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第15回サイエンスカフェ「聞いてみよう!ポストハーベストのコト〜おいしさを守る、収穫と食卓のあいだの話〜」開催報告

掲載日: 2016年3月31日

話題提供者の安永さん

話題提供者の安永さん

2015年11月6日、第15回サイエンスカフェ「ポストハーベストのこと ~おいしさを守る、収穫と食卓の間の話~」を開催しました。
農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の安永円理子さんにポストハーベストとは何なのか、ポストハーベストに関わる技術など、実生活に即して非常にわかりやすく説明していただきました。
今回も多くの方々にご参加いただき、質疑応答も活発に行われ、盛会となりました。ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

○第15回サイエンスカフェ配付資料(PDF)

※以下、記載がない場合の発言は安永氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

ポストハーベストとは

    • 日本では「ポストハーベスト=農薬」というイメージが強く、海外から輸入される農作物に対して、防腐剤が振りまかれている・・・というイメージが非常に強いと思います。
    • 実際は、農家さんが一生懸命作ってくださったものを収穫し、私たちに届けるまでの、収穫、乾燥、貯蔵、冷蔵、輸送などの行程に関わるすべての技術のことをポストハーベストといいます。
    • 農産物というのは成育中であれば、根から水分を吸い、葉から光合成をし、栄養や水分がたくさんある状態です。しかし、収穫してしまうと栄養や水分の供給が無くなってしまい、自分が持っている栄養分だけで生命活動を維持しなくてはいけません。そのため、収穫してから時間が経てば経つほど、水分や栄養分が無くなってしまいます。

品質低下の要因

    • 栄養分を分解していく過程を呼吸作用といいます。呼吸作用とは、デンプンなどの糖質を、酸素と反応させることで、二酸化炭素と水を生成し、その過程でエネルギーを得ます。
    • 呼吸によって水が産生されると、水分を調節しようとして、蒸散作用が起きます。蒸散作用とは、葉の裏にある気孔から水分を蒸発する作用です。新鮮な収穫時の状態から水分が5%減少すると、商品価値が無くなるため、蒸散を抑えることが重要です。
    • 蒸散により水分量が減少すると、果実の表面組織が軟弱化します。収穫したてで、表面組織が強ければ、微生物等がついても、すぐに腐ることは無いですが、表面組織が弱ってしまっていると、菌が簡単に体内に侵入してしまい、微生物が作用して、腐敗等が起こってしまいます。
    • このような一連の流れがあるため、品質低下を抑えるには、呼吸作用をいかに抑えるかが重要となってきます。また、呼吸は色々な化学反応の総計であり、様々な生理変化の目安となるといわれています。そこで、呼吸をモニタリングすることによって、品質がどう変化していくのかを把握できます。
参加者

タマネギや、ジャガイモに土をつけておいたり、新聞紙にくるんだりすると、長持ちするのはなぜですか?

安永

タマネギは、根菜類でして、根菜類は呼吸自体も小さいので、葉類と比べて長持ちします。新聞は水分を保ち、暗黒下にすることで呼吸を抑えられるためだと考えられます。

野菜の種類と呼吸量

    • 野菜の種類で呼吸がどれくらい違うのかを、0度、4.5度、21度で比較しました。呼吸は生理化学反応のため、温度に依存し、温度が高くなればなるほど呼吸が大きくなります。
    • アスパラガスは新しい芽、ブロッコリーは花、スイートコーンは果実であり、こういった若い組織、成長途中のものは、呼吸量は大きくなります。
    • 比較して、収穫する時に成熟しているもの、たとえば果菜類といって、トマトやキュウリは若い組織よりも成熟していることもあり、呼吸量は抑えられています。
    • ジャガイモやカボチャなどの根菜類は概して呼吸量が小さいです。
    • 結球性(丸くなっているレタス)と非結球性(サニーレタスのように丸くなっていないもの)を比較すると、結球性の方が呼吸量は小さい傾向にあるといわれています。
    • 実生活の冷蔵庫の中などでもイメージできる通り、呼吸量の小さいものほど貯蔵性が高いということを、理解していただけると思います。
参加者

ジャガイモとニンジンの呼吸量はどうですか?

安永

ニンジンのデータは持ち合わせていないのですが、おそらくジャガイモと変わらないくらいだと思います。

参加者

温度が3つありますが、0度と21度の間が10度ではなく4.5度なのはなぜですか?

安永

一般的に10度あがると呼吸量は2~3倍上がると言われています。温度が低いほどその上がり方が大きくなるので、10度ではなく4.5度に設定したのだと思います。

参加者

呼吸量と日持ちというのは比例するのですか?

安永

収穫してからどのくらい呼吸をしたかを積み重ねていく積算呼吸量と、ビタミンCが減る量などは比例しているので、関係していると言えます。

野菜の種類によって呼吸量が違います

野菜の種類によって呼吸量が違います

呼吸量を抑制=鮮度を保持

    • 呼吸量を抑制することが鮮度保持につながります。その呼吸量を抑制できる外的要因として、温度、湿度、環境ガス等があります。
    • 呼吸は酵素を触媒とした生化学反応なので、温度が高くなると呼吸が大きくなります。しかし、40度を超えると酵素が失活し、その機能を果たさなくなるため、呼吸量は小さくなります。
    • 湿度は蒸散を抑えるために重要です。蒸散は低湿度にした方が抑制されますが、低湿度の場合は、逆に「しおれ」といって体の水分がどんどん失われてしまいます。「しおれ」を抑制するために、高湿度にすることで長持ちします。
    • 大気の状態と一緒の場合、酸素が20%、二酸化炭素が0.05%ありますが、酸素濃度を20%よりも低く、二酸化炭素濃度を2~3%と高くすると、野菜は息苦しくなって呼吸ができなくなることで、呼吸を抑制しようとします。また、エチレンガス(老化を促進するもの)を抑制することも重要です。
    • 落下時の打撲傷、収穫時などにストレスがかかり、呼吸が上昇します。流通時などに振動してしまうことも、呼吸を活性化してしまいます。

コールドチェーン勧告

    • 1965年に政府からコールドチェーン勧告が出されました。収穫から私たちの手に届くフードチェーンの中で、低温に一定温度で流通させることで、鮮度の高い農産物を私たちの手に届くようにしましょうというものです。
    • 具体的な内容としては、食品の等級・規格の決定、検査基準の作成、流通の情報整備、生産地だけではなく中継地点の体制確立、食糧流通に関する研究開発等があります。
    • 実際に1965年に勧告が出て、「収穫されてから低温で輸送しましょう」ということがいわれていますが、低温維持にはコストがかかるため、まだまだ徹底されてはいない状況です。

予冷

    • 予冷とは、品質を保持するために収穫後、できるだけ早く急速に、品温(野菜の温度)を下げて、生理活性を抑制することです。この予冷というのは、農家さんで収穫し、卸にいくまえに、農家の冷蔵庫などで冷やしましょうというものです。
    • 実際に温度を下げたものを、卸市場で一時的に貯留、貯蔵、輸送し小売店に流通します。連続して適正な低温を保持することで、鮮度や高品質を維持することができます。
    • 予冷を行うことで、品温自体が下がるので、呼吸が抑制されますし、追熟老化の防止になります。さらに水分損失の防止、発芽の防止などになります。
参加者

急速に冷却するわけですから、風を送れば急速に冷えると思うのですが、水分損失という二律背反する問題があると思うのですが、どうコントロールしているのですか?

安永

水分がすぐに損失しないように、フィルムなどでいったん包装した上で、予冷することで、フィルムの中は高均質に保たれながらも品温は下げるという操作が行われています。

低温障害

    • 青果物の中には、熱帯や亜熱帯が原産の作物があり、それらは低温に弱いので、低温に不向きな作物もあるということを理解しておくことが必要です。
    • 低温障害には、表面にクレーターのようなピッティング、全体が茶色くなる褐変の他に、水っぽくなったり、柔らかくなる等の追熟不良になったりします。
    • 追熟不良とは、適度なエチレンや温度を与えると、未熟なものが美味しく甘くなりますが、それらがうまく起こらない状態のことです。
    • 低温感受性が大きいものは、キュウリ、ナス、ペッパー、バナナ等があります。バナナを低温で保存してしまうと真っ黒になってしまいます。また、ナスの例ですが、窪んだ部分がみられると思うのですが、これをピッティングといいます。
参加者

バナナがこのような状態になった場合、味は落ちるのでしょうか?

安永

バナナは緑の状態で収穫され、エチレンガスを輸送する船の中でふりかけて黄色くして、私たちのところまで運ばれるのですが、エチレンの効果はすぐ途切れる訳ではなく、徐々に甘くなる過程になり、これを追熟といいます。この追熟がうまくいかないので、苦いままであったり、水分が多くなってしまったり、美味しく無い状態になってしまいます。

参加者

キウイフルーツは低温障害のどれに相当するのですか?

安永

キウイは樹上では甘くならず、採ったあとしばらく置かないと甘くならないという性質があるので、低温でもエチレンと反応させれば、追熟は進みます。むしろ低温には強い作物ですので、低温障害にはなりません。リンゴやバナナなどエチレンを出す果物と一緒に保存すると甘くなりやすいといわれます。他の果実と違い、樹上で熟してから収穫ということができないので、低温の問題というよりは、追熟を促進するためには、常温でしばらく成熟させた方が良いということになります。

CA貯蔵庫

    • ガス環境を制御することで、呼吸量を抑えられるとお話ししましたが、その代表がCA貯蔵といい、低温で高湿度、低酸素、高二酸化炭素状態で保存できます。
    • このCA貯蔵庫は非常に大きく、ガス濃度を維持するためには機密性を高くしなくてはならず、建設費や運用費が高くなります。そのため、全ての野菜に適用できないので、日本では、リンゴやニンニクなど一部の青果に限られています。

包装

鮮度保持のための様々な技術があります

鮮度保持のための様々な技術があります

    • 身近なものとしては包装もポストハーベスト技術の一つです。
    • すべての野菜にCA貯蔵はできないのですが、フィルム包装の中で野菜が呼吸をし、簡易的なCA貯蔵状態ができます。こういった包装をMA包装といいます。
    • フィルムで包むことで、外環境から遮断できるため、微生物や害虫を防ぐことや、ガス環境を整えることでビタミンの分解や変色を防止することができます。また、水分や香気の蒸散による風味低下も防止できます。さらに、輸送時の機械的損傷防止や、フィルムに写真や文言をいれることで農産物のイメージアップ、取り扱い上の簡便性向上にもつながります。
    • フィルムにも様々な種類があり、それらを機能性フィルムといいます。
    • 追熟抑制フィルムは、老化を促進してしまうエチレンを吸着、除去するフィルムになります。過マンガン酸カリウムを練り込むことによってエチレンを取り除く機能があり、キウイフルーツの貯蔵に用いられています。
    • ガス抑制フィルムは、低酸素、高二酸化炭素状態になりやすいように、フィルムにとても細かい穴をあけることによってフィルムでガスを透過し、CA状態を作り出し易いフィルムも開発されています。
    • 防曇フィルムは、結露を防止するフィルムであり、表面を親水化して、水滴を膜に換え、曇りを抑制するフィルムです。
    • 水分抑制フィルムは、加湿傷害を防止するフィルムです。これは紙おむつに使われている高分子吸水ポリマー樹脂をフィルムに薄くラミネートし、袋内の水分を吸着して、柑橘など水分を嫌うものの貯蔵に使われています。

機能性段ボール

    • イチゴパックに下からの衝撃が伝わらないように、ベッドがつくられ、宙づりの状態とすることで、表面の傷付きを防ぎ、腐敗が始まるのを防ぐ段ボールもあります。
    • ホチキスやテープを使わずに組み立てられるノンステープル段ボールは、農家さんの負担を抑えたり、ゴミを捨てる際の分別作業を軽減したりすることに役立っています。
    • CA条件を作り出すためのフィルムを段ボールに直接ラミネートしたものは、箱内をCA条件にすることで鮮度を保持します。

洗浄・殺菌

    • 資材開発の他にも、洗浄や殺菌といったものもポストハーベスト技術の一つになります。土壌や農薬、微生物を洗浄するために、洗浄除去を行いますが、浸漬式、撹拌式、ドラム式、ブラシロール式など様々な洗浄方法があります。
    • 加熱殺菌は食品を加熱して、その表面についている微生物を殺すことです。加熱しますので、生鮮野菜の処理は難しいといわれています。マンゴーなどの一部の果実には、暖かいお湯で処理する方法もあり、マンゴーの場合は温湯処理を行うことで、追熟を抑制する作用もあるといわれています。
    • ポストハーベスト農薬にも関わってくる部分ですが、薬剤殺菌もあります。食品に使用できる薬剤には使用基準があるので、その企業が基準を守り使用している範囲では、健康に害が起きることはありません。
    • 実際に使用されている殺菌剤としては、さらし粉、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、漂白剤や発色剤としては、過酸化水素や亜硝酸ナトリウムが用いられています。
    • 紫外線照射をすることによって菌を殺すという方法もあります。紫外線の中でも200~280nmを殺菌線と呼びます。この波長照射には、分子や電子を電離させるほどのエネルギーは無いのですが、DNAに少し傷を与えることで、細胞分裂を阻害して、微生物を殺すことができます。
参加者

紫外線照射のUV殺菌は非常にコストがかかるため、あまり利用していないということを聞いたことがあるのですが、これは日本国内でポピュラーなものですか?葉物の野菜に照射することで栄養分が損失したりすることは無いのですか?

安永

開発している会社もあります。UVを長い時間当てると、品質や水分の損失もあるので、照射時間は短いです。残念ながら葉菜類への適用にはまだ至っていません。

農産物の表面殺菌技術の確立

    • 表面殺菌を短時間行うことによって、生鮮果実の表面を殺菌するという技術が開発されています。選果といって、ベルトコンベアで運ばれながら、果実の大きさや糖度を測る途中で、赤外線を照射し、表面をいったん加熱して、その後に紫外線を照射して表面の微生物を殺します。このように、赤外線、紫外線の両方の照射を利用することによって短時間で殺菌する新しい技術も開発されています。
    • 赤外線を照射することによって、中の温度が上がり、呼吸も上がり、生理活性も大きくなり栄養分も無くなってしまうのですが、表面だけが暖まる照射時間や強さを調節することで、微生物だけを除去する技術となっています。

農作物のフードチェーンと農作物の呼吸速度の経時変化

    • 農作物のフードチェーンの例として、春菊はハウス内で栽培、収穫され、重さを量り、汚い葉をのぞくトリミングを行い、包装されます。フィルム包装されたものを段ボールに入れ、予冷され、温度管理されたトラックで運ばれるのが理想です。トラックで農家からJAに運ばれ、品質検査を行います。その品質検査を通ったものが、JAから青果市場に大きなトラックで運ばれ、大きな低温貯蔵庫の中にいったん置かれます。この間、低温管理されているのが理想ですが、トラック、JA、低温貯蔵庫ともに徹底されていない部分も多いのが実態です。その後、競りが行われ、実際に店頭に並ぶという流れになります。
    • 私たちの手元に届くまでに72時間ほどかかるのですが、その中で流通温度は一定ではなく、色々な条件の中を通ってきています。このような中で実際に呼吸速度を測ってみると、温度に比例して呼吸速度も変動していることがわかります。
    • 呼吸速度が変化している中で、栄養成分はどのように変化しているのかをフルクトース、グルコース、スクロースをあわせた全糖、ビタミンCについて測定しました。収穫してから70時間ほど経ち、私たちの手元につく頃には、だいぶ栄養成分が減っています。6,7,8月に収穫したものを測定しましたが、同じ農家の同じ土壌で作っているものでも、収穫時期によって含まれる栄養成分も変化しています。

果実を輸入するためには・・・

    • 果実のグローバル化が進んでいますが、果実を輸入する際には、関税や植物検疫法、食品衛生法など様々な規制があります。
    • 植物検疫法があるならば、すべての青果物を持ってこられないのでは?と思うかもしれませんが、実際には相手国と条件を取り決め、条件をクリアすれば輸入できます。
参加者

TPPの影響で変わることはありますか?

安永

関税の部分は変わります。検疫などは国際法で決められていますが、TPPに参加する国の間で様々な規制やルールを決める可能性はあります。

    • 実際にマンゴーを輸入した際の植物検疫証明書ですが、日本人のサインがあります。日本の検疫官がタイに実際に出向き、設定している条件をクリアしているか、きちんと検査をして確認したものだけが、日本に輸入できます。
    • 衛生証明書は、残留農薬の基準値をすべて超えていません、という証明書になります。このような書類をすべてそろえて受けてとることによって、初めて日本に輸入することができます。
    • 日本にマンゴーを持ってくる場合は、先ほど紹介した温湯処理をした後に、燻蒸処理といってマンゴーの中心温度が40度になるまで蒸気で処理されます。そのようにしてマンゴーの表面の虫や殺菌を除去した状況で、日本に輸入できますが、箱を開けた時点で虫などが発生していたり、箱が破れたりしていると、輸入できなくなります。
    • 余談になりますが、実験に使ったマンゴーの代金は、果実自体は2万5千円、輸送費に3万円、関税に3400円、蔵置料に5460円を取られます。そのため実際に現地の値段よりもかなり高いコストがかかって流通していることになります。

エチレン作用阻害剤(1-MCP)

    • 唯一日本で認められている、収穫後に使っても良い農薬がエチレン作用阻害剤です。
    • 農薬といっていますが、植物ホルモンのエチレンと類似した形をしている薬剤となり、果実の成熟や、カット野菜の傷みの抑制、観賞用植物の鮮度保持に用いられています。
    • 日本ではポジティブリスト制度といって、野菜ごとに使用して良い農薬のリストが決まっているため、この1-MCPという農薬を使えるものは、リンゴ、ニホンナシ、セイヨウナシ、カキのみです。1-MCPは処理濃度が0.5~1ppmという非常に低濃度でも効果が得られる、便利なものです。
    • 成熟や老化は、エチレンがエチレン受容体に結合することで進みますが、この1-MCPはエチレンと似たもので、受容体にエチレンよりも先に結合し、追熟を抑制します。
    • 1-MCPは気体ですが、気体では使いにくいため、その気体を糖でコーティングすることで固体にし、そこに水を反応させることで糖が溶け、気化して1-MCPが反応できる状態になります。
    • 写真は実際に1-MCPをブロッコリーに適用したものです。20度保存で7日後、何も処理していないブロッコリーはクロロフィルの分解が進み、かなり黄色い状態となっていますが、同じ20度7日間保存でも、1-MCP処理をしたものは黄化がかなり抑えられた状態となっています。さらに、10度で保存したものは、ほとんど黄化の進行が見られない状態が確認でいます。
参加者

ブロッコリーは認可されているのですか?

安永

認可されていないので、認可されるために様々な試験を行っているところです。

参加者

先ほどの追熟の話だと、エチレンを気中に入れておき追熟させるという話だったのですが、植物は勝手にエチレンを出すのですか?

安永

エチレンを出すものも、出さないものもあります。基本的に何らかのストレスがかかることで、エチレンが出ます。果物であれば、追熟といって甘くなる方にエチレンを出すことはいいことなのですが、こういった野菜などはエチレンをいかに除去していくか、が重要になります。ブロッコリーの例では、老化を完全に止めることはできないですが、受容体にくっつくことで、老化のスピードを緩める働きがあります。

呼吸による内容成分量の減少

    • 収穫してから私たちの手元に届くまでの呼吸量をどんどん足していくと、積算呼吸量というものを算出することができます。積算呼吸量と野菜の内容成分量の関係をとることによって、積算呼吸量と内容成分変化量の関係を式で表すことができ、実際の品質変化というものを数値化する、という研究を行っています。
    • ガス濃度を変化させた場合は、式がより複雑になるのですが、ガス環境をいれた場合でも、同じように積算呼吸量と成分減少量の関係を見いだすことができ、色々な環境による品質変化を表す式を開発しています。

食品の安全性確保と農産物流通

    • 安全を保証するために、適正農業規範といって、農業をどのように行ったら良いかという基準を示したり、流通の仕方や製造の仕方、小売りの仕方の模範になるものを示したりすることによって安全を担保しています。
    • 現在はトレーサビリティという、私たちの手元に届いたものがどのような経路で来たのかを追跡遡及するシステムも開発されています。流通の条件や、温度環境をモニタリングできるシステムがあるため、通ってきた流通の条件によって品質が維持されてきたのかどうか、ということを数値化し、消費者に提示するようなシステムに組み込むことができます。

参加者から沢山の質問がありました

参加者

今のフードチェーンで、収穫から、流通を経て、我々のところへきたことで大幅に保管する環境が変わってきますよね?そこの管理については自分で勉強するしかないのですか?

安永

私たちがきちんと皆様に、このような場で説明して、普及していかなくてはいけません。今は、野菜ソムリエの方などもいて、このようなことを伝えてくださっています。また、日本は今からTPPの関係もあり、海外に日本の美味しいものをうまく輸出して、強い農産物を作ろうという方向に動いているのですが、いい農産物を作るだけではだめで、それを流通させるためには、食品ロスを防ぎながら、流通させていかなくてはいけません。そのために、このような技術が重要となってきます。

参加者

ニンジンの外側の皮を洗ってしまうのはいいことですか?

安永

いいことか、悪いことかはわからないのですが、日本人はきれいなものしか受けつけないという国民性があるので、果実にとっていいことか悪いことか、というよりもどうしたら売れるかということを基準に整備されている技術もあります。海外ではあまり気にせずに、泥付きのまま量り売りになっている場合も多く見られます。

参加者

春菊のビタミンCのデータで、なぜ冬の方が高いのですか?

安永

春菊の旬は冬であり、やはり冬に収穫したものの方が栄養価は高くなります。そのため、旬の時期に旬のものを食べるというのは、栄養価の面から見ても理にかなっています。

参加者

予冷に関して、できるだけ早期に予冷するのが理想だとあったのですが、最後に積算で効いてくるということなので、流通の過程のどこで予冷するか、というよりも積算をあわせれば大丈夫という解釈でよいでしょうか?すなわち、採れたてで予冷できれば最善なのでしょうが、できない場合は?

安永

できない場合は後からできるだけ低温にするということがいいと思います。

参加者

ヒートショック的に、暖かかったり、冷たかったりというのは効きますか?

安永

実際にそのような研究も行われていて、低温障害を起こす作物において、一旦高い温度を与えた後に、低温に保つと、先ほどお見せしたピッキングといった低温障害を起こさないという研究もあります。

参加者

うちの冷蔵庫は開けるとブルーのライトで、それが鮮度保持に効くという売り文句で購入したのですが、あの効果はどうなのですか?

安永

少し光を当てると、光合成をさせる働きがあります。普通、冷蔵庫の中は真っ暗で、どんどん栄養が減少してしまいますが、呼吸をする量と光合成をする量が同じくらいになる非常に弱い光を当てることで、栄養分の減少を抑える機能だと思います。

参加者

冷蔵庫で野菜を保存する時に寝せているかどうかで、栄養成分が変わってしまったり、腐敗が早くなったりするのですか?

安永

春菊の例になりますが、春菊は立って生えていますよね、それを横に寝せて保存すると、立ち上がろうとして、そこにエネルギーが使われてしまいます。そのため普通の呼吸をする状態よりもさらに活発になってしまい、腐敗などにつながります。アスパラガスなどはさらに呼吸が激しいので、冷蔵庫の中で立てていれてくださいといわれているのは、そのためです。

このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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