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お知らせ

第24回サイエンスカフェ「『機能性食品』って本当に機能するの?—お口に入った機能性食品成分たちの腸管内運命—」開催報告

掲載日:2017.05.23

話題提供者の大澤さん

話題提供者の大澤さん

2017年1月10日第24回サイエンスカフェ「『機能性食品』って本当に機能するの?——お口に入った機能性食品成分たちの腸管内運命」を開催しました。
神戸大学大学院農学研究科 食の安全・安心科学センターセンター長の大澤朗教授に、機能性食品は消化管内、特に腸管内ではどのように変わっていくのか、ヒト腸管モデルを使った評価などについて、現在の研究を踏まえお話しいただきました。
普段の食生活について認識を新たにされる一方、もっと知りたい、聞きたいと、興味深い話題に参加者からの質問も多く、盛会となりました。

○第24回サイエンスカフェ配付資料(pdf)
※以下、記載がないがない場合の発言は大澤氏のもの
※質疑応答は一部抜粋

コアラとユーカリとタンニンと

    • 1988年から勤めたブリスベンの市営動物園にはコアラがたくさんいました。コアラはユーカリの葉を食べて生きています。ユーカリの葉は半分は水ですが、タンパク、糖分、脂肪などを含み栄養価は牧草とひけを取らないぐらい高いんです。しかし、ほかの草食動物は食べようとしない。タンニンという成分が、普通の野菜では1%以下なのに、ユーカリの葉には10~20%含まれているんです。
    • タンニンは、動物の生革の皮なめし剤や、木の壁や塀の防腐剤としても使われます。タンニンはその性質として、タンパク質、アルカロイド、金属イオンやでんぷん等の高分子と結合して難溶性の塩を作り、そのため、微生物や動物が分泌する消化酵素がタンパクに効かず、タンパクの消化ができなくなります。
    • ユーカリの葉の絞り汁を、可溶性のタンパクの水の中に垂らすと、モクモクと雲の綿のようなものができます。これがタンニンとタンパクの結合物質で、お腹の中のどんな消化酵素でも分解できないと言われています。しかし、コアラは300万年ぐらい前にウォンバットから分かれて、ユーカリもそこから食べ始めたのですが、それ以来コアラは他の草食動物が見向きもしない植物、ユーカリを専ら食べて、血なり肉なりを作っているわけです。
    • どうしてコアラはユーカリを消化ができるのか。研究のきっかけは、今から30年以上前私がオーストラリアから一時帰国して東大の山上会館でコアラの話をしたときに、「コアラがどうしてユーカリを消化できると思う?」とご聴講されていた光岡知足先生(現・東京大学名誉教授)に聞かれました。答えられずにいたら、腸内細菌研究の権威である光岡先生に「ユーカリの葉にはタンニンが含まれていて、消化を阻害するんだけど、コアラが専らユーカリを食べられるのは、お腹の中にタンニンを分解・消化する菌がいるからだよ。調べてみるといいよ」と言われ、そのお考えをいただいて私はオーストラリアに戻りました。
    • 戻った後何をしたか?細菌培養に使う寒天平板の表面に、タンニン酸をフィルタ滅菌したものを流し、しばらく放置して、タンニンとタンパクの結合物質が表面を覆っている培地を作りました。コアラの新鮮な糞便を希釈液で希釈し、このタンニン酸処理観点培地の平板に塗って、2日ぐらい嫌気培養をすると、濃度がだんだん薄くなってきますが、そこにコロニー、集落ができます。1個が2個、2個が4個、4個が8個と指数関数的に増えて、だんだん円状になります。このコロニーの周りに注目すると白く透けて見える、クリアゾーンという部分ができます。透けて見えるというのは、タンニンとタンパクの結合物質が溶けているということです。そこで、その菌を顕微鏡で見たところ、グラム陰性の桿菌で、数珠つなぎに100~200ミクロンの長さにもなる菌でした。
    • この菌の注目すべき性質はタンニンを分解するタンナーゼという酵素を産生することでした。カビしか産生しないといわれていた酵素をこのバクテリアが産生します。しかも、タンニンリッチな食物を食べる動物から効率よく取れたのです。この菌のDNAを調べて既知の教科書に載っている菌に照らしたのですが該当がなく名前もなかったので、ローンパインの動物園のコアラから取れたということで俗名がロンピネラ、種名がコアララムとなりました。1995~96年の発表当時はネットはないので、知る人ぞ知る菌だったのですが、今はGoogleにこの菌を入れるとたくさん情報が出てきます。
    • タンニンの代表的な構造は中心部にグルコースがあり、その周りに没食子酸がくっついています。高校の化学Bなどを取られた方は勉強されていると思いますが、タンナーゼという酵素はエステル結合を切るんです。これは加水分解ですね。タンパクがこの湾みたいなところにはまっていてなかなか消化できないけれど、エステル結合が切れてしまうとタンパクが外れて利用できるようになるということらしいです。
    • 光岡先生が予言したとおり、コアラのお腹の中にはバクテリアがいて、そのバクテリアはタンナーゼというユーカリのタンニンを分解するものだということがわかったんですが、私は当時はバクテリアのことが関心事の中心ということではなく、専らコアラの病気を治すことをしていましたが、この辺から腸内細菌との共生は大切かなと思い始めました。
    • 1993年に日本に戻ってからは、光岡先生がされているようなヒトを対象とした腸内細菌との共生について仕事をしております。今日は、「『機能性商品』って本当に機能するの?」というテーマですが、特に我々の腸内にいる微生物との関わりや作用について紹介したいと思います。

機能性食品の「科学的根拠」を示すには

    • 一昨年の4月、安倍政権の景気対策として、アメリカで1990年代に取り入れられたDSHEA法をお手本に、いわゆる健康食品をはじめ健康保健機能を有する成分を含む加工食品、農林水産物についても、一定の条件を満たせば新たな機能性商品として企業の責任で表示できますよ、ということになりました。
    • 医薬品とか食品を作る際には、医薬品に関しては厚生労働省ががっちり管理しています。保健機能商品、特保とか栄養機能食品ちょっと緩いんですけども厚生労働省が薬に準じた形で審査しています。ところが新制度はもうちょっと緩めて健康食品はじめとして加工食品、農林水産物、例えばニンジンでもいいよ、となったんです。科学的根拠を示せれば、その会社や生産者の責任で「これに効きますよ」と言えますよと。薬や特保を作ったりすると、相当お金と時間がかかりますが、これでだいぶ楽になったかなと思うような制度です。
    • しかし、実はこれは大変な制度です。科学的根拠っていうとすごく聞こえはいいですが、新規機能製品については最終製品を用いたヒト介入試験を行ってくださいと言われる。薬と同じくらいのことを要求される。皆さん「科学的根拠を示せれば」というところで悩んでいます。
    • 機能性・安全性評価における従来の概念とフローチャートは、いきなりヒトを使えませんので、培養細胞の中に効きそうなものをチャポンと入れて、培養細胞がどう変化したかを見て、健康につながりそうな候補を見つけます。その後、これがよさそうだと選りすぐった後に、すぐヒトにではなく、ネズミとか、イヌとかの実験動物を用いた試験で、本当に効くか調べます。
    • 細胞でも動物でもうまくいけば、これはヒトでも行けそうだと、ヒト介入試験をやりますと、薬の場合は本当に10年越しでこれがだめ、またこれがだめと、非常に効率が悪い。培養細胞、動物の試験でよかったのに、ヒトではだめだと。
    • その理由の1つは、機能性食品を試験するのにネズミに与える量を試しに人間に換算するとすごく法外な量をネズミに食べさせて評価している場合があること。ヒトに効くために法外で、他の病気になっちゃうような量にしないと効かない。ヒトが食べるものならそこまで現実的に考えていかなければいけないですよね。
    • ヒトで効かない、うまくいかない理由のもう1つはお腹の中。ネズミと人間では口から入って最後に出るまでの時間も違うし、お腹の中での機能性食品のいろんな成分がどうなっているかをよく見ないといけないんじゃないかということです。
    • 光岡先生の「総説」のところから自分なりにスライドを作りました。先生にお許しを得てるものです。口から回腸、小腸の終わりまでの推移です。ここは腸内の内容物1グラム当たりの菌数の対数表示で、胃ではガクッと下がります。ほとんどの菌は胃酸でやられます。回腸、空腸のあたりからまたぐっと菌が上がってきます。食道、胃、空腸、回腸と、滞在時間とpHなどどういうものにさらされるかを書きました。
    • 口に入った後は、薬のように易吸収性/活性の機能性食品成分が、胃または小腸ですっと入って目的とする体内の細胞に行くんだなって思いがちです。でも本当はこんなことは少ないんです。山口大学農学部から今は宇部興産の社員でポッドキャストの科学番組などでサイエンスコミュニケーターとしても活躍している中西貴之先生の本『薬はこうしてやっと効く』で、皆さんが飲んだ薬が体の中に入ったら、すぐに標的細胞に行くのではなく、肝臓に行って代謝されたりするという、薬物動態のことの本を書いています。これは、すっと薬のように入っていく場合の話です。
    • 2番目のケース、せっかく効くものが入ってきたのに、胃酸や胆汁や消化酵素あるいはその他の成分にさらされることによって、活性のあるものが、失活したり難吸収性になるということです。これは、やはり中西さんが、『食べ物はこうして血となり肉となる』という本で平易に書かれていて、僕もすごく勉強になりました。
    • 例えば、静岡県ではがんによって死ぬ人が他より1~2割低いんです。どうしてか。1家庭当たりの1年のお茶の消費量が静岡県は1万5,000円で、私が暮らしている神戸の3倍以上。静岡はとにかくお茶をたくさん飲むので、疫学的に見て、何か緑茶ががんになるのを予防しているのではないかと言われるようになり、1990年代の中頃からペットボトルで緑茶がよく売れるようになっているんですね。
    • 緑茶の成分はいろいろありますが、特にポリフェノールの中でカテキン類といわれるものが、抗酸化、抗突然変異、抗がんなどいいことづくめの成分です。これはもう少し解説すると4つ成分があって、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート(ECg)とエピガロカテキンガレート(EGCg)でございます。
    • ここで始めの話とつながると思いますが、これが没食子酸エステル結合している。ということは、このECgもEGCgも、タンニンと同じように、高分子と結合して塩を作ってしまうという性質があります。EGCgはお茶の半分ぐらいを占めてる重要なカテキンですが、皆さんが飲むときはお茶だけで飲むのでなく、昼ご飯などを食べた後にお茶を飲みますと、食事の成分の中のでんぷん、タンパクとお腹の中でミックスになって、巨大分子になるんですね。せっかく抗酸化性のあるEGCgですけど、こうなってしまうと吸収されないんです。分子量1万以上になると通常は腸管壁を通過できないんです。一方、エステル結合してないエピガロカテキンは、分子量が小さくて400~500の間なので、すっと入っていくということなんです。
参加者

EGCgは、タンパク質と結合して腸まで行きますか。それとも唾液や胃酸でいろんなところでやっても全然だめなんですか。

大澤

唾液とか胃酸でも全くこのままです。コアラの腸内細菌のようなタンニンを分解する菌がない限り、糞便としてそのまま出ちゃうんですね。

参加者

この分子量1万以上は通過できないというのは、EGCgなどがなければ、タンパク質などは普通は腸管で吸収されるということですね。

大澤

タンパク質は小腸から分泌されるトリプシンなどで分解され、アミノ酸やペプチドになり吸収しやすい大きさになります。EGCgなどと結合したままの状態だと消化酵素が効かない。

参加者

大きいまま分解されず、そのまま行ってしまって、入っていけないということですか。

大澤

そうです。

機能性食品成分の「機能」はさまざま

    • これはケルセチンですが、これも抗酸化能があります。タマネギとかニンニクにあって分子量は400~500ぐらいなんだけど、一見すっと入っていきそうなんだけど、これは入らないんです。分子量低いから入るかと思ったのにです。抗酸化能があるんだし、入るようにしたいということで、大阪にある添加物を作ってる三栄源さんが、人工的に作ったケルセチンをもっと吸収しやすくするためにどうしたか。ここにブドウ糖を数珠つなぎにして、かえって高分子にするんです。これだと余計吸収しなくなるんじゃないかと思いますよね。実は、腸管にはグルコーストランスポーターという輸送装置みたいのがあって、それがグルコースをつかまえて中に取り入れるんです。
    • 三栄源さんは、グルコースを標識として付けて、「あ、グルコース来た」と思わせて取り込みさせて、腸管上皮細胞の中に入ったらチョキンと切られてケルセチンが中に入っていくようにしました。つまり、腸管壁の選択は分子量が低ければ入るかというと、ちょっと眉唾なんです。
参加者

今のケルセチンの効果は、抗酸化性ということですが、効果があるほうの1つですか。

大澤

そうです。

    • では、吸収できないんだったら役に立たないのかどうか。例えば、この難吸収性機能食品成分でレンチナン、シイタケなどに入っている多糖類。フコイダン、海藻に入っているぬるぬる成分の多糖類。乳酸菌でもいいんですけど死菌体そのもの。これらも分子量が高いから吸収も消化もされないまま、糞便に出てきちゃう。ところが、我々の腸管上皮にこれらが触れただけで、腸管上皮の細胞がこんなもの来たよと間接的に下にいる細胞に知らせる。すると免疫細胞が活性化し健康になる。腸管に入って来た成分はそのまま糞便に出てっちゃうのにです。
    • 実例の1つとして、お金をもらっているわけじゃなく、うちで実験をやって確かにすごかったので紹介するんですが、明治のR-1のデルブリュックという乳酸菌、これは一般にはブルガリア乳酸菌と呼ばれています。この菌の多くの菌株、先ほど言った糖の分子が数珠つなぎになった糸みたいなのを産生します。実際にR-1を試してみると糸を引きますが、糸を引くというのは糸が束になっているんです。これは、複雑な糖が数珠つなぎになって枝分かれしているもので、糖鎖といいます。
    • このネバネバの成分は先ほどのフコイダンやレンチナンなどの糖鎖、また全く構成する糖も構造も違うけれども、このR-1、明治さんが数千のブルガリア乳酸菌株の中から選んだ菌体です。株ごとに産生する糖鎖が違っていて、菌の名前がブルガリア乳酸菌ならどんな菌株でもいいというわけじゃなくて、この株だからできる技を見つけたんですね。
    • さて、この糖鎖が腸管に来ると腸管上皮にこのネバネバの糸みたいなのが触れたたけで、吸収されもせず、消化されもせず、普通に出てっちゃう。触れただけで、下に敷かれている樹状細胞、免疫のカスケードが動いて、Th1系、細胞性免疫のほうにお知らせが行きます。がん細胞とかウィルスに感染した細胞はもともと自分の細胞だけど違った標識を出しています。我々は健康であってもその体内ではがん細胞が出現していると言われています。なぜがんにならないかと言えば、その1つの理由はがん細胞を毎日巡回しているナチュラルキラー(NK)細胞が気づいて攻撃、排除しているからなのです。ウイルスに感染した細胞も同様に排除されます。でもその標識の認識力が甘いと、そのまま許して感染が進んでいってしまうことがあります。先ほどのR-1の糖鎖はNK細胞の活性化、つまり標識の強化を促すということが分かったわけです。
参加者

乳酸菌が産生する多糖類というのは、何か構造上特徴があるんですか。例えばグルコースが長々とくっついている一方、お話だと腸の中に入りやすくなる化合物がありますよね。

大澤

それはすごく難溶性、難消化性の糖鎖で、複雑な糖鎖構造です。

参加者

免疫の樹状細胞に信号が行って、免疫が何で活性化するのかがよく分かりません。

大澤

これは、まだよく分かってないんですが、腸管上皮細胞から一酸化窒素やNOX、過酸化水素がシグナルとして出てるんじゃないかと。ここのセンターの八村先生も研究されていると思いますが、トランスウェルという疑似腸管の免疫系のモデルでは、このEPSに触れただけで、疑似の腸管上皮とされている細胞の中で「サイトカインを作れ!」という信号が伝わり、そこからさらに下の組織、例えばマクロファージやT細胞にそのサイトカインを介した免疫調節の情報伝達が行われる(いわゆる「免疫カスケード」)、このような実際に近い状況が再現されています。

    • このR-1を、2010年に佐賀県の小・中学校で飲んでもらい、一冬越したら、飲んでもらっていた学校のインフルエンザの感染率が下がったということが発表されました。それで一時期スーパーマーケットに行ってもR-1は全然なかったり、お1人お1つですなどと言われました。今はそういうことはないですが。全然消化されない、吸収されないものでも、こういった機能を持っているものがあることを認識していただければと思います。
参加者

R-1の菌自体が悪い菌を叩くのではなく、難溶性の糖鎖を作るのが一番の作用なんですか。毎日摂らないといけないと聞いたんですが、1回食べるだけで定着はしないのですか。

大澤

そうです。糖鎖をつくることです。また私見ですが、1回だけ食べても定着はしないです。乳酸菌のポピュレーションは小腸で10の7〜8乗なんですが、彼らの代謝能が機能するよりも、糖鎖の糸とか菌体表面についている糖鎖が、その乳酸菌の生死に関わらず、糖鎖に免疫付与能があれば必要量である10の8乗になるぐらい食べると、それなりにR-1らしく効果があるということです。

    • 某社の商品ではチョコレートに乳酸菌を入れてるけれど、乳酸菌はたぶん熱で死んでいると思うんです。でもそれなりの量を食べると腸に接して、フコイダン等と同様、糖鎖だけは接するので効果があるということなんです。酒粕でも、山廃の酒粕は乳酸菌の死がいがいっぱい入ってるんだけど、それを食べると免疫付与になるということで、乳酸菌に関しては決して生きて腸まで届けなければいけないということはないと、私は思っています。ビフィズス菌の場合は別ですが。
参加者

最低限のこのぐらいの量は食べないと効果がないとか、逆にたくさん食べれば食べるほど免疫の活性化がすごいとかいうことはないんですか。

大澤

量については、長寿でピンピンしている人がどのぐらい食べているかというのを参考にされるのが良いのでは?と思ってます。僕は動物のお医者さんなので、そのへんのコメントは差し控えます。

    • 次は、小腸を離れて大腸へ行きます。ビフィズス菌と乳酸菌、いいことをする菌なんですが、ビフィズス菌は、偏性嫌気性菌といって空気があると全く育たず、嫌気度があるところでギュッと伸びてきます。ところが乳酸菌は空気があっても育ちます。対数当たり10の7乗ぐらい。ヤクルトはいっぱい飲めば10の8乗ぐらいになりますが、それ以上ということはなかなかできないんです。ところがビフィズス菌は普通にこのぐらい育ちます。年齢にもよるんですけども。若い人は10の10乗ぐらいいますけど、私なんかは乳酸菌と同じくらいです。
    • 善玉といわれる菌なんですけども、大腸でいいことをするメインのものは、こういった乳酸菌よりはビフィズス菌です。偏性嫌気性菌が1,000倍以上になっているという感じです。後で腸管モデルのお話で出てきます。大腸内で何が起こっているかというと、小腸から難吸収性の不活性の機能性食品が送られてきて、このまま糞便として出てっちゃうのかと思いきや、皆さんのお腹の中には10の12乗、1グラム当たり1兆個菌がいまして、そこにはいろんな仕事をする菌がいます。この菌の作用を受けて、役に立たないと思われていたものがいろいろな変換・代謝を受けて機能性成分になるというものがあります。あるいは吸収しやすくなって結果、健康になるということがあるわけです。
    • 私は日本に帰国した後はもうタンナーゼ産生菌は研究をしないのかなと思っていたんですが、うちの教室の学生さんが一生懸命その辺にいるんじゃないかと、タンニン処理した培地にいろんなものを塗ったら、実はキムチとかぬか漬けにくっついている乳酸菌が、前述のロンピネラと似たような働きを持っていると分かったのです。僕らの身近にこんなのいるんだ、ならばこの乳酸菌をあらかじめ僕らのお腹の中に入れておけば、タンナーゼを出す菌ですので、ここで、大腸あたりで、何もしなければ糞便として出ていたもったいない抗酸化性のある緑茶カテキンとタンパクの複合体が分解され、抗酸化性があって、しかも吸収しやすいカテキン類が産生される。お茶が本来持ってる抗酸化性をより上手に体の中に届けてあげることができるのではないか?ということを考えました。
    • 7年ぐらい前にこんな発想で、広島の尾道に本社がある丸善製薬さんと一緒に共同研究をして、スマート乳酸菌というプロバイオティクスを開発しました。これは死菌体がTh2のほうを刺激し、花粉アレルギーなんかに働く、そういう素材として今売られております。
    • 別の例としては、ヒト腸内から大豆由来ダイゼインをエクオールに代謝する乳酸菌を発見しましたが、それはLactcoccus garbjaeという、乳酸菌の1つなんです。閉経後に女性の方が骨粗鬆症になりやすいのですが、それは女性ホルモン、エストロジェンが骨の形成にすごく大事な役割を果たしていたのが、どんどん低下していくためです。エストロジェンの低下をどう補うか。大豆イソフラボンと総称されるものが非常にエストロジェンと構造が似ていて、それを食べると、閉経後のエストロジェンの低下で起こることが軽減されることが分かっています。
    • そして、これよりもっとエストロジェンと同じような効果が強いというのがエクオールというものなんです。この菌は「エクエル」といわれて売られています。この菌は高齢なのに骨粗鬆症になっていない女性を調べたら、おしっこからエクオールがたくさん出てきて、糞便からはダイゼインをエクオールに変換する菌が出てきた、それがLactcoccus garbjaeだったのです。全員の女の方にいるのではないんですけれども、いる人にはこういう菌がいて、普通に生活しても骨粗鬆症にならない。それを、菌を補うわけでなく、その菌がダイゼインから代謝してエクオールをそのまま錠剤で飲めばいいという発想です。。
参加者

大澤さん、その菌は魚の病原菌じゃないですか。

大澤

そうです。魚の病原菌とされてるんだけど、なぜかヒトのお腹の中にもいて、それならもうお墨付きで使えると。しかもこれはプロバイオティクスではなく、工場でエクオールを作るための種菌として使ってるだけということも理由で、この菌の使用が安全であると考えられたのかなと思っております。

参加者

大豆イソフラボンで、結構女性の方、摂る方が多いと思うんですけど、誰でも効果が得られるものではないといったことがあって、それとこの菌というのは関係していますか。

大澤

そうかもしれません。活性のあるものを作る菌は見つかったけれど、これを活性のないものにしてしまう菌、ダイゼインを不活化してしまうような菌を持っている人もいるかもしれないという考え方もあるわけです。

      • ですので「大腸から運ばれてきて吸収されたら効くのになあ〜」と思われる「機能性成分」も、今度は逆に、皆さんのお腹の中にいるものの働きで機能性成分が不活化されたり消去されたり、または逆方向に毒化、いいことが起こらないものに変化してしまうこともあります。
      • 良かれと思って食べてたものが疾病になる。2013年に雑誌「Nature Medicine」に取り上げられていますが、最近メタボ対策でサプリメントにいろいろな成分が入っています。食事性カルニチン、ヒトの肝臓細胞内のミトコンドリアにより脂肪の代謝をよくするとかいって……。あと乳化剤などは、普通に食品の中に水と油をよく混ぜるという添加剤として使われています。
      • カルニチンとコリンといわれる乳化剤ですが、昨今、食品によく添加されているこれらのものが、ある腸内フローラの大腸まで行ったとき、せっかくヒトに良いことをする活性があると思ったのが、トリメチルアミンというものに変換されて、さらに肝臓までいって酸素がくっついて、これが動脈硬化につながっちゃうというアメリカのグループの研究が載っているんですことです。これは、誰のお腹のフローラでも起こるのではなく、特に肉食系で大腸の中の細菌叢がちょっと変わってる人でこの反応が大きいと、報告しています。

腸内フローラの変化を説明

KUHIMヒト大腸フローラモデル

      • 機能性食品は、ヒト腸内での動態を考慮した評価が必要です。ただ、ヒト腸内での動態をじゃあヒトにいきなり飲んでもらう、ヒトを実験動物のように使うことはできません。
      • ヒトの腸内環境を模した機能性・安全性評価試験系が必要になって、神戸大学で3年くらい前に始めたのが、ヒト腸管モデル、Kobe University Human Intestinal Model(KUHIM)を用いた安全評価です。2系統あり、1つは小腸を中心とした主に免疫系の評価。もう1つは大腸でどういう動態を示すかを評価するものです。大腸モデルのほうを少しご紹介します。
      • 最初の頃は、1個の培養槽の中でヒトの新鮮な糞便をほんのちょっと入れて、この中で嫌気培養をします。イメージとしてはこの中で上行結腸、横行結腸、下行結腸のひとかたまりの消化物の中の細菌がどう変化していくかをトレースしていこうということです。時間の経過とともに大体36時間ぐらいまでやって、時々培養液の一部を解析用サンプルとして取り出します。
      • 大事なのは、先ほど言った、偏性嫌気性菌が1,000倍ぐらい優勢な状況を作らないと模していることにならないということです。ひと昔前は培養法で寒天平板を作ってコロニーの菌を手作業で数える気の遠くなる作業でした。今世紀、次世代シーケンサーができて培養液からDNAを網羅的に取って、500~1,500種類あるといわれる腸内細菌がどのぐらいいるか結果が楽に出せるようになったので、いいタイミングで腸管モデルができるようになりました。
      • この腸管モデルの考案をした人は今から40年ぐらい前から始めていたんだけれども、実際のフローラの変遷を調べ方で止まっていました。けれども次世代シーケンサーで調べてみると、これはボランティア3人の糞便を6時間、9時間、12時間、24時間培養し、ある検出限界で切ったもので検出されたバクテリアの属で、16ぐらいあります。ほとんどが偏性嫌気性菌です。培養液中はこの偏性嫌気性が優勢というのが実現できているわけです。

培養の様子を資料映像で説明

    • スライドの棒グラフの白い帯のものは難培養バクテリアです。普通の寒天培地では栄養が足りないのか、他の菌がいないと増殖できない菌ですが、それがちゃんといて増殖しているんです。9~12時間までに全体では100倍ぐらい菌が増殖していて、難培養性の菌がグラフの白い帯のところですが、もし僕らの培養系で培養できてなければどんどん見えなくなってしまうはずですが、相変わらず同じプロポーションで維持しているので、難培養菌がちゃんと培養できているということになります。
    • 偏性嫌気性というのは、空気があるとすぐ死んじゃう類いの菌です。多いのは悪いことではなくて、人間の大腸を模してつくるとそうなるんです。

有機酸の組成でわかった菌たちの環境づくり

      • 菌叢を構成する菌種としては、表示のデータの場合、少なめな人たちが300~400種ぐらいですけれども、糞便で検出された種と培養液で検出された種が多様性もほぼ維持しているということです。もっと大事なことは、大腸で起こっていることです。消化性の糖あるいは糖鎖でてきた繊維でもいいんですけれども、これはバクテリアに消化されると、短鎖脂肪酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などになります。今まで老廃物、ごみだと思われていたのが、今世紀の文献で、そうした有機酸が実は僕らの大腸の細胞とか体の中の体細胞の栄養になったり、健全性の維持や組織修復に使われたり、さらにはこうした有機酸が免疫系に刺激を与えることがわかり、今とても注目されています。
      • 大腸内での代謝にすごく注目して、動態を調べなきゃいけない。僕らのモデルも先ほどの3人の6~24時間培養液の中の有機酸の組成を調べていったら、最初乳酸とかコハク酸が出てくるんですが、そのうち酢酸とプロピオン酸と酪酸ということで残ってきます。
      • これはちょっと古いですけども、実際交通事故で急死された方のバイオプシーでいろんな部位から取った内容物の有機酸組成ですが、やはり実際の人もこのように大体3:1:1に酢酸とプロピオン酸と酪酸になるっていうことです。このことから、私たちのKUHIMはこの意味でも大腸を再現してるんじゃないかということです。
      • 2009年の「Nature」に発表された論文ですが、いろんな人の糞便の門レベルの種類をやると、人によってバクテリアの叢が違うんですが、この研究ですごいのはバクテリアの持っているいろんな代謝関係の遺伝子の発現を調べると、バクテリアの種類は違うけども発現してる遺伝子レベル、代謝、そういうものを命令する遺伝子群の構成は一定してると。だからフローラが違っても、やってる仕事は同じというところがあって、先ほど紹介したように大腸内で産生される主な有機酸の構成比が3:1:1になるんです。健康な人が大体3:1:1、潰瘍性大腸炎とかになっている場合は有機酸の量も、組成も違ったりする。こういうことで、フローラは違っても健康な腸にしよう、みんなで協力して作業をしてこのような有機酸の比になってるんじゃないかと考えています。
      • 機能性全体の働きが同じということで、分類的なフローラ構成よりもその代謝産物構成が健康に重要ではないか、そう考えると、よほど食中毒を起こすような菌でない限り善玉も悪玉もない。それぞれみんな重要な仕事をしている。なぜ悪いことが起きるかというと、そのバランスが崩れるからですね。悪玉をなくせばいいとばかり言われるけど、悪玉というのも実は重要な仕事をしていると。それをなくしてしまったら、えらいことになってしまうという考え方に転換していかなくてはいけないかなと思っています。
      • さて、ヒト腸管モデルに皆さんからいただいた糞便を入れて培養し、調べたい成分を入れて、これを培養し、経時的にサンプリングしてDNAを取り、フローラの組成とか代謝産物の組成を調べます。
      • 1リットルぐらいの培養叢で1人1回です。しかし比較する人やものが増えるとわかりにくくなり、時間もかかります。それで困ったんですが、この培養系の8連シミュレーション装置っていうのがあるんです。各々の培養液は大体200ccの容量ですが、ここに100ccぐらいの培養液が入ります。そのような培養槽が8連あって、一気に培養できる、800万円ぐらいする機械なんですけど、文科省の振興調整費の補助で私どものラボに設置することができまして、2年前から動かしています。これによって多項的な試験が可能になりました。
      • KUHIMの使用例として、オリゴ糖のプレバイオティクスがあります。プレバイオティクスというのは、ヒトの大腸に常在するプロバイオティクス菌、これはビフィズス菌に象徴されますが、それを選択的に増殖するような効果のあるもので、難消化性の成分です。
      • こういうものはヒトの消化酵素では分解されないで、しっかり大腸に届きます。ビフィズス菌以外の菌は、多くはオリゴ糖を食べることができない。ビフィズス菌には利用できて栄養源となります。そして大腸で酢酸を産生するということで、その酢酸が結構それなりに細胞の健全性を保つためにいいみたいなので、健康につながるということで、皆さん、ダイエットサプリメントのコーナーに行くと、オリゴ糖の商品がいろいろあると思います。
      • 確かにオリゴ糖を食べるとビフィズス菌が選択的に動いていることは分かってますので、実際KUHIMのモデルで6人の人の糞便にこのオリゴ糖を入れて、ビフィズス菌は本当に増えたのかをやってみました。いろんな年齢の人です。すると、ビフィズス菌がピッピって伸びましたよということで、6人の大腸でおおむねビフィズス菌に特異的な増殖促進が見られました。乳酸菌も調べましたが、乳酸菌は全然増えませんでした。
      • 富山大学の名誉教授の服部先生が考察されたのが、漢方薬の効く人、効かない人がいることについて、漢方薬の薬効発現には腸内フローラの代謝が重要な役割を果たしており、腸内フローラの個人差は適正な処方の決定、投与量に大きな影響を及ぼすことが想定されると言っています。こういうこともKUHIMUを使って検証できるかもしれないということです。
      • 食物繊維、オリゴ、乳酸菌菌体、菌体多糖について、今、評価を進めています。機能性・安全性というのは新しい概念ですね。大事なのは、ヒトでは本当は効くのに機能性食品成分が通常の培養細胞や実験動物を用いた実験でたくさん見過ごされているのではないか?ということです。その取りこぼしがもったいないということで、KUHIMで何とか拾い上げていけたらなと思っております。
      • 日本はすごく平均寿命が高いと言われてますが、最近問題にされているのは健康寿命です。認知症が、10年後には5人に1人というので、本人も周りも大変大きな問題です。対処としていろんな方法がありますが、ヒューマンマイクロバイオーター(ヒト腸内細菌叢)が認知症と関係がありますよという論文が近年発表されました。食事のバランス、加齢やストレスで腸が炎症を起こして、炎症が伝達されて脳まで行くと脳細胞がやられるのだということが書かれています。スライドの論文にあるような乳酸菌飲料や難消化性の食物繊維を取ることで認知症等の人の脳疾患が改善されるようです。この分野については近年研究が始まったばかりですが、これからどんどん加速して明らかになっていくと思います。
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