 食品照射で用いる放射線量の基準について、アメリカの場合、たとえば香辛料の殺菌には30,000グレイ以下、NASAの宇宙食に使用するお肉は44,000グレイ以上、豚肉の寄生虫制御には300~1000グレイ、ジャガイモの芽止めには60~150グレイとされています。

国内外の食品照射の状況

    • 日本では、ジャガイモの芽止めのために食品照射が行われています。1年間に約5,000~6,000トンのジャガイモが照射されていますが、これ以外には行われていません。照射し終えると、照射したというラベルが貼られてわかるようになっています。
    • アメリカは世界で最も放射線利用をしています。10年前のデータですが、アメリカの放射線利用の経済規模は各産業のトータルで14兆円にのぼります。14兆円のうち工業利用が6.7兆円、医学・医療利用は5.9兆円、農業利用は1.7兆円です。日本の放射線利用は6兆円で、うち工業利用が4.7兆円、医学・医療利用が1.4兆円、農業利用は0.1兆円です。
    • アメリカの農業分野における放射線利用は、主に食品照射です。アメリカの香辛料の3分の1は照射処理されますので、皆さんもアメリカに行けば照射された食品を口にされると思います。
    • アメリカは輸入する食品についても、原産国で照射するように求めています。現地の病原体などをアメリカ国内に持ち込まないために、農務省がアメリカの規格を現地に持ち込んでいるのです。アメリカは、食品の経済的な世界戦略に食品照射を使っていて、海外に自国の規格ごと輸出して食品を確保したり貿易をうまく進めたりしていると思います。
参加者の皆さんに質問をポストイットへ書き出していただきました

参加者の皆さんに質問をポストイットへ書き出していただきました

佐藤

参加者の方から、「海外では食品照射に反対する声は少ないのか」というご質問がありましたが、いかがでしょうか。

田野井

海外には自然志向の方も多いので、反対している人も絶対に多いと思います。食品照射が1番多く行われているアメリカでは、経済的な目的や病原菌を抑えるという目的で、食品照射が消費者にも理解されているのかもしれません。アメリカでも若い方が、食中毒などが原因で寝たきりになったり、亡くなってしまったりするというニュースもありますので、食品照射によって、こうした状況を防げるのではないかという世論はあるのかもしれません。

参加者

ニューヨークのスーパーでは、照射された食品も普通に手に入るのですか。

田野井

はい。おそらく、遺伝子組み換え食品に似た表示をされて売られていると思います。

佐藤

参加者の方から、「ヨーロッパにおける食品照射の利用状況はどうか」というご質問がありますが、いかがでしょうか。

田野井

データを持っていないのですが、ヨーロッパにおける食品照射はほとんど行われていないと聞いています。

照射処理とその他の処理

    • 食品照射では、放射線を食品中の生物に照射し、活性酸素を発生させて病原体などを殺します。そのため、活性酸素が微生物や病原体にあたる前に、食品自体が活性酸素を打ち消してしまうものには向いていません。
    • たとえば、レバーは活性酸素を消去する効果が高いので、食品照射に向きません。レバーに照射しても、活性酸素が微生物を殺す前にレバー自体が活性酸素を打ち消してしまうからです。一方、果物や香辛料についている病原体などには非常に効果があります。
    • 食品には、放射線処理だけでなく、熱処理など様々な処理が行われています。たとえば、マンゴーの熱処理ですと約47度で20分間、マンゴスチンの熱処理ですと約46度で58分間行うと、植物検疫を通すことができます。輸入された果物には熱が加わっていますので、アメリカで食べるマンゴスチンと、日本に輸入されたマンゴスチンの味は少し違うかもしれません。
参加者

”食のコミュニケーション円卓会議”という会で、食品照射について研究している者です。今まで、80種類以上の食品で、照射したものと照射していないものを試食してきました。照射によって殺虫をする場合、虫の種類によって何グレイ以上の放射線を当てなければならないとされています。そうすると、たとえば果物の場合、柔らかくなりすぎてしまう場合もあります。ですから、照射は万能ではありません。もしもこれから日本で、ジャガイモ以外の食品照射が認められても、食品すべてが照射されることはないと思います。香辛料への照射殺菌は、加熱殺菌よりも温度が上がりませんので、その香辛料を活かした非常にスパイシーな料理を作ることができますと思います。

佐藤

参加者の方から、「サバを生の状態で照射し、サバに寄生するアニサキスは殺せるか」というご質問がありましたが、どうでしょうか。

田野井

アニサキスについて、食の安全研究センターの関崎さんいかがですか。

関崎

先ほど、豚肉の寄生虫制御には300~1000グレイとありました。アニサキスも魚の肉の寄生虫なので、豚肉と同じく、サバも生の状態で照射してアニサキスを殺せると思います。

田野井

世界における食品照射の利用例をみても、香辛料や肉が多いですね。日本においては、肉は何らかの殺菌処理をしているのでしょうか。

関崎

生のままでの肉の殺菌はしていません。食中毒をおこす病原菌がつかないようにするために、農場や屠畜場、流通・加工の過程での衛生管理をしています。

田野井

そもそも、菌を発生させないように衛生管理に取り組んでいるということですね。加工肉もそうですか。

関崎

加工肉もそうです。野菜に関しては、塩素系の消毒や薬剤処理が行われていますが、肉にはその臭いがついてしまうので行われていません。

田野井

日本では肉の殺菌処理が行われていないということですが、生レバーを食べたい場合はどうしたらいいですか。

関崎

厚生労働省の答申次第ですが、私たちの関係する業界団体も殺菌処理についての技術開発を行っています。

照射された食品の安全性

参加者の皆さんから多くの質問をいただきました

参加者の皆さんから多くの質問をいただきました

佐藤

「残留放射能が心配だ」という参加者の方のご意見がありましたが、どうでしょうか。

田野井

放射線の種類によっては、放射線があたると放射能を持つ物質に変わってしまうことがあります。これを放射化といいます。たとえば、中性子線が当たると、放射性物質に変わってしまうことがあります。ただし、放射化しない放射線もあり、食品照射にはそれらを使っていますし、使われている放射線のエネルギー量も、食品に放射能を誘導しないレベルのものを使っています。

参加者

食品照射には、一定の線量以下でないと照射してはいけないという条件があると思うのですが、その条件はどのように決められているのですか。

田野井

国際的な植物防疫における規格が示されており、何グレイ以下なら安全だという基準があります。毒性試験も行われています。食品照射をしたことによって形成された物質の発がん性についての研究は行われています。そういった調査をしたうえで、何グレイ以下の照射量にするようにという基準が決まっていると思います。

参加者

無毒性量(NOAEL)を測定する試験にはお金がかかると思いますが、照射された食品に対しては行われているのでしょうか。もし行われていないのならば、安全と言い切れるのでしょうか。

田野井

かなり多くの放射線を当て続けると、変異原性というがん誘導物質のようなものが少しずつ作られることは、動物実験で分かっています。ただし、それがNOAEL規格に合っているかはわかりません。

佐藤

食品に放射線を当てた際に、毒性を持つような新たな物質が食品の中で生成されることはないのか、ということですよね。安全基準もきちんと、照射のメリットと合わせて考えて判断していかなければいけませんね。

照射食品の検査

    • 本日は、照射されたターメリック、赤唐辛子、月桂樹の葉のサンプルを持ってきました。照射サンプルには、基準値となる10,000グレイの放射線をあてました。照射殺菌したもの以外に、未殺菌品、加熱水蒸気殺菌品もあるので見比べてみましょう。
    • 高温高圧で殺菌処理する加熱水蒸気殺菌は、香辛料に大きな影響を与えることが見てわかります。現在はそれぞれの香辛料の香りが混ざってしまって違いはわかりませんが、おそらく香りも異なると思います。
佐藤

「照射された食品に放射能が残存しないならば、輸入食品が照射されているかどうかをどうやって検査するのか」というご質問が参加者の方からありましたが、いかがでしょうか。

田野井

海外では特に香辛料に照射されているので、そういった香辛料が日本に入ってこないか検査をします。照射しても、食品は放射能を持たないので、放射線量を測ることはできません。香辛料には非常に細かい鉱物が混入しますが、鉱物には放射能を浴びると活性化する物質が入っています。ある光を当てると、その物質が放射能を浴びて活性化したことが光として表れてくるので、検査では、輸入された香辛料に混入した鉱物の反応から照射された食品かどうかを判断しています。この検査方法は農林水産省が開発して、輸入食品の抜き取り検査に用いられています。こうして、日本には照射された食品は輸入されないようになっています。

参加者

食品に異物が入っていないと、検査できないわけですか。

田野井

おっしゃる通りで、ほこりや岩石の細かいものが入っていないとだめです。

参加者

ある光を当てて、鉱物の中の物質が反応したらダメだということはわかりますが、輸入された食品すべてが安全であるという確証は出せないのではないですか。

田野井

その通りです。石の混入具合によるわけです。ある種の香辛料は検査できるけれども、ある種の香辛料は全然できないこともあるわけです。それは、栽培履歴やトレーサビリティーで判断するしかないですね。私は以前、元素組成から産地判別や産地偽装についての研究を行っていたことがあります。元素組成を調べると、産地偽装をしているのではないかと思われる食品業者もあったのですが、科学的なデータのみでは彼らを逮捕することはできません。内偵が入って伝票を見て、伝票の証拠から摘発します。つまり、科学的データはあくまでスクリーニング調査にしか使われません。照射された食品が間違って輸入されることはあるかもしれませんが、常習犯は捕まると思います。

佐藤

照射された食品は輸入しないように検査するということなのですが、照射された食品を使った加工食品については、どこまで明らかになるのでしょうか。

田野井

遺伝子組み換え食品もそうかもしれませんが、加工品や調理品ではそういった表示はありませんよね。よく食経験と言われますが、そうした食品を食べ続けている国でも大丈夫だという社会通念をもとに判断していくことも必要かもしれません。

配付資料

このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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