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第23回サイエンスカフェ「放射性物質と農産物 〜福島の食べ物について〜」開催報告

掲載日: 2017年5月12日

話題提供者の二瓶直登さん

話題提供者の二瓶直登さん

2016年12月7日第23回サイエンスカフェ「放射性物質と農作物〜福島の食べ物について〜」を開催いたしました。東京大学大学院 農学生命科学研究科 附属放射性同位元素施設(現 アイソトープ農学教育研究施設)准教授の二瓶直登さんに、震災・原発事故から5年半を経た福島の食べ物の現状、農作物と栽培における対策、現場での奮闘・工夫などを当時の経験や現在の研究を通してお話いただきました。

カフェならではのくつろいだ雰囲気の中で、参加者の皆さんからは、気になっていた食べ物のことなど、多くの疑問・質問が寄せられ、畑作での施肥の方法などについて具体的な関心も高く、盛況となりました。



○第23回サイエンスカフェ配付資料(pdf)
※以下、記載がない場合の発言者は二瓶氏のもの。
※質疑応答は一部抜粋。

放射性物質はどうやって飛んできたか

    • 私は福島県の海沿いにあるいわき市の出身で、大学卒業後は地元で畑作担当の県職員として、麦とか大豆とかの栽培をしてきました。福島県は北海道と並んで有機農業の先進県で、私もその初期に県にいたので、なぜ有機農業がいいのか、有機農業と慣行農法との違い、化学肥料との違いなど研究していました。地震のあと、さらに研究したいということで、県庁のデスクワークから今の大学のポジションに移りました。
    • 試験場に13年いて、最後の2年間は県庁で食の安全に関わる業務をしていまいした。農薬問題、残留農薬、期限切れなどの問題を扱っている部署ですが、震災直後から業務はほぼほぼ放射線や原発問題関連で、県の水産、畜産、水田などの部署から集まってくるデータをとりまとめていました。福島県から避難していてこれから戻るという方を対象に、このところ何回か避難者セミナーを担当させてもらっていて、福島の現状を1時間半ほど説明しています。本日は現状をお話しして、「です、全く出てないわけじゃない、福島の今のものも、後から放射線が入ったものもは少しはある、それがどのぐらいのレベルか、他と比べてどのぐらいの程度か」分かっていただければと思います。
    • 2011年3月11日に東日本大震災があって、そのとき郡山というの試験場にいました。地震だというので待機していると「津波が来た」と聞こえてきて、大変だなと思っていました。その後帰宅したら、今度は原発が止まりました。試験場は200人くらいは入るホールがありって、比較的新しかったので、そこが避難所の1つになって、大熊とか双葉から避難された方々がいました。
    • この図は東日本全体に、原発事故が起源でどのくらいの放射性物質が飛んだかを表します。濃度の濃い、薄いがわかりま。福島第一原発から福島県全体に飛んでいますが、福島県以外にも飛んでいて、ホットスポットと呼ばれる岩手の辺りや、東京から近いところでは柏なども、たまたま風と地形の影響で、飛んできている。よく福島県しか話題にされない言われないんですが、福島県以外にもちょっと影響はあるってということです。
    • 拡大図を見ると、福島第一原発っていうのは2つの市町村にまたがっています。双葉町と大熊町。普通、柏崎とか他の原発っては地名で呼ばれるんですけども、福島だけは福島という名前なのは2つの自治体にまたがっているからと言われています。それが良かったかどうか、今となっては分からないですが。このちょうど真ん中辺りに第一原発があり、当時は南西の風、南から海からの風に乗って放射性の物質が飛びました。
    • ここで1つ分かってほしいことはのは、決して同心円状に均一に広がったのではなくて、方向性があったということです。全く風がなければ、基本的には放射線というのは距離の2乗に比例して離れれば離れるほど弱くなるし、近付けば近付くほど放射線の影響を受けます。今回は、放出源から風、雲に乗ってその中のごみとくっついて、このような南西の方向に広がってしまったんです。
    • 応放射性物質のそのものではないですが視覚的に捉えたものがあります。放射線があるとその部分がここが感光して色が変わる特殊なシートです。福島で土壌を取ってきて、そのシートの上に置いておくと、どこに放射性物質があるかが分かります。黒いぽつぽつが濃度の高いところです。土にはイメージではとすると、均一に濃度が広がっているように思われるうと思いますが、そうではなく、ごみやちりなどの周りにセシウムがくっついたと言われています。
    • 葉っぱを取ってきて、このシートの上に載せて何日か置くと、その放射性物質から光を受け取って、どこにあるかっていうのが分かります。こういうものが土壌に降って、その当時の小麦の葉っぱに付いた様子の図です。震災は3月11日でしたすので、5月くらいには2カ月間生育して小麦は隣の葉っぱぐらいになります。当初の3月はこの葉っぱが最初の2〜3枚目か3枚目かしか展開していなくて、開いた葉に放射性物質がくっついて、その後生育していますが、ぽつぽつと見えます。とともに、一度付いたものはこの葉っぱから他の葉っぱにあまり動いてないのが分かると思います。
関崎

若い葉っぱと以前から開いていた葉っぱですね。

二瓶

3月に開いていた葉と、その後4月から5月にかけて開いた後ろの葉ですが、3月に開いたところしか放射性物質は影響していない、付いていないということなんです。

参加者

黒い点が放射性物質ということですが、そうした場所は、多いんですか。

二瓶

そうですね。放射線自体は元素のレベルなのでものすごく小さいんですが。空気中に雲の核となるごみがありますが、その周りに放射性物質がぽつっとついたというイメージです。

参加者

葉っぱや土壌に降ってついたものが他に移動する気配はないというお話でしたけど、くっついてるのが洗えば落ちるレベルじゃないってことですか。

二瓶

それは明らかに落ちます。ゼロではない。葉っぱには気孔とかがあるので、ある程度中に取り込まれているものもあるかもしれませんが、洗えばだいぶ落ちます。なぜかというと表面に付いているからという理解です。

    • セシウムボールって聞いたことありますか。放射性物質が飛んできたときの形は何かというのは研究者の関心の1つですが、その中でセシウムボールっていうのが最近見つけられています。先ほどの僕の説明はごみの周りに付いているということでしたが、そうではなくて、原発事故のとき、高温で飛んだものが閉じ込められたものがあるらしい。周りがガラス状のもので、真ん中にセシウムがあって、それがある程度飛んだんじゃないかと。実際に確認はされているものがあって、そういう形でも飛んできています。ただ、これはたぶんガラスが入っているので、作物ががそれをについて吸うかどうかということでは、あまり吸わないと思っています。しかし、放射線は出すので、それは作物にとって放射線外部被ばくということはあり得ます。それがどのぐらいの割合で飛んだかというのは、まだ分かっていません。
    • 放射性物質とは何でしょう。物質を細かく分けていくと原子とか原子核というレベルになります。この原子っていうのは112あって、2016年日本で113番目の新しい元素ができましたね。元素が細かくなっていくと原子になるんですが、原子がある重さを持っていると、とてもすごい不安定な形になっています。原子、電子、陽子と中性子から成り立っていますが、例えば原子発力電所の中だと、中性子を付けるんですけれども、そうすることによって不安定な物質になりますなると。不安定な物質から安定な物質に変わろうとするときに出てくるのが放射線と言われています。
    • こういう原子核は、先ほど言ったように百何種類あるんですが、その中でも、今回の原発事故で問題になっているのは、ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、プルトニウムの4つです。ヨウ素は半減期といって、放射線を出して安定になる日にちが8日で、8日たてば100あったものが50になるし、50あったものが、また8日たてば25になるということで、半減期が短いんですね。事故直後は問題になったんですが、ヨウ素は今は主な問題とはなっていません。

半減期の異なるセシウム134と137

    • ストロンチウムとプルトニウムは量が比較的少なかったと言われていますので、現在われ
      われが問題としているのはセシウムです。2つ書いてありますが、それぞれのセシウムの成り立つ中性子と原子の数の比率によって、134個その原子が集まったものと、137個集まったものがあり、どっちも放射線を出して安定になろうとします。
    • 2種類のセシウムの違いは、安定になろうとする期間です。134が2年、137が30年もかかり、それぞれが放射線を出しています。これをわれわれは注視しています。被ばくには外からの被ばくと、食べることによる内部被ばくという、2つの被ばくの影響があるとされています。農作物への影響としては、3月11日にそこにあったものは葉っぱに直接放射性物質が付いて、この影響がありました。ただ、その後成長したものを後に収穫したものや現在のものは原発から放射性物質が飛んで付着したものはありませんので、この影響はほとんどありません。
    • もう1つの影響は間接汚染といって、土壌に付いたものを、土壌を通して作物が吸ってしまっって、作物が放射性物質を持ったものを人間が食べるかどうかということになります。作物が吸うというのはっていうのは、作物は成長するために、必要な栄養分を根っこから吸います。作物の成育にとって必要な栄養は113の元素のうち17元素だけです。逆に言えば、これがなければ生育できません。中でも、窒素、リン、カリは量としてすごく大切なものです。この17元素にセシウムは入っていませんから、作物にとってセシウムは必要な元素ではないのですが、非常に形が似ているカリウムは必要な元素としてよく吸い込むので、間違ってセシウムを吸ってしまい、作物がセシウムを持ってしまうという間違いが起きているとされています。
    • 作物がセシウムを大量に吸ってしまうと、どうなるでしょう。スライドは、試験的なもので、実際には福島でこんなに光るものは取れていません。実験的に、試薬として売っているそのセシウムを高濃度に与えて、大豆と稲を作り栽培しました。作物の食べる部分のどこにセシウムがたまるのかというのを調べたかったからです。137の放射性セシウムを与え続けて栽培した大豆を2つに切って、先ほどの特殊シートの上に載せてコンピュータ上で色を付けました。
    • 例えば、稲は将来芽とか根になる胚という部分と糊粉層という周りの部分に多く、逆に中心の澱粉の部分にはほとんどないことが分かります。なので、玄米から白米にすると、周りを削りますので、玄米で100あったのが精米にすると48くらいに減るというっていうデータもあります。それで、日本酒とか大吟醸にすると出ないからというっていうことで、福島で酒米を作っているということもあります。これも低減対策の1つですね。
    • 一方、大豆は全く逆というか残念なのですが、種全体にためてしまうという違いがあります。私の専門は大豆で、大豆はいろんな意味で必要なものですから、どういう条件だとよく吸うのか、どうやって吸わなくするかという研究をしています。

農業県福島の除染対策・低減対策

    • 福島県は農業県で、震災前はですと2,330億の売り上げがあった一大産業です。その中でも一番は米です。福島県は水田が多く、「天のつぶ」という福島県のオリジナルブランドがあります。各県がコシヒカリとかひとめぼれみたいな県のオリジナルのブランドを作っていて、福島県も震災前から取り組んでいます。10年以上かかって、「天のつぶ」という新しい品種ができたんです。もしよければ買っていただきたいです。私も買ってますが、おいしいと思います。その他には南会津のトマト、須賀川の周辺の岩瀬村のキュウリが有名です。また、果物が有名で、モモは本当においしいですし、ナシ、ブドウ、リンゴ、カキもあります。
    • ただ、放射性物質が農地にも降っていますので、これらを作る上でどうすればいいか、どう気を付けなければいけないのかというのが課題として残りました。そこで、まず果樹農家は震災直後に木の幹を洗いました。果樹であれば皮の所に放射性物質が付いていますが、麦の葉っぱの例のように、付いているだけなので洗えば落ちるということで洗いました。さらに表皮を剥ぐっていうところこともしました。皮に付いているので、それが取りこまれて吸われてモモとかカキに出ることが心配されました。剥ぐことができない樹種もあるんですが、できるものに関しては表皮を剥ぐっていう除染対策が行われました。
    • カリウム施肥も行われています。たぶん、これが現在行われている低減対策で最も効果があるとされている手法です。カリウムという肥料は窒素やリンとともに農家では毎回入れるもので、10アールに対して10kgくらい入れるんですけども、その中でもカリウムっていうのが、を入れておけばセシウムは吸わないとされています。
    • 周期表で見ると縦のラインが似ている元素です。セシウムの2つ上の段にカリウムがあり、セシウムとカリウムが似ているので、植物がカリウムを吸う量が一緒だとすれば、カリウムがいっぱいあるとセシウムを吸う割合が少なくなるのです。
    • 最近分かってきたこととして、根っこはカリウムとセシウムを間違わないでちゃんと見分ける力もあるんです。カリウムがたくさんあれば植物自身も余裕があって、カリウムとセシウムはちゃんと見分けてくれるんですけど、カリウムが少ないとなると必死になって何でも吸う力が働きます。それでカリウムとセシウムを間違う率も変わるとされています。こうした2つの点から、このカリウム施肥というのは必ずしましょう、という話になっています。
参加者

カリウムと間違えて接種したセシウムというのも植物にとって何か栄養源になるものとして効果があるんですか。

二瓶

ありません。セシウムを取り込んだ後にカリウムの働きをするかというとしないです。

    • カリウム施肥はセシウムを吸わせないという効果があるので行われているし、水田農家に関してはちゃんと土壌中のカリウムレベルというのが決まっていて、それ以上になるようにカリウム施肥を行いましょうと県も指導してます。東大の根本先生が伊達市で現状を見るために一部カリウムをまかないで育てている圃場があるんです。それを見ると、やっぱり残念ながらまだ100Bq/kg超えるものが出る、出ていないのはカリウムで抑えているからということも言えるので、東電はまだ賠償継続はしてくれています。そのくらいカリウムは大事です。大体の農家は代かきの前に圃場にまいて、その後水を入れて代かきをします。カリウムの追肥も一般的で、生育を良くするために震災前から行われています。
    • メカニズムとして、植物が養分を吸うときには、それぞれの元素ごとに窓をちゃんと持っていて必要なものを吸います。土壌から染みて入ってくるならば、土壌中の濃度と根の中の濃度が一緒になるはずですが、根の中のほうが圧倒的に高い。ということは、薄い所から濃いほうに吸収するっていう力が働いているということです。

吸着と固定

話題提供者の二瓶さん

根の中の様子を写真で紹介

    • 対策として樹皮を剥ぐこととカリウム施肥を紹介しました。栽培前に行う対策としては、反転耕が行われます。セシウムは土壌の表面に付着して残っていて、それを30センチぐらい下と上の土を入れ替えて、希釈するんです。セシウム自体を取り除いてはいないので、そこにあることには違いないんですが。また、濃度が濃い所は表土剥ぎを行っています。表面5センチの土壌を取って、こういうフレコンパックに入れています。これは土壌にあるものを取り除くので、一番効果が高いですんですが、これをやると大量のフレコンパックが出ています。その置き場が大変問題になっています。土壌の濃度が5,000Bq以上の所は、除染のために国の責任で行っています。5,000Bq以下の所は作物生育にも影響がないので大丈夫だろうという考えです。濃度の薄い所は一般的に反転耕です。希釈によってセシウムの吸収率も下がるということで推奨されています。
    • 濃度が濃い飯館村とか、大熊町とか、双葉町では、表土剥ぎを行っています。5センチでいいのかとご心配されると思いますが、ストロンチウムが結構動きやすいのに対して、セシウムは、セシウムは元素の特長として土壌にすごく吸着しやすく、動きにくいという特徴があるので、表土5センチを剥ぎ取ればいいんです。塩沢先生の研究だと、80%以上が表層2センチの所にあるとされています。
参加者

セシウムとかストロンチウムは雨の影響で下に出ていっちゃったりとかするんでしょうか。

二瓶

セシウムがイオンであれば水溶性なので流れます。それが土壌なりに吸着します。土壌はイオンをつかまえておく力があって、土壌自身がプラス、セシウムはマイナスなので、プラスとマイナスでそこにとどまる力になっています。

    • また構造として、土壌は層が重なっていて、この層の間の大きさと、セシウムイオンの大きさがたまたま一緒で、ここに入るとなかなか出てこず、移動しにくくなってしまいます。作物も吸いにくいですが、移動もしないので、長年土壌にたまっているんです。土に吸着するだけなら雨とか降れば多少は移動するけれど、層の間に入ると固定してしまいます。
    • 吸着と固定という2つに分けて言っていますが、固定になると土壌からはなかなか抜け出さず、時間とともに固定する割合が高まるので、なかなか下には行かない、とされています。
参加者

セシウム134は半減期が2.1年。137は30年。今回のは134のほうが多いんですか。

二瓶

事故当初は1対1でしたが、134は2年で減るので1対0.4くらいに変わっています。

参加者

134が半減期のは2.1年で消えていくというのは、エネルギーをたくさん出していて、137はエネルギー小さいんですか。

二瓶

大体一緒です。その4と7の比を見て、それが福島由来かどうかがわかるそうです。

    • 。50年くらい前中国などが大気圏で核実験をして、山梨とかその辺のキノコを測るとセシウムが出ますが、137しか出ないので、それは50年前に出たものと判断がつくんです。その4と7の比で福島由来かどうか、あるいは1号機、2号機、4号機かも判断できるのです。
参加者

チェルノブイリの事故の際、そのヨーロッパでキノコの汚染が問題になりました。キノコは選別能力が弱くて何でも取りこんでしまうということですか。

二瓶

そうだと思います。植物はの場合は根っこの膜を通るのですが、キノコは菌なので、もっと貪欲に吸っていて、だからこそキノコは栄養があって、われわれは食べていたわけですが、カリウムもいっぱい吸ってためるが故にセシウムもいっぱい吸ってしまっているようです。

関崎

キノコにもいろいろありますが、キノコの種類ごとに違いがあったりするんですか。

二瓶

キノコは菌根性と腐生性というタイプがあります。マツタケみたいに、生きたものに生えて松の根っこから養分もらってるものと、死んだものを分解してキノコが育つという、大きく2種類に分けられますが、その腐生性ほうが数値が高いとかっていう話を聞いたことあります。植物によっての違いもあるし、キノコ、そして山菜は間違いなく普通の植物とは違います。キノコを含めた山菜と水産物は福島で基準値に近いものが出ています。他のものはほとんど出てないんですが。それほどキノコはまだ注意しなきゃいけないものです。

参加者

希釈についてですが、希釈しても残っているので、農作業等の際は。出ている放射線を浴びてしまうような危険性というのはないんでしょうか。

二瓶

なくはないと思います。外からの被ばくで外部被ばくという範疇です。山などは除染がされていないです。家から20メートルまでしか除染されず、それ以外は面積が広大すぎて手つかずですし、国もやるとは言っていないんです。そういう所での作業では浴びた量を管理するため、ガラスバッジや線量計を付けながらやっている所もあります。作業をしている場所での外部からの被ばくは、福島では今後一番の問題ではないかなと思います。コントロールされた中でも、あるかないかと言えば「ある」ので、なるべく少なくなるような管理は必要かと思います。

農産物出荷時のチェック体制づくりに奮闘

    • いろいろな対策をして作られた農作物が売られるときに、消費者の皆さんは本当にそれが大丈夫なのかと思われると思いますが、いろんな所でチェックしています。一番大きいのが出荷する段階のチェックです。それだけではなく、スーパーで売られているものを覆面で買ってきて、それをちゃんと測って基準値以下かどうか確認したり、学校職員の日常食の実際に食べる1食分を作ってもらって、その中にどのぐらいあるかを測る陰膳調査をしたりします。
    • 数として多いのが家庭菜園の作物のチェックです。こっちは自分の畑で自家用に作っているものまでは県とか国はできません。でも心配する方は多いので、県に500台、放射線を測る機械が公民館等に置いてあり、心配ならそこへ持っていって測れるような体制をとかを取っています。
    • 売っていいかの判断は、福島県が独自ではなくて、国の法律の下、原子力災害特別措置法に基づいて、国の指示で県が行っています。モニタリング検査をして、基準値を超えているかどうかを判断して、超えていれば出荷制限します。その地域のものは出荷しちゃ駄目ですというのは国から送られてきます。基準の濃度を著しく超えると、採取してもできません。基準値の超え具合、出る割合によって制限の割合がも変わります。また、出荷制限ってのはという判断だと思われがちですが、正確には農家がそれを取って食べるのまでは抑えていません。基準値を超えたものは道の駅に出すとか、人にあげたり、流通させたりすることはいけません、というものです。
    • モニタリング検査は、市町村ごとに行われて、例えばモモならモモを、国の法律は1市町村、1品目3点以上、を無作為に取ってくる、福島県はさらに加えて10点ぐらい取ってきているはずですが、それを検査OKならば、いわき市のモモは売ることができて、流通に乗ります。
    • 抽出検査で基準値を超えるものがあれば、その農家のモモが出荷制限されるのではなくて、町全体が止まります。出荷制限は地域ごとで、全体が止まるという形で行われています。これを59あるの市町村の単位でやってもらっています。実際の検査では、サンプリングしてきたもの、例えばモモを刻んで容器に入れます。なるべく容器の中に均一なものを詰め込みたいから刻みます。それをゲルマニウム半導体検出器という放射線を測る機械で測ります。混ざりを除くために作業用のシートも手袋も容器も全部使い捨てです。切る道具も使い捨てで、大きめのカッターナイフの刃だけでそのサンプルを刻みます。モモはましですが、カボチャなどと固いものが来るととても大変で、僕はよく指を切ってテープを巻いたりしていました。この機械は、原発事故前には福島になかったんですが、2011年の夏に整備されて10台稼働しています。

食品の基準値はどう決められているの?

    • 基準値の数字はどのように決まっているのでしょう。現在一般食品は1kg当たり100Bq/kgという濃度の基準値で、万が一これを超えていれば、出荷停止、超えていなければ、例えば80Bq/kgでも、それは国としては認められていることになります。農産物の出荷の基準値は100Bq/kgですが、大本になっているのが追加の放射線量が生涯mSvという基準です。これから死ぬまでに追加に被ばくしてもいいのが100mSvというもので、1年当たりにして1mSv、それを食べ物から取ってもいいよという、その限界が100Bq/kgです。
参加者

生涯って人によって残された年数は違いますが、生涯100mSvで、1mSvm/年ということは、赤ちゃんとかも考慮して100年生きるとして計算されているんですか。

二瓶

はい。生涯が多く見ても赤ちゃんでも100年だろうということで、年割りされています。

    • 放射線の単位ですが、基準値が100Bq/kg、ベクレルはそのものが出す放射線量です。そして100Bq/kgのものをどのぐらい食べて、どのぐらい影響を受けるかがシーベルトです。
参加者

シーベルト換算だとα線とβ線とは違うんだよということが起きるわけですか。

二瓶

例えばα線の1Bqとγ線の1Bqは全然違って、α線は20倍です。α線は飛ばないんですけども、飛ばない分受ける影響が20倍大きいので、かける20の計算になります。

    • 100mSvの大本は広島、長崎のデータから来ています。広島、長崎後の調査で100mSv浴びた人のがんになる確率が若干上がるっていうことが統計的にあり、これが元になっています。
    • 「追加」という言葉について。もともとわれわれは大気、食べ物、宇宙などから放射線を浴びており、日本人だと年間2.1mSv浴びています。それにプラスして年間1mSvを浴びても、食べてもいいですよということです。放射線は原発事故以後に出てきたんだろうと心配される方いますが、そんなことはなくて、例えばコーヒーにはカリウムが多く、すると放射線もある程度あります。昆布にも2,000Bqあるし、われわれ自身も放射線を1人4,000持っているとされています。
参加者

日本の平均で食品がとても多く見えるんですけど。何を食べているんですか。

二瓶

いい質問です。何だと思いますか。日本人がよく食べるもの。

    • 世界でラドンが多いのは、石の家に住んでいるからで、石の中に放射線がの古いのがあって、その中で生活しているからだと言われます。日本人の食べ物で多いのは魚です。魚にはポロニウム210というのがたまる仕組みがあり、そこからの放射線で多くなっています。
    • 「追加」というのは、もともとあったものプラス、生涯は100mSvはいいよっていうことです。放射線の100mSv未満の影響は、大体野菜不足と同じくらいのリスクとされています。さらに、1,000mSvの影響は、喫煙のリスクと同じぐらい、肥満の人は生涯に大体500mSv受けると同じくらいのリスクになります。そう聞くと、放射線の影響が特別大きいんじゃないということを理解していただけるかと思います。

「一般食品100ベクレル」の計算は?

    • ベクレルとシーベルトは食べるものが持っている放射線量とその放射線から受ける影響の度合いでした。ベクレルは、どのぐらいの濃度のものを食べていいか、kg当たりの量なので、何キロ食べるのかという摂取量の問題になります。
    • ベクレルとシーベルトを換算するには実効線量係数という係数があって、これはいろんな実験結果から、このベクレルのものが体にあったらどのぐらい被ばくするだろうという計算がされます。まず年間1mSvから水の分を引くと、食べ物から0.88mSvはいいですよという計算になります。食べ物のる量は年代によって違い、一番食べる13歳から18歳の男の子は年間748キロ食べるとされています。またすべて国産のものを食べるのではなく、約半分が国産のものという係数がかかります。半分国産で、半分は安全な外国のものという計算です。748掛かける0.5で、実効線量係数0.000018で計算すると食べていいのは120Bq/kgまでという数字が出ますが、より安全を見て限度は100Bq/kgということになっています。食べる量も実効線量係数も年代によって違うのですが、数字を当てはめて年代ごとに見ると、13歳から18歳の男の子が食べる量が最も多く、食べ物から受ける影響が120でともっとも厳しい数字となっているので、それをさらに安全側に切りよく100とされたということです。
    • 日本の基準は一般食品100Bq/kgであるのに対して、ヨーロッパでは1,250Bq/kgが基準にされていて、アメリカは120Bq/kgだということです。輸入ものの割合も違うので単純には比較はできないんですが、日本は100と厳しめのところで管理されています。

福島の食べ物の現状・お米の全袋検査

    • 福島県は地震の直後の3月17日からモニタリング調査を行っています。牛乳から始めて、初めのうちは危ないものが出て、現在まで調査は続き毎年約11万点ぐらい測っています。検査件数が夏や秋に多いのは、産物が採れて測るものが多いという季節性です。
    • 横軸が時間、縦は対数軸の図ですが、見て分かるのは震災直後、原発事故直後は高いものがあったということです。その後も収穫して、土から吸うものは最初あったんですが、ここ3年ほど、野菜に関しては基準値を超えるものは出ていないとされています。これは土壌に固定が進んだこともありますが、カリウム肥料や除染がで管理されているためと伺っています。
    • 畜産物は牛や豚の肉、卵とか牛乳が入りますが、震災直後530の牛乳が出ましたが、その後やはり餌ですねを管理することによって、100を超えるものは出ていないとされています。
    • 畜産物や野菜が大体いいという話で終われればいいんですが、現実はそんなに甘くなくて、林産物、キノコ以外に山菜も入りますが、山菜の一部のものは100に近いものがまだ出ています。山菜はコントロールがしにくくカリウムをまくっていうこともなかなかできないので長い付き合いになると思います。ただ、全部ルールに沿って販売されていてモニタリング検査を通っていますので、福島県の林産物だからといって危ないと思わないでくださいね。
    • 水産物もだいぶ減って、高く出るもの、低く出るものと分かれてきていますが、一部のものからまだ出ます。もう濃度が低いものや、当初は高かったけども低くなって今はほとんど全然出ていないものというのは、回遊魚の、カツオとかサンマ、そしてイカ、タコ、エビ、カニです。これはなぜかセシウムはあまり出ませんでした。ヒラメとかカレイのような下にいる魚はまだ高くて、淡水魚、川の魚、イワナ、ヤマメはもまだちょっと高いとされています。
    • 海水魚は海の中で海の水を飲んで生活しているので、塩をたくさん取っては大量に吐き出します。淡水魚は真水の中で生活していて、でも生活していくには塩は必要なので、真水の中のものを逆に取り込もうとする取り込もうっていう働きがあるそうです。なので、セシウムなども、イワナとかヤマメのような淡水魚は体の中にため込もうとして、なかなか下がらない。海のものはいっぱい取るけども、いっぱい出すのできれいになるのが早いそうです。
    • 福島県はやはり水稲が一番です。水稲は6万3,000ヘクタールで全国7位になって、震災前は4位だったくらいに面積がたくさんあって、毎年36万トンくらいのコメを作っています。36万トンは30kg袋で約1,200万袋です。毎年作られます。米はやっぱり県の主力品目だけに米に関してだけ抽出検査じゃなくて全袋検査をしています。
    • モモとか他の野菜は抽出検査で1市町村3点以上っていうルールでやっていますが、米は基本的に作られたものはすべてを測ります。屑米も、縁故米という人にあげるものも全て、売るもの以外のものもすべてです。苦労したのは測定装置です。以前の機械は大体20分で1つしか測れなかったので、全部やるには5万日かかる計算です。1個20秒から30秒で1,200万個を測って、農家は年内にその年作った新米を売りたい。そのために新しい機械を作ってもらえないかと仕様書を書いて、各メーカーに投げたら、ベルトコンベアー式の機械を日本の4社とアメリカの1社が作ってくれて、今県内に200台が入って稼働しています。1台2,000万に、アームという持ち上げる機械が400万で、計2,400万。
    • 1カ所で1日2,000から3,000袋測ります。測定してOKならば流通していいというシールが貼られます。駄目なものは焼却処分が基本です。これは100が出ないかどうかを調べる機械なので、100行かなくてもグレーゾーンがある、そういうものは二段構えで先ほどのゲルマニウム半導体検出器で測られるっていうシステムです。
参加者

駄目なものは大体同じ田んぼからのものですか。すると、全滅とかになるのですか。

二瓶

そうです。2012年から始まって、71袋、28袋、2袋となって、去年(2015年)、一昨年からゼロで、今年(2016年)も今のところ出てないです。この71とか28はちゃんと理由があって、味の問題とかでカリウムをまきたくないっていう農家が多くて、これはカリウムをまかない農家でした。28のうちの27は別の原因でした。原発で廃棄処理をするために原発の中の何か物を動かしたらしく、そこから何かが飛んで、南相馬の小高いところの近くの場所から27袋出たんです。原発から飛んだ放射性物質が直接汚染したのが原因と言われています。

    • その後対策をしてごみが飛ばないように東電も気を付けてくれていると思いますが。あとの1袋はカリウムをまかなかったためでした。26年はゼロ、その後も今のところゼロです。
    • 検査結果は、ホームページ上で公開されていて、見ることができます。県でこれの担当をしていて、本当に全部出しているのか、危ないのは出してないんじゃないかと言われたんですけど、時間はかかっても必ず全部出しているので、信用して見ていただければいいかなと思います。福島民友新聞にも、モニタリングのデータが出ています。
    • 検査の体制づくりとか、除染の取り組みとか、安全性をの確認して、100を超えるものは出ていないとされているんですが、米の値段が戻っていません。いわゆる風評被害というのが福島にはまだ根強くあります。福島の中通りと浜通りという原発のある所は震災前に比べて8割ぐらい。原発事故前までは福島県産として売られていたのが、今は中食、外食とか、名前で売られずに安く買いたたかれたりされているようです。
    • 福島は現状、まだ9万人避難している方がいます。2017年の3月でだいぶ避難解除になります。すると農業をまたやりたい人が多くなるので、これまでのどういう点が危ないなどの情報を共有して県などと協力しながら進めていきたいと思っています。
関崎

3.11から軌道に乗るまで、モニタリングや県と市町村との役割分担とかにどのぐらいかかっていますか。2~3年後ですか。

二瓶

モニタリングは6日後の3月17日からで、牛乳から始まり、福島県になかった測定機械がそろって夏ぐらいから今と同じくらいの体制になりました。全袋検査は2012年からです。米も2011年は抽出検査でしたが、県で漏れがあって、福島県知事が「福島県の米は安全です」って一回安全宣言を出した後に、自主的に調べた米から当時の基準値は500Bq/kg付近のものが出てきて、福島の調査大丈夫かとなった。そこから全袋を検査する体制になったのです。

参加者

今の制度は確立して、漏れがほとんどないところまで来ているのですか。

二瓶

はい。実際、県内ではどう収めよう、どう減らしていこうという話になっています。しかし、検査をやってるから安心して買ってくれるって人も多く、その辺はまだ難しいです。

参加者

震災直後日本のものは危ないと、懸命にオーストラリアの肉とかを買っていいました。日本で出回っている肉の基準ですが、輸入品に緩くて国内に厳しいとかあるんでしょうか。

関崎

一緒です。輸入検疫で国内の基準を満たさないといけませんから。

二瓶

日本でも原発事故の前にも昔から飛んでたのものもあったんでしょうが、そのときはわれわれも全然気にしてませんよね。オーストラリアもそのレベルで、それと一緒なのかなと思います。

    • チェルノブイリの事故で、直接影響のあったスウェーデンなどは対策などをかなりやっていて、われわれも参考にさせてもらっています。その他はあまりないと思うので、われわれの経験を、今度は世界のどこかであったとき参考にしてもらえるようにしていきたいと思います。

活発な質問に解説する二瓶さん

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