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第18回サイエンスカフェ「聞いてみよう!きのこと森林の放射能汚染」開催報告

掲載日: 2016年3月31日

話題提供者の三浦覚さん

話題提供者の三浦覚さん

2016年3月1日、第18回サイエンスカフェ「聞いてみよう!きのこと森林の放射能汚染」を開催しました。
国立研究開発法人森林総合研究所の三浦覚博士に、原発事故由来の放射性物質による森林の汚染と、きのこ栽培、特に原木によるシイタケ栽培の現状についてお話いただきました。
今回も多くの方にご参加いただきました。質疑応答も活発に行われ、盛会となりました。

○第18回サイエンスカフェ配付資料(pdf)

※以下、記載がない場合の発言者は三浦氏のもの。
※質疑応答は一部抜粋。

林産物としてのきのこ

    • きのこは林産物です。林産物というとまず木材ですが、筍、山菜、きのこなども林産物で、林野庁の管轄に入っています。なかでも木材ときのこの生産高が大きな割合になっています。
    • きのこの生産方法は主に3通りあります。1つめが野生のきのこを採取する方法で、スーパーなどではほとんど流通しておらず、収穫する楽しみとして親しまれています。2つめが原木栽培で、きのこの中ではシイタケが圧倒的に多いです。3つめがおが粉を使った菌床栽培で、シイタケのほかにエノキタケやエリンギなどがあります。消費者としては原木栽培や工場での菌床栽培によるものが、直接食の安全にかかわるかもしれませんが、野生きのこの採集も、楽しみとしても食品としても重宝されています。
佐藤

菌床栽培はおが粉を使うとのこと、きのこ栽培は木を利用しているのですね。

三浦

菌床栽培では、コナラやクヌギなどの広葉樹を粉砕して、ぬかやふすまなど、栄養分になる有機資材をまぜてポットに入れ、菌を接種して育てます。粉砕した木くずを、おが粉といいます。

参加者

菌床栽培では、どのくらいの期間で収穫できるのですか。

三浦

シイタケの場合は同じポットで何回も収穫できます。シイタケ栽培工場の方によると、2回目の収穫量は 1回目の収穫量の6〜7割ほどで、2~4か月の間に繰り返し収穫するとお話しされていました。

参加者

収穫してもまた生えてくるのですか。きのこを栽培する部屋の温度はどれくらいですか。

三浦

はい、また生えてきます。ただ、収穫量が落ちてくるので、収益を計算しながら回していくそうです。大きな会社は、1回収穫して少し収量が落ちたポットを、小規模な自家生産をしている農家に販売するという話もありました。室温はわかりませんが、部屋に入った感じでは20度程度に感じました。個人経営で、納屋に棚を作ってポットを並べて栽培しているところもあるようです。

参加者

菌床栽培では、菌を植えるのですか。おが粉の中に菌が混ざっているのですか。

三浦

原木は穴をあけて菌を植えますが、菌床の場合はおが粉に混ざった種菌を接種するときいております。

    • 1960~2010年までのきのこの国内生産量の推移をみると一貫して増加しています。きのこの種類別では、ブナシメジが90年ころからぐんと伸び、最近ではマイタケやエリンギが増えています。様々なきのこのうち、生産量が多いのは菌床栽培で工場生産ができるものです。1960年からの50年間で、日本人が食べるきのこの量も10倍近くになりました。
    • また、1975~2010年までの木材を含めた林業分野全体の生産額の変遷をみると、1975年からずっと下り坂で、日本の林業生産はどんどん減少していることがわかります。木材の輸入自由化によって、海外から安い木材が入ってきたので、国産材が売れなくなり、日本の森林はあまり切られなくなりました。林業はどんどん衰退し、木材の単価も下がり、全体の生産額も下がりました。
    • 2000年以降、木材の生産額ときのこの生産額がほぼ同じくらいになりました。現在の日本の林業生産額は、木材が半分、きのこが半分です。筍や山菜の生産額はそれに比べると非常に少ないので、日本の林業は木材ときのこでほぼ成り立っています。
参加者

きのこの生産量はどんどん増えているのに、生産額はそれほど伸びていません。それはきのこの値段が下がっているということですか。

三浦

たぶんそうです。大量生産をしてどんどん安くなり、消費も増えているのだと思います。

    • 林野庁が、日本人1人当たり1年間のきのこの消費量のデータを出しており、それをみると1965年~2000年頃からほぼ3.3キロで横ばいになっています。生産量はその後も増えているので、もしかしたら2000年以降は輸出をしているのかもしれません。

原発事故ときのこ

    • チェルノブイリの原発事故以来、きのこが放射能に汚染されやすいということは知られていましたので、林野庁は福島の原発事故直後からきのこを調査したり、対策したりしてきました。森林総合研究所のきのこの専門家にきいたところ、工場の中で栽培されているきのこはあまり心配なかったようですが、森林の中で栽培しているきのこはあっという間に汚染されました。
    • シイタケ中のセシウム濃度を原木中のセシウム濃度で割って出てきた係数を、シイタケ原木栽培の移行係数と呼びます。移行係数が高ければ高いほど、きのこが原木からたくさんセシウムを吸収することになります。2011年の原木栽培についての緊急調査では、その平均値は0.43でしたが、移行係数が3に近い高いものもあります。そこで、全体のサンプル数の90パーセントが含まれる移行係数がどこかと計算すると、1.99で、ほぼ2でした。
    • 食品中の放射性物質の基準値は、1キログラムあたり100ベクレル以下です。つまり、原木の放射性物質の量を1キログラムあたり50ベクレル以下にすれば、きのこは100ベクレル以下になります。林野庁は、2011年のこの調査に基づいて、原木を使ってきのこを栽培する場合は、放射性セシウムの濃度が1キログラムあたり50ベクレル以下の原木を使うようにという指標値を出しました。
参加者からの質問に答えながら話題提供をします

参加者からの質問に答えながら話題提供をします

参加者

原木の放射性物質を測定する場合、木の皮を測定するのですか

三浦

木の皮だけではなく、木部と樹皮を全部一緒にしたほだ木の平均的な濃度です。

参加者

木は、放射性物質を樹皮ではなく根っこから吸収することもあるのではないですか。

三浦

ほかの地域より放射能汚染が多いといわれる福島県の中通りや浜通りなどでは、樹皮で濃度が高く、放射性物質の一部は樹皮から木部に入っていったと考えられています。ただし、樹皮や根からそれぞれどのくらい吸収されたかということは、調べるのが難しくてまだわかっていないことも多いです。そもそも樹木が生きる何十年という中の1~2年を切り出して調べるので、結果が出るまでに非常に時間がかかり、この5年ではしっかり答えを出すことができていないことも事実です。

参加者

原木1キログラム当たり50ベクレル以下という基準ですが、そのキログラムというのは原木のそのままの、生の重さですか。

三浦

そうです。

    • 菌床栽培の場合、培地となるおが粉の指標値は1キログラム当たり200ベクレル以下です。原木の場合は安全を見越して50ベクレル以下という厳しい基準が決められました。移行係数2というのは、まれにしか起こらない状況です。緊急調査のときの移行係数の平均は0.43です。原木栽培もサンプルをたくさん集めて移行係数を平均すれば0.5くらいになるということで、原木の平均濃度が200ベクレルであっても、そこから育つきのこの放射性セシウム濃度の平均値は100ベクレル以下に収まるだろうと予想されます。
佐藤

原木の場合、放射性物質が原木のどこで濃度が高いのか、原木によってばらつきがあるため、まれに移行係数が大きいものが出る可能性があるということですか。

三浦

そうです。原木には、10~15センチ間隔くらいで穴をあけて菌を打ち込むのですが、放射性セシウムの濃度が偶然高いところだと、そこから出てくるシイタケの放射性セシウム濃度も相当高くなってしまいますし、その逆もあるので、場所によって10倍以上違うこともあるようです。だからこそ、原木と菌床の場合で林野庁の定める指標値が違うのです。

    • そして、出荷制限があります。市場に出す前に検査をして、放射能汚染については心配ないように福島の農作物は管理されています。福島県の場合、野生きのこはほぼ全て出荷停止で、森林内に原木を並べるシイタケの露地栽培も浜通りから中通りの北の方ははまともにできていない状況です。露地栽培の原木シイタケの出荷制限は福島県だけでなく、青森から長野や静岡くらいまで、東日本の半分くらいは県内のどこかかが引っかかったままです。
    • 一度でも基準値を超えたら出荷制限がかかりますが、それを解除するには相当厳しい検査をクリアしなければなりません。すべての地域で汚染しているわけではありませんが、まれに基準を超えるものが出てくるというのが東日本の状況です。

海外における原発事故

    • スウェーデンは原発を持っており、放射性廃棄物の地層への埋層処分を国民の合意を得てやっていて、低濃度のものは20年近く前から埋層処分をしています。高レベル廃棄物も、スウェーデンの海域の地下に穴を掘って埋めるという合意がなされていて、2~3年後から運用するらしいです。埋設する予定の海洋や森林の環境モニタリングをして、将来何らかの事故が起きた時に地下に埋めたものが地表に出てきたらどんなことが起こるかというのを、今からモニタリングしたり予測したりしているとのことです。
    • 北欧は、天然のきのこやベリー、トナカイやムースなど、野生の林産物を大量に消費しているようで、チェルノブイリの原発事故以降は困難な状況に陥ったようです。スウェーデンは菌床栽培よりも天然のものを多く採って消費しているらしく、チェルノブイリの原発事故では天然のきのこもベリーも汚染され、食品を通した被ばくをどこまでどう抑えるかというのは大変だったようです。スウェーデンはチェルノブイリから遠く、福島ほど汚染濃度は高くはありませんが、汚染範囲は広く、国土の三分の一程度が影響を受けました。
    • きのこはもともとカリウムをたくさん吸収するという生理的特性を持っており、セシウムも一緒に吸収してしまうので、きのこに対するセシウムの対策は本当に大変な状況にあります。日本でも海外でも同様で、ひとたび環境に放出された放射能は、林産物にとっては非常に厄介な問題です。
参加者

放射性物質による被害に関して、たとえば山にいる生物というのは、現実に異変が起きているのですか。

三浦

異変が皆無ということを証明するのはすごく難しいです。たとえば、シジミチョウという種類のチョウについて、福島で放射線による異変が起きているという論文が学会で発表されました。しかしシジミチョウはもともと変異の起こりやすい昆虫なので、それは本当に放射線の影響なのかという学者もおり、福島の事故で変異が本当に起こっているかということはまだはっきりしていません。

参加者

たとえば、動物を捕まえて、解剖するなどしていますか。

三浦

それはやっています。体内の放射性物質の量が多くなっていることはもちろん証明されますが、それが生命として変異を起こすところまでいっているか証明するのは難しいところです。

参加者

調べるには時間がかかるということですか。

三浦

放射線は、人類が利用し始めてまだまだ時間が短いです。個人的に言えば、調査する時間がかかるというより、専門家も含めて経験が足りません。きちんと判断できているのかな、と個人的に思います。

関崎

補足すると、福島県で種豚を飼っている牧場があったのですが、そこが非常に強い放射線を浴びてしまったのです。人間はみんな避難したのですが、豚は取り残されたままでした。そしてその豚が相当高い被ばくをしました。それでも大事な豚なので、その豚を茨城県の東大附属牧場に避難させました。その後、その豚の子ども、孫、ひ孫、玄孫が生まれるまで、何の異常もなく世代を重ねています。ただし、初代の豚は、放射線を浴びて骨髄がやられてしまい、体力が落ちて寿命も短くなってしまいました。ですが、その豚から生まれた子たちには何も影響はなく、今でも元気に過ごしているというデータはあります。

今回も多くの方にご参加いただきました

今回も多くの方にご参加いただきました

原発事故と森林

    • 森林は一言でいうと、放射性セシウムの貯留地です。森林に降った放射性物質は、森林からほとんど流れ出ず、その場に長くとどまるとチェルノブイリの原発事故でも言われていました。日本の場合は雨や傾斜地が多いので、放射性セシウムが川から流れ出ることも心配されたのですが、大学や森林総研も様々な方法でモニタリング調査をして、河川からの流出はわずかであることが分かってきました。
    • 原発事故が起こる前に日本全国から採取された森林土壌のサンプルの放射性セシウム137を測定すると、日本全体で、森林土壌1平方メートル当たり平均1.7キロベクレルたまっていることがわかりました。
    • 実は昔から、大気圏核実験の影響で空から放射性物質がたくさん降ってきており、気象庁や都道府県の衛生試験所が雨を集めて降下量を測っています。1970年までの観測結果をもとに換算したデータをみると、1.5~4.0キロベクレルくらいでした。つまり、50年前の核実験後に10~20年かけて観測したセシウムの量と、50年後に森林の土壌中から測定したセシウムの量がほぼ同じレベルだったということです。
    • 50年たっても、降下したセシウムは森林に残っているということです。ですので、おそらく福島に降った放射性物質も長期にわたり、そこにとどまるだろうという予測がされました。
    • 実は大気圏核実験の影響は人間にも表れています。放射線医学総合研究所は、大気圏核実験後の1963~1990年代まで、研究所の研究員の体に含まれているセシウム137を測定していました。調査結果によると、1963年くらいに体内セシウム量はかなり高くなり、1967年くらいまでに急激に下がっています。当時は今ほど食品の検査もしていないので、汚染された食品を知らずに食べていたこともあり、日本人も結構、体内に放射性セシウムを取り込んでいました。しかしこれが原因で健康に影響を及ぼしたという報告はありません。
参加者

体内の線量が急激に下がったということですが、それは生体内の半減期と関係しているのですか。

三浦

生体内の半減期とは全く合いません。生物学的半減期はおよそ半年といわれています。当時は特に対策をとっていなかったので、汚染された食品を通してセシウムが人の体に入ってきました。当時降った大気圏核実験由来のセシウムの量が、そのまま体内に反映していると考えてください。要するに核実験の多い1963年ごろに降った量が一番多くて、その後核実験はどんどん減っていたので、その分環境汚染は減ったというわけです。

参加者

では、核実験でセシウムが累積しているわけではないのですね。

三浦

食品を通した汚染では、確かにしていません。生物的にはどんどん排泄していきます。(資料のグラフを指さして)ただこの数年間は、核実験が多い時期なのです。

きのこの放射能汚染

    • きのこは、植物でいう根っこにあたる菌糸が、土壌のどの深さに伸びるかによって、汚染状況が異なります。降下したセシウムは地表の浅いところにたまりますので、浅い土壌に菌糸を出す種類のきのこほど汚染が高くなります。このため、天然のきのこは種類によって汚染の程度が違います。
    • 東京大学でも、千葉や北海道など様々な演習林できのこを調査しました。きのこの種類によっては、福島から遠く離れた山梨でも高い濃度が検出されています。北海道の演習林でも少し検出されています。
    • 福島の原発事故によるセシウムには134と137がありますが、たとえば山梨のハナイグチダケはほとんど137しか検出されていません。134が検出されていないということは、50~60年前の大気圏核実験による汚染が残っているということです。森林の中をセシウムが循環しているので、きのこに影響が出ている状況です。
参加者

きのこが放射性物質を吸収するのであれば、きのこを毎日収穫し続けて処分すれば、放射性物質は減りませんか。

三浦

素晴らしい考えですが、そうはいかないのです。というのも、たとえば木材に比べるときのこの量は圧倒的に少ないです。植物の生物機能を利用して汚染を浄化することをファイトリメディエーションといいますが、それはあまり期待できません。今でも森林全体の放射性物質の1割ぐらいは樹体にたまっているので、むしろ樹木を切り出せば、多少除染は進むかもしれません。それでも1割程度です。

参加者

山火事のようなものならいいですか。

三浦

結局山火事も、木が燃えて下に落ちるだけですし、セシウムがもっと遠くへ飛んで行ってしまう可能性もあります。チェルノブイリでは、今でも放射性物質が山火事によって周辺へ飛んでいくことが恐れられています。森林にセシウムが溜まっていることを承知の上で、どう付き合っていくかを考えていくしかないと、私は思います。

これからのきのこの生産

    • 生産されるきのこの放射性物質濃度を下げる方法は3つほどあります。まず、吸収抑制剤を添加して栽培する方法です。プルシアンブルーなど、非常に強くセシウムを吸着する薬剤におが粉や原木をどっぷりつけると、薬剤にセシウムが吸収されて、セシウムはきのこにほとんど移っていきません。ただし、作業中にきのこに薬剤が付着するときのこが青くなり商品価値がなくなるので、扱いが面倒ですし、生産費用も高くなりますのでなかなか現実的ではありません。
    • 2つめは、放射能汚染されていない地域の原木を使用する方法です。とはいえ、ほかの地域からわざわざ原木を買い付けるのではなく、汚染地域で今までやっていた原木栽培を続けたいと思っている人もいます。汚染濃度が低い原木であれば問題なくきのこ生産ができるので現実的なのですが、福島の人たちにとってはあまり現実的ではないですね。
    • 3つめは、原料の放射能汚染濃度を下げる方法です。汚染された地域で原木の放射性物質の濃度を下げて、地元できのこ生産を再開したいという要望は強いです。何とか工夫しているのですが、まだ見通しが立たないという現状があります。
    • コナラのきのこ原木利用部位濃度を、私が実際に福島県田村郡都路町で調査したデータがあります。空間線量率が0.3マイクロシーベルトの場所で大中小のコナラの木を3本切って、どのくらい汚染されたかを調べました。樹皮は2000ベクレルくらいで、相当高いです。材は100~300ベクレルくらいなので、10倍くらい違います。それを全部合わせた平均的な幹の濃度は500~800ベクレルくらいです。研究用に乾燥した重量当たりの値なので、生材だとこれの3分の2か半分くらいになります。それでも300~400ベクレルで、原木の指標は50ベクレルですから、原木としては使えません。
    • 私が調査に入っている福島県田村郡都路町は、2014年4月、1番最初に避難指示が解除された地域です。人々はそこに帰ってきて、農地の除染を進めて、地元の暮らしを再開し始めていますが、きのこの原木生産については見通しが立たないので、全く同じ生活には戻れない現実があります。
    • 食事1食分の放射性物質を測りどの程度汚染されているか調べるという陰膳調査を、2011年から厚生労働省は日本各地で実施してきました。そのデータによると、2013年3月時点で、福島も含めて日本全国で非常に低い数値です。食品を通した追加被ばくは基準値の設定根拠である年間1ミリシーベルトの1%以下という状況です。きのこだけではなくすべての食品を含めたものなので、食品を通した汚染は非常に低く抑えられています。
    • ここで、1人当たりの食品の年間消費量を考えてみます。米はだいたい60キロ、きのこは3キロ程度です。同じように基準を100ベクレル以下にしておけば、被ばくを十分抑えられるのは確かです。しかしながら、きのこの基準を100ベクレル以下にしなくても、日本人全体の食品を通した被ばくは安全なレベルに抑えられるのではないかというのが、4~5年福島に通った私の感覚です。
    • 森はもともと、多面的な機能を持っていて、そのバランスの上に成り立っています。人間がそれを利用しながら里山の暮らしを営んできましたが、今はどうにもならない状況になっています。そういうことを、食品を消費する側からも一緒になって考える機会になればいいかなと思います。この先、いつどこで原発事故が起こるかわからないですし、そこに向けて備えをしながら、日本社会としてどういうバランスをとるかということを考えていく時期にきたと思います。
里山での暮らしを取り戻すには、どうすればよいのでしょうか

里山での暮らしを取り戻すには、どうすればよいのでしょうか

参加者

日本には火山があります。火山灰土壌が放射性物質を多く吸収するというのがわかってきたようですが、どうですか。

三浦

火山灰土壌が放射性セシウムを特に吸収するということはないです。粘土鉱物の中でもセシウムを吸着しやすいものは確かにあるのですが、火山灰土壌の中に特にそれが多いわけではありません。むしろ火山灰には、セシウムを吸着しやすい鉱物は多くはありません。

参加者

森林に降ったセシウムが循環するということについて詳しく教えて下さい。

三浦

現在は、福島で汚染された地域をモニタリングしており、川を通して流れ出るセシウムは、その森林流域に降ったセシウムの0.1パーセントくらいだといわれています。セシウムの循環にかかわることはまだ調査が十分ではありませんが、一定量は間違いなく土壌と樹木の間で森林内を循環しています。汚染されていない苗木を持ってきて植えると、それが1年もたたないうちに、その周囲で直接汚染されていたものと同程度まで放射性物質の濃度が上がる事例がかなりあります。確実に土壌からセシウムを吸収することはわかっています。ただ、直接汚染された樹木がさらにセシウムを吸収するかどうかについては、新たに吸収されたセシウムと、樹皮から材に移行するセシウムを、区別して測定するのは難しいので、もう少し丁寧に調査しないと分かりません。

参加者

汚染された農地にきれいな土を持ってきて、何メートルか積んでしまえばいいのではないかという話を聞いたことがあるのですが、森林についてはどうですか。

三浦

それは現実的ではないと思います。山に大量に客土するには、その土をどこから持ってくるのかという問題もありますし、客土された山で、もとのような森林を再生するのにそもそもどれだけ時間がかかるのかという問題もあります。そして、森林は放射性物質で汚染されて利用できなくなってしまいましたが、それ以外のこれまでの森林としての機能はなくなってはいないのです。それを活かしながら付き合っていく方法を考えるしかないと思います。

参加者

結論から言うと、放射性物質の自然崩壊に任せるということですか。

三浦

そうです。人が住んでいるところに、森林から放射性物質が飛んできたり流れ出てきたりすることは本当に限られています。モニタリングポストの値は変動しますが、汚染物質の量というよりは、気象の違いによって日変動や年変動もありますし、雪が降ると空間線量率がガクッと下がることもあります。長期間かけて空間線量率の変化をみていくと、全体としては徐々に低下しているということがほとんどのポストで認められます。人が住んでいるところが今後追加汚染される可能性は非常に低いです。

このページはJRA畜産事業の助成を受けて作成されました。
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